menu

【後編】子育て、仕事、そして“競技”としての釣り。3つのフィールドで奮闘するアングラーの生き様

2014.09.29 / 森 大樹

佐野ヒロム

 

トレーニングの重要性

 

-今後のターゲットは。

今はクロマグロの200kgオーバーはキャスティングではあまりまだ上げられていないので、アメリカで釣ってみたいですし、トレバリー(GT)っていうロウ二ンアジやカンパチとかヒラマサといったターゲットの大きい魚を釣っていきたいですね。 (いくつか大きな魚を釣り上げたお写真を見せてもらう)

 

-すごいですね!魚との駆け引きもあるのですか。

そうですね。なかなか強引に釣ろうとしても釣れません。牛を引っ張るイメージですかね。あれって怒ったら敵わないじゃないですか。怒っちゃったら離してまた連れてくるしかない、そんな感じです。糸って100mとか200m出ていくんですけど、今の技術だとPEラインというのがあって160kg以上の魚をこれで釣るんです。リールをロックしてしまうと切れちゃうので、糸を逃がしながら巻いていきます。それでこれは僕が開発したものなんですけど、15分の20分も(巻くことを)やっていると乳酸が溜まってきちゃうんですね。なので1つの筋肉だけでなく、握り方を変えていろいろなところの筋肉を使えるようなリールの持ち手の構造にしました。ただ乳酸を溜めない方法は(手を)振るしか方法がないんですよ。200kgぐらいになってくると30分以上になってくるので、トレーニングをしながら、という感じですね。新しく今度出るもの(リール)は1回の巻きで1m20cm巻けちゃいます。糸はすごい勢いで出て行くので、(リールの)カーボンとドラムが摩擦で熱を持ってしまうんです。なのでそこに風を送り込むフィンが付いていたりもします。

※PEライン:極細ポリエチレン繊維を何本も編みこんで一本にしたライン(釣り糸)のこと。

 

-なるほど!奥が深いですね。

アメリカに行った時は日本人一人でバカにされたりもしましたね。体を固定するベルトがあるんですけど、どうせお前なんか釣れないから外しておいていいよ、とか。でも当たりが来て、もう魚を上げるところまで来たんです。ただ最後の最後で上げるのをミスされて。僕は悔しくて大号泣ですよ。それをアメリカ人も分かってくれて、次の日に釣れて仲良くなりました。今もFacebookで繋がっています。

他に行っているお客さんとかはただの金持ちの人もいるじゃないですか。でも自分だけはハートで釣っているから、僕は違うというのがあります。一応使命があって、メーカーの方が船代とかすべて出してくれていたり、道具も開発してもらって次世代の物を使わせてもらっているし。例えば今(糸は)8本縒りなんですけど、僕が使っているのは16本縒りというものです。

将来的に世の中に出回るようになるであろう物を僕が試させてもらっているという状態です。自分のシグニチャーモデルみたいなものも売ってます。今は自分が開発したもので人が釣れるのが楽しいですね。でもやっぱり自分がもっといい魚を取りたいというのがまだあるので、それに向かって自分の体を鍛えながらやっています。

 

-やはりトレーニングをされているのですか。

やらないと全然ダメですよ!やらないと無理です。近海の100kg以内なら大丈夫ですが、200kg以上になってくればやっておいた方がいいと思っています。

 

-チャンスが来たときに自分が力が無くて逃してしまうなんて悔しいですよね。それはジムでトレーニングされるのですか。

前は加圧(トレーニング)とか行っていたんですけど、今は行っていないです。ただトレーニングするだけではなく、年齢もあるので体幹を意識したりとか、いろいろ考えながらやっています。サーフィンとかもいいですね。波が来るまでリラックスしていて、来たら瞬発力が必要ですから釣りに近いです。釣りの時には本当は興奮してやっていてはいけないんです。酸欠になってしまう人がいるくらいですから。

佐野ヒロム

 

魚は嘘を付かない

 

-佐野さんが得意な釣りの種類について詳しく教えてください。

キャスティングゲームですね。ルアーを投げる釣りのことです。キハダマグロやメジカツオのキャスティングゲーム。あとはヒラマサやカンパチなどの青物のジギングです。鉛などの重りが付いたジグ(ルアーの一種)を海底に落として、動かして釣ります。(ルアーによって)動き方が全然違うんですよ。

