シルクドゥソレイユの舞台に立った日本人大学生。彼の相棒は、”一輪車”。

2016.01.21 森 大樹

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幼少期から一輪車を始め、2014年にカナダ・モントリオールで行われた第17回国際一輪車競技大会のペア演技部門に山本夏夢選手(静岡城内一輪車クラブ)と共に出場し、念願の世界チャンピオンに輝いた庄司海航。その様子がシルクドゥソレイユの現地スタッフの目に留まり、昨年12月から1ヶ月間同団体のモスクワ公演「JOEL」にパフォーマーとして出演も果たした彼に迫った。

一輪車以外のスポーツは全然ダメ

-庄司さんのスポーツ経歴から教えてください。

一輪車の他には空手を少しやっていました。だいだい幼稚園の年中から小学校2年生くらいまでですね。

 

-一輪車を始めたきっかけはどういったものだったのでしょうか?

小学校3年生の時に学校に遊具として置いてあった一輪車と竹馬が流行った時期がありました。やっているのは女の子の方が多かったですが、その流れで自分もやってみることにしたんです。

それで自分も徐々に一輪車に乗れるようになった頃、ローカル番組でたまたま一輪車チームが紹介されていました。それを観て、親に見学に行きたいと言ったことが本格的に競技として一輪車を始めたきっかけです。その半年ほど前に空手は辞めてしまっていて、特に習い事もしていなかったので、体験に行くことになりました。

 

-早い段階から自分の意思を持っていたんですね。

でも一輪車の選手の中では小学校3年生から始めるというのは遅い方です。だいたい小学校1年生の頃から、早い人だと幼稚園の頃から本格的に始めている人もいます。逆に高学年になってから始めるような人はほとんどいませんね。

そこからチーム自体は一度移籍していますが、競技自体はずっと続けています。8歳の頃から始めて、今年で23歳になるので、もう競技歴は15年になります。

 

-それだけ長くやっていると他のことをやってみたいと思わなかったのでしょうか。

意外となかったです。実は他のスポーツは全然ダメなんです(笑)足も遅いし、球技もできないし、“海を渡る”と書いて「海渡」という名前なのに全く泳げないんです!本当に他のスポーツはできません。だから別の競技をやってみたいともならなかったですね。唯一ダンスには興味がありました。パフォーマンスという面で一輪車と通じる部分はありますし、高校時代もダンス部と一緒にステージをやったりもしていました。でも、ダンスに転向しようとは思わなかったです。

 

-今までずっとやってきた一輪車の魅力を教えてください。

一輪車には大きく分けると演技とレース、2つの種目があります。以前にインタビューが掲載されていた彩香(佐藤彩香選手)は今、自分と同じチームにいるのですが、彼女はレースをメインに活動しています。一方で僕は演技とレースの両方をやっています。

→佐藤彩香選手インタビュー

例えばスケートだとフィギュアとスピード、どちらかを専門でやりますよね。でも一輪車の場合は特に演技とレースの片方にしか大会に出られないというような制約はありません。それでもどちらかに特化して指導を行っているチームが多いんです。ただ、僕が入ったチームはたまたま両方を教えるところだったので、今も2つとも続けています。

スピードを競う種目と採点種目ではスポーツとしては同じようで全く別物です。その2つを同時にできる競技は一輪車以外なかなかないので、魅力に感じています。スピードを競うレース種目は陸上と近い、醍醐味があると思います。演技の種目は曲や技、テーマなどを自分で決めることができ、作り上げていく過程がすごく楽しいです。

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-演技の構成はどのようにして決めているのでしょうか。

自分でも考えますし、演技の構成を作る技術を持っている先輩と一緒に相談しながら作ったりもします。ただ、選曲は自分でやることが多いです。

 

-フィギュアスケートのようにそれぞれの技の難易度などは決まっているんですか?

