中村俊輔360°FK動画の仕掛け人が語る「スポーツ×VR」の新たな時代

2016.09.07 AZrena編集部

熊谷祐二氏

2016年の明治安田生命Jリーグが開幕する前に、ネット上で話題になった1つの動画がある。

世界有数の精度を高いキックを武器とする横浜F・マリノスの中村俊輔選手のFKを、360°の視点で見られるというものだ。Facebook上を始めとしたネットの様々な場所で話題となったこの動画は、SkyBall ㈱ が今春にローンチした動画メディアサービス“サカチャン”が出したコンテンツだ。

このサカチャン並びにSkyBallを立ち上げた熊谷祐二氏は、DeNAに買収された国内最大級の暮らしの情報を提供する情報プラットフォーム”iemo”の創立メンバーの1人。ITの世界で“成功”を収めた彼が次なるステージとしてスポーツ×ITの世界に進んだのはなぜなのだろうか?その経緯や熊谷氏が考える将来の展望などを、AZrenaを運営する㈱LinkSportsのCEO小泉真也が聞いた。

 

まずは事業について教えて下さい。

スポーツの動画事業で、サカチャンというメディアをやっています。そのサカチャンというメディアの中で、Jリーグのクラブチームとコンテンツを作っています。取材撮影という形で日々の練習におじゃまをさせて頂いて、主に試合以外のコンテンツを、スマートフォンにおける動画として作るというのと、VR時代の新しい映像コンテンツを作るということを、メディアとしてやっています。


インターネット上で話題になった横浜F・マリノス・中村俊輔の360°FK動画

 

世界一周をして気づいたサッカーの可能性

なぜこの事業をやろうと思ったのでしょうか。特に熊谷さんの場合は、iemoをやっていたり、色々な経緯があったと思いますが。

iemoでの仕事が終わり、去年世界一周をして、その間次は何をしようかと考えていました。

その中でアフリカや東南アジアに行った際、みんな欧州チャンピオンズリーグを見ていたんです。これって当たり前のようで実は素晴らしいことだなと。同じ時間に同じ対象物に対して、世界中の人達が熱狂できるということはすごいなと。

僕はITの世界に10年ほどいて、自分で会社経営もしていたのですが、IT、webというのは物理的に離れている人と人を繋げるというのが最大のメリットだと思っていました。そこに対してスポーツという触媒をかきあわせることによって新しいものが生まれるんじゃないかな、と思ったのがきっかけですね。グローバルに提供できるサービスを作りたかったというのもあります。

熊谷祐二氏

熊谷さんは新卒で、というわけではなく、起業を経てiemoへ行ったと。

学生の時から自分で事業を立ち上げていたのですが、その前にドリコムで学生アルバイトをしていました。iemoは2社目で、今に至ります。

私は高校まで野球をやっていたこともあって、スポーツを1つの事業領域として考えていた中で、世界一周から帰国して本格的に事業の内容を精査するようになりました。色々と調査をすると、北米ではジーターがメディアをやっていたり、レブロン・ジェームズの自撮り動画が流行っていたりすることが分かってきたんです。選手が直接ユーザー、視聴者に対して届ける、いわゆるマスコミを通さない形のメディアが出てきているのは面白いなと。

あとは、ネイマールのインタビューを見たのは大きかったですね。ネイマールはまだ24歳の若い選手ですが、彼は子供の頃にロビーニョを始めとしたヨーロッパで活躍する有名なブラジル人選手を動画で見て、ストリートでそれを真似して育ったと言うんです。それはITの力であり、すごいことだと感じたんですね。そういった土壌があるのであれば、動画も今、波として来ているし、新しいものが出来るんじゃないかなと思って、事業でやってみようと考えました。

ちなみに熊谷さんは高校球児じゃないですか、僕もなんですけど、何で野球にいかなかったんですか?(笑)

1つは、世界一周とも関連するんですけど、ワールドワイドなのは圧倒的にサッカーだということですね。野球をやってもアジアの一部と北米で終わってしまう。グローバルでやりたいということを鑑みたら、サッカーになるなと。

あとは市場に入りやすく、かつ僕らが市場を変えられる土壌があるということ。そういったところでサッカーは整っているし、これ以上小さいスポーツだと、土壌が整っていない。そういう意味ではJリーグが改革しやすい…と言うとおこがましいのですが、色々とやれそうだなと思ったんです。

野球と比べて触れられる機会の回数にもギャップを感じたんです。もちろんまだ野球のほうがビジネスとして上手くいっているんですけど、加えて野球は毎晩のスポーツニュースで取り上げられるじゃないですか。一方でサッカーは週1回しかやってなくて、全試合は取り上げられない。

でも、サッカーと野球の人口は同じくらいいる。同じくらい見たいと思っている人がいるはずなのに、マスメディアに取り上げられる野球と、全然取り上げられないサッカーのギャップをwebの力で埋められればと思いました。

熊谷祐二氏

マリノスの協力を得られたことが非常に大きかった

-このサービスをやるには、Jクラブと連携のための営業が必要だったと思います。

一緒にやっている人間でJリーグに人脈のある方もいらっしゃるので、そういう方から紹介をしてもらうという形で繋がりました。とはいえ僕みたいな新参者が「動画撮らせて下さい」と言っても難しい。紹介でもちょっと怪しまれるでしょうし、リスクがあると。だからこそ、しっかりと未来図を描いていって切り込んでいこうとは思いましたね。

