menu

根本悠生が語る、モータースポーツの魅力。「人生を懸けたレースを見てほしい」

2015.09.09 / 森 大樹

根本悠生
 
【前編】はこちら
 

メンタル面の強さを武器に

 
――根本さんの得意なコースを教えてください。
 
僕は富士スピードウェイです。トヨタのホームコースで、一番走り込んでいますし、他の人より知っていることも多いです。でもFIA-F4のレベルで走っているドライバーが持っている知識はほぼ同じですから、得意かどうかはあまり関係ないです。
 
あとは得意なコースと好きなコースは違うと思います。得意=速い、勝てるとことを指しますが、好き=リズム感やレイアウトが好き、ということだからです。僕が好きなのは(スポーツランド)SUGOです。リズミカルですし、中速コーナーが続くコースで、外から見ても疾走感があると思います。
 
かつ、最終コーナーは全開で行けるかどうか際どいような長い上り坂で、大きく回り込むような形になっています。ミスすればバリアにそのままのスピードで突っ込んでしまうようなリスキーなレイアウトになっています。走っていても、コーナーの途中でいきなり強い(※)カウンターステアが当たったり、登っている最中に車が真横に向いてしまったりするようなシビアなコーナーです。その中で自分の限界を探りながら、クリアしていくというのは難しいですが、好きですね。もちろんそこではいくつも大事故が起きていますし、亡くなった方もいますが、何よりも自分が車を操っていると感じられる瞬間でもあります。
 
カウンターステア:コーナーを曲がっている最中に後輪がグリップを失い、横滑りを始めた時にそれを抑えるため、逆方向にハンドルを切ること。
 
――根本さんは雨のコンディションは得意ですか。
 
僕は雨に強いです。この前の鈴鹿も雨が止んで、徐々に乾いていくといったコンディションでしたが、13番手スタートで5位フィニッシュをしています。雨の中でもペースはいいですし、走っていて楽しいです。それもタイヤの限界を探りながら滑らないようにする、ギリギリの感覚を味わうのが好きなんです。
 
拓朗くんは運転する上で楽しい場面はどんな時ですか。
 
(篠原さん:コーナーでリアは流れていっているのに(※)ゼロカウンターの状態で曲がっていく時は気持ちいいですし、調子がいいです。)
 
本当に調子がいい時は少しハンドルを切るだけで勝手に車が曲がっていってくれるんです。確かにそれは楽しいよね。
 
(篠原さん:でも後から動画を見た時の方が気持ちいいです。走っている時はそんな余裕はなくて、集中していますから。)
 
ゼロカウンター:コーナーを曲がっている最中にハンドルを切り込まず、カウンターステアも当てないこと。
 
――根本さんのレースにおけるアピールポイントを教えてください。
 
メンタル面の強さはあると思います。初めにスーパーFJに参戦した時は、出たレースで全部勝つ気持ちでいましたし、実際にコースレコードを出したりもしていました。でもFCJに参戦するようになってからは全然勝てなくなってしまったんです。その時にFTRSとして初めてメンタルトレーニングというものを知りました。
 
今は日本でも第一人者の方が診てくださっています。そこから僕もスポーツ心理学を学び始めました。端的に言うと、脳を自分で騙して、勝手に勘違いさせるようなことをします。学び始めてから実際に成績も上がりましたし、ミスも減って落ち着きが出てきました。物事をポジティブに考えられるようになって、僕の強さになったと思います。一方で車を操る技術についてはまだまだ勉強中です。
 
根本悠生
 
――憧れの選手とライバルの選手を教えてください。
 
速さに関しては誰よりも速くなりたいので、特にいません。人間性や強さの点ではF1ドライバーのベッテル選手とアロンソ選手をかけて2で割ったような選手になりたいです。
 
ライバルは同じFTRSにいる(※)坪井翔選手が今すごく勢いがありますし、数年同じレースに参戦もしているので、彼だと思います。ただ変に意識し過ぎないようにはしています。
 
