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サッカーを文化に。JFA・松田薫二が語るグラスルーツ宣言の裏側

2016.02.15 / 竹中 玲央奈

松田薫二

 

 

【松田 薫二(まつだ・くんじ:日本サッカー協会・グラスルーツ推進部長)

“グラスルーツ宣言”というものをご存知だろうか。これは年齢や性別など多くの要素に関係なく全ての人がサッカーに取り組み、楽しめる環境を作り出すということを目的として、JFAが2014年に発したものである。日本のサッカー文化を醸成するための大きな一歩となったこの出来事だが、今回はその経緯や取り組みについて、2015年の1月に創設されたグラスルーツ推進部で部長を務める松田薫二さんに話を伺った。

 

多くの人たちがサッカーから離れていくことへの疑問

 

-まずは、松田さんについてお伺いしたいです。ここまでの経歴を簡単に教えて頂けますでしょうか。

私は10歳のころからサッカーを始めたのですが、中学・高校では選抜チームに選ばれ、国体にも出場し、サッカーで大学まで進みました。そしてヤマハ発動機サッカー部に入ったのですが、それは選手としてではなく、いわゆるチームの運営やマネジメント側として入りました。大学は東京農大だったのですが、当時はヤマハ発動機と東京農大には強い繋がりがあって、昔から農大OBがヤマハに行っていました。

その後は一度、オートバイの海外営業の仕事をやっていたのですが、そこでヨーロッパに出張へ行って試合を見た際に「これがプロサッカーか!」とサッカー専用スタジアムで繰り広げられるサッカーや応援に高いエンターテイメント性を感じたんです。そこから紆余曲折を経て、Jリーグ開幕前にヤマハからJリーグ事務局に出向になり、Jリーグ規約作成、選手契約・移籍制度の再構築やホームタウンづくり、アカデミー設置等、様々な整備をしていきました。

その後、日本サッカー協会に移り、エリート選手養成、指導者養成や代表チーム運営等、日本が世界で勝つための事業に取り組みました。しかし、そうしたトップアスリートが育成されていく一方で、多くの人たちがサッカーをやめてしまう現実があります。それが当たり前になっていることに凄く疑問を感じたんですね。このグラスルーツ推進部に移って、そのような問題に取り組めることにやり甲斐を感じています。

 

松田薫二

 

-今現在携わっている“グラスルーツ”というものについて、詳しく教えて頂けますか?

2014年の5月15日に“誰もがいつでもどこでも安心・安全にサッカーを楽しめる環境を創っていく”という「JFAグラスルーツ宣言」を発表したのですが、いわゆる多くの人達がサッカーを楽しめるようにハード面やソフト面の整備に携わるということです。”グラスルーツ”というと子供のところだけというイメージが有りますけど、「子供からお年寄り、障がい者など全てに対して取り組んでいきます!」という思いが含まれています。

 

ピッチを作り上げていくことの重要性

 

-大掛かりなことに聞こえますが、具体的にどういう形で進めたのでしょうか?

最初は「具体的に何をするかというのはこれから考えていきます」という発表内容だったのですが、宣言と平行してグラスルーツ推進プロジェクトが立ち上がりました。プロジェクトの中で私はクラブ推進ワーキンググループのリーダーを任されました。そこでは、生活圏内でそこに住んでいればずっと継続してサッカーが楽しめるクラブづくりを検討して行きました。グラスルーツ宣言を具現化するためには、そのようなクラブが一つでも多くできることが必要で、そのためには、クラブが自由に使える施設を持つことが重要だと思っています。ただ、もう1つ重要なプレーヤーのところで言うと、小学校の5・6年から中2をピークに選手登録数が落ちているんです。

 

-そのあたりで辞める人が多いと。

なぜかというと、物理的にチーム数が少なくなるんですよ。それは学校単位でスポーツが発展してきているからですね。部活でスポーツをやっている人が多い中で、学校自体は小中高大と進むにつれて学校数が少なくなっていきます。そうすると、自ずと部活チームも少なくなります。一方で、学校以外のクラブチームも増えて来ましたが、その数を補うほどではありません。結局、上に行けば行くほど門戸が狭くなって、上手い人しか残れなくなる。サッカーは好きだけど、上手くない人はやめざるを得ない状況になるんです。

 

-その分、1チームあたりの人数は増えているのでしょうか?

増えているところが多いです。そうなると今度は試合に出られない人が増えるんです。上手い人だけが続けていけるのではなくて、そうでなくても続けていけるような機能がクラブの中に必要です。あとはそれぞれのレベルに応じてサッカーが楽しめるゲーム環境が必要だと思います。サッカーが好きで入った子どもたちが、年齢が上がるにつれて辞めていく人が多くなっているので、そこが問題ですよね。

 

-障がい者を対象にしたハンドブックも作っていらっしゃいますよね。実際に私が昨年末にアンプティサッカーの取材に行った際、パンフレットを見て障がい者サッカーの幅広さを知りました。

7つの障がい者サッカー団体があるのですが、1つ1つと向き合うのはすごく難しいのです。ならば、7つの団体がひとつになれば向き合いやすくなるのではないかと、そういった流れで協議会が立ち上がりました。ハンドブックについては、7つの障がい者サッカー競技を紹介する中で、競技の特徴だけでなく、それぞれの全都道府県協会の選手登録数も記しています。知的障害の選手がどれだけいて、聴覚障害の選手がどれくらいいるのか。そういう数値やチーム数についても触れています。

“誰もがいつでもどこでも”と謳っている中には、“障がい者を含めて一緒になってやっていける環境を作っていきたい”という思いもあります。障がい者サッカーのことはあまり知られていないので、まずは知ってもらうことが大事だと思っています。今後の活動としてやろうとしているのは、いわゆる相談窓口ですね。障がい者の人たちから相談を受け入れられるようなことです。あとは、7つの団体をみんなで支援するようなボランティア組織も作りたいと考えています。1つ1つにボランティア組織はあるのでしょうが、まとめて支援するほうが、多くの人が集まりやすくなるのではないかと思っています。後々、7つの障がい者サッカーのことを一度に分かってもらえるようなフェスティバルの開催も考えています。

 

-お話を聞いていると、やはりグラウンドの問題は大きく感じます。

その通りです。ハードをどう作っていくかというのは1つの課題ですよね。そういう意味では学校というのは1つの鍵になります。どこにでもあってグラウンドを持っているというのが日本の学校の特徴でもあるから、そこがうまく開放されていくと良いと思っています。

ただ、そうはいっても現実的には学校の責任問題などがあって、なかなか開放されない。あとは、公共の施設というのはみんなが使えるというのが大前提だから、取り合いにもなりますよね。サッカー界の中で大人と子供がピッチを取り合っている状況なんです。特に都会ではそれが顕著です。そういった状況を脱するためには、利用されていない土地を有効活用してピッチを作っていくという活動が重要になります。そういう色々なスペースがあるところに作っていくのは1つの策ですし、実際にそれをやっている人たちもいるんです。そういった好事例を広めながら環境が改善されていけばと思っています。ただ、そういうことをやるためにはお金が必要です。地域で自走していくための資金集めもとても大きな課題です。

 

【後編へ続く】