ただ、企業の新しい取り組みにクラブも協力していくというような形がないと、スポーツの市場は開かれていかないのかなと。

それはそうだと思いますね。他の領域でメディアを立ち上げると、ユーザーベースを取るには広告出稿をして、自分たちで頑張らなければいけない。ただ、例えば鹿島だったらtwitterのフォロワーが約15万人いて、そこに一気にリーチできるのは強いですよね。

でも、そこに流すものを我々がただ普通に取材しただけだと取り上げてもらえないので、いかに彼らが良いと思っているコンテンツを新しい物を使い織り交ぜつつ作るかというのが重要ですし、僕らにしかできないことだと思っています。

そういう中で、J1の上のチーム、ビッグクラブの協力を得られた のは大きいですよね。鹿島といい、(横浜F)マリノスといい。

マリノスは 本当に良かったと思いますね。僕もスポーツxVRについて経験が少なかったので、不安だったんですよ。そんなことを知り合いとたまたま話していたら、その彼がマリノスとつながりがあるということで『紹介できますよ』と言われて。どうしようかなとは思いましたけど、頼んでみました。

最初は結構ハードルが高かったですね。でも、ここを突破できないとなにも始まらないと思ったので、お願いしまくりました。それでなんとか入れて、キャンプ地の宮崎へ行けたんです。

ただ、そのときも『最悪、何も出来ない可能性もあるのでご了承下さい』とは言われていました。でも、実際には中村俊輔選手を抑えて撮らせてくれたんです。それがすごく大きかったですね。

熊谷祐二氏

マリノスに話を持って行ったときのテンションはどういう感じでした?

僕らもまだ実績ができる前だったので、他のデモ動画を見せて、こういう世界があるから、ここに絡めて一緒に面白いものを作っていきましょうよ、ということで持って行きましたね。

ただ、新しすぎて門前払いもありえそうですよね。

でも、逆に新しすぎたから良かったのかなと(笑)僕らみたいなスポーツ業界の人間でもない新米が、普通に中村俊輔選手の動画を撮りましょうよと言ってもつまらないですし、テレビ局とか雑誌社とかで良いとなるので。そういうものを2つも3つも飛び越えたVRだったからこそ、です。VRをどこの人も知らなかったですからね。『なにこれ!』と驚いてくれましたし。そこから始まって『これは面白いから、やろう』と。

みんな面白ければ採算とかそういう話は関係なく、やってくれる可能性があると思います。面白さ、目新しさに乗ってくれたという感じですね。マリノスもそうですし、セレッソも面白いからやろうといってくれました。

ただ、僕らがこれから考えていかないといけないのは、こういう形の低コストで作れるコンテンツを量産してチームを増やして、ユーザーを多く付けて、無料メディアとして広めて…その後ですね。そこからスタジアム送客なのか、広告という形なのか。どういうビジネスをしていくのかというところですね。

Gear VRVRヘッドギアは熊谷氏の”必須”営業道具だという。

日本のスポーツ市場は大きくないからこそ、事例を作らなければいけない

ある程度知名度が高まった後、どう広げていくかというところですよね。

そうですね。そして、広げた先の画をもう少し描きたいと思っていますし、やりたいこともいくつかあります。

例えば僕たちは女性のユーザーがものすごく多いんです。他のメディアと比べたらそこに違いや強みがあると思っています。杉本健勇(セレッソ大阪)のオフのときの映像がものすごく見られたりするんですけど、そういうものをフックにして、そこから女性ファンが増えても良いと思うんです。

まだスタジアムに行ったことがない人たちを、こういったカジュアルなものをきっかけとして、どれだけ会場に連れていけるのか、ということに取り組んでみたいですね。そういうことを、小さい規模でも良いのでクラブと連動して作っていければと思っています。その施策から10人でも連れて来れば、ビジネスモデルも見えてくると思っています。

小泉真也LinkSports CEO・小泉真也

-投資も決まり、アプリもリリースして、良い形で進んでいますよね。期待しています。
(→SkyBallの投資に関する記事

ありがとうございます。でも、投資を得るのは大変でしたね。特にスポーツはスタートアップとしての成功事例がないので。あとはやっぱり、言うほど日本はスポーツ市場が大きくないんです。だから投資家として魅力がないというのがあるんです。そういう意味では難しいですね。

シードの1番最初の時期ですし、確固たるビジネスモデルが無い中でイチから集めるのはやはり大変です。 基本的に投資家としては成長しない産業だと思っておられますからね。そこは事例を作っていくしか無いんですよね。

共にこの産業を大きくしていきたいですね。最後に、熊谷さんの考えるゴールを教えて下さい。

サッカーとしてはサポーターにこのアプリを入れてもらって、今週はどんな感じなんだろう?という感じでチェックするという流れを作りたいですね。ただ、今のピラミッドだけだと狭いので、もっと牌を広げていく。動画をフックにサポーターが別の友達に勧める、というような流れを作りたいです。

僕らも練習の様子だけではどこかで手詰まりがくるので、そこからもう少し踏み込んで、動画を制作することも考えています。特にJリーグは来年から放映権が変わります。それにともなってJリーグにおける動画のあり方も見直されると思います。そこからまた、メディアを大きくしていきたいですね。

熊谷祐二氏、小泉真也

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