一輪車の場合は技によって明確な得点が決まっているわけではありません。技が本当にたくさんあるからで、選手毎のオリジナルの技も存在します。そうなると点数を定義することが難しいんですよね。昔からある技だと一応どのくらいの難易度なのかだいたい決まっていますが、オリジナルの技の場合は審査員が難しさを主観的に判断するだけになってしまいます。僕もオリジナルの技を持っていますが、何点付けられているのかは分かりません(笑)

 

-オリジナルの技はどんな時に思い付いたのでしょうか。

練習中に今の動きから、他のこういう動きに繋げてみたら面白そう!とふと考え付いたんです。

 

-庄司さんは演技とレース、どちらが好きですか。

演技の方が好きです。レースの場合は自分で走って出したタイムが速いことがすべてであり、正義です。一方で演技は人に魅せるものであり、自分の味を出していくことが求められるんです。レースほどシンプルではありません。僕は魅せる方が好きですし、一輪車の魅力もより伝えやすいと思っています。

 

-先日の世界大会ではペア演技で優勝し、世界一に輝いています。ペアの相手はどのように決めているのでしょうか。

国内大会ではペアを組む相手は同じチームの人である必要がありますが、世界大会は国籍さえ同じであれば誰と一緒にやってもいいんです。

今回世界大会に臨む上で相手は自分のスタイルに近い人を探しました。僕はテクニックに重きを置いた演技をするので、それに合っている人ということです。今ペアを組んでいる選手は活動拠点が少し離れていて、静岡県の女の子です。

 

-どうやって出会って、どのように練習をしてきたのですか。

僕の方からペアを組んでほしいとオファーをしました。元々大会などで会ったこともあって、面識もありました。

距離が離れているので、練習はどちらかが相手の活動場所に行き、週末に集中して行ってきました。あとはペアの演技といっても個人で練習できるものもあるので、それを平日に各々で取り組む形です。

 

「社会人になってしまうと世界大会に出るのは厳しくなってくる」

-競技を続けてきて今までで一番嬉しかったことを教えてください。

やはり一昨年の世界大会のペア種目で優勝したことです。演技の構成を作るところを含め、1年以上かけてお互いに練習を重ねてきました。世界大会は二年に一度開催されるのですが、一昨年の時点で僕は大学3年生だったので、学生時代では最後の機会ということになります。基本的に社会人になってしまうと世界大会に出るのは厳しくなってくるので、これが最後のチャンスだと考え、本当に優勝したいと思って取り組んできました。

 

-そこまで気合を入れて臨んだ大会となると緊張もしましたよね。

ペアの時は意外とリラックスしていましたよ。一人でやる時の方が緊張しました。パートナーの選手の存在があるだけで心強かったです。

 

-でもパートナーの選手が緊張していたら、不安になりそうです。

相手の選手もあまり緊張しないタイプで普段と変わらなかったので、いつも通りの感じで試合に入っていけました。

 

-一人の時は緊張するそうですが、何かそれを抑えるためにしていることはありますか?

やたら体を動かします(笑)緊張すると体の動きが鈍い感じがするんです。だからじっとして集中力を高めるのではなく、わりと本番直前まで体を動かして温めるようにしています。

 

-反対に辛かったことはありますか。

一輪車を続けるのが本気でしんどいと思ったことはありません。長い競技人生の中でうまく結果に結びつかない時期はあっても、辞めたいという気持ちにはならなかったです。結果が悪くても受け止めて次頑張ろう、と自然と思えるんです。

 

-競技自体を楽しんでやれているのかもしれませんね。

もしかしたら僕自身がそこまで深く考えていないだけかもしれません(笑)

 

-一輪車のメンテナンスはどのように行っているのでしょうか。

父が行っています。父も元から一輪車について詳しかったわけではないですが、僕が小さいうちは自分で整備することができないので、やっていくうちにいろいろ覚えていったようです。

 

-具体的にはどのようなところを気にして一輪車をカスタマイズしているのでしょうか。

例えばクランクだけでもミリ単位で自分に合うものを選ぶことになります。僕の場合はいろいろ試した結果90mmを選びました。そこの長さが5mm違うだけでも感覚は大きく違います。他にも材質など、細かい部分を指定して作ることになります。もちろんオーダーメイドです。僕の場合はスポンサーが付いているので提供して頂いています。

クランク

-スポンサーはいつから付いているんですか?

