2020年の東京五輪へ。20歳から始めたトライアスロンで、佐藤千佳は頂点を目指す
Jリーグのクラブで有名な湘南ベルマーレは総合型スポーツクラブとして多くの競技チームを持つが、その中の1つにトライアスロンがある。スイム・バイク・ランの3種目を連続してその総合タイムを競うこの競技は体力と耐久力が最大限に問われるハードなもの。湘南ベルマーレに所属する佐藤千佳選手はなんと2005年の大学卒業後にこのトライアスロンをスタートさせ、2013年にシンガポールで行われたアジアカップ優勝・2014-15年フィリピンでのアジアカップ2連覇を果たした。惜しくもリオデジャネイロ五輪の出場権は逃してしまったものの、2020年の東京五輪に向けて奔走中の彼女に、今回は話を聞いた。
20歳ではじめたトライアスロン
-まずは、佐藤さんがトライアスロンに至るまでの、スポーツの経歴を教えてください。
小学校はミニバスケットボールを、中学校から短大までは陸上競技をやっていて、種目は長距離でした。
-卒業後はどうなさったのでしょうか?
就職が決まっていたのですが、辞退したんです。自分の中で陸上が中途半端で終わってしまった、という感覚があり、競技をもっと続けたいという思いが生まれたんです。そのとき、母親から『好きな様にやりなさい』と言われて決心がつき、就職をやめてアルバイトをしながら競技をすることに決めました。
-ただ、陸上ではなくトライアスロンでいこうと思ったんですね。
大学の時にトライアスロンの存在を知って、やりたいという思いはずっと持っていました。水泳は幼稚園のときに少しやっていただけでしたが、泳ぐことは好きだし、走るのも好きだし、自転車を乗るのも好きだったので。それに、やるのであれば趣味ではなくて本気でやりたいなと思っていたんです。1からのスタートですけど、強い気持ちを持って、20歳から始めました。
最初はベルマーレトライアスロンクラブの会員になったんです。そのときは自分とトップの選手との差を痛感しました。ただ、トップにいる選手の年齢層を見たら、若手もいれば30代もいたので、トライアスロンは息の長い競技だとわかったんです。だから、自分も続けていけば速くなれるんじゃないかと思い、とにかく強くなって上に登りたいという一心でここまで来ました。
-そんなトライアスロンの魅力はどういった部分でしょうか?
最後まで勝負がわからないところです。例えば自転車だとライバル同士でも協力しあう場面がありつつも、最後は競り合ったりするというような“流れ”がある。そのかけひきも1つの見所です。様々な展開があるので、見ている人も面白く感じると思います。また、第4の種目と言われている(※)トランジションは面白いです。あれはトライアスロンならではの場面なので、注目してほしいです。
※トランジション:スイムからバイク、バイクからランなど種目を切り変えること。シューズの履き替え等をする必要があるため、この速さも勝負に大きく影響する。
-スイムで第一集団に入れるかどうかでその後のレース展開がだいぶ変わるということも聞きました。
スイムに関しては私も初めは「こんなに速いんだ!」と思いましたね。トップ集団にはジュニアオリンピックに出ている選手もいましたし、競泳をやっていた選手のほうが多いです。私自身、スイムに対して苦手なイメージはないんですけど、周りよりは出遅れているという意識はあります。
-スイム出身は有利なんですね。
そうです。スイムが終わった時点で上位にいるということは、自転車でも前の集団で走れるので、追う必要が無いというアドバンテージがあります。女子の場合は自転車で大差がつくということはないですし。
−陸上出身の佐藤さんにとって最も自信があるのはランですか?
そうですね。なので、スイムとバイクでトップ集団にいれば勝てるという気持ちはあります。
-佐藤さんの今の目標を教えて下さい。
リオ五輪に行けるチャンスがなくなってしまったので、気持ちを切り替えて東京五輪に目線を向けています。東京五輪には出場するだけでなく、上位に入りたいです。
-そこを目指す上で自分に足りないと感じるものは?
