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憧れのチャンピオンズリーグの舞台へ。海外リーグを渡り歩く丸山龍也

2015.09.11 / 森 大樹

丸山龍也

 

【丸山龍也(サッカー)】
リトアニアプロサッカーチーム、FKタクラス・タウラゲ所属。1992年7月4日生(23歳)・174cm・68kg・神奈川県横浜市出身。

 

【前編】はこちら

 

異国の地でプロサッカー選手として生活

 

-そして鹿児島での山籠りの後、タイでのプロテストに挑戦されています。

悲壮感がありすぎて、今思うと自分を追い込みすぎていたという反省はあります。でもその時はわざと余裕がないようにしていましたし、そうしないといけないと思っていました。プレッシャーもたくさんかけ、「俺は高校も出ていないし、サッカーをやらないとただのフリーターだ。このままで終わっていいのか?」と気合を入れすぎれば、怪我もします。

タイでは田舎のクラブに行っていました。15人部屋に住んでいて、国籍の内訳もタイ人10人、アフリカ人4人、日本人1人といった具合です。雑魚寝でマットとその周囲だけが自分のエリアの、スーツケースも置けないような部屋です。

最後までテストは粘っていたのですが、結局怪我をしてしまいダメになってしまいます。ただ後日同じ代理人だった選手から、怪我をする日の朝、監督が獲りたいと言っていたという話を聞いて、驚きました。

 

丸山龍也

 

-でもその後無事にスリランカでプロになっています。

その頃には悟りを開いていました(笑)精神的にもすごくいい状態で、タイから帰国して、スリランカに渡るまでの半年間は人生で最もサッカーがうまくなった時期でした。今でもあの頃の感覚でサッカーしたいと思うくらいです。

スリランカには前にチームメイトだった選手経由で話をもらいました。給料はよくないですが、家も大きくて、お客さんもたくさん入りますし、ようやくプロになれた気がしました。ただプロになってみて、「たいしたことないな。俺はこれになりたかったのか?」と感じる部分もありました。

プロになった感覚を味わい始めたちょうどその頃、僕はスポーツ選手のドキュメンタリーを観ることにハマっていました。背の小さな日本人バスケットボール選手がNBAを目指して、下のリーグから挑戦をし続けている姿を見て、今後タイやインドでプレーしてからJリーグに入れば、代表にも呼ばれるかもしれない、といった緩い考えを持っている自分がちっぽけに感じました。このままではいけない!と思っていた頃に別媒体のインタビューがあったので、思い切って「CL(欧州チャンピオンズリーグ)に出る!」と言ったことで、僕の新しい人生が幕を開けてしまいました。言ってからすごいプレッシャーがかかっていて、カフェでアイスを食べている時も「俺、こんなことしていていいのかな…」と不安になることがあります(笑)

 

-CLに行くために欧州移籍ということでスリランカからリトアニアに渡ったのでしょうか。

そうです。でも今もアジアやアフリカのクラブからいい条件の話が来ることもあります。多少揺らぐこともありますが、CLに出ると言ったことで自分の方向性が定まったので、よかったと思っています。反面CL挑戦をわざわざ公言することを批判する声もありますが、逆に僕のレベルでここまでのプレッシャーを人からかけられることもなかなかないと思います。そうなると本田圭佑選手や香川真司選手などの有名選手は本当に大変ですね。

 

-いろいろ経験されている丸山さんも精神的に鍛えられているので、将来CLに出た時のプレッシャーに耐えうるメンタルを持っていそうですね。

またそれは話が違いますよ!うまくいかなかった試合の後は落ち込んで、移動のバスの中で一言も話さない日もあります。

でもちょっとしたことでは動じなくなったと思います。この前もリトアニア行きの航空券の日付が1日前だったことがありました。しかもそれを離陸時間の直前で初めて知ったんです。でも全然焦りませんでした。買うお金もないんですけどね(笑)夏休みシーズンなので、特に値段が高く、航空券は20万円すると言われました。一方僕の手持ちは3万円です。結局知り合いに頼んで、1週間後のチケットを10万円で用意してもらいました。それでも足りないのでイベント設営の日雇いの仕事で稼ぎ、親に少し借りて何とかなりました。