 

-釣りの魅力は何でしょうか。

魚は嘘を付かないというのが一番ですかね。勝負も1対1ですし、魚が上がれば大切にしたい。逃がせるものがあれば逃がします。

 

-サイズによって逃がすか決めるのですか

サイズもありますし、その日にたくさん釣れていれば大きくても、重さなどで判断してリリースすればいいと思っています。乱獲する気はありません。魚は偉大ですからね。

 

-釣りをしている上での苦労を教えてください。

いつも苦労していますけどね(笑)やっぱり釣れるところって秘境なんですよね。仕事とかで電波が繋がらないと苦労しますね。大物相手に体力が大変なのもありますが。

 

-今まで行ったことのない、行きたい場所はありますか。

ありますね。12月にニュージーランドにヒラマサという魚を狙いに行きます。そこは50kgくらいのヒラマサがいるんです。国内だと20〜30kgくらいなんですけど。あとは1回だけ行ったことがありますが、サクラマスやトラウトをロシアに釣りにまた行きたいですね。いっぱい(行きたい場所が)ありますよ。パプアニューギニアとかも。でっかいマグロがいるんで。

 

-家族の方は心配しませんか。

もう馴れてるんですよ(笑)それがうちでは普通なんです。朝4時半に起きて5時から早朝野球したり、朝3時に釣りに出ていったりとか。そんなのがずっと続いていますね。土日は子供が入っている硬式野球のクラブチームの審判をやっていたりもします。その合間に釣りに行くという感じです。

 

-朝起きたらお父さんいない、というのが当たり前なんですね(笑)

最近では富山の黒部川にサクラマスを釣りに行きました。11年ぶりに釣りました。それもラスト1日で釣れたんです。ヤマメ(サクラマス)は海に行って(生まれた川に)死にに戻ってくるんですよね。ロマンがあります。毎年トラウトの釣りには行っているんです。これは400人中30何人という抽選に当たった人が行けるんです。魚が釣れると泣いたりするんですよ。11年も釣れなければ。でも今回は初めて釣る瞬間に自分が釣っている映像が出てきたんです。見えちゃったんです。魚を持って写真撮っている自分が。ポイントに入って2投目で釣れました。そんな面白いことがありました。しかも釣れたルアーも普段自分が使っている物が向こうでなくなってしまって、地元で買ったやつだったんですよ。

 

釣り道具

 

-やっぱり釣った魚やルアーは覚えているものなんですね。

そうですね。その時の状況とかも覚えていますし、データもノートに書いて取ってあります。ライン(糸)もいつ巻いたかを記録して管理しています。消耗品なんで書いておかないと切れてしまったりするんです。

 

-何でも道具の管理は大変ですね。

プロトタイプなので、ダメになってしまう製品もあります。その時のために替えは持っていくようにしています。 苦労することもありますが、楽しいですね。僕はもちろんプロアングラーではありますが、これだけを仕事でやっていて自営がなかったらもっといろいろプレッシャーになってどうなのかなと思うので、今のスタイルが一番自分に合っていると思います。釣りはライフスタイルの全てではありますが、それで(家族を)養っていくというのは可能ではあるものの、自分の目指しているところとは違う気がしています。

 

-楽しむ、という部分がそれだけになってしまうと薄くなってしまいそうですよね。

嫌なこともやらないといけなくなることが今のスタイルだと少ないですね。自分が一番極めたいものをやっていけるので。こういう(大物)釣りをする人は限られてくると思うので、それ以外の部分もたくさんやらないといけなくなるでしょうね。

常に全力。それしかない

 

-普段お仕事は何をされているのですか。

機械関係の仕事をしています。メンテナンスや移設、修理などをしている機械工です。機械関係ですが何でもやります。自分で立ち上げてやっています。

 

-釣りと仕事、どのくらいの比率でやっているのですか。

うーん・・・今は書類関係とかもやらないといけないので。でもほとんど現場は行っていないです。半半くらいですかね。

 

-ここまでは釣りについて熱く語って頂きましたが、プライベートに関わる質問をしていきたいと思います。
-釣りに出会っていなかったら何をしていたと思いますか。

普通にサーフィンやスノボ、車やバイクに乗っていたと思います。とにかく遊ぶの大好きなので。あとは子供が大好きなので、子供の野球ですね。波乗りよりもメインです。

 

