スタジアムから地方を活性化!スポーツが地方創生の起爆剤となるか

2017.09.04 山本 一誠

今年3月に発表された第2期スポーツ基本計画において、スポーツ市場規模を大幅に拡大するための施策として、「スタジアム・アリーナ施設の改革」が取り上げられた。しかしスタジアム・アリーナ改革は、一般の人の関心事にはまだまだなっていない。むしろ、巨額の公費が費やされるだけに、世間の風当たりが強くなってしまうこともしばしばである。
そこで今回は、日本各地でスタジアム・アリーナ整備のプロジェクトに携わっている“スタジアム・アリーナ改革の第一人者”として、日本政策投資銀行の地域企画部で参事役を務める桂田隆行氏にお話を伺った。地域に貢献し、地域に愛されるスタジアムを作るにはどういった観点が必要なのだろうか。

 

スポーツに縁遠かった銀行員を変えた、あるきっかけ

-桂田さんは昔からスポーツビジネスを専門にされていたのですか?

そもそも私は入行以来長く地域企業の融資の仕事をしており、地域企画部でスポーツ関係のことをやる前は、温泉旅館とかホテル関係の融資などをしていました。元々私は学生時代にスポーツに打ち込んでいたという訳ではなくて、せいぜいプロ野球の外野スタンドに座ってビールを飲みながらメガホンを叩いて応援するくらい。さほどスポーツ分野には関心がなかったんです。

 

-いつ、どのようなきっかけでスポーツビジネスを専門にするようになったのですか?

大きなきっかけになったのは2008年。リーマンショックが来た時に地域の中堅企業に融資する部署にいたんです。その時に地域の企業から「相談に乗ってください」という話がたくさん来たのですが、その中の1つにとあるプロスポーツチームがあって、融資の相談をいただきました。

プロスポーツチームというものはそんなに決算の数字が良いわけではなくて、その当時は融資に至りませんでした。しかし、多くのプロスポーツチームは決算状況があんまり良いとは言えないのに、会社が潰れない。

プロ野球で言うと近鉄バファローズは「近鉄バファローズ」としての歴史には幕を閉じましたけど、それ以外の球団は経営が厳しくなっても他のオーナーが現れて、チームとしては存続します。

 

-Jリーグでいうと横浜フリューゲルスですね。
そうですね。横浜フリューゲルスが消滅してしまいましたが、一度は経営危機を迎えた清水エスパルスも結局新しいオーナーの元でやっていますし、V・ファーレン長崎もそうですね。

その当時は私の知識もなく、決算書の数字で見ると「お金を貸せる」という判断ができなかったのですが、この業態の会社って意外に存続するんです。その矛盾が当時わからず、その時に融資できなかったのが自分自身悔しかったこともあり、社会人向けの早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科の修士コースの門を叩きました。これがスポーツの世界に入ったきっかけです。

この銀行では以前からスポーツ施設、特にスタジアムには融資をしてきました。そのため、この分野に明るくパブリックのマインドをお持ちの間野義之先生(※早稲田大学スポーツ科学学術院教授。専門分野はスポーツ政策論。)にご縁をいただき、それをきっかけにスポーツ関係の仕事をするようになって今に至ります。

 

勢いを増すスタジアム・アリーナ改革の動き

-桂田さんは普段はどのようなお仕事をされているのですか?