 

-普通は焦ります(笑)

飛行機に乗れなかったぐらいの困難は、もう自分では慣れました(笑)それに日付を間違えて乗り遅れたのはリトアニアに戻りたくなかったというのもあったと思います。リトアニア人は閉鎖的ですし、海外に行き日本人ひとりでサッカーをするのはやはり大変ですから。もし、行くことを心から楽しみにしていたら予定も何度も確認するはずです。あまり行きたくないから確認もちゃんとせず遅れてしまったわけで、航空券のお金を工面していた1週間でもう一度本当に自分はリトアニアに行きたいのかというのを考え直しました。最終的にはすっきりした気持ちでリトアニアに来られたのでよかったです。

 

丸山龍也

 

-今はリトアニアにいますが、どこの国なら自分のプレースタイルとフィットしそうだと思いますか。

特にはないですが、僕はいろいろな国を転々とするのは難しいと思います。今いるリトアニアを含むバルト三国は特に閉鎖的で、今までいろいろな国を見てきましたが初めて嫌だと感じています。でもせっかくこの国に来たのだから、一番はここで上がっていきたいと考えています。条件が多少良くても目に見える形でステップアップだと思える国でなければ行きません。CLに出るために何がいいのか、それだけを考えています。国が変わればそれだけ環境が変化して、サッカーをやるのが大変になりますし、リトアニアで上に上がれなければ他でも難しいでしょう。お金のことだけを考えたらアジアの方がいいですし、お客さんもたくさん入るのでよりプロらしい感覚を味わえるとは思いますが、結局また高いレベルを求めて、ヨーロッパに戻ってきてしまう気もするので、まずは今いるところで成長していきたいです。

 

-目指す夢に対するステップにおいて、プレー環境、生活環境、給与と全てが良い条件で揃えるのは本当に難しいですよね。

スポンサーを連れて来られるのであれば、強い国の1部チームに移籍できるという話が代理人経由であったりもします。実際、今プレーしているFKタウラスでも、当初ディレクターから「スポンサーを連れて来られないならお前とは契約しない」と言われました。当然そんなの僕にはいないので、ノーと言いました。そこから粘って契約することが出来ましたが、噂に聞いていたとおり、ヨーロッパはこういうシビアな部分もあるというのを学びました。ただ、そのこと自体に悪い印象はなく、逆にそういうものを連れて来られるのも実力のうちだと考えています。例えば、自分が社長になってビジネスをやり、お金を作れるならそういう方法も1つあるというということです。自分の会社でそのクラブのスポンサーをすればいいわけですからね。他の日本人選手も移籍の際にスポンサー費用として大金が動いていたりもするので、海外では移籍にお金の話が絡むのは当たり前の話です。もちろんプレーの実力があることは大前提です。実力がないのにお金で上のレベルでプレーしても、結局上手くならないですし、何の意味も無いですから。

 

-丸山さんは代理人を付けているのですか。

一応イタリア人の代理人を今は付けています。その代理人は給料から一定額を支払うタイプです。お金がない僕はそれでいいと思って付けたのですが、そうなると下のリーグで給料がいいところばかりの話がどうしても多くなってしまうんですよね。待遇が悪くても上を目指す僕の考えとギャップは少しあります。

 

丸山龍也

 

海外生活で味わった様々な苦悩

 

-海外選手とはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

それはもう、ひたすらボディランゲージですよ!僕はtomorrowとyesterday、どちらも「明日」という意味だと思っていたくらい英語ができませんでしたから(笑)さすがにそれはまずいと思ったので、今勉強しています。

「グローバルアスリートプロジェクト」という川島永嗣選手が主宰している、海外に挑戦するアスリートの英語の勉強をサポートするという制度を使わせて頂き、英会話のレッスンをオンラインで行っています。これからしっかり勉強していきます!

