秋山真治(治療家)は、「支える側」として日の丸を目指す。

2015.05.19 森 大樹

秋山真治

 

今回はリムス鍼灸整骨院を運営されている治療家・秋山真治さんにお話を伺います。秋山さんは日本体育大学陸上部で現役の選手として第56回国民体育大会400m第4位、第88回日本陸上競技選手権4×400mリレー優勝など、ご活躍されていましたが、選手をサポートする側である治療家に転身されました。ご自身の経験に基づいた患者さん視点での治療方法と意識に注目してください。

 

自身の経験に基づいた治療法

 

-まず秋山さんのスポーツ経歴と治療家になろうとしたきっかけを教えてください。

小学校は6年間野球をして、中学からは10年間陸上をやっていました。学生時代も日本体育大学の陸上部に所属していました。記録がもっと出ていればその先も考えたかもしれませんが、競技自体は大学で区切りをつけようと思っていました。僕は実業団に入ってプレーするというレベルではなかったので、セカンドキャリアとして何をしようか考えました。そこで今までの経験を活かして競技を指導するか、ケアをする道に進みたいと考えたわけです。

まずは学校で指導をする道を考えて、保健体育の教員免許も取ったのですが、日本のシステムだと先生という枠組みでできることは限られてきます。もちろん陸上を指導はしたいとは思いましたが、そのために教壇に立つということに対して違和感を感じたので、もう一方のケアの道を選ぶことにしました。自分も怪我をして、鍼灸師の先生やトレーナーの方にかなりお世話になったので、同じ境遇の人をサポートしたいと考えるようになっていったんです。

 

-秋山さんご自身が現役時代やっていた種目を教えてください。

僕は短距離がメインです。大学時代は短距離の中でキャプテンもやりました。

 

-短距離は特に身体能力が求められるので、ハードルが高いという印象です。

小学校6年間は野球をやって、中学もリトルリーグからお声がけがあったのですが、硬球が怖いというのもあり、やりませんでした。結局学校の野球部に入部したのですが、実力に関係なく、先輩から順番に背番号を配るような部活で、違和感がありました。ちょうどその頃に陸上部から声がかかって、大会に出場してみることになったのが陸上に転向するきっかけです。個人競技なので、団体競技と違って自分が頑張れば結果に結び付く点が面白いと感じていました。

 

秋山真治

 

-大学を卒業してから修行の期間などがあったのでしょうか。

国家資格を取る必要があったので、大学を卒業してからまずは3年間専門学校に通いました。その間に地域密着の整骨院で1年間働きましたが、スポーツをやっている人を診たいと考えていたにもかかわらず、そういった患者さんはなかなか来ませんでした。治療するという面では勉強になりましたが、自分が目指す選手を診るという部分では違いました。それで学生時代から部屋の一室を借りて、コンディションニングサロンのようなものを始めました。しかし当然仕事がないので、クラブチームのトレーナーの方に帯同させてもらったり、お金を払って遠征に着いていったり、講習会に参加したりしながら勉強、経験させてもらいました。選手の中にもどこに行ってケアしてもらえばいいか分からないという人も多くいたので、そこから自分のサロンに来てもらえるようにもなっていきました。サロンは2年間続けて、卒業と同時にやめました。

その後は午前中に整形外科で勤めつつ、代々木にある整骨院で働きました。その整骨院は少し変わっていて、開院時間が14時~0時だったんです。そこはダンサーの方が開いた治療院です。実はダンサーの人もアスリートと変わらないくらいの運動量なのですが、体のケアの部分がまだ全然進んでいなかったので、業界にケアの文化を広めるために国家資格を持ったダンサーが集まって開いたところでした。そこに僕も入れて頂いて、1年間勤めた後独立、開業したという流れです。

 

-秋山さんが得意な診療分野を教えてください。

やはり来る患者さんは圧倒的に陸上選手が多いので、足が中心になります。特に長距離の選手が多いので、関連する分野は得意だと思います。

 

-この治療院の特徴を教えてください。

僕自身の経験でもあるのですが、怪我をした時に一般的な整骨院に行っても電気をかけて、少し診て、5分程度で診療が終わるので、正直これで治るのか心配になってしまいます。自費であれば、丁寧に診てくれるところも探せばありますが、特に学生は金銭的にも厳しいと思います。僕のところはもちろん保険も使えますし、時間も30分は確実に1人の患者さんに取って、丁寧に接するようにしています。やはり5分や10分だと患者さんの悩みの部分を引き出すことができず、こちらからのリハビリやセルフケアの方法等のアドバイスも不十分になってしまいます。今の整骨院によくある回転率を上げるやり方ではなく、本当に困っている人のために時間を長めに取ってやっています。

 

秋山真治

 

-患者さんのために丁寧にやるという部分と経営的な部分で患者さんを多く診るという部分のバランスがなかなか難しそうですね。

日本代表のトレーナーとして活動するという目標

 