基本はオフィスでのデスクワークや電話のやりとりですが、週に1、2回は『スタジアム・アリーナを整備したい、作りたい』という考えをお持ちの地域の方々とのディスカッションのために出張に行きます。

こうしたプロジェクトは『今、こういう風な思いがあるんです』っていうレベルだと、恐らく全国に4、50はあると思っています。そして継続的かはともかく、そのうち半分ぐらいは何らかのコンタクトを取ったと思います。ディスカッションの中には1回で終わるものもあれば、複数回続くものもあって、そういう案件は何回も会いますから、コンタクトの回数も増えていきます。

 

-どういった団体が多いのでしょうか。
ディスカッションのお話を頂くのは、スタジアム・アリーナを「スポーツコンテンツ」としてだけではなく、「地域活性化の起爆剤や拠点」として考えてくれている方が多いです。プロスポーツチームのみならず行政の方、地元の経済同友会とか商工会議所のような経済団体もあります。

最近はスポーツ系のコンサルタントの方って多いと思うんですけど、この銀行は「スポーツ」という面から入ったわけではなくて、地域活性化の拠点や起爆剤の1つになるかも、という観点から入っています。そうすると他のスポーツコンサルタントの方よりは行政とか経済団体の割合が多いかもしれないです。

 

-日本はここ1、2年でスタジアム・アリーナ改革の動きが活性化している印象がありますが、一体なぜなのでしょうか?

一番大きな要因はスポーツ庁が発足したことだと思っています。今までも「新しいスタジアム・アリーナを作りたい、実現させたい」と思っている人は絶対にいたはずです。ただ、スタジアム・アリーナは一企業だけでできるものではありません。行政とも必ず相談するのですが、今まで行政側に「スポーツ」というものを真正面から受け止めてくれる窓口が無かったのではないでしょうか。

だから今までは話を持っていっても健康関連であれば厚生労働省に行ったり、スポーツでベンチャーを立ち上げるのであれば経済産業省に行ったり、公園の中でスタジアム作りたいとなったら国土交通省に相談に行ったり…という状況でした。案件が各省庁に散ってしまっていると大きなテーマとしてみてくれないという部分もあったと思います。

そういった状況下、スポーツ庁が2015年10月にできたことで、「スポーツ」というものを一つのコアとして捉えてくれる窓口や官庁ができ、スタジアム・アリーナ改革を推進する大きなきっかけになったと思います。

 

スポーツをエゴのように主張してはいけない

-とはいえ、スタジアム・アリーナ改革はまだまだ一般の人の関心事にはなっていない印象もあります。

「スポーツで何かしたい」という人をスポーツが受け止めてくれる行政の窓口はできたので、次はスポーツの世界にいない人たちにもスポーツによる地域活性化やスタジアム・アリーナ改革というのを知ってほしいと思います。やはり、そうしないと話が大きくならないですから。

そして、だからこそスポーツで何かしたいという時にスポーツをエゴのように主張してはいけないと思います。

実際スポーツというコンテンツは素晴らしいんです。だけど、「スポーツをやりたい」「スポーツビジネスをやりたい」「スポーツというコンテンツを最大収益化したい」というのは今の日本において自己主張する段階ではないかなと思っています。

よく“スポーツ村”という言い方をする人もいますが、スポーツ村の中ではその会話が通じても、普通の人には通じないと思うんです。その時に「スポーツで地方創生をやりませんか」とか「スタジアムやアリーナで社会の課題を解決してみませんか」とアプローチをしたほうが、スポーツに興味を持っていない人も話を聞いてくれるような気がしています。

 

-スポーツファンの思いだけが一人歩きしてはいけない、と。

10年後は日本の中でも完全に「スポーツ産業」という言葉が定着して、「スポーツはビジネスをするもの」という時代になっているかもしれないですけど、今の日本においてスポーツビジネスというのは、ビジネス面を強く主張する段階ではないのかなと。「地域の中で受け入れてください」とか「スポーツで地域の課題を解決させてください」という角度からのアプローチが必要な段階だと思います。

スマート・ベニューと地域活性化、そして日本の現在地。

-スタジアム・アリーナ改革に関しては、“スマート・ベニュー”という言葉が昨今よく聞かれますが、そもそもスマート・ベニューとは何か、ご説明いただけますか?