坪井翔:今年TOM’S SPIRITからFIA-F4に参戦しており、第8戦を終えた時点で4勝を挙げている。
 
――今まで大きな事故をしたことはないですか。
 
車が大破するような事故や怪我はないです。あるとしたら肋骨を折ったことがあります。でもそれはカートをやっている人なら誰でも一度は絶対にする怪我です。カートは生身の体でイスに座っているだけなので、体にかかる重力も大きいですし、クラッシュしたらそのまま飛んでいってしまいますからね。
 
フォーミュラになってからは安全基準がしっかりと決められているので、そういうことはありません。
 
でも見た目ではあまり大きな事故に見えなくても、接触したりすれば大きな衝撃を受けます。レース中はかなりの握力でハンドルを握っていますが、その手が飛ばされてしまうこともあります。
 
――よく車載カメラの映像が流れたりしますが、それは必ず撮影するものなのでしょうか。
 
カテゴリによって違います。例えばFIA-F4であればスポーツ有料チャンネルでダイジェスト番組を放送するためにカメラが取り付けられており、その映像は管理されていて、こちらで勝手に使用することはできません。
 
JAF-F4では申請すれば自分達で車載カメラを積んで撮影することが可能です。
 
――レース前に行っているルーティンワークはありますか。
 
まず、レースの前には必ずメンタルトレーナーの方が毎回同じアップをしてくれます。
 
僕自身の中でも車に乗り込む直前のルーティンは決めていて、それをすることでスイッチを入れるようにはしています。例えば車には左から乗り込むようにしているのですが、何も考えずに右から乗ろうとしてしまう時は、自分が集中できていないということの目安にもなります。
 
あとはメンタル「トレーニング」ですから、毎日やらないといけません。特にポジティブシンキングは意識してやっています。
 
――そうなるとレース前は早くから準備をするということでしょうか。
 
はい。アップはメンタルとフィジカル合わせて1時間ほどかけてゆっくりやります。それでこの前もアップしている時に拓朗くんが通りかかったりしました。その日はレースが8時15分からだったので、僕らは6時10分頃からアップを始めていました。そうなると5時40分頃にはサーキット入りしていないといけません(笑)でもその分他のドライバーよりもレースに向けて準備ができますし、それが結果に結び付いている部分もあると思います。
 
――レースに臨む前に聴いている音楽はありますか。
 
音楽はスポーツ心理学としてもすごく重要で、場面によって聴く音楽は決まっています。精神状態に応じた曲がリストアップされていて、その中から選ぶこともありますし、自分に合っていると思った曲が適しているかを専門家の方に確認したりします。
 
例えばレース直前にテンションを上げていきたい時には「He’s a pirate」(パイレーツ・オブ・カリビアンのテーマ)、落ち着きたい時はクラシック、通常の時はボーカロイド系の曲を聴いたりします。スポーツ心理学において、体を制御しているのは呼吸だと言われていて、それを整える上で音楽が有効だそうです。
 
根本悠生
 

人生を懸けたレースをしている

 
――それでは今後の目標を教えてください。
 
もちろんF1で走ることです。そのためにまずはプロのドライバーとしてレースの世界で生活していけるようになっていきたいと思います。
 
一方で車やモータースポーツの良さをもっと広めていきたいです。例えば今東京トヨペットさんにスポンサードして頂いていますが、その関連のイベントにはよく呼んでもらいます。普段皆さんは何となく雨の日は怖いから速度を落とそうという意識が働いていると思いますが、本当に危険なのか試す機会はないですよね。
 
そういったことを体験する機会を通して車についてより知ってもらえるようにドライバーとして活動していきたいと考えています。今、トップレベルでご活躍されているドライバーに(※)脇阪寿一さんという方がいます。その選手は速さだけでなく、話も上手でバラエティ番組にご出演されていますし、モータースポーツのこともすごく考えられています。そういった実力もあって、エンターテインメント性もあり、ファンもたくさんいるようなドライバーになりたいです。
 
