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グランパスくんが売れっ子になるまで。マスコットビジネス成功秘話

2020.01.28 / 小田 菜南子

J1〜J3の垣根を超え、全クラブが一斉にぶつかり合う熾烈な戦いがある。

クレバーさ、かわいさ、ときにあざとさといったあらゆるテクニックとコミュニケーション力を駆使し、50以上のクラブがしのぎを削る。それがJリーグマスコット総選挙だ。この厳しい争いに勝ち抜き、現在2連覇中の王者が名古屋グランパスのグランパスくん。パートナー各社との契約への貢献も目覚ましい“マスコット王”の活躍を支える二人に話を聞いた。

株式会社名古屋グランパスエイト 営業部 大内田勇貴さん(左)、同広報コミュニケーション部 ホームタウングループ  佐藤剛史さん(右)

 

地域の人気者も、かつては知名度ほぼ0

ーグランパスくんは家族設定やエピソードが細かく設定されていますが、グランパスくんのプロモーションに注力したのはいつからですか?

佐藤:2010年のクラブの初優勝の頃からだと思います。それまでは地元でもあまり知名度がなく、水族館のキャラクターだと思っていたもいたくらいです。地域のイベントなどでは、選手の代わりにグランパスくんに出てもらうことも多かったのですが、知名度がない状態で街で頑張ってもらってもあまり意味がないので、まずは知ってもらおうといろいろな活動をしていきました。

それまでも、清水エスパルスのパルちゃんと一緒に絵本を出したり、中日新聞のサイトへの辛口コメントが話題になって「師匠」と呼ばれたりと、ふわっとしたイメージはあったのですが、一部の方にしか知られていませんでしたね。

かわいい奥さんがいるのに、女の子好きなダメ親父でお酒も好き。家族のエピソードも、何かのきっかけがあるごとに、都度語られてきたのだと思います。そうした家族の仲の良さに焦点を当て、グランパスくんファミリーに頑張ってもらいました

 

大内田そして、初期から変わらない、唯一にして最大の特徴は、全裸ということですね。

佐藤:そう。Jリーグのマスコットキャラのなかで唯一全裸なんですよ、グランパスくんは。グランパスくん自身に聞いても誇りに思ってくれているみたいです。塗り絵をつくったときは、グランパスくんは全裸なうえにモノトーンなので(笑)結果輪郭だけになってしまったということもありました。

大内田:何も持たず、何も着ていないというのはJリーグの中ではグランパスくんだけなので、稀有な存在なんです。

 

ー他のマスコットを参考にしたことはありましたか?

佐藤:やはり愛知県にはドアラという強烈なライバルがいるので、同じくらい人気者になってほしいという気持ちはありますね。ドアラの担当者にお話を伺って、やっぱりちゃんと皆さんに知っていただくようにしていかなければならないな、と思いました。

ドアラも中日ドラゴンズの試合結果や内容に対する、辛辣なコメントが受けている。ドアラは筆談ができますけど、グランパスくんはできないので、その代わりにどうやってリアクションを取り、お客さんとコミュニケーションを図るか、というところもグランパスくんと一緒に考えていきました。

大内田:今では街でも、「あ、グランパスくん」と言ってもらえることが増えました。少し前までは考えられないことでしたね。

 

人気上昇とパートナー企業との企画の正のスパイラルが回っていく

ーJリーグマスコット総選挙では、2018年、2019年と連覇を成し遂げました。どのような取り組みをされてきたのでしょうか。

佐藤:2015年は社内的にかなり後押しをした結果が10位だったんです。それで一念発起し、翌年にTwitterとブログをグランパスくんに開設してもらいました。2017年にも6位どまりではあったのですが、1位を獲ることができた2018年はちょうどチームがJ2からJ1に上がったシーズン。その勢いで地域やサポーターの方を巻き込み、実現できた念願の“マスコット王”でした。

大内田喜久屋さんという宅配クリーニングの会社さんが、グランパスくんが総選挙で初めて1位となった2018年からスポンサードしてくださっています。喜久屋の社長様が「クラブを応援する人を応援したい」と強くおっしゃってくださり、私たちからは、「クラブを一番応援しているのはマスコット」というお話をさせていただき、「グランパスくんファミリーパートナー」という形のスポンサードが始まりました。

 

ーマスコットにスポンサーがつくというのは珍しく思います。

大内田:そうですね。企画の幅も広がっています。海苔やふりかけを製造販売している浜乙女さんという会社があるのですが、2019年のシーズン前にパートナーになってくださり、グランパスくんパッケージの海苔を浜乙女さんのブースで限定発売していただきました。これは売り始める前に整理券がなくなってしまうほどの人気ぶりでしたね。

