レナチーニョを「5部」へ移籍させた男が描く、サッカー・移籍金ビジネスの未来

2017.02.28 AZrena編集部

VONDS市原に加入したレナチーニョ

かつてJリーグ・川崎フロンターレに所属し強烈なアタッカーとしてファンに強いインパクトを残したブラジル人選手・レナチーニョが、日本に戻ってきた。Jリーグを見るものにとってはそれだけでニュース性が高いのだが、驚きなのはそのカテゴリだ。新天地として彼が選んだのはJ1やJ2ではなく、なんと関東リーグ1部のVONDS市原。なぜ、地域リーグへの決断をしたのか。今回、彼のこの移籍を実現させた代理人であり、Footbank株式会社の代表取締役である竹内一朗氏に話を伺った。今回のこの移籍の真相と、その先に描くストーリーとは。

 

レナチーニョは日本に戻りたがっていた

 

-まずは今回、レナチーニョ選手が来た経緯を教えて下さい。

僕は彼が川崎フロンターレにいた時から色々とサポートしていたんです。その後、彼が移籍をする中でも連絡は取り続けていました。彼は長いこと『日本に戻りたい』と言っていたんですよ。実はフロンターレさんを退団したのも本人の意向じゃない部分もあり、助っ人外国人選手として志半ばで退団してしまったという経緯も影響していました。今回、VONDSさんに移籍するタイミングでもブラジルのクラブから2つ、ポルトガルのクラブから1つ、ウクライナから1つ、アジアのタイのクラブからも1つ。計5つのオファーを頂いていたんです。条件は実際、それらのクラブのほうが良かったんですよね。

ただ、『日本からのオファーはないのか?』と彼に言われたんです。JリーグがDAZNさんと契約して、日本代表も安定した成績を残している。日本サッカーがこれからもう1段階上に行くというタイミングで日本に戻れるのであれば、クラブのビジョンさえあればどのカテゴリでも良いから話をくれ、という話をレナチーニョ本人からされたんです。ただ、それを話していたのが1月に入ってからでした。他のブラジルのクラブから『早く答えがほしい』『早くサインしてほしい』とも言われていて、板挟みじゃないですけどそういう感じでした。その中で、彼の気持ちが真意だというのも何年もずっと長い付き合いからわかっていたので、日本行きを手伝おうと思ったんです。

 

−VONDS市原との繋がりはどういった形があったのでしょうか?

2014年までJ3の相模原で監督をやられていた木村哲昌さんがVONDSのゼネラルマネージャーに就かれているのですが、僕がJFLのアルテ高崎でプレーをしていたときにトップチームのキャプテンをされていて、その頃から可愛がっていただいていたんです。それもあって木村さんとは常々情報交換をさせて頂いていたのですが、VONDSへ実際に足を運ぶ機会が何回かある中、施設やそれを取り巻く環境に惹かれました。もともと市原市はジェフ千葉の本拠地があったのでスタジアムが整っていて、そこにVONDS市原というトレーニング施設というハード面を持ったクラブができたと。J1のクラブとも遜色ないんじゃないか、と驚くほどの施設だったんです。木村さんとの縁があったとは言え、このクラブには上に行ってほしいと正直に思いました。

そこからVONDSとは繋がりがあったのですが、レナチーニョの話をした際『ウチに来てくれないの?』と言われまして。レナチーニョ本人もカテゴリにこだわらないと言っていたので、聞いてみたんです。クラブの施設の写真や理念を含めた資料を全部送ったのですが、クラブのビジョンについてすごく共感してくれたんです。ハード面やスタジアムが備わっていて、カテゴリを上げていく地盤が出来ていると。そこに貢献をしたいと思ってくれたんです。ちなみに施設については『これ、フロンターレよりいいんじゃないの!?』と驚いていました。彼が知っているのはフロンターレさんはクラブハウスを改修する前のものだったので(笑)。

 

竹内一朗氏

 

