佐藤亮。明治大の大型新人が見すえる、東京五輪と「長友超え」。
明治大学の高卒ルーキー・佐藤亮(27番)
最大の特徴は「ゴールに直結するプレー」
「どのトレーニングに対しても全力で、1人だけ印象が違う。意識の高さや貪欲さは群を抜いている」 — かつてFC東京などでプレーした明治大学の池上礼一コーチは、入学早々から活躍を続ける1年生にこう太鼓判を押した。
彼の名は佐藤亮。中学、高校とFC東京の下部組織で育ち、今年4月に明治大学に入学した新人だ。ルーキーながら入学式前の4月2日に公式戦デビューを果たすと、その後も前期リーグ戦11試合終了時点で先発出場はないものの、途中出場で6試合に出場している。
170cmと小柄な佐藤の特徴は、ゴールに直結するプレーだ。リーグ戦では第7節の専修大学戦で初ゴールを飾ると、6月下旬から7月上旬にかけて行われた(※)アミノバイタルカップでは3試合2得点を記録。ゴールを決めた2試合はいずれも先発起用された試合で、監督の起用に応えた形となった。
※アミノバイタルカップ:大学サッカーの夏の全国大会・総理大臣杯へ出場する関東代表校を決める大会
この大会では、明治大学は準決勝で早稲田大学に敗れたものの、翌日に行われた3位決定戦で国士舘大学に勝利し、3位に輝いた。同試合でアディショナルタイムに値千金の決勝弾を挙げた佐藤は、「準決勝に負けた時点で、監督からは『3位決定戦ではスタメンで行くから』と伝えられていた。自分の中では結果が全てだったので、最後にゴールを決められたことには大きな意味がある」と試合を振り返っている。
結果を出してこそ、ストライカーとして認められる。このゴールへの貪欲な姿勢こそが、1年生ながら監督に起用され続けている所以だろう。佐藤は自身のストロングポイントを「自分で試合を決められること」と語っており、明治大学を率いる栗田大輔監督も「ゴールに直結するプレーができるところが、彼の一番の特徴。ボールを持った時のリズムは独特なものがある」と、得点感覚を高く評価している。
2013年からFC東京のジュニアユースを指導し、その頃からユースで活躍していた佐藤の名を知っていたという池上氏も、「明治で初めてプレーを見た時は、高校時代に数字を残してきた選手だけはあるなと感じた。出場時間の中で結果を出す確率は、亮が一番高い」と、その決定力を高く買っている。
明治大学を選んだ理由は、古巣愛にあり
この高卒ルーキーが評価されている点は、何も得点感覚だけではない。栗田監督は、もう一つの特徴として「高いレベルから逆算して物事を考えること」を挙げており、それは本人の目標設定に目を向けても明白である。
佐藤の第一目標は、ジュニアユース時代から6年間の時を過ごしたFC東京のトップチームへ加入することだ。「どのクラブからオファーが来ても、プロになるのであればFC東京に行きたいし、サッカー人生を終えるのもFC東京でありたい」と古巣への愛を表す彼だが、明治大学を選択した理由にも、クラブへの想いが詰まっていた。
明治大学には、卒業後にFC東京へ加入したOBが数多く存在するが、イタリア・セリエAの強豪・インテルで活躍する長友佑都もその1人。他にも、日本代表の丸山祐市や、U-23日本代表の室屋成などが明治大学からFC東京へ羽ばたいている。
先に述べた池上氏は、かつてFC東京で3年間プレーし、現在は同クラブのスクールコーチと明治大学コーチを兼任。GKコーチの唐島和義氏もFC東京U-15むさしコーチを兼務しており、選手だけでなく指導者に目を向けても、FC東京と明治大学には密接な関係性があるのだ。
「FC東京がいつも見てくれているのは明治。環境も素晴らしいし、進学して良かった」と語る佐藤。長友や室屋など、先駆者の道筋を歩むべく選択したのが明治大学だった。
栗田監督は、佐藤を「気持ちも強いし、相手が強ければ強いほど燃えるタイプなので、プロ向きではある」と評しており、Jリーグで活躍する資質があると見抜いている。しかし、その一方で「まだまだ身体も小さいし、自分より大きな選手と対峙した時に個で打開できるかは課題」との指摘もあった。ストライカーという結果が求められるポジションで、プロの屈強なディフェンダーたちとどう渡り合っていくかを逆算していく必要があるだろう。