(※グランパスくんファミリーの専属パートナーは、上記の株式会社喜久屋と株式会社浜乙女の他に、「しるこサンド」を展開する松永製菓株式会社、「カレーうどん」を中心に飲食店を展開する株式会社若鯱家を含む計4社にのぼる。)

これは特にSNSをうまく活用できた案件でした。再販の際には浜乙女さんの「でえたらぼっち」というマスコットとグランパスくんに「またやろうよ」というやり取りをTwitter上でしてもらったところ、即完売。スポンサー側のマスコットの露出も増やせるので、win-winなんです。結果的にその商品はレギュラー化されたのですが、その時にもグランパスくんがレギュラー化を社長グッズ担当に直談判をする動画をTwitterで発信していきました。広報とグッズ、営業が連携して話題をつくり、お客さんに届けることができています。営業部として、パートナー様が喜んでくださることはもちろん、ファミリーの皆さんが笑顔になってくださるよう、取り組んでいます。

 

マスコットファンがクラブを支える

ーマスコットを持ちながらも活用方法に悩むクラブも多いようですが、名古屋グランパス流の成功の秘訣はあるのでしょうか。

佐藤当初担当者の間では、やるからにはビジネスとして成り立たせていかないといけないという認識をまず浸透させました。目に見える結果に結びつけ、存在意義を全社にも理解してもらおうと努めていましたね。

大内田:実際、人気が上がるにつれてグッズの売り上げももちろんですが、グランパスくんと一緒に何かできないか」と考えてくださる自治体の皆さんや企業さんが増えてきたので、手ごたえも感じています。

佐藤:社内の協力体制も変わってきましたね。マスコットの企画会議って、真面目にやっていても遊んでいるような会話になってしまうんですよ(笑)。理解がないと、何となく社内からの目線が冷たいというか、「仕事しろよ」と思われてしまうのが、各クラブのマスコット担当者の悩みなんじゃないかと思っています。その壁をまず超えるためにも、成果を出すことは大事ですね。

 

ーマスコット関連の売り上げの目標数値などは設定したのでしょうか?

佐藤グッズ担当など各自の目標はありますが、ここでは控えさせていただきます。それでもやはり、イベントに呼んでもらう回数や、コラボしたいという企業さんからのお問い合わせが目に見えて増えていますので、グランパスくんの魅力を再認識しています

また、「グランパスくんだ」って言ってもらえる回数が増えるとか、ホームタウンへの浸透の部分を捉えるようにしています

地域に愛されているマスコットというのが大前提にないと、パートナー様に貢献できませんので、営業パートナー様の売り上げにもつながりません。どちらもバランスよく見ていくことが必要だと感じています

佐藤:各学校への挨拶活動にグランパスくんが参加するという取り組みを教育委員会を通じて行っているのですが、その回数も増えていますよね。子どもたちの日常の中にグランパスくんが溶け込んでいくことで、地域に根差したクラブになっていけると思うので。

(※グランパスくんファミリーは2019年、愛知県内の小学校49校の挨拶活動に参加した。)

大内田:マスコットファン方も増えてきたと感じています。グランパスくんのイベントをやると必ず来てくれる方がおられます。試合前後に外に出ていくと、人垣の大きさが以前と比べて明らかに違うんです。ここ5年くらいでそういった変化も起きてきました。

佐藤:クラブが持つ一番の“コンテンツ”は試合や選手ではありますが、そこには勝敗や移籍というリスクもある。でもマスコットは不変なんです。クラブの状況がどうなろうと、グランパスくんファミリーはずっと存在してくれるので、そこについてくれるファンの方はすごく大事です。マスコットを好きになってくれる人は、クラブそのものを好きになってくれる人だと思うんですよ。強くても弱くても、選手が移籍してもずっとクラブを応援してくれるファンにつながると思います。

 

ークラブにおけるマスコットの存在意義はかなり大きいのですね。今年の総選挙における3連覇ももちろんあるかと思いますが、今後の展開や目標などを教えていただきたいです。

大内田:グランパスくんと企業とのコラボ商品が、地域のスーパーに並ぶくらい、ホームタウンの皆さまに愛される存在になってほしいですね。

佐藤ドアラの商品はすでに棚を取っていますからね。Jリーグのマスコット総選挙で連覇をしても叶わないライバルが同じ地域にいるというのが刺激になります。だからドアラのように、グランパスくんもディナーショーをやってみたいんですよ。喋らないマスコットのディナーショーでチケットが完売したら人気は本物だと思うので(笑)それくらいグランパスくんファミリーが好きという人を増やしていき、少しでもドアラの域に近づきたいですね