スポーツ業界案内人が語る、人脈形成とデュアルキャリアのススメ
自分の価値を考えてみてください。スポーツ業界に入りたいのはわかりますが、あなたは業界に何をもたらしてくれるんですか、スポーツ業界に対する価値はなんですか。入りたいという希望はわかりましたが、何をもたらしてくれるのかがほとんどの方は抜けている。そこの価値を作ってあげるのが私の仕事です。(NPO法人スポーツ業界おしごとラボ・理事長/小村大樹)
スポーツ業界で働きたい人に求められる基本的知識、マインド、経験を提供し、幅広いコネクションの中からマッチングを行うことでスポーツビジネスにおいて活躍できる人材を輩出する、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ。
スポーツ業界人を中心としたゲストによる少人数交流座談会・すごトークやスポーツ業界就職志望者への仕事紹介などを行っています。
その理事長を務める小村大樹氏に人脈形成とスポーツ業界を志す上で大切なことを伺いました。小村氏は4月からスポーツ業界に本気で行きたい人のための“通行手形”となる資格、スポーツジョブライセンスも立ち上げています。
人脈は作るものではない。入口は利害のない関係から。
今、自分にとって大事な人を5人以上書き出してみてください。そこから身内を除くと何人いますか? その大事な人は、その人との縁を作ろうと思って作りましたか?
まず、人脈というものは、作るものではないという話です。気づいたらできていたものです。特に大事な人は。なのに、どうしてみんなは人脈を作りたい、作りたいと言うのでしょうか?
私も、気がついたらこんなに周りに人がいっぱいいるだけであって、作ろうと思って作ったわけではないんです。ところが、どうしても社会人になって営業とかをやろうとすると、人脈を作りたいとか、人と出会いたいとか、そういうことを言うんです。そういう出会いは本物でしょうか? キーワードは、“損得勘定がない人脈”。大事な人との間には損得勘定がないでしょう。しかし、これを言ってしまったら話が終わってしまうので、まずはどう人脈を作っていけば良いのかを参考までに話していきます。
私は人脈には2種類あると考えています。利害関係がある人脈とない人脈。利害関係があるのは、ビジネス上の人脈です。要は社会人として、会社としての付き合い。何のために付き合っているかの、“何のため”が言えてしまうような関係性です。
一方、利害関係がない人脈というのは、例えば友人や先生。たぶん先ほど皆さんが考えた大事な人というのは、こちらの領域に入っている人たちですよね。大事な人というのは利害関係がない仲ですが、社会人になってから仕事で出会う人とはどうしても利害関係が発生してしまいがちです。でも一人間ということを考えると、どちらが大切なのか。前者ですよね。私が強く推奨するのは、まず利害のない関係を作ること。年齢や背負っている看板・肩書きに関係なく、同じ目線でつながることを私はすごく大事にしています。その中で相手をしっかりと見ていけばどういう人かわかってきて、一緒に何かやれることがないか考えていくうちに、ビジネスが生まれてくるんです。そこではじめて利害関係がある付き合いになってきます。
最初の入り口としては利害関係がなくて、価値があるという形で入っていくんです。
ただ、ボランティアだけでは何も生まれません。そこから一緒にビジネスをやる方向に向いていかないと、ただの良い人になってしまうので、利害関係をつくっていきます。でも、初めは利害のないところからスタートする。だからこそみんな協力してくれるんです。
自分を表現し、紹介される人間になる。
現代において、SNS上で6人介せば全世界の人と繋がるというのは有名な話です。ということは、誰でも繋がれるということなんです。ただ、Facebookの友達の人数を自慢したところでどうしようもなくて、そこでの繋がり方、関係性が重要です。ところが人は数字で満足してしまうところがあります。でも、それは脈々と繋がっているものではない。人脈ではなく、ただの知り合いで次につながらない。
そして人と関わる中で邪魔するものがそれぞれの背負っている看板です。その人自身ではなく、肩書き、チーム、選手、有名人、会社、年齢などを見てしまいがちです。でもまず先に看板を見ずに目の前の人をちゃんと見て、全力で接することが重要です。
人と出会う方法はたくさんあります。待っていても向こうからはこないので、いろいろなイベントに出る必要があります。そして相手に気づいてもらったり、興味を持ってもらったりしないといけないので、名刺は意外にも大事になります。面白くない名刺を作ってもフックにならないので、何か引っかかるようなキャッチコピーを付けるのもいいですね。何者なのかというところが、初めましての時には必要なので。