-お子さんは何歳なんですか。

中2と小4の息子、幼稚園の年長の娘がいます。子供が一番大事ですかね。合間を見ながら釣るという感じでベストを尽くします。子供は今だけなので。一緒に野球をやったりしてます。それが自分のトレーニングにもなりますから。当然仕事も全開でやります。だから土日祭日には一切釣りはしていないです。もう何年もそうやっています。時間をつくって平日に行くしかないですね。また、合間を見てハーレーをいじったり、アメ車乗ったり。あとはその辺の川とか管理釣り場で小物を釣ったりするのも好きなので、時間をつくってパパッとやるようにしています。

 

-すごいですね。バランスよくやって、全力で一日を過ごし、充実しているのが伝わってきます。

だから旅に出て1人になるときは本当にゆっくり、いろいろなことを考えたりとか。でも今までずっとこんな感じで来ていますから。そういう時に普段は考えない5年後10年後のことを考えたりしてます。釣りは旅に出るというのもいいところですね。魚を追いかけるだけではない気がします。

 

-自分の魅力は何だと思いますか。

常に全力、ですかね。それしかないと思います。

 

-なかなかそう思っていても実際にできている人は少ないですよね。佐野さんは体現されているように感じます。

何でも人のほうがよく見えるじゃないですか。でも全力でやっているから自分が楽しむ方向、満足する方向に持っていけますね。子供にもそうなってほしいですし、釣りをしている人にもうまい時間とお金の使い方でいい釣りをしてほしいですね。欲を出したり、羨むだけだとキリがないじゃないですか。なかなか釣りに行けていない人が行けた時の喜びってすごいと思うんです。逆に自分はそれに憧れますし。

 

-今まで釣りをしたことがない人が入っていきやすい入口があれば教えてください。

僕の場合は「かっこいい」から入りましたし、魚がおいしいからという人もいるでしょう。あとは引きが強いからとか。僕なんかはルアーでスポーツフィッシングなので、これで釣れてしまうのか、というのを味わってもらうのが一番じゃないですかね。こんなオモチャみたいなので釣れてしまうという。

 

-なかなか身近に突き詰めてやっている人が多くないから機会がないのだと思います。

一番いいのは管理釣り場に行ってもらうことだと思います。ルアーだったら面白いと思いますよ。例えば水面に浮くトップウォーターやクランクベイトという底に沈めるもの、ベーシックなスプーンというルアーがあります。エサが臭くて嫌だというのもないですし、最近では魚を傷つけないネットがあったり、魚を触らないで持ち上げる道具があったりもします。釣れちゃうと面白くてハマっちゃいますよ。

 

-初心者向けの講習会等はあるんですか。

あります。ある程度の経験をした人がキハダマグロのセミナーをやったりとか。その講師として自分は行きます。SFPCという団体があって、僕はそこのメンバーなんですけど。それは1日ですが、東北だと2泊とかしたりもします。

 

-そういったイベントを開催することで裾野を広げていければいいですね。

あと、今の日本は魚に対するレギュレーションがしっかりしていないんです。海外だと持ち帰れる魚のサイズや大きさに制限があって、保安官が船を調べたりするんです。死んでいても放してこないといけないんですよ。日本では決まっていません。それでは魚が減っていってしまいますよね。ルアーをやっている人はそういうマナーを分かる人が多いんです。神奈川の船は針に「返し」がありません。人にも魚にもやさしいですが、魚が外れやすいんです。でもそこで技術が伴っていくんです。ルアーに入ってくれればマナーや自然を学べたりします。

 

-裾野が広がれば広がるほどそういったことはしっかりやっていかないといけませんね。

そうです。あとはゴミを捨てないとか、分かってきてくれると思うんです。だからルアーフィッシングをやる人が増えてくれたらいいなと思います。

 

-最後に読者にメッセージをお願いします。

ルアーフィッシングをやっていて、夢や目標がある人はその魚を釣るために頑張ってほしいですし、興味がある人には楽しさを分かってもらいたいです。意外に奥深いです。自然に触れ合うことで地球、限りがある資源について、いろいろなことを考え、感じてもらえればと思いますね。あとは魚は偉大なので、そのファイトを楽しんで味わってもらいたいです。