ジュニアユース時代から切磋琢磨するライバルの存在
FC東京入りへのモチベーションが、佐藤の活躍を支える要因となっていることは想像に難くないが、ライバルの存在も刺激となっているようだ。
ジュニアユース時代から同級生として共に時を過ごした、チームメイトの安部柊斗は、佐藤にとって明治大学入学時に「一緒に先輩を喰っていこう」と誓い合った仲間だが、ユース時代は目の前に立ちはだかる大きなライバルでもあったという。
FC東京の下部組織で共にプレーしていた佐藤亮(27番)と安部柊斗(28番)
ユース所属時には1年生からレギュラーとして活躍していた安部だったが、その一方で佐藤はベンチを温める日々が長かった。「ユースの時はずっと悔しい思いをし続けていて、いつか追い越してやろうと思っていた。彼は仲間ですけど、いちライバルでもあり、常に切磋琢磨している」と、互いに刺激し合っていることを明かしている。
安部が、佐藤とユース以来の共演となったアミノバイタルカップ3位決定戦後に「ユース時代のような懐かしい感覚があった。彼がいてくれるだけで、安心してプレーすることができた」と語っていたが、この言葉からも2人の関係性が手に取るようにわかる。
彼らの活躍は、同年代にも刺激となる。普段の試合では、スタンドで応援に廻る1年生も「同年代の活躍はすごく刺激になるし、自分も早く出たいという気持ちになる」と口にしていた。佐藤自身も「1年生を引っ張っていける存在になりたい」と言っていた。彼の飛躍は明治大学の結果に繋がるだけでなく、同年代を奮い立たせるという相乗効果もあるのだ。
自国開催の五輪出場と、その先に見据える世界
「(安部と)2人で一緒にFC東京へ戻りたい」と吐露する佐藤だが、目標はより高い位置にも設定している。1997年生まれと(※)東京五輪世代の若武者は、自国開催の五輪出場を切望しており、その実現のためにも、まずは年代別日本代表への定着を図りたいところだ。
※オリンピックのサッカー競技では、23歳以下の選手に出場権が与えられている
ユース時代にはU-18日本代表 “候補”に選出されていたが、日の丸を背負って世界の舞台に立つことはなかった。しかし、今年5月に韓国遠征へ臨むU-19日本代表メンバーに選出されると、U-19ブラジル代表戦で初めて代表のユニフォームに袖を通している。
「日の丸を背負って国歌を歌った時には、緊張と喜びを感じた。この舞台に立ち続けたいという思いが強くなった」と初めての代表戦を振り返る佐藤。しかし、「他の選手たちが代表の舞台に慣れている一方で、自分はどうしても初々しいところや、まだ慣れない部分があった。もっと経験を積んでいかないとならない」と、経験の浅さを課題に挙げている。
韓国遠征のU-19日本代表は、20人中15人がJリーガーだった。日頃から高いレベルを経験している彼らと対等に渡り合っていくためにも、まずは代表定着が五輪出場への試金石となる。池上氏が「五輪代表の枠を競うのはJリーガーたちなので、全ての面でセレクトする人間を納得させられるようにしないといけない」と述べるように、プロとアマチュアの壁を越える必要がある。
一方で、佐藤にとっての五輪出場は単なる通過点であることも事実だ。この19歳は将来的にワールドカップ出場、そして海外のビッグクラブへの挑戦も望んでいる。明治大学卒業後の“FC東京経由世界行き”というルートは、長友の道筋と重なるものがあるが、彼はそれ以上のステージも見据えている。
「長友さんは良いお手本となる先輩なので、まずは追いつきたい。その後はインテルよりも強いクラブに行って、長友さんを超える存在になりたい」。ストライカーの模範として、イタリアの英雄であるロベルト・バッジョに憧れる青年は、すでに長友超えを目論んでいた。
紫紺の名門から世界へ。佐藤亮は先輩を喰い、先駆者を超え、先陣を切っていく。