-このお仕事をされていて嬉しかったことを教えてください。

自分と同じような境遇の人が来てくれて、競技で結果を出しているのは嬉しいです。僕が短距離選手だったので、正直ここまで多くの長距離選手を診ることになるとは思っていませんでした。現在の患者さんの3~4割は箱根駅伝関係の学生です。

 

-場所(治療院の最寄りは高田馬場)という面を考えると早稲田大学の学生が多いのですか。

もちろん早稲田の学生もいますが、他の大学の学生も多いので、あまり場所は関係ないのだと思います。城西大学、東海大学、国士舘大学、国学院大学などの学生が来ています。地域の人よりも電車に乗ってわざわざ来てくださる方が多いので、整骨院というカテゴリの中では珍しいことだと思いますし、嬉しいことですね。

 

-陸上に強いというしっかりとしたブランディングができているからこそだと思います。

-反対に苦労されたことを教えてください。

かなり特化した分野を得意としているので、自分もやりたいと手を上げてくれる人が多いものの、入ってみるとトレーナーという仕事に華やかなイメージを持っている人が多く、ギャップを感じてしまう人が結構いるようです。

トレーナーというのはどちらかというと裏方の仕事です。選手が活躍しても僕らにスポットライトが当たるわけではないです。体のケアはもちろんのこと、雑用的なことをしないといけない場面もあります。例えば合宿に帯同すれば選手よりも早く起きて、夜遅くまでケアに務めなければなりません。今はスタッフも定着しましたが、始めた頃は華やかなものを想像していた人が入ってきて、そのギャップからすぐにやめてしまうこともあり、大変でした。

 

-有名選手を診たいなど、様々な要望を持って入ってくる人もいると思います。

そうですね。でもいきなり有名選手を診ることができるわけではないですし、治療に時間をかける分、この仕事は体力的にもきついんです。

 

-秋山さんの今後の目標を教えてください。

大学時代は選手としてリレーで日本一になったりもしましたが、まだ日の丸を付けたことがないので、いつかは日本代表のトレーナーとして活動したいという目標があります。あとは僕も場所や資金面で支援して頂いている方がいるので、これからトレーナーをやりたい、開業したいという同じような思いを持った人をしっかり育てて、独立させてあげたいという気持ちがあります。今すぐにとはいきませんが、そうすることで業界自体も底上げされていくのではないでしょうか。

 

秋山真治

 

-休日にされている趣味はありますか。

実はこの治療院の休みが今は祝日しかないんです(笑)なのでわりといつも働いています。年末も毎年治療院自体は12月28日頃から休みにする予定ではいますが、年明けにはすぐにニューイヤー駅伝と箱根駅伝が控えているので、31日までは地元にも帰らず、何かあってもいいように待機しています。まだ現場に呼んでもらえてはいないので楽な方ですが、いつかは実際に現地に帯同したいと思っています。

 

-秋山さんご自身で思う、自分の魅力を教えてください。

相手の立場に立てるというところだと思います。自分が行きたい治療院というコンセプトを持ってやっているので、いいと思ったものは取り入れるようにしています。

 

-選手のセカンドキャリアについて何かアドバイスがあればお願いします。

僕はぜひこの業界に入ってほしいと考えています。いい先生もたくさんいますが、実は選手の経験がない方もかなりいます。治療経験で補える部分もありますが、試合前の緊張感やスランプ時の心境など選手にしかわからないこともあります。その辺りは競技経験のある人の方が理解できると思います。あとは治療することはできるけれども、トレーニングは教えられないという方もすごく多いと感じています。両方できれば総合的に診ることができますし、トレーナーという業種の質や業界自体の地位が向上して、現場からのニーズも増えていくのではないでしょうか。

 

-なかなかいい治療院を見極めることが難しくて悩まれている方も多いと思うのですが、どこを見ればその良し悪しを判断することができるのでしょうか。

大事なのは口コミだと思います。ウェブに力を入れていると検索した時に上位に表示されたり、実はやっていないことをやっているように書いていたりします。僕も働く場所を探す時にスポーツに特化しているところを調べて見に行きましたが、実際にはそういった患者さんが来ている割合が低い治療院も多くありました。

現状としてはあまり中身の部分が見られていないことが多いのかもしれません。いい先生というのはたくさんいますが、必ずしもそこが繁盛しているわけではない気がしています。そういった職人気質な治療院は潰れてしまって、技術的には劣っていても見せ方が上手な治療院がうまくいっていることが多いと思います。これからは患者さんの目ももっと育てていく必要があります。

 

-最後に読者の方へメッセージをお願いします。

トレーナーという仕事は生活と両立していくのが難しい部分はあります。でもその分やりがいのある職業です。いろいろな出会いもあるので、それを大切にしながらこれから目指す人にはコツコツと頑張ってほしいです。