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丸の内15丁目発起人・高田晋作が見据える、“にわかファン”との今後[PR]

2019.12.10 / 定久 優美

「ラグビーW杯が閉幕し、『丸の内15丁目プロジェクト』もひとつの区切りを迎えた今、本当に寂しいんです。ただ、プロジェクトを通じて”にわかファン”が入ってきやすい土壌をつくれたことには、満足感を感じています」

そう語るのは、ラグビーW杯を盛り上げようとスポンサーの立場で奔走した三菱地所株式会社ラグビーワールドカップ2019プロジェクト推進室の高田晋作氏。学生時代に慶應義塾大学ラグビー部の100代目主将として、チームを大学選手権優勝まで率いた輝かしい経験を持つ、元ラガーマンでもあります。

 

W杯の存在が広く知られてもいない時から始まった「丸の内15丁目プロジェクト」の取り組みや、街づくりを通じて“ラグビーを自分事として捉えてもらう”ための仕掛けについてお話を伺いました。

 

ラグビー×街づくり

「丸の内15丁目プロジェクト」は、三菱地所株式会社がラグビーW杯のスポンサーになったことに端を発した取り組みです。

私は学生時代にラグビーをやっており、もちろんW杯の存在は知っていましたし、日本で開催が決まってからその日を楽しみにしていました。しかし日本国内での知名度や注目度は低く、開催の2年前になっても、話題に上ることはおろか「ラグビーW杯」という単語を目にすることすらなかったんです。そんな状況をどうにか変えたい、盛り上げたいという気持ちから何かできないかと考えたのがきっかけです。

 

三菱地所は街づくりの会社なので、「ラグビー×街づくり」というテーマは前提としてあったのですが、核になるキーコンセプトはなかなか決まりませんでした。ある日、雑談の場で誰かがポロっと「丸の内15丁目」と口にしたんです。最初はピンと来なかったのですが、たしかにラグビーは1チーム15人だし、本業の街づくりに繋げられるキーワードだなと感じました。丸の内は会社のホームタウンのような場所でもありますし、取り組む意義のあるプロジェクトになると思えました。

 

内容としてはWeb上にバーチャルの街である「丸の内15丁目」という架空の街を形作り、一緒にワールドカップを盛り上げる街づくりをしたい人を募集し、現実世界では丸ビル周辺で、「丸の内15丁目」の映画館や美術館、ラグビー神社など、ファンか否かを問わずラグビーの新しい魅力に出会える場の提供を進めていきました。

 

この名前が決まったことによって、当時出ていた他の案よりもプロジェクト推進室のメンバーの顔が活き活きしていったことがとても印象に残っています。「丸の内15丁目に映画館があったらどんなものだろう?」「丸の内15丁目のレストランは?」と次々に発想が生まれて。社内で「丸の内15丁目プロジェクト」の企画が通った後は、熱量の高いメンバーが集まったこともあり、時間がない中でもスパっと物事を決めて進行することができました。

 

“にわかファン”でも入りやすい土壌の形成

ラグビーW杯を盛り上げたい想いで「丸の内15丁目プロジェクト」に取り組んでいたものの、正直に言うと開幕前は「コアなファン以外に、どこまで興味が広がるのか」という不安が大きかったですね。ところが、開幕戦の日本対ロシア戦。丸ビルで開催したパブリックビューイングには1,800人もの方が来てくださいました。

大勢の方の期待に応えるかのように日本代表は初戦を見事に勝利で飾り、そこからとんとん拍子にW杯フィーバーが日本中に広まっていったように感じています。

 

日本戦は全試合、丸ビルでパブリックビューイングを開催していたのですが、特にアイルランド戦は会場が沸きましたね。私自身、日本代表が勝てるのか半信半疑なところがあったんです。でも、後半になればなるほど日本代表に余裕が生まれ、相手をじりじり追い詰めていって。本当にすばらしい勝ち方をしていました。あの衝撃の大きさも、ラグビー熱をさらに高めたのではないかと思っています。

 

パブリックビューイング以外にも、丸の内エリア全体でW杯を盛り上げられるような仕掛けを用意していました。日本代表キャプテン・リーチ マイケル選手(東芝ブレイブルーパス)やくまモンのオブジェがついたベンチを置いたり、飲食店の皆さんに協力いただいてラグビーをテーマにした「ラガー麺」を提供したり。「ラガー麺」は丸の内エリアで17店舗、第2弾のラガー丼は41店舗、第3弾のボーダーグルメ(ラグビー=ボーダー柄のジャージが多いことから企画)は44店舗がメニュー開発・提供してくださいました。

 

私たち三菱地所は“場”を持っている強みを生かし、コンセプトを作り、街に落とし込むことを得意としています。しかし実際にコンセプトをエンドユーザーに体感してもらい、その共感を広げ大きく育てていくためには、様々なプロフェッショナル の方と協働することがとても大事です。