-カテゴリに対しては全く気にしていなかったとはいえ、驚きですね。

最初は地域リーグと説明してもわからないので、「ここは5部だよ」と説明もしました。ただ、それでも『全然。行くでしょ』みたいな感じでしたね。他クラブからもっと良い話、倍以上の条件も提示されていたんですよ。僕としても彼が日本に戻りたいというのはずっと聞いていましたしその気持ちはわかったのですが、信じられなかったところはあります。ただ、彼は本気で『話をまとめてくれ』と言ってきたので、契約までまとめました。

 

−先程おっしゃっていましたが、レナチーニョが日本を出る時は本意ではなかったんですね。クラブの移籍金の問題なのでしょうか。

タイトルも獲れなかったというのが心残りだったのかなと。フロンターレにはちょうどジュニーニョ選手やチョンテセ選手がいて良いサッカーができていたのですが、それでも勝てなかった。外国人というのは“タイトルを獲ってこその助っ人”という意識があるんですよ。彼の中でそれを達成できていないもやもや感があったようです。ブラジル人、レナチーニョだけじゃないかもしれないですけど『俺が入ってタイトル獲る』『昇格させる』という考え方を持っている人は多いですね。かつて柏レイソルにいたフランサもチームがJ2に降格しながらもそのまま残った。あの時も実は彼に色々な話があったのですが、『降格したのに移籍はできない』と。私が携わったブラジル人選手たちからはそういうメンタリティーをすごく感じましたね。

 

−レナチーニョ選手がVONDSをJの舞台まで上げていくと言うのももちろん良いと思うのですが、仮にJ1や J2のクラブからオファーが来た時にしっかりクラブに移籍金を残していくというモデルの確立をしたい、というところも考えていると聞きました。

レナチーニョは今回VONDS市原にとって初めてのプロ契約選手。つまりプロ契約選手という事は他球団から話があったときには移籍金が発生する選手になるんです。

サッカークラブの収入というと、放映権料と入場料を含めたグッズ収入、スポンサー料に加えもう一つが移籍金ビジネスというものです。スポンサー営業に関してはクラブの努力があって成り立っている部分があるんですけど、この”移籍金ビジネス”という、どういう選手を獲得してどういうサッカーをさせていくか、そしてその先に何があるのかという部分を考えるというのは非常に重要だと思うんです。ここにクラブの色が1番出るのかなとも考えています。放映権料はリーグ主導ですし、グッズもリーグ主導なところが日本にはある。移籍金ビジネスを作っていくことで、クラブとして獲得した選手の費用対効果をしっかり数字としてわかりやすく出せる。選手にお金を費やして成績も残らなかったら残るものはほとんど無いですが、成績が残らなくても個人の成績さえ評価されて他クラブから獲得されれば、収入源になる。そういうことをするクラブが出てきても良いのかなと。

 

タイリーグで今シーズン、初めて1億円を超える移籍金が発生したんですよ。現役代表の若い選手の移籍です。それまでは3,000万円ぐらいが同国の移籍金が最高値でした。ですが今回、一気に3倍跳ね上がったんです。良い選手だったら移籍金を払ってでも獲得する価値がある、という認識がアジアの他の国でも出始めているんです。先ほどおっしゃっていたように、J1 、J2のクラブからオファーをいただくというのもそうですけど、レナチーニョに限って言えばタイと中国等のリーグでもプレーをしていたわけですから、そっち方面への移籍も視野に入れていく事は可能です。そこも事前にクラブには説明させて頂きました。今はベトナムリーグでもちょっとずつ外国人枠を広げて外国人を獲得していこう、という体制もできていますし、インドもスーパーリーグが始まって選手にお金をかけるようになってきた。もちろんレナチーニョのパフォーマンス次第ですけれど、VONDSさんと長く付き合っていくためにはそういうビジネスも仲介人という立場からするとご提案することができるかなと。

 

記者会見でレナチーニョの通訳を務める竹内一朗氏

入団会見で竹内氏はレナチーニョの通訳を務めた

 

−移籍金を残すということは非常に重要ですよね。優秀な選手が0円で出ていくことが多いと思います。

単年契約をしたがる選手は多いですよね。クラブはもちろんそれを求めてないので複数年契約をしたいのですが、とはいえクラブとしても予算が安定しないから単年のほうが助かるという側面もあるんです。気持ちとしては複数年でやりたいけど、とりあえず選手も希望しているから単年にする、というケースもあると思います。ただ、それをやってしまうといざその選手が移籍するとなるときに移籍金が発生しないんです。

 

得た移籍金を、スタッフに投資する

−レナチーニョ選手も活躍次第でオファーはあると思うのですが、彼が移籍するとなった場合など、どういう道筋を考えていますか?

