最大のリスクは挑戦しないこと。過酷な環境下でプレーを続けた榊道人

2015.09.18 森 大樹

榊道人

 

【前編】はこちら

 

チームメイトからかけられた印象に残っている言葉

 

-現在AFL Japanのリーグは7チームで戦っていますが、選手の皆さんはそれぞれ別のお仕事をされているのでしょうか。

そうですね。日本はまだアマチュアのリーグなので、社会人は平日仕事をして、週末は競技に充てています。同じように学生も学業と並行してプレーをしています。将来的には分けるかもしれませんが、学生チームと社会人チームが同じリーグでやっているのは珍しいかもしれませんね。

 

-榊さんが思う、オーストラリアンフットボールの魅力を教えてください。

冒頭にも言った通り、プレーの自由度が高いことです。チームによって、取れる戦術の幅が広いですし、僕のように身長が低い選手でもそれを活かせるポジションが用意されています。すべてに秀でていなくても、こだわるポイントを見つけ、自分が活かせる部分を磨いていけばチャンスは充分にあるスポーツです。

 

-AFL Japanで行われている試合は本来の18人制ではなく、9人制となっています。

そうですね。プレーヤーは9人で、交代は自由です。このルールによって、人数が多いチームが有利になるようになっています。協会としてはそうすることでチームの人数を増やすためのモチベーションにしてほしいと考えています。

 

榊道人

 

-これまでに一番辛かった経験を教えてください。

長い距離を走るので、辛くて毎試合瞬間的に止めたいと思うことはあります。もう走りたくない!とその時は思うのですが、次の日になればそれがなくなるというのを知っているので、止めることは考えていません。

 

-逆に嬉しくて印象に残っている出来事はありますか。

オーストラリアで1年目にプレーしていたチームでの最終戦です。その試合で僕は二軍に落とされていたのですが、チームメイトからかけられた言葉がすごく印象に残っています。シーズン通しては苦しかったですが、その言葉のおかげでやってきてよかったと感じることができました。

 

-どういった言葉だったのでしょうか。

試合は第3クオーターまでで負けていました。そのクオーター間にハドル(作戦会議)を組んでいたところ、「こいつは日本からはるばる来たんだ。俺たちもこのままで終わるわけにはいかないだろ!」とチームメイトが声をかけてくれました。その選手は二軍中心でしたが、僕の面倒も見てくれて、人として尊敬できる人でした。自分もそういうプレーヤーになりたい、と思っていた選手から出た言葉だったので、嬉しかったですね。

 

榊道人

 

簡単ではなかったオーストラリアでのプレー

 

-榊さんは選手生活を通して、大きな怪我の経験はないのでしょうか。

ないですね。昨年のインターナショナルカップの時は肩を骨折してしまいました。でもそんなに大きな怪我はないです。

手術もしましたが、選手生命にかかわるような怪我ではないです。今も少し肩は動きにくいですね。

 

-結構大きめな怪我じゃないですか(笑)

誰しも1つや2つ、怪我は持っているものですから(笑)手術をするような怪我もそれが初めてでした。

ただ手の指を脱臼した時は驚きましたね。オーストラリア1年目の田舎のクラブに所属していた時のことです。ボールをノーバウンドで捕ることを「マーク」というのですが、それをした時に薬指がありえない方向に曲がっていることに気が付きました。しかし基本的にマークをしたら、その選手がボールを蹴らないといけないんです。仕方がないので、その場で外れた指を戻しました。

 

-そんなに簡単に戻せるものではないですよね。

自分がボールを蹴らないといけないのに薬指は全然違う方向に曲がっている、でも誰かに助けを呼ぶ声も英語では出てこない…ということで指を振って動かして、戻しました(笑)

でも肩は前回のインターナショナルカップで3回外れました。3試合目にはタックルしに行っただけで外れてしまうまで悪化していたので、後半は下がりました。日本での練習はそこまで強く当たることはしませんが、現地で外国人選手と当たればそれだけ衝撃が強いんです。しかもその日は試合の前日に指導していた日本人学校の子供達が結構観に来ていました。肩が外れる度にベンチ裏のテントに下がって肩を入れてもらっていたので、子供達からも心配されてしまい、恥ずかしかったです(笑)

 

榊道人

 

-榊さんの得意なプレーを教えてください。

短い距離のキックでのパスです。あとはローバーというポジションで、落ちたボールを拾って、味方に繋げる役目は意識して練習もしていたので得意だと思います。

 

-バウンドするボールは拾いにくいですよね。

一発で拾うというよりはボールに少しずつ触っていって、自分の間合いで拾うという感じです。一気に拾おうとするとファンブルする可能性が高いからです。

 

