鹿島アントラーズ>日本サッカー協会!? 民俗芸能学者が紐解くエンブレムが持つ意味
NPO法人スポーツ業界おしごとラボ(通称・すごラボ)の理事長・小村大樹氏をホスト役として行われている「すごトーク」。今回のゲストは、民俗芸能学者の山崎敬子氏です。
大学院にて美術史学修士課程を修了後、芸能学会や日本民俗芸能協会に所属。広告業界紙編集長の傍ら、有明教育芸能短期大学子ども教育学科非常勤講師(民俗学)を務め、現在は、玉川大学芸術学部パフォーミング・アーツ学科講師(民俗芸能論)、早稲田大学メディア文化研究所(地域メディア論)、(社)日本ペンクラブ(広報・企画事業委員)などに所属されています。
今回は、民俗学の観点からスポーツにまつわるエピソードについてお話いただきました。
民“ゾク”学を知っていますか?
今回のテーマは『スポーツ民俗学』です。
民ゾク学には民“族”学と民“俗”学の2種類があります。民族学と書く方の学問は、いわゆる文化人類学を中心としていて、実はメインの学問です。
ですが、私のやっている学問は民俗学で、かなりマイノリティな学問になっている気がします。なぜかというと、民族学は文化人類学としても認知されており、各国民族の文化を対象とする研究なのに対して、私が勉強している民俗学は、日本の風習までしか見ないんです。でも、妖怪などで皆さんが一番身近に接しているのがこちらの民俗学で、水木しげる先生の領域などがこちらにあたります。伝説や妖怪、さらに身近なもので言うなら、お正月のおせち料理の由来や、お盆にはなぜお祭りで盆踊りというものがあるのか、などそういったことを研究しています。
ここからはサッカーについてお話ししたいと思います。皆さん、八咫烏(ヤタガラス)をご存知でしょうか。恐らくスポーツ界では一番有名なマークに使われている鳥で、日本サッカー協会及び、サッカー日本代表チームのエンブレムに使用されています。
なぜ八咫烏なのかを詳しく説明します。古代、神武天皇が高天原から降りてきて、大和へ行くまでの道のりの間に熊野を通るのですが、熊野の神様のところにアマテラスが遣わせていたのが八咫烏です。要は、熊野から大和平定までの道案内をしたのが、この八咫烏と言われています。
この神話を元に、日本サッカー協会は、「勝利を導く」という意味で、八咫烏を使用しています。
実は、エムブレムをよく見ると、八咫烏の足が3本あります。ですが、古事記にも日本書紀にも八咫烏が三本足とは書いていません。これは恐らく中国の影響です。古代の日本は中国の文化を積極的に取り入れていたので、その際に中国の霊獣の発想を取り入れて最終的に三本足になったのではないか、と考えられています。
八咫烏は天皇を大和まで導いたという神話があり、さらには日本で最高神であるアマテラスが仕えさせていたカラスなので、勝利を“導く”という側面で考えれば、これ以上ない象徴と言えるのです。
サッカーのエンブレムという観点でいうと、実はもう1つ面白い話があります。民俗学目線でいうと八咫烏もとてもすごいものですが、実は、鹿島アントラーズの鹿はもっとすごいものなのです。八咫烏はなんとなく神話で見たことがあるなど、意外と馴染みがある人も多いかと思います。では、なぜ鹿島は鹿なのかということはあまり知られていないのではないかなと思います。ただし、古事記や日本の神様に興味を持つ人からすると、
一番グサッとささるのが、恐らくこの鹿島の鹿です。鹿島アントラーズのマスコットキャラクターを想像すると同時にぜひ、奈良のせんとくんのことを思い出してみてください。あれらは同じ鹿です。奈良公園の鹿のルーツも、鹿島の鹿なんです。
鹿島には鹿島神宮があるのですが、これを建てたのは中臣氏です。中臣氏は、平安時代には藤原氏に名前を変え一大勢力となります。耳にしたこともあるかと思いますが、とても栄えた一族です。その藤原氏が768年に建てたのが、奈良の春日大社です。そして、春日大社を建てる時に、自分達の氏神ではなく、鹿島の氏神を持ってきました。鹿島の神様は、鹿に乗っているので、鹿に乗って奈良までやってきたと言われております。その結果、奈良にも鹿島の鹿が伝わりました。
こういう背景もあり、奈良の皆さんからしたら鹿を「飼っている」感覚ではないと思います。鹿は霊獣なので、神様の獣です。
話を戻します。鹿島の鹿についてですが、鹿島神宮にはタケミカヅチというトップの神様がいるのですが、これは武術の神様です。恐らく鹿島アントラーズもチームを作る際に、マークとして鹿を使わせてもらうための許可を鹿島神宮に取りに行っていたはずですが、実は、日本文化目線でどのチームよりも一番強い神を祀っているのが鹿島アントラーズなんです。鹿島一帯は、神話ができる前の古代から武力の地域なので、このように神を祀っています。
このように、武のトップは鹿島アントラーズで、神様のトップであるアマテラスが仕えさせていたという八咫烏が日本サッカー協会です。これは、ある意味で日本サッカー協会と鹿島アントラーズはうまく棲み分けをしていると私は感じます。もちろん、統率力という意味では、八咫烏の方が道(勝利)を導く力があるので強いですが、武の力だけで言ったら間違いなく鹿島アントラーズの方が強いのです。これにより、祀っている神様のみで判断すると、協会よりもクラブチームの方が強いという状況が起こってしまっています。
サンフレッチェ広島のように、戦国大名の毛利氏を祀っているクラブもありますが、武家には昔から戦う血が流れているのだと思います。やはり神様を祀っているチーム(鹿島や広島)はタイトル争いで強い気がしています。タイトルの獲得数のように、目に見える形で表れています。
各チームのロゴに秘められた意味
このように、ロゴにはそれぞれ意味や由来があります。ロゴは団体のシンボルなので、それぞれにそれぞれのスピリットが込められています。もちろん日本の家紋なども歴史は深いですが、それよりも各団体のロゴの方が重たいはずです。なぜなら、家紋は各家のシンボルなので、言ってしまえば元から結束の強い集団のアイコンですが、一方の団体のロゴは、このシンボルを元に国内外の赤の他人同士が一丸とならないといけないわけなので、より強いスピリットを込めないとまとまることが出来ません。
ましてや、Jリーグの場合は地域に根ざして発展させたいという思惑があったので、より一層ロゴに込める想いは強かったのではないでしょうか。
最後に、先ほどの鹿島アントラーズの話に戻りますが、鹿島の選手は他のクラブの選手と絶対的に違うことがあります。それは、鹿島のエンブレムが剣道や柔道と同じで“武の神様”を背負っているということです。つまり、鹿島の選手は、歴史的に見れば日本の武の歴史自体を背負っているので、それだけの想いを持ってプレーしてほしいなと思います。
今回、例を挙げた鹿島や広島以外にも、クラブごとに様々なスピリットを込めて、ロゴやエンブレムを作っています。今日もし、少しでも日本文化的なエッセンスにも興味を持っていただけたのなら、ぜひ1つ1つのロゴやエンブレムに込められたスピリットについて掘り下げてみて頂けたら嬉しいです。