脇坂寿一:全日本GT選手権・スーパーGTシリーズチャンピオンに3度輝くなど、日本を代表するレーシングドライバーの1人。
 
――最近は若者の車離れが進んでいると言われているので、根本さんを見て、速いだけではなくいろいろな面で発信できるレースドライバーが増えるといいですね。
 
そうですね。昔はハチロクや(※)FD、FCなどに憧れていた人がたくさんいて、そういった車が好きだからレースを始める方が多かったんです。でも今はカートがより身近になってきたことで、レースの世界で生き残るために続けているけれど、普段乗る車にはあまり関心がない人が増えています。
 
FD、FC:それぞれFD3S、FC3Sという型式名から来ている通称で、マツダ・RX-7のことを指す。
 
――ちなみに普段、根本さんはどのような車に乗っているのでしょうか。
 
スバルのインプレッサに乗っています。
 
元々僕は80年代、90年代の車が好きなんです。漫画「頭文字D」が好きで読んでいましたし、父が実際にハチロクに乗っていました。ただ、ぶつけられて全損してしまい、その保険金で買った車が今乗っているインプレッサです。この型式は世界でも1000台しかないんですよ。
 
でも一般道でスピードを出すのは怖くてできないです。一般道は人が飛び出してきたり、ボールが転がってきたり、何が起こるか分かりません。しかもまだ僕は18歳で、免許を取ってから10ヶ月くらいしか経っていないので初心者マークですからね。しかも日本のレースドライバーは免許がなくなるとレースに出られなくなってしまうので、スピードを出したいと思ったとしてもそこは抑えます。僕はサーキットで早く走れればそれでいいです。
 
根本悠生
 
――ここまでは競技についてお伺いしてきましたが、より根本さん個人についての質問をしていきます。
 
――時間がある時にしている趣味はありますか。
 
基本的に僕はインドア派です。
 
ゲームが好きで、特にPCゲームをします。(※)マインクラフトをやったりします。そのためにこの前初めて自作パソコンを組み立てたりしました。ゲーム実況も好きですね。先日もニコニコ超会議に初めて行きました。
 
あとは昔バンドをやっていました。今もたまに集まってやっています。初めはドラムをやっていましたが、その後ベースを始めて今はそちらの方が好きです。
 
マインクラフト:ブロックを空間に配置していくことで、建造物などを自由に作ることができるゲーム。パソコンだけでなく、最近は様々なハードにも移植されている。
 
――根本さんがご自身で思う、自分の魅力を教えてください。
 
それは僕より拓朗くんに聞いてもらった方がいいですよ(笑)
 
(篠原さん:常にポジティブシンキング。あとは誰とでも話すタイプではないけれど、話すとすごく仲良くなれるところです。)
 
あとはあるとしたらファンの方を大切にすることは意識しています。頂いたメッセージには全部返事をするようにしていますし、実際にサーキットに毎回応援に来てくれる方とは時間を取って話したりしています。モータースポーツはショーなので、サーキットに来て応援してくれるお客さんのおかげで成り立っています。本当に感謝しています。
 
根本悠生
 
篠原さん(右)とツーショット
 
――まだ10代ですが、根本さんはすごくしっかりしていますね。
 
特にレース業界は大人に囲まれて育ってくるからかもしれません。でも僕もまだまだ勉強不足です。
 
――もしレーサーになっていなかったら何をしていましたか。
 
そのままバンドマンになっていたかもしれませんね(笑)あとは動画作成が好きなのでそれに関することや、IT・ウェブ関係にも興味があるので、その道に進んでいたと思います。
 
――好きな異性のタイプを教えてください。
 
かわいくて、一緒にいて楽しくて、大切にしてくれるような、ごく普通の人がいいです。特にレースに興味はなくても構いません。
 
根本悠生
 
――それでは最後に読者の方にメッセージをお願いします。
 
まだモータースポーツは知名度がなく、おそらくこの記事を通して初めて触れる人もいると思います。僕らは普段は考えられないスピードで車を速く走らせることで、人生を懸けたレースをしているわけですが、皆さんにとっては1つのエンターテインメントとして楽しんでもらえると思います。でも臨場感や本来の楽しさ、面白さはレース場に行かないと感じられないので、ご興味を持ってもらえたならぜひサーキットに足を運んで頂きたいです。そして根本悠生を応援してもらえたら嬉しいです。
 
【前編】はこちら