 

丸山龍也

 

-リトアニア語の勉強はしなかったのでしょうか。

リトアニア語の勉強もしようと本屋に行ったのですが、どこにも本が置いてなくて、ネットでも売り切れていたりしました。あるのは大学の授業で使うような分厚い専門書のようなものしかなかったので、断念しました。

あとは僕の喜怒哀楽の激しさで周囲に分かってもらっているという感じです。僕は意思疎通ができていると勝手に思っていますが、実はコミュニケーションは取れていないのかもしれません(笑)

 

-今まで本当に様々な経験をされていますが、その中でも特に辛かったことを教えてください。

いろいろありすぎて絞れないです。詐欺にも遭っていますし、親指が外れて病院をたらい回しにされ、全身麻酔をかけたりもしています。結局その指は未だに曲がりません。タイでは犬に追いかけられてクロックスで1km以上逃げ回ったりもしていますし(笑)

 

-クロックスで1kmですか(笑)

でも基本的にはサッカーに関連して起きることなので、乗り越えることができました。そうなると先ほどの2回目の怪我がプレーを続ける上で一番辛かったと思います。サッカーをしたくても出来ない状況だったので…。

サッカー以外の部分でいくと結婚すると思っていた彼女に浮気されたことが一番きつかったです!もしかしたらそれが人生で最も辛かったかもしれません。その過程は本当に映画にできるくらいですよ。

 

-でも大変な経験をたくさんしているからこそ、若いうちから語れる人生になっているのだと思います。

だから最終的にはこれを自伝にして出版してベストセラーを記録したいです!そうやって報われてくれないと困ります(笑)

でも小学生の時にもらった1000円を落としたら大騒ぎですよね。結局大変さはその人が置かれていた当時の状況によって変動するものです。だから一概に僕がすごく大変だとは言えなくて、人それぞれだと思います。

 

-本当に大変な思いをしている人だからそう言えるのかもしれません。

“大変な人同盟”を組んで、お互いそういう話をしたらきっと面白いですね(笑)

 

チャンピオンズリーグという憧れの舞台へ

 

-今後の目標を教えてください。

もちろんCLに出ることです!結局人は大きいことを言うか、大きいことを考えて全く言わないか、の2択であるべきだと思います。僕はCLに出るとずっと言い続けることで、自分もその気になりましたし、会う人すべてが知ってくれるようにもなりました。

 

-丸山さんの中で目標の達成度はどのくらいですか。

最初は目標が一人歩きをしていましたが、後からちゃんと追いかけています!初めてCLに出ると言った時はまだFIFAランク183位(2015年9月3日時点)のスリランカのプロリーグにいて、しかもチームの順位は10位でしたからね。そこで目立った活躍をしているわけでもない僕がCL出場を口にしたら一人歩きどころか、一人走りです(笑)でもこうして欧州・リトアニアのクラブに移籍することができ、初めはベンチ外だった僕も、スタメンで出られるようになりました。だからどんどん目標には一人走りしてほしいです。それを追いかけることで僕は引っ張られていくと思います。

 

-プレー面に関して、丸山さんのアピールポイントを教えてください。

まだ強みにはなってはいませんが、サイドにいる時のボールの持ち方は自分の持ち味になり得ると思います。相手に次は縦に来るのか、中に来るのか分からせないボールの持ち方をするということです。

あとは積極性です。プレースタイルは岡崎慎司選手のような献身的なプレーを90分やり尽くすということが理想です。僕自身、小学生の頃からスーパーサブという立場が多いですが、CLに出るためには1試合を通して質の高いプレーを出せるようにならないといけません。

例えば(豊嶋)邑作であればスピード、といった分かりやすいストロングポイントが僕にはないので、とにかく90分間頑張って走り続けることが一番だと思います。実際今のチームでもそこが評価されていますし、性格にも合っていますからね。

 

丸山龍也

 

-丸山さんが大切にしている言葉、座右の銘があれば教えてください。

一番初めは「虎視眈々」にしていました。これはインタビューでゴンさん(中山雅史氏)が言っていたからです。でも今は「眈々」ではないですから(笑)

