清水エスパルスはタイカの原動力!タイカがスポンサーを続ける理由
明治安田生命J1リーグに所属する清水エスパルスのオフィシャルクラブパートナー、株式会社タイカ。同社は、多機能素材事業、介護・福祉用品事業、曲面印刷事業の事業を国内外で展開。いち製造会社が、なぜここまでスポーツに投資するのでしょうか。代表取締役社長の鈴木大登氏が思いを明かしました。
明治安田生命J1リーグに所属する清水エスパルスのオフィシャルクラブパートナーである株式会社タイカ。
同社は、「αGEL(アルファゲル)」をはじめとする様々な用途の製品を造る多機能素材事業、「αPLA(アルファプラ)」や「でるキャップ」が代表的な介護・福祉用品事業、自動車内装部品を中心とした曲面印刷事業の3つの事業を国内外で展開しています。清水エスパルスのスポンサーを務めるほか、自社工場を構える海外でサッカーを軸とした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。
いち製造会社が、ここまでスポーツに投資する背景には「サッカーを盛り上げたい」という思いだけにとどまらない理由がありました。代表取締役社長の鈴木大登氏がその思いを明かしました。
(取材日:2020年6月22日 聞き手:小泉真也、竹中玲央奈)
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スポンサーとは、“向き合い、考える”きっかけ
“改めて”清水エスパルスのスポンサーになったのは2017年です。「改めて」というのは、実はJリーグが発足した1992年から1997年までスポンサーをしていたんです。20年の時を経て、スポンサーに戻ってきました。
スポンサーを離れている間も、「創業の地である地元清水に対して何か恩返しをしたい」という思いはずっと持っていました。そこでたまたま清水エスパルスの方からお話をいただいたので、「ぜひ、やりましょう」と。話はすぐに進んでいきました。
スポンサーとして資金を出すからといって、何かリターンを期待しているわけではありません。地域に根づく文化として存在するサッカーは、ホームタウンに関係する人に誇りや地元愛を芽生えさせ、サッカーというスポーツを通じて地域活性化を応援していると思っています。
ヨーロッパでサッカーチームを持っている実業家が尊敬される理由もそこだと思うんです。営利活動と切り離して活動しているから尊敬されるんだ、と。
リターンを求めるより、スポンサーという立場に対して自分たちがどう向き合って、何を考えるのかの方が重要です。スポンサーであることにプライドを持つ。だから働くというのもおかしいですが、ある意味自分たちを奮い立たせ、襟を正してくれるものだと思っています。自分たちのプライドともいえるスポンサーを続けていくために、まずは本業をしっかりやっていかなければ、と思うことができるんです。
スポンサーの話からは少し逸れますが、他にもスポーツが仕事のモチベーションになると感じたことがあります。
タイカは中国、アメリカ、カンボジアなど海外に工場を展開しています。「αGEL」の生産拠点であるカンボジアの工場で働く人の多くは女性です。国家レベルでもジェンダー平等推進施策が講じられている中、われわれにできることは何かを考えました。カンボジアの女性は、中学高校を卒業したら就職したり家庭に入ったりとスポーツから離れてしまうケースが多い。尚且つ、女子のプロチームや実業団がない。そういった状況を踏まえて、工場で働く彼女たちに「働きながらサッカーができる環境」を提供したい。そんな思いから女子サッカーチームを作ろうと考えたのです。
われわれは“たまたま”日本に生まれて、“たまたま”恵まれているだけなんです。だからこそ、自分の権利を主張する前に果たすべき義務があると思います。社会に対してやるべきことをやった上で、やりたいことをやるべきです。
彼らのためにしっかり場を作って、またわれわれも彼らから学ぶという良いサイクルを作っていきたいですね。仲間として、寄り添って一体となりながら。
<写真提供:株式会社タイカ>
サッカーが常に生活の一部にあった
サッカーは常に私の周りに存在してきました。サッカー色が強い学校に通っていたこともあり、昼休みもボールを蹴るほどサッカーに触れる機会が多かったです。
大学では自らサッカーサークルを立ち上げました。まずは大学1年生でスキーサークルに入って、サークルのノウハウを学びました。同学年の人数はサッカーをするには足りない9人までと決めて、否が応でも後輩を勧誘しなければならない状況を作ることで継続性を持たせたりと工夫した記憶がありますね。
社会人になっても、会社のチームでサッカーを続けました。今でも月に1、2回はボールを蹴っています。
サッカーに囲まれて生きてきましたが、実は仕事としてサッカーに携わりたいと思ったことはないんです。ただただ生活の一部としてサッカーが自然とあって、まずは自分が楽しみたいという思いが強いように感じます。