3つの種目からいうと水泳なのですが、スピードの点ではランも力を付けなければいけないと思っています。世界で戦うにはまだまだ足りない部分が多いと思っているので。
遠征費や活動費は全て自己負担
-トライアスロンをされていて1番嬉しかったことを教えて下さい。
今年の日本選手権を過去最高の7位で終えられたことです。実は2011年も7位でした。ただ、前回は強い選手が他の大会にでていた中での7番で、その選手達が出場していたら私は10番以降の順位になる確立が高かったんです。だから、素直に喜べませんでした。しかし、今年は全ての選手が出た中での7位です。自分の思っていたような走りが最後にできたというのもあり、この順位はけっこう嬉しかったです。
トライアスロンはオリンピック、世界選手権、シリーズ戦、W杯があって、その下に日本国内でも開催されているコンチネンタルカップやジャパンカップというものがあります。その中でW杯以上の大会に出るためには水泳と陸上の標準記録を突破しなければいけないんです。去年、私はその標準記録を1発で切れたのですが、それも、印象的な出来事です。
-トライアスロンをやっていて、大変だったことは?
去年は海外遠征に何度か行ったのですが、1人で行った場所もいくつかありました。そこで感じたのが言葉の壁です。試合会場やホテルに着くまでが大変で、特にヨーロッパは苦労しました。飛行機も日本から出発する分にはキャビンアテンダントの方が日本人なので安心できるのですが、乗継してからは外国人の方しかいないことが多いのと、荷物の心配もあって到着するまでは気が休まらなかったです。移動も長かったですしね。
-ちなみに、その遠征や活動費の負担は?
全て自費です。強化指定ランクというものがあって”A指定”“B指定”という風に分けられているのですが、A指定の選手がW杯以上の大会に出る際には協会から費用が出るので心配ありません。ただし、そこに至るまでがお金がかかります。A指定の選手になって費用面で楽になりたいという思いは選手全員が持っていますね。
-現在は湘南ベルマーレでの仕事がメインなのでしょうか。
そうです。あとは今、出場している大会に賞金があります。微々たるものですが(笑)
-それでも遠征費用はかなりの負担ですよね。
そうですね。海外への移動は丸1〜2日かかることもあります。行くときは毎回格安航空券を探しますね。泊まるところに関しては大会の運営側が用意してくれることもありますが、とはいえヨーロッパ遠征となると1回2,30万は見ておかないといけません。なので自分は今、費用が安く済むアジア圏内にたくさん行っています(笑)
トライアスロンに出会わなければ普通の女性と同じ生活を送っていた
-ここからは佐藤さんのキャラクターを知ってもらいたいので、競技以外のことも聞かせて頂きます。余暇の時間の趣味はありますか?
ストレスが溜まったら自分が食べるためのお菓子を作っています。体が疲れているととりあえず甘いものが食べたくなるんです。
-好きな食べ物は何ですか?
パンです。ハード系の、ナッツがたくさん入ったものです。
-海外に行った際、食事面で苦労することはないですか?。
そこに関しては大丈夫です。私は「お米が欲しい!」とはならないタイプなので。今まで行った中だとメキシコがすごく良くて、もう1度行きたいと思っています。
-ご自身の魅力はどういった点でしょう。
だれとでも隔たりなく喋れることです。英語以外ですけど(笑)
-仲良くなる同性のタイプは?
サバサバしている人ですかね。自分と似ているタイプが周りには多いと感じます。あとは、自分は兄がいるので、男兄弟を持つ女友達とは早く打ち解けられます。
-もし陸上やトライアスロンに世界へ行っていなかったとしたら、何をしていたと思いますか?
世の女性達と変わらない生活を送っていたと思います。金曜日が終わったら飲みに出かけて、土日は買い物や旅行に行って…という形ですね。逆にトライアスロンをやっていてよかったと思います。就職して働いていたら遊んでばかりいたと思うので、スポーツをやっていて本当に良かったなというのはありますね。
-それでは最後に、一言お願いします。
東京五輪に向けてここからがスタートだと思っています。リオ五輪にいくためのタイムを突破できなかったときに、私は自分から「みんなより先に東京五輪に向けて準備をする」という話をしたんです。そのときはまだ気持ちを切り替えきれていなかったのですが、外に話すことでそれができるようになりました。東京五輪では出場しするだけでなく、上位に入りたいです!