それからは「止まっている時計も、日に二度合う」という言葉です。これは「プロ論」という本の中で、秋元康さんがおっしゃっていました。信念を曲げずにやっていれば、世間が自分に合う時がたまに訪れるので、そのまま頑張り続けなさい、ということです。反対に、流行や周りの意見に左右されてそれを追いかけていたら、いつまで経っても遅れた人になってしまいます。ブレそうになった時はこの言葉を意識しています。

あとは“自分に矢印を向ける”ということです。これは本田圭佑選手のマネージャーをやっていた榎森さんという方から教えて頂きました。悪いことが起きた時に全部自分のせいにして、それを改善しようとすれば成長に繋がるという話をしていました。人のせいにするところを自分のせいにするのは、本田選手の言葉を借りますが「のびしろ」ですからね。人のせいにすることで自分がすっきりするのであれば、必ずしもそれは悪いことではないですが、成長することを考えたら、僕も自分に矢印を向けた方がいいと心の底にいつも置いています。

 

-普段から心がけてやっているルーティーンがあれば教えてください。

グラウンドに一番早く行くことです。ただ早く行ってそこでストイックにトレーニングをしているわけでもなく、のんびりストレッチをしたりしています。それができないと少し気分が良くないまま、練習に入ることになります。

あとは音楽を聴いています。歌詞がストレートな少し古めの曲を聴いています。試合前だと大黒摩季さんの「熱くなれ」をよく聴きます。他にも最近だと広瀬香美さん、ポルノグラフィティさんなどを聴くことが多いです。それでテンションが上がりすぎてしまったら、back numberさんや奥華子さんなどのちょっと寂しげな感じの曲を聴いて、調整します(笑)

 

丸山龍也

 

-時間がある時にやっている趣味を教えてください。

ブログを書くことが趣味でもあります。あとはネットサーフィンをしています。出不精なので、サッカーをしていなかったらずっと部屋にいると思います。ドキュメンタリーを観るのも好きです。

 

-ご自身の魅力を自分で言うとどのようなところにあると思いますか。

喜怒哀楽が激しいところです。だから分かりやすくてこれまで先輩に可愛がってもらえたのだと思います。僕に裏表がないから付き合ってくれている友達もいます。

 

丸山龍也

 

-もしサッカーをしていかなったら何をやっていたと思いますか。

文章を書く仕事をしているか、人の上に立つようなことをしていたと思います。応援団長に始まって、遠足の班長や同窓会の幹事など、今も何かあると人を集めてほしいと言われます。イベントを企画するのも好きでしたからね。

地元の友達からはお前はサッカーをしない方が成功すると言われ続けています(笑)

 

丸山龍也

 

-好きな異性のタイプを教えてください。

何かに向かって頑張っている人がいいです。自分を磨いていて、高めようとしている人ですね。自分は平凡で、そのままでいいと思っている人はいくら可愛くても魅力的に感じないと思います。

 

-最後に読者の方にメッセージをお願いします。

何の競技でもそうですが、一回止めたとしてもそれが好きならまた戻ってきていいと思うんです。日本人は始めたことを最後まで貫かないといけないような風潮があります。でも何か止めたいと思ったことがない人はほとんどいないでしょう。だから止めても、もしまた始めたいなら勇気を持って戻ってみましょう!一回離れると本当にやりたいことはそれなのか、自問自答することがあると思います。でもそんなことを考えている時点で相当それが好きな証拠です。例えば仕事を今日辞めたとしても何とかなると思いますし、自分がやりたいことをやらない方が後悔します。ダメならまた止めればいいだけです。

あとは今のうちから丸山龍也を応援してくれたら、僕もずっと覚えていると思うので、よろしくお願いします!(笑)

今までは苦労話にばかり注目されてきたので、これからはサッカー面についてちゃんと関心を持ってもらえるようになっていきたいです。経験や苦労に対する共感ではなく、選手としての憧れになれるように努力していきます。

 

【前編】はこちら