スタジアムやアリーナといったスポーツ施設、またその周辺と一緒に複合的な交流空間を作っていきましょう、というのが定義です。地域のいろんな人が集える交流空間を作って、スタジアム・アリーナだけじゃなくてその周りの地域にまで賑わいをもたらし、活性化させていく拠点がほしいということです。

そういった意味で東京ドームシティは一つの例だと思っています。東京ドームに来たお客さんは東京ドームシティの中だけじゃなくて、きっと水道橋の居酒屋でも飲んで帰りますよね。そういう絵が他の地域にもあるべきだし、欲しいと思います。

 

-スタジアムビジネスが発展している海外と日本ではスポーツという文化の浸透度も大きく違うと思いますが、その違いは社会から求められるスタジアム・アリーナ像にも表れてくるのでしょうか?

表れてくる気がします。スポーツコンテンツとかスタジアム・アリーナの収益を最大化するための絵が、必ずしも今の日本で成功するかはわからないです。ただ、僕はスタジアム・アリーナで人が来ればいい、そのスタジアム・アリーナやスポーツコンテンツが地域の課題を解決する存在になればいいと考えています。だから私は「海外のスタジアム・アリーナがものすごくかっこいい」と言われてもあまり関心がないんです。

むしろ人が集まるスタジアム・アリーナが収益を独り占めするのではなくて、地域にどうやって貢献してくれるかというところに関心があるので、海外のスタジアム・アリーナを見ても「これが日本にあったらいいな」とはあまり思わないですね。

 

-日本の中でも地域の特性や条件は変わってきますよね。

例えば東京みたいな都市は再開発の折り合いもあるので、収益最大化に主眼を置いた施設でもいいのかもしれない。
でも、地方の場合はスタジアム・アリーナにはあんまり商業モールとかを作らずシンプルな作りにして、むしろどうすれば試合後に地域の商店街に人が流れてくれるかを考えるべきかもしれないですよね。地方のスタジアムに商業モールをいっぱい作っちゃったら、地元の商店街の人達にとってみたらとどめを刺されたようなものかもしれないですからね。

 

日本には日本型のやり方がある

-スタジアム・アリーナを作る際に留意すべき点はどういったところでしょうか?

「こういう多機能複合型スタジアムが欲しいんだ」という箱物行政から入ってはいけなくて、「地域にこんな機能が欲しいというところから考えた結果、こういうスタジアム・アリーナになりました」という絵であって欲しいと思います。

アオーレ長岡(注:市民交流の拠点を目指して設計されたシティホールプラザ。市役所本庁舎、屋根付き広場、交流ホールに加え、Bリーグ・アルビレックス新潟BBのホームアリーナを併設した、世界にも稀な多機能複合型施設となっている。)を例に挙げると、市役所とアリーナが併設されている絵だって全然いいと思います。こんなアリーナが海外にあるのかわからないですけど、長岡の人が“これがいい”と思ったなら素晴らしいと思いますし、日本は日本型のやり方でやっていけば良いような気がします。

あとは、アオーレ長岡で増えた通行量(注:長岡市歩行者通行量調査によると、アオーレ長岡が開場した2012年以降、長岡市中心市街地の歩行者通行量が増加している)をどうやって商店街の人がお客さんとして誘引するかが焦点です。これは商店街のお店の方の努力による部分も大きいと思いますが、一つの交流空間の存在によって街全体の賑わいが増えたらいいですよね。

 

-今後もスタジアム・アリーナ改革の需要は増して行くと思いますが、桂田さんはどのような活動をされていくのでしょうか?

地域活性化において、スポーツというコンテンツはすごく有益だと思っています。そういうものを実現していく上で、少し遠回りで時間がかかるかもしれないけど、いろんな人を議論に巻き込んでいきたいです。そうしていくことで、多くの人から喜ばれる地域活性化が達成されるような気がしています。スマート・ベニューは多様なステークホルダーによってスポーツによる街づくり、スポーツを活かした交流拠点の醸成をしていくコンテンツだと思っていますから。