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石井宏司が語るキャリア転向と、女子プロ野球の意義。

2017.01.23 / 森 大樹

石井宏司氏

40代になれば体力の衰えなどもあるかもしれませんが、その分積み重ねた経験もありますし、上と下の世代を繋げるしたたかさも持っているはずです。…年齢によって失うものもありますが、増えるチャンスもあるんです。(日本女子プロ野球機構 理事・石井 宏司)

 

日本女子プロ野球機構・理事の石井宏司氏に前回記事ではこれまでの大企業でのキャリアを捨てて、スポーツ業界に、“ベンチャーリーグ”である女子プロ野球に飛び込んだ経緯を伺いました。

後編となる本記事では女子プロ野球の可能性とその存在意義、そして40代からのキャリアデザインの考え方について語って頂きます。

女子プロ野球の現在位置と今の時代だからこそ感じる可能性。

もちろんリーグや球団としてまだできていないことは山ほどあります。でもファンの方々が作り出す公式戦の雰囲気や、数は少ないながらも観客の皆様に起こしている感動というのは本物だと思います。

戦略をきちんと立て、集客のマーケティング活動をし、収益化することができれば、これは十分ビジネスになり得るというのはこの1年を通して感じました。

どうしても競技としては男子と比べると見劣りする部分はあると思います。ではなぜこんなに熱心に応援してくれるファンの方がいるのか、ふと考えたことがありました。

選手達は正直少ない収入の中で、怪我のリスクも負いながらプレーしています。固い硬球が当たればアザにもなるわけです。

そう考えると女子プロ野球選手はなかなかクレイジーな夢だと思うんです。

将来が開かれているわけでも、お金がたくさん入るわけでも、有名になってちやほやされるわけでもない。一方で自分たちでチラシ配りをし、グッズやチケットも売らなければならない。球場の掃除もしなければいけないわけです。

でも彼女達はそこに夢をかけ、泥だらけになって、一生懸命やっています。

世間一般には何かあった時のために貯蓄しなければならないとか、我が子を有名大学に入れて安心したいとか、将来に対して「保険」をかける流れがあります。でもそんな世の中だからこそ彼女達は輝くのだと思うんです。

この成熟しきった日本の社会の中で、みんなが忘れかけているもの、置き去りにされていることを必死に追い続ける彼女達の姿に何か共感するものがあるのではないか。そういう強い確信は持てました。

女子プロ野球

泥だらけになりながらプレーする選手達の姿に心打たれるものがあるのだ

最近競技を問わずよくあるのが、小学5年の秋の大会が終わると受験を理由に“引退”して、ごっそりスポーツを辞めてしまう子が出るんです。

親御さんが差し入れを持って子供と一緒に挨拶に来るわけですが、大抵子供は一言も話さない。下を向いたまま「10歳でスポーツを引退」していく。こういった現象が日本各地の都市部では結構起こっています。

しかし、本当にそれでいいのかと私自身強く思います。

だから夢を追いかけ、頑張る女子プロ野球選手が子供達に向けて野球教室をやることは意義があるのでしょう。長寿社会の中で、そんなに早い時期から「安心」「安定」という保険のためにレールにのるような人生を選んでいいのか。そうじゃない選手たちが輝いている姿を見て、何か忘れてしまっているもの、置き去りにしている気持ちや、子どもたちの可能性があるんじゃないか。

“スポーツが子供達に本当に届けなければならないもの”を届けたいという想いは選手も持っているのではないでしょうか。

 

ネットの活用と女性が女性を応援することで発展を狙う

従来のスポーツマーケティングの王道は来場者数を増やすことです。施策によって来場者のリピートを促し、スタジアムを満席にするといったものです。その方向を強化していくのは1つあります。

反面、今はホームグラウンドを持てない我々にとって、その手法には限界があるとも思っています。

そこで今までにないやり方を試そうと考えています。具体的には“先にネット上で流行らせる”ことです。

コストを安く抑えられるネットを活用することは我々のようなベンチャーリーグにとって、非常に重要です。その上で“女の子が野球をする”というのはまだまだ珍しいので、話題性という観点から見てもネット向きだと考えています。

