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人を繋ぎ、楽しませる“魔法の輪”。ラートで生きていける世界の実現を目指す、吉田望

2016.06.14 / 森 大樹

吉田望

大きな鉄の輪が2つ組み合わさった器具に人が大の字で捕まって横向きで転がっていく。テレビ番組でも時々見かける光景だが、あのスポーツは「ラート」という名前なのをご存知だろうか。

今回はそのラート日本代表としても活躍した、吉田望さんに競技について語ってもらう。現在はパフォーマーとして舞台に立つ他、イベントのオーガナイズ等、幅広く活動中。彼女はラートを通した国際交流にも力を入れており、「日米ラート交流企画」を立ち上げた。第2回となる今年は8月に日本での開催が予定されている。

 

ラート:ドイツ発祥のスポーツ。種目は直転・斜転・跳躍の3つから構成されており、それぞれの演技を採点することで勝敗を決する。器具は身長に応じて選ぶことになり、5cm毎に異なるサイズのものがある。器具の重さはサイズによって若干異なるが、一台45kg前後。持ち運びは大変だが、演技がぶれないよう、この重さが必要になる。

 

吉田さんパフォーマンス紹介動画

 

ラートとの出会いは新聞の紙面で

 

-初めにラートとの出会いから教えてください。

私実は中学生の頃、嫌いな先生がいて学校があまり好きではなく、それ以外で何か好きなものを見つけたいと思ってアンテナを張っていた時期がありました。

そんな時にたまたま筑波大学体操部のラート競技の記事が新聞に載っていて、母に「これ、やってみたい!」と言ったら、取材先に電話をかけてくれたんです。いろいろ繋いでもらった結果、東海大学の湘南校舎で体験させてもらえることになりました。それがラートとの初めての出会いです。

 

-一番初めにラートをやった時のことを覚えていますか?

覚えてますよ!衝撃的でした。体操をやっていたこともあって体が逆さになる感覚には慣れていると思っていたのに、ラートはまた全然違って、楽しくてずっと叫んでいました(笑)

体験させてくれた東海大学の人達もすごい良くしてくれて、私があまりに楽しいというので、『来週から練習に来てもいいよ!』と誘ってくれたんです。それで週末に大学の練習に通わせてもらえることになりました。

そこからずっと当時の東海大学の学生の方とはお付き合いがあります。こういうところがニッチなスポーツの良さの1つだと思います。

 

-吉田さんをそこまで虜にしたラートの魅力はどういったところでしょう?

やって楽しい、観て楽しいスポーツです!回る感覚は気持ちいいですし、技も何百とありますからそれができるようになればすごく嬉しいんです。見た目もサーカスみたいで楽しいじゃないですか。

何より回ると観ている人も喜んでくれますしね。これは特にパフォーマーとして活動するようになってから感じたことで、1つ自信になった瞬間でした。今コーチとして指導していても生徒が練習し、発表会にその人の家族や友人が来て喜んでくれている姿を見ると感激します。

私の生徒には大人の方もいます。年齢を重ねてから始めたのにたくさんの技ができるようになって、自信になったという声も頂いています。その人のチャレンジにコーチとして寄り添えたことは私としても嬉しいですね。

 

吉田望

 

-ラートをやることで得られるメリットはあるのでしょうか?

全身運動なので、血の巡りがよくなってすぐに体がポカポカしてきます。体幹も使いますし。平衡感覚が良くなるとも言われています。体重移動で回転するスポーツなので、どのくらい体を傾ければ器具が回るのか、常に感じ考えながらやらなければならないですから。そのおかげか乗り物には強いです。でもラートをやっている全員がそうではなく、高校2年の時まで教えてもらっていた私のラート界における2人の“先生”のうちの1人、竹内直美さんという方は絶叫マシーンとかも全然ダメだったので一概には言えませんね(笑)

 

ラート界における2人の恩師の存在

 

-その2人の“先生”について教えてください

今お話した竹内直美さんとの出会いは私のラート人生に大きな影響を与えてくれました。本当に練習はきつかったですが、2度目の出場となった日本選手権で銅メダルを取れたのは先生のおかげです。

しかし、竹内先生は私が高校3年になるタイミングで国際結婚してデンマークに行くことになってしまったんです。最後の練習なんて寂しくて号泣してしまってラートどころではなかったですね。でも彼女は『世界選手権に来ればまた会えるから、ラート頑張るのよ!』と強く握手してくれました。そこから私はその約束を守るために世界を目指すことを決意したので、強く心に残る出来事でした。

現在彼女はデンマーク代表のコーチとして競技に従事しています。一方の私も2011年にアメリカ代表のコーチとして初めて世界選手権に行きました。それ以降、私と竹内先生は日本人なのにお互い別の国のジャージを着て、世界選手権で再会するということを楽しみにやっています。