-試合前に緊張した時に行っているルーティーンワークやゲン担ぎがあれば教えてください。

前はやっていましたが、今はなくしました。

以前は尊敬している人からもらった靴紐を触ってから試合に臨んでいました。高校のボート部時代からずっとやり続けていたのですが、その靴紐をオーストラリアでバッグごと盗まれてしまったんです。

 

-それは相当ショックですね。

盗んだ人にとって、その靴紐は全く価値がないでしょうからね。でもこれは何かの知らせだと考えるようにしました。オーストラリアに行ってからは基本的にポジティブに考える癖はついたと思います。向こうでは思うようにいかないことの方が多いですから(笑)

緊張は試合以外の場面でもしていました。遠征の段取りも分かっていなくて、 前日の時点で飛行機のチケットすら手元にない状態ということもありました。でもクラブなりに気を遣ってくれているところもあり、僕1人だけ日本人なので、ホテルは1人部屋を取ってくれていました。でも次の集合時間が間違っていないか不安なんですよね、そうなると。一人だけ置いていかれているかも、置いていかれたとして誰も気づかないんじゃないかと落ち着かないわけです(笑)

 

-そのような環境下でもオーストラリアでプレーするというのはなかなか誰にでもできることではないですよね。

日本人をチームに入れたのはスポンサー目的の部分もあったようです。ある練習試合のいいシーンで僕がボールを落としてしまったことがありました。自分でも覚えているのですが、今も当時のチームの広報の人に会うと「あそこで取っていたら、スポンサーも決まっていたのに…。俺の2ヶ月半を返してくれよ!」とジョークで言われます(笑)

 

榊道人

 

「最大のリスクは挑戦しないこと」

 

-榊さんの今後の目標を教えてください。

3つあります。

まずはインターナショナルカップで優勝すること。次に日本人AFLプレーヤーを出したいです。そして僕がお世話になったエッセンドンに日本代表として戦って勝ちたいです。

 

-今後オーストラリアンフットボールをより普及させるためにはどのようなことをしたらいいと思いますか。

去年からAFLのGWSジャイアンツというチームが日本での普及に関して協力してくれています。積極的に現地・オーストラリアのリーグに挑戦していく選手が出てきてほしいです。週に2回行っている子供向けの教室を続けつつ、プレーヤーとして活躍する選手を育成していきたいんです。僕自身が若い選手に追いかけられることで選手としてのモチベーションにも繋がるので、そこは力を入れてやっていきたい部分です。

 

榊道人

 

-ここまではオーストラリアンフットボールについてお伺いしてきましたが、榊さんご自身について質問していきます。

-榊さんご自身の魅力はどのようなところにあると思いますか。

僕は失敗し馴れています。例えばクリニックをやらせてほしいとお願いする時も基本的に断られることが前提ですが、積極的に自分から動けている部分がいいところだと思います。逆に人からいろいろ指示されるとせっかくやろうと思っていた気持ちが削がれてイラッとしてしまうのはよくないですね(笑)年齢的にも人の話をしっかり聞けるようになった方がいいとは思っています。反面、聞きすぎることで、自分が本来やりたかった方向性からずれてきていることに気付く瞬間もあるんです。そのバランスを取るように最近は意識しています。

 

-もしオーストラリアンフットボールをしていなかったら何をしていたでしょうか。

僕は大学では教育学部だったのですが、それは小さい頃からコーチや先生などのいい大人との出会いに恵まれていたと感じていたからです。だから僕も教育関係の仕事をしていたかもしれませんね。特に社会教育専攻だったので、学校教育以外の分野で関わっていたと思います。ドラマ「フードファイト」の影響なんですけどね(笑)タイガーマスク的な憧れはあったと思います。

 

-異性のタイプを教えてください。

僕がいろいろなことを勝手にやるので、それに動じない人がいいです。

 

-座右の銘や大切にしている言葉はありますか。

「最大のリスクは挑戦しないことだ」という言葉は常に頭にあります。迷ったら挑戦しようと考えています。

 

-最後に読者の方にメッセージをお願いします。

オーストラリアンフットボールは選手の中でも役割がたくさんある競技ですし、それ以外でもコーチや栄養管理など、様々な関わり方があります。まずは競技を知ってもらい、その上で多くの方に携わって頂きたいと思います。オーストラリアンフットボール以外でも日本にはたくさんのスポーツがあるので、特定の競技をイメージして苦手意識を持つのではなく、自分の可能性が見つかるまで、スポーツを探して関わっていってほしいです。

 

【前編】はこちら