あとは選手自身が若く、デジタルネイティヴの世代なので、彼女達にSNSなどで自ら発信してもらえばかなり広がるのではないかと考えています。

実際、我々の公式Twitterアカウントで発信するよりも(※)加藤優選手が発信した方が数字は伸びます。ファンとの共感度が高い年齢層である選手が持つ感覚をより活かした方がいいと考えています。

今後はまだ少ない女性ファンも作っていきたいですね。一般的に女性のマーケティングは男性よりも10倍難しいと言われているので大変さはあります。でもそこはうちの選手達が工夫をして、自分達の生き様、夢を追いかける姿を女性に直接届けていくことで、現代を賢く生きるために自分を偽って過ごしているような人にもっと自分らしく、大胆に挑戦していいという共感を生むようなものを広げていきたいです。

最近はプロ野球でも女性が球場で熱心に応援している姿がよく見られるようになりました。女子プロ野球でも女性が女性を応援するような流れをつくれるといいですね。それだけうちの選手は頑張っていますし、女性から見ても格好良く見えるはずなので。

そのためにも、今後のリーグの課題の1つとして、結婚・出産してからも野球を続けていけるような体制を整備していく必要はあります。

 

※加藤 優:女子プロ野球・埼玉アストライア外野手。野球の実力はもちろんのこと、CDデビューを果たすほどの音楽の才能とそのルックスでプロ入団前から話題を集めてきた。個人Twitterアカウントは15,000を超えるフォロワーを集めている。

石井宏司氏

スポーツ界で求められる“学習力”と年齢に対する考え方

スポーツ界で働く上で大切なのは“学習力”です。

理由は2つあります。1つはまずスポーツ産業は未熟で、まだ若いステージにあるから。その段階では明確なルールや、仕事の方法論が定まっていないため、教えてもらいたくても教えられる人なかなかいません。そうなると自分でやってみて、失敗しながら学ぶしかなく、これをひたすら高回転で回していくことでできるようになるほかないのです。

もう1つはスポーツが他の産業に比較すると、規模は小さいものの、ビジネスモデルの幅と種類は多いという「総合型産業モデル」という性質があるからです。スポンサー獲得のための法人営業、ファンサービスのための企画考案、その他にもチケット、グッズ、飲食販売などがありますが、それらは本来それぞれ別のビジネスだったりするんです。公共のスタジアムを利用するためには法律知識も必要ですし、選手との契約業務もあります。私もそれらを何とか機会を見つけて自分で学んでいきました。

幸い私は今までのキャリアでいろいろな仕事に回ることが多かったので、経験がないものを突然渡されても楽しみながら、成果を出していくコツは掴めるようになっていたと思います。

今は高齢化も進んできて、40歳からもうひと山登り、70歳過ぎまで働かないといけなくなってきています。大企業でいつ来るか分からない出世コースを待ち続けてくすぶっているくらいなら、いっそ40歳でキャリアチェンジしてみるのもいいのではないでしょうか。40代になれば体力の衰えなどもあるかもしれませんが、その分積み重ねた経験もありますし、上と下の世代を繋げるしたたかさも持っているはずです。私自身もこの歳になって営業する時には逆に企業の上の方と会えるようになりました。年齢によって失うものもありますが、増えるチャンスもあるんです。

若い人はスポーツ業界に行きたいというより、成長するフィールドに身を置くことが大切だと思います。成熟産業における責任あるポジションに着くための順番待ちの長蛇の列に並ぶか、荒地でもいきなりリーダーを任せてもらえるスポーツ業界に行くのか。どちらの選択をするかだと思います。

プロ野球も楽天やDeNAなどの参入によって、球団改革を若い人が行うようになりました。それを見ているとスポーツ界は飛び込んでしまえば意外と年齢関係なくできる世界であると感じています。

私は遅れていると言われているこのスポーツ産業の発展に何らかの形で貢献していきたいです。その中で女性のスポーツ産業という特に新しいジャンルにおいて、成功というとおこがましいですが、少しうまくいったという事例を作れるといいですね。世界的にも女性のプロスポーツは難しいと言われていたりするのですが、欠けている何かを見つけて、ブレイクさせたいと思います。

前編はこちら