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子どもたちに自由な遊び場を!スポーツ庁が進める学校体育施設の有効活用に対する「コモンズ」の可能性とは

2024.02.07 / AZrena編集部

現代日本における重大な社会課題である子どもの外遊びの機会減少を受けて、スポーツ庁は学校体育施設に着目。株式会社博報堂DYスポーツマーケティングや流通経済大学・流通経済大学付属柏高等学校と連携し、地域の課題解決に挑戦する背景に迫ります。

現代日本における重大な社会課題のひとつに、子どもの外遊びの機会減少があります。

その背景には、地域によって屋外で遊べる場所の減少やルールの厳格化が要因として挙げられています。地域の状況にもよりますが、公共スポーツ施設は、個人での予約が取りづらく、統廃合によって数そのものが減少。老朽化や財政状況の悪化などにより、安全な施設の提供が困難になることが想定されるなど、様々な課題を抱えています。

また、首都圏を中心に野球やサッカーを禁止する公園も存在しており、遊び方の選択肢も狭まっています。体育の授業以外における体力向上の機会が減少したことにより、小学生の運動能力が低下傾向にあることが、スポーツ庁の調査でも明らかになっています。

本当に子どもが遊べなくなっている?公園の禁止事項の問題とは~ 調査レポート(概要)
https://www.atpress.ne.jp/releases/164461/att_164461_1.pdf

体力合計点の現状 スポーツ庁実施 令和5年度 全国体力・運動能力、 運動習慣等調査より
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/kodomo/zencyo/1411922_00007.html

スポーツ庁はこの課題に取り組むため、地域において気軽にスポーツに親しめる場づくりの実現に向け、日本国内のスポーツ施設のうち約6割弱※1を占める学校体育施設に着目しました。令和2年度から、住民の最も身近な場である学校体育施設の有効活用の推進※2に取り組んでいます。

令和5年度では、前述の背景から「子どもたちが気軽にボール遊び等ができる場づくり」をテーマのひとつに掲げ、自由にボール遊びができる場として学校体育施設の開放を行い、安全に配慮した仕組みや体制を構築するためのモデル事業創出を目指しています。

※1 令和3年度体育・スポーツ施設現況調査参照
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220927-spt_stiiki-300000983_2.pdf
※2 スポーツ庁 地域の身近なスポーツの場としての学校体育施設の有効活用
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop02/list/1380329_00001.htm

また、この取り組みを後押しすべく株式会社博報堂DYスポーツマーケティングが、流通経済大学・流通経済大学付属柏高等学校と連携し、本事業を受託。個人の子ども向けの学校体育施設開放の取り組みを実証することで、地域の課題解決に向けたモデルケース創出に挑戦することとなりました。

協力学校である流通経済大学は、地域に開かれた学校経営の重要性を説いた「コモンズ」という考え方を推進しています。本実証を通じて体育施設開放の取り組みの座組みを創出し、多くの学校に影響を与え、全国の学校での水平展開を目指しています。

<コモンズとは>
特定の個人や団体が所有するのではなく、誰もが共有して利用できる共有資源や共用地のこと。特定の所有者がいない、あるいは共同で所有されており、誰もがその恩恵を受けられるリソースや空間を指します。私立大学である流通経済大学の役割として、より公共性の高い「共助」の空間として地域に存立することを掲げています。

今回は、連携先である流通経済大学・龍崎孝(りゅうざき・たかし) 副学長と流通経済大学付属柏高等学校・柴田一浩(しばた・かずひろ)校長に、「コモンズ」とは具体的にどのような取り組みによって体現されているのかや、今回の取り組みによって実現したい目指す姿についてお話を伺いました。

「あのグラウンド広かったね」テーマパークに行かなくても、家の近くに楽しい場所がある

流通経済大学・龍崎孝 副学長

ーまずは流通経済大学が推進する「コモンズ」が、どのような概念なのか簡単にご説明いただけますか?

龍崎:我々が目指す「コモンズ」とは、学校を中心とした垣根のない空間を指します。簡単に言うと、この学校を「原っぱ」にしようということです。上下関係や垣根のない空間、誰が遊びに来てもいい場所を、学校を中心につくりあげていこうと考えています。

ー学校として「コモンズ」の取り組みを推進するにあたって、どのような背景があるのでしょうか?

龍崎:大学のキャンパスがある松戸という地域社会の一員として、我々がどれだけ地域に帰属意識を抱いているのか。また、地域の皆さんがどのように大学の存在を捉えているのかを考えた結果、この取り組みが生まれました。地域社会の中で存続していくために、大学と住民の皆さんが一緒になって帰属意識を育んでいく必要があると思っています。

また今後少子化の時代を迎えるにあたって、私立大学としてはどのように経営を継続していくかも考えなければいけません。そのときに鍵になるのが、地域での帰属意識です。地域の中に存在する学校だという意識を、より濃くしていく必要があると考えています。地域にとってなくてはならない「景観」としての学校を目指しています。

ー地域に開かれた学校経営は、今回スポーツ庁が推進する事業とも密接に関わる部分ですね。

龍崎:学校が地域社会において果たす役割が、今後はさらに大きくなっていくと思います。学校と地域社会がお互いに必要な存在であるからこそ、一緒に取り組むことができるのだと気づきました。小さなネットワークが広がっていくことで、豊かな地域になっていくのだと考えています。

ー今回のスポーツ庁が進める学校体育施設の開放の取り組みについては、「コモンズ」との親和性も含めてどのようにお考えでしょうか?