ですが、スポンサーや海外でのスポーツCSR活動を通じて、仕事においてサッカーの力を実感させられることは多いです。スポーツを通じていろいろな人と関係を持つことができるのは、素晴らしいことだと感じています。
製造業界のイメージを変える
日本の製造業のイメージを変える上でスポンサー活動は大切だと考えています。製造業はBtoCではなくBtoBが多いこともあって、何を作っているのか知られていない会社が多いです。その上、汚い、臭い、きついといった“3K”の泥臭い工場のイメージがまだまだ強い。日本を支える製造業のイメージを良くしていきたいと考えています。
決して今の製造業のあり方が嫌いなわけではないのですが、新たな価値を創造していく必要があると思うんです。よく言われる“原価低減よりもいかに付加価値をつけていくべきか”と思うからです。そうやって唯一無二のものを創造することで得た利益を会社や社会に還元することが大切だと思っています。その還元のひとつが、弊社の場合は清水エスパルスのスポンサー活動です。
企業は利益を出すことが求められます。利益を出さないと質の良いものを出すこともできませんし、お客さまを幸せにすることもできません。一過性の売り上げだといつかダメになってしまうので、しっかり見極めつつ、どう利益を還元していくのかを考えて実行するべきです。
また、そうしていくと製造業の会社ももっと一般の皆さんに知って頂くことができますし、採用にもプラスにはたらくと思います。製造業の会社のスポンサーが増えていけばいいですね。
ここまで話してきたような思いはずっと持っていたのですが、なかなか発信する場所がありませんでした。でも、スポンサーになることでこうした機会に恵まれたこともうれしいですね。
清水エスパルスではどのような形のスポンサーであれ、契約締結や更新の際にホームページでコメントを発表しています。小さなところでも発信する場所があることは大きいです。東京に比べれば静岡は大企業が少なく、清水エスパルスのスポンサーは小さな会社が多いです。うちもそうですが、小さな会社にとって“訴求力のある発信場所”があることも、スポンサーのメリットだと思います。
選手とスポンサーがどう繋がりを作っていくのかもおもしろいところです。選手も神様みたいな遠い存在として扱われるのは嫌だと思いますし、かといって仲良くなりすぎるのもよくありません。程よい距離感を保ちながら接していると、お互いから学び合える良い関係を築くことができると感じています。
スポンサーをしていて良かったと感じる瞬間は、まさに選手たちがスポットライトを浴びている時です。
誰しも光が当たり続ける人はいませんが、試合に勝ったり、記録的なゴールを決めた時は彼らにスポットが当たります。そこに自分が関わっていることはとても嬉しいですし、自分ごとのように喜ぶことができています。
最近だと、清水エスパルスから北川航也選手(現在はオーストリアのSKラピード・ウィーンに所属)が日本代表にも選出されていて、嬉しかったです。久しぶりに代表がエスパルスから出たなと。代表戦を観ていても、「北川選手を出してほしい!」と思うくらい、選手との距離感は近く感じます。
チームの成績に関しては、社長としてはあまり気にしていませんが、いち清水エスパルスファンとして応援しています。
2019年の冠試合では北海道コンサドーレ札幌に0-8で負けてしまいました。社員約200人で観戦していたのですが、途中からシーンとしてきて。残念ではありましたが、これはこれで記憶に残るかなと(笑)。一方でやはりチームへの愛情がある分、勝って欲しかったという気持ちは溢れました。「冠試合で負けるとは、カッコ悪すぎる!」とアツくなってしまったのもいい思い出ですし、好きだからこそですよね。
来たる日まで、準備あるのみ
現在は考え方も多様化していて、ひとつの場所に熱狂的に人が集まることが少なくなっています。また、仲間と一緒に声を出して盛り上がる機会が減っていると感じています。スポーツは、まさにそういった機会を創出するためのひとつのツールです。
コロナ禍により、スポーツが一時的に身近ではなくなってしまいましたが、われわれにできることは楽しめる日が来た時に後悔しないよう準備をしておくことです。
スポーツをする人なら、次に体を動かす時に怪我をしないように準備をすること。もう一度自分の体と向き合って、理解して、来たる日には思いきり走れるように準備をすることが大切だと思います。
事業も同じです。コロナ後を見据えて、この苦しい時期を乗り越えた時どのような手を打つのか、どうお金を使っていくのかを考えておくことが、今われわれにできることだと思います。
自由に動けなかったり、行動範囲が制限されたりと、不自由なことが多いのは確かです。でも、自分たちを見つめ直す機会としてプラスに捉えて、今できることをやっていくのみだと感じています。