大学1年の終わり頃からです。その年の世界大会で僕のことが目に留まったみたいで、今はイタリアの一輪車を製造しているメーカーにスポンサードしてもらっています。

 

-道具にお金がかからなくても、遠征費などはかかりますよね。

基本的に遠征費などは自己負担です。だから今は家電量販店で電動自転車を売るアルバイトをしています。本当は家電を売りたかったんですけどね(笑)

 

-競技にアルバイトに学業と、忙しそうです。

世界大会の前の土日は午前中に演技の練習、午後はレースの練習をし、夕方からアルバイトに行って帰る、というような生活をしていました。学校の方も大学3年までは授業をたくさん取る必要があったので、それなりに忙しかったですね。

 

-海外遠征になるとまとまったお金が必要になりますね。

世界大会は期間としては約2週間、場所はヨーロッパで行われることが多いので、物価が高いんです。シーズン的にも安い時期ではないので、航空券代や向こうでの滞在費、食費など諸々お金がかかります。

足上げ

-今は自分でお金を稼ぐことができますが、小さいうちはご両親が負担していたということですよね。

初めて海外で大会に出たのは中学2年生の時で、そこから高校生までは親が負担していました。受験もさせてもらい、大学にも行かせてもらって、今考えるとかなり負担をかけてきたと思いますね。

 

-現在は大学4年生ですが、卒業後の進路は決まっていますか。

大手企業に就職します。そのために普通に就職活動もしましたよ。競技は働き始めてみないと続けられるか分かりませんね。エントリーシートにも一輪車のことしか書けなかったので、一応会社は僕が選手として活動していることを知ってはいるんですけどね。

そのまま社会人になったら競技を辞めてしまう人もいれば、続ける人もいます。あとは大会の運営や審査員として競技に関わっていく道もあります。僕も実際に今年の全日本では審判員をやらせてもらいました。

 

-一輪車をする上では一番何が大切なのでしょうか?

レースの場合にはパワーも必要になってきますが、演技の場合はやはりバランスが一番重要です。

 

-実際に乗る以外のトレーニングも普段からしているのでしょうか。

一輪車に乗るということ自体が特殊な動きになるので、体幹トレーニングは僕もしますが、基本的には実際に乗るのが一番のトレーニングになります。

 

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春に就職して以降は、競技をどうしていくかは決まっていない

-庄司さんの今後の目標を教えてください。

 

僕は来週からロシアに行きます。(取材は昨年12月)そこでシルクドゥソレイユのショーに出ることになっており、1ヶ月間モスクワに滞在する予定です。昨年のカナダ・モントリオールでの世界大会にシルクドゥソレイユの方がスカウトを兼ねて観に来ていたらしく、ペア競技で優勝した僕らにオファーが来ました。ちょうどシルクドゥソレイユの本部がモントリオールにあるんですよ。

 

直近の目標はそのショーを成功させることです。それが終わって春になれば就職なので、その先競技をどうしていくかは決まっていません。

 

-ショーに向けての練習も大変ではないですか。

既にシルクドゥソレイユから曲や衣装などは連絡が来ていて、僕らもそれに合わせた演技を作りました。ショーのプロデューサーから多少指摘が入るかもしれませんが、特に無理難題をやるように指示されているわけではありません。

 

-フィギュアスケートのように選手として第一線から退いても、プロとしてショーに出て生活していける道が今後一輪車でも広まっていくといいですね。

最近ではシルクドゥソレイユや木下大サーカスなどに一輪車選手が出演したり、メディアに取り上げられたりする機会が増えているので、いい流れが一輪車界には来ていると思います。

 

-もし一輪車をしていなかったら何をしていましたか?

最近それをじっくり考えてみたのですが…まず中学は卓球部に入っていました!高校ではダンス部に入っていたと思います。大学はもっとちゃんと勉強して、いいところに行っているかもしれません(笑)

 

-一輪車をやっていたから得した出来事があれば教えてください。

先ほども言ったように他のスポーツはまるでできなかった僕ですが、唯一平均台の実技での点数だけすごくよかったです(笑)あとはスピンをやるので三半規管が強く、目が回わりにくいというのがありますね。

 

-最後に読者の方にメッセージをお願いします。

今回はラグビーがすごく話題になりましたが、他にも知られていないスポーツがたくさんあります。その中で日本人が活躍している競技もまだあるということを少しでも知ってもらえればと思います!