龍崎:学校として、地域の皆さんも使うことができるんだという姿勢を示すことが大切だと思います。そうすることで、ただ子どもたちが通うだけの学校ではなく、「地域の一員」として溶け込んでいくのではないかと思います。地域に受け入れてもらうために、まずは自分たちが地域の方を受け入れる必要があるのではないでしょうか。

一方で、学校の中にいる人達だけではそういったことに気づくことが難しい側面もあります。そういった意味で、スポーツ庁の皆さんの取組は素晴らしいことだと思います。

今回の本校での取り組みをきっかけに、試行錯誤しながら将来の新たな活動に繋がることを期待しています。スポーツを切り口に、学校体育施設を活用することによって、学校施設を地域の人にどんどん見てもらって、お気に入りの場所にしていくことが大事だと思いますね。

ー今回の事業に賛同するにあたって、今後の展望を聞かせていただけますか?

龍崎:明確な最終目標はなくて、個々の繋がりを絶やすことなく増やしていくことが大切。これから地域そして日本を背負っていく若い世代が、学校を軸にして繋がっていくことが理想です。

ーまさに今回の学校施設開放の取り組みでは、さまざまな学校に横展開していくことも重要な要素になっています。「コモンズ」の考え方も含め、どうしたら今後の普及につながるとお考えでしょうか?

龍崎:簡単なことです。できることからやればいいんです。たいそうなことをやろうと思わず、小さなことからはじめて、最終的に当たり前になればいいと思っています。

小さなお子さんにとっては、ふつうの学校のグランドでも立派な施設に見えるはずです。「今日は楽しかったね」「あのグラウンド広かったね」とシンプルに楽しんでもらうことが大切だと思います。テーマパークに行かなくても、すぐ近くに楽しい場所があるんだと思ってもらえればいいと思います。

流通経済大学付属柏中学校・高等学校が目指す、子どもたちの声や笑顔があふれる場所づくり

流通経済大学付属柏中学校/高等学校・柴田一浩 校長

ー流通経済大学が「コモンズ」を推進するなかで、流通経済大学柏高校として地域とのつながりについてはどのようにお考えでしょうか?

柴田:地域から信頼される学校になりつつある実感はありますが、「コモンズ」の理念に照らし合わせるとまだまだ発展途上とも思います。

本校自体、もともと大学と連携しながらスポーツに力を入れることで、知名度を獲得してきた背景があります。全国大会に出場する部活動の選手が地域のお祭りに参加するなど、地元の人たちとの交流をはかってきました。

部や学校の活動を応援してもらえるだけでなく、日常的な通学などでも、学校や生徒の存在を地域の方が温かく見守っていただけるようになったのではないかと思っています。

ー今回、実証の取り組みの会場としてグラウンドを開放されますが、高校としては学校施設開放の取り組みをどのように考えていらっしゃいますか?

柴田:今までは地域から要請を受けて生徒を派遣することが多かったのですが、今回は私たちが地域の皆さんを受け入れるという点で大きな意味があります。

もっと地域に愛される学校になるためには、こちらから発信する必要がありますし、生徒たちにとっても貴重な学習の機会になると思います。

ーこれだけ広い人工芝のグラウンドで遊ぶことができれば、きっと子どもたちも楽しいですよね。

柴田:近年は授業以外で運動する時間がとても少なくなっており、子どもの体力低下が顕著になっています。身体を動かす機会を確保するという意味でも重要な取り組みだと思います。

ー最後に、本施策を踏まえて今後の学校づくりや地域との連携について、展望を聞かせてください。

柴田:笑顔があふれる学校にしていきたいですね。スポーツには体と心を豊かにする力があります。学校に通う生徒だけでなく地域の子どもたちの笑顔や歓声があることによって、皆が嬉しい気持ちになると思うんです。もちろん子どもだけでなく高齢者の方も含めて、場所を提供していきたいですね。

そして迎えた2023年12月9日(土)、流通経済大学付属柏中学校・高等学校のラグビーグラウンドおよび体育館で開催された実証イベント「思いっきりチャレンジ!おにごっこ×ボールあそび!」では、バスケットボールやサッカーなどを自由に遊べる場所を提供したほか、ボール遊びとおにごっこを組み合わせたプログラムを実施。近隣の小学生を中心に、体を動かす貴重な機会となりました。当日の詳しい様子は、次回の記事にてお届けします。

<関連記事>誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり実現に向けて

第一弾 『子どもたちに自由な遊び場を!スポーツ庁が進める学校体育施設の有効活用に対する「コモンズ」の可能性とは』

第二弾 イベントレポート『自由な遊び場は、すぐそこにある。学校施設開放イベントで見えた未来「また、ここで遊びたい」』https://azrena.com/post/19915/

第三弾 地域と子どもの繋がりが未来を変える。活動継続のために、スポーツ庁が「学校」に着目する理由 https://azrena.com/post/19938/