仮にVONDSというクラブにお金流れていくという仕組みができたときに、その移籍金の使い方まで弊社としてはアプローチしたいですね。噛み砕いて言えばクラブのスタッフにお金を投資してもらいたいと。例えば横浜DeNAベイスターズは、昨年初めてクライマックスシリーズに進出しましたが、それまでは結果がなかなか伴わなかった。それでも球団として経営がうまくいっているのですが、それはスタッフに素晴らしい人材を迎え入れているから。

マーケティングや企画、アイディアに優れている人間を置かないとクラブにお金が発生しない。お願い営業ができるスタッフが10人いるのと1人、ロジカルに物事を考えられる人間がいるのであれば、1,000万円の年収を払ってでも後者のような人材を獲得したほうが良いと思うんです。とはいえ、それをいきなりできるかと言ったらまとまった金額は無くてできないというのがほとんどだと思います。競技が影響する移籍金ビジネスで収益を生み、そのお金で新たに優秀な営業マンを1人、連れてくることに繋がれば球団に大きなメリットをもたらすと思います。新しいスポンサー営業が生まれたり、何かおもしろい企画が生まれたり。選手を1人獲っても活躍せず結局1年棒に振ってしまい、また新しい選手を獲る…というようなことを繰り返すより、クラブにとって財産となるようなお金の使い方や投資を出来れば良いなと。そういうモデル作りという点についても社長と逐一話しています。

 

-レナチーニョ選手はそういったピッチ外についてのことも考えているのでしょうか?

本人からは『スポンサーについてできることがあればなんでも言ってほしい』と言われています。そこに関しては彼の中で変わった部分があるんですよ。前はやんちゃで『サッカーできれば良いや』みたいな感じだったんですけどね。例えば、VONDS市原は今回公式Instagramを作ったのですが、レナチーニョの要望なんですね。「Facebookがあるよ」と言ったら、『海外にもPRするのであれば、Instagramでしょう』と言われたんです。そして、球団との会議で広報の担当の方に伝えて、実現しました。『クラブの投稿を俺がシェアしてブラジルの人たちにもVONDSの宣伝をすることができる』と言うんです。

彼はネイマールとサントスで一緒にやっていたのですが、毎年オフにブラジルで一緒にチャリティマッチをやっていて、仲が良いんです。『ネイマールにVONDSのユニフォームを送って写真を撮ってもらってInstagramに投稿したら良いんじゃないの?』と提案もしてきました。

“自分自身のキャリアから何ができるのか”ということに関して、彼は僕よりもしっかりと考えています。もしそれが本当に実現してネイマールがVONDS市原のユニフォームを持った写真を撮ってくれたらすごいですよね(笑)

 

−彼の加入はピッチ面だけでなく、色々なところに影響をもたらしそうですね。

関東1部ですけど、色々なものの考え方が変わるんじゃないかという期待感があります。レナチーニョ自身のキャリアや、彼の考え方、そしてVONDSの持っているハード面も含めて注目度を浴びる可能性は高いと思います。マーケティングというところに関しては細かく勉強していきたいというクラブ側の姿勢もあって、それがうまく噛み合ったと感じています。ここから何かを生む1つのきっかけになるのかなと。今回は本当に、レナチーニョの協力があって成り立った移籍でした。ただ、ここはスタートでしかなく、これからやらなければいけないことはかなり多いんです。

例えば来季、彼が移籍をするとなって移籍金が発生し、初めて関東1部のチームのチームに移籍金が入る。となると『ウチもやらなきゃ』と上のカテゴリのクラブさんも思うでしょうし、そういったモデルケースを作るチームのカテゴリは下であればあるほど良いんですよ。J2からJ1に行くよりは地域リーグからJ1 ・J2ないしは他国の上位カテゴリに属するチームに行ったら皆さん気にされるかなと思うので、そういうことをやりたいなというのがありますね。