人との出会いの中ではまず、自分がどういう人なのか表現する力がすごく大事です。そして紹介される人間になりましょう。紹介というのはする方も責任があるので、簡単にはできないんです。反面、紹介されるようになれば、それだけ自分を認めてくれていることになるし、何をやっているのか具体的に分かっているからこそ、誰かとマッチングしたいと考えるわけです。こういう人がいる、と具体的に紹介される人間にならないといけないんです。
信頼関係構築のための5つのステップ
信頼関係の構築には5つのステップというのがあります。人間関係は全部そうで、恋愛も営業もこのステップを踏んでいます。気づいてもらって、興味を持ってもらって、好きになってもらって、確信してもらって、愛してもらう。好き止まりは友達です。愛してもらわないと、何かお願いはできないんです。愛してもらいましょう。
人脈を広げるためのポイントとして、必ず押さえておいたほうが良いのは交流会などの主催者ですね。この主催者は何のためにこの会を主催しているのか、というのはものすごく重要ですね。その主催者の心が、参加者の心にも同じように表れるんです。
主催者がビジネスでばりばり儲けてやろうという気持ちでやっているような会合には、同じような人が集まります。だから名刺交換したところで営業を掛けられるだけですね。
ところが本当にいろいろな人を繋げたいと思ってやっていると、主催者のハートが参加者に連動するのは間違いありません。あとは主催者にも感謝の意を表しましょう。その場で出会った人だけでなく、主催者にも挨拶するのはすごく重要です。主催者がその人たちを集めてくれるわけだし、縁を作ってくれて、場所を提供してくれているわけですから。繋いでくれた人は、大事にすべき存在です。
そして私自身が本当に繋がりたい人、親密になりたい人に対して行うのは、“1年に3回会いましょう”です。SNSなどで明日行くところや予定もだいたい分かるので、偶然を装って同じイベントに行くんです。1回目はどこかで知り合った人も、2回目に偶然ばったり会えば、「あの時の!」となるわけです。名前は無理でも顔は覚えてくれるでしょう。そして3回目には完全に名前や何をやっているかを覚えてくれる。回数や会う機会を増やすと、詳しく知らなくてもぐっと関係は深くなります。向こうもこちらが何をやっているか興味を持ってくれて、調べもする。3回会って初めて具体的な話ができるかなと思っています。だから商談なども3回目からですね。
また、会った時に仕事以外の、人間としての部分で相手との共通点が見つからないようであれば、なかなか仕事には結びつかない。
成功する人というのはみんな人を巻き込む力を持っているんです。私も独立してすごく感じたことは、雇われ身から自分でお金作らなきゃいけないようなポジションになるにあたって、相当な覚悟が生まれます。必死なんです。でもそういうエネルギーは人に伝わるもので、それを感じてくれている人は必ずいます。また、自分に必要な人がたまたま来てくれることもあるし、色々な人に助けてもらうこともあります。すごトークのパンフレット作成もNPO立ち上げのメンバーも周りの人が助けてくれました。
どうしても自分一人じゃできないようなことってあると思うのですが、芯がある人はそれを補填してくれているような人を巻き込めていると思うんです。自分もそれを体験してすごくわかりました。
まずは自分から与えていくこと。ビジネスも人脈も同じ。
人脈の鉄則はギブアンドテイクだと思います。まずは自分から与えていく。与えていると、与えられた側はお返ししたくなる心理があると思います。それが返報性の法則で、与えられてばかりでは申し訳ないという心理が働くんですね。見返りを求めるためにやっているわけではないですが、自分から与え続けていくことが、脈々と巡り巡って、自分のところに戻ってくるという考えでやっています。
例えば「100円玉ってすごく菊が綺麗に掘られていて、硬いし、朽ち果てないし、きっと100円じゃ作れないし、斬新でかっこいい。私は貴重だと思っているので、もったいないけど1,000円で買ってくれませんか」と言われたとします。でも買わないですよね。
しかし、ビジネスの話に置き換えると、100円あげるから1,000円くださいを成り立たせているんですよね。世の中の会社というのは原価が100円のものに900円分の価値を上乗せして提供することで、1,000円でお客さんに買ってもらって、利益を得ているわけです。自販機で100円のジュースを買っても、原価は10円、20円しかしないんです。でもなぜ買ったのかといえば、「飲みたい・喉が渇いた」という欲求を満たす価値があったからです。
それではみなさん一人ひとりが与えられる価値(ギブ)はなんでしょうか。自分の価値を考えてみてください。スポーツ業界に入りたいのはわかりますが、あなたは業界に何をもたらすことができますか? スポーツ業界に対する価値は何でしょうか。“入りたい”という希望はある一方で、“何をもたらせるか”という部分がほとんどの方は抜けている。そこの価値を作ってあげるのが私の仕事です。