 

吉田望

1人目の恩師は竹内直美さん(左上)。今年も世界選手権で2人は再会を果たすことになるだろう。

 

ラート界における2人目の先生はその竹内直美さんと今度一緒にイベントをやるWolfgang Bientzel(ウォルフギャング・ビエンツェル)さんです。彼は私がアメリカに武者修行しに行った時に影響を受けた方で、世界選手権で8回優勝しています。

2人に共通するのは隣にいてくれると選手が安心できる、強くなれるような気がするコーチだということです。私もそこを目指しています。

 

吉田望、ウォルフ・ギャング

ウォルフギャングさん(右)と。8月の日米ラート交流企画の際には来日予定。

 

吉田望

 

ラートをやってみたい!と思ったら…

 

-見た目にすごくインパクトがあるラートですが、どこに行けばできるのでしょうか?

練馬区大泉学園にある総合型地域スポーツクラブ・SSC大泉が運営する、大泉ラート教室をおすすめします。ここでは安く、手軽に体験ができ、習い事としてもラートを始めることができます。

あとは日本ラート協会でも年2回講習会を開いています。

プライベートレッスンや社内イベントでの出張教室をご要望の方は吉田望まで!(笑)

 

-吉田さんは昨年から日米ラート交流企画というイベントを開催されています。第1回はアメリカでしたが、第2回は日本で開かれるそうですね。

この企画はその名の通り、ラートを通して日本とアメリカの交流を深める目的で行います。今年はアメリカのラート選手が来日して合同練習をしたり、ラート初心者向けに体験会を開催したり、パフォーマンスを披露したりすることになっています。

私と先に挙げたWolfgangさんの師弟関係の下、やることになりました。そのイベントをSSC大泉にご協力頂いて、開催する予定になっています。

 

-昨年第1回を開催してみてどうでしたか?

第1回は日本から12名の選手が渡米して、開催したのですが、ラートが言葉の壁を破ったように感じました。中には英語に苦手意識を持っている方もいましたが、ラートというツールを使って外国の人と仲良くなれたという声も聞いています。その時は思い切って開催してみてよかったと思いました。

 

-日本開催にあたって、今どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

日本の人にラートを知ってもらえるチャンスだと思うので、広報活動には力を入れています。近隣小学校で告知させてもらったり、日本にいるラート仲間にも協力してもらったりしています。昨年ラートを通して感じた楽しい時間をもっと多くの人にシェアできるように動いています。私がラートからいろいろなものを与えてもらったその恩返しの機会になれば良いですね。

規模も大きくなって大変なこともたくさんありますが、それ以上の意味があると信じているので、気張ってやっています!

 

-イベント自体は1週間通して行われるそうですが、まだラートを知らない、観たことがない、やったことがない人は特にどの日に行けば楽しめるのでしょうか?

そういう方はぜひ8月6日のイベントにお越しください!その日は「Rolling Day」と名付けて選手による大会やパフォーマンスが観られる他、ラート体験会も行われます。入場は無料です!

 

吉田望

 

ラートを通して創りたい世界

 

-吉田さんの今後の目標を教えてください。

目指しているのはラートを誰もが楽しめる環境、ラートを仕事にしていける環境をつくることです。今はラートのプロや指導者としてやっていくのは道具を揃える初期投資もかかりますし、正直難しいと思います。でもそれ以上にパフォーマンスや指導をする現場の需要があれば問題ないわけです。その場所をつくることでラートをビジネスとして成り立たせていきたいですね。今私がやっていることは全てその道に繋がっていると思っていて、ラートで食べていけるモデルケースをまずは自分自身が体現していくことが大切だと考えています。ラート貧乏になってしまったら意味がないですからね。

これだけラートに人生を投じてパフォーマンスや指導のスキルを磨いているというのは意味があることで、同時にお金を稼げる可能性がある、価値ある要素だとも思っています。今、ラートを頑張って取り組んでいる学生さんが、大学卒業後の選択肢として「ラート指導者」「ラートパフォーマー」というのがある社会にしていきたいです。

 

-大切にしている言葉を教えてください。

「Rolling forward(前向きに転がる)」です。転んだとしても前向きであれば進んでいます。たとえ失敗しても、何があっても前向きにポジティブにいこうということですね。私の軸になっている部分です。

 

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!この記事があなたにとっての挑戦の勇気に少しでもなっていたら嬉しいです。ラートのこと、ぜひこれから注目してください!

 

日米ラート交流企画

吉田さんが企画する第2回日米ラート交流企画が7月30日〜8月6日に練馬区大泉中学校で開催されます!

ラート体験会やパフォーマンス等、ラートのする・やる両方の魅力を感じることができるイベントです。

詳細・申し込みは日米ラート交流企画オフィシャルサイトまで。