賛同し協力してくださる方々が多くいたからこそ、にわかファンでも入り込みやすい土壌の形成がうまくいったのではと思っています。当社一社だけではなしえない効果を発揮できました。

 

対話を通じてラグビーを“自分事化”

「丸の内15丁目」は実在しない仮想の街ではありますが、住民登録制度を設けたり、イベントごとにリアルの映画館や美術館をオープンさせたりと実際に“街”を体験できるように工夫をしていました。そんな中、街なら住民の方達が毎日来られる場所があったらいいよね、とのコンセプトでできたのが「kominkan」です。

ラグビーW杯期間中に開かれていたKOMIKANには多くの人が足を運んだ

 

もともとは「kominkan」のある場所がW杯開幕前の5月から閉幕まで空いているという情報を社内から得て、何も決めていないけど場所を押さえたのが始まりです。過去のW杯の映像を流すだけの場にもできたのですが、どうしても人と人が交流する場にしたかった。「誰でも気軽に立ち寄れて誰かと喋って帰れる場所」と考えたときに浮かんだのが、街には必ずある“公民館”でした。これが名前に繋がっています。

 

W杯などを観戦するイベントは興味醸成には効果的ですが、どうしても一過性のブームになりがちです。「kominkan」でもう一歩踏み込んだイベントに参加し、ラグビーを自分事として捉える人が増えてほしい。そんな想いもあって株式会社Future Sessionsに依頼して「ノーサイド・ダイアログ」を主催してもらうことになりました。

 

何度もいろんな人が一か所に集い「ラグビー×○○」というテーマでラグビーの可能性について語り、ヒントを得て帰っていくことには大きな意義があると感じています。例えば今回の取材前に開催された「ラグビー×健康」の回では小泉将選手(NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス)が、「試合会場でビールを楽しむ“不健康”のために、日常を健康的にする」というヒントを得たと終わりに語っていましたよね。まさに狙いどおりだなと。「kominkan」で得たヒントを基にボトムアップ的に1つでも2つでも形になっていくものがあれば大勝利だなと思っています。

 

今日(2019年11月8日)をもって「kominkan」は閉まります。ですが、ラグビーの可能性を探るために引き続き場所を変えて「ノーサイド・ダイアログ」は実施していく予定です。そのための場所はもちろん、提供します。

 

次の課題は“にわかファン”の場所作り

「丸の内15丁目プロジェクト」の成功とW杯の成功は一体だと考えてやってきました。ラグビー人気を助長するのに街を活用してできることは何か、「にわかファン」にも喜んでもらえるコンテンツは何かなど、ラグビーを楽しむ素地をつくることに専念していたんです。W杯が盛り上がったら、この街にも熱狂や興奮が生まれ、街の価値が高まる。そのような効果として返ってくるものが必ずあるだろうと。

 

その点については「にわかファン」が流行語大賞にノミネートされるほどにラグビーブームとなった今、大成功だったと捉えています。社内でも私が何かしたわけではないのに「おめでとう」「よかったね」と声を掛けてもらうことが多くて。嬉しい反面、W杯が終わってしまった寂しさをひしひしと感じています(笑)。

 

私が現役だった頃から今まで、こんなにラグビーに日本中の関心が集まっていたことはないと思います。だからこそ、この機会をちゃんとものにしたいですね。私たちの次の役割は、にわかファンの行き場をつくることだと思っています。

日本ラグビーフットボール協会とも話をしていますが、まだ関心を持続させるための明確な答えは出ていません。全員が強い想いを持ってはいるのですが、いかに形にするのかの解は見えていません。ただそんなに悠長なことは言っていられませんよね。トップリーグ開幕までの間に何もやらないと、急速にしぼんでしまいます。

 

個人的には「トップリーグ開幕までの2ヵ月は、日本中をグラウンドにします!」ぐらいの大きくてインパクトのあることをやりたいです(笑)。

場所の提供やコンセプトの入れ込みは私たちがやるので、あらゆる方とスクラムを組んで1つでも2つでもファンがラグビーに触れられる場、日本代表を思い出せる場をつくっていければと。

 

12月11日に丸の内仲通りで開催される日本代表選手のパレード(ラグビー日本代表ONE TEAMパレード ~たくさんのBRAVEをありがとう~)も、その大きなひとつです。

長期的なビジョンは一旦置いておいて、できることから取り掛かるスピード感が今は大切なのではないでしょうか。

 

また、いちファンの視点から話すとW杯における外国人サポーターの楽しみ方がトップリーグにも残るといいなと思っているんです。試合会場でラグビーを見て楽しむだけでなく、ビールを片手に談笑し雰囲気を味わい尽くす。世界の楽しみ方と現状のラグビー人気が相まって、これからの日本ラグビー界がもっと盛り上がると嬉しいですね。