日本人未踏の地・NFLに挑む栗原 嵩。夢への想いと若き選手達へ「今」伝えたい事

2016.02.12 森 大樹

栗原嵩

【栗原 嵩(くりはら・たかし:アメリカンフットボール)】

高校から競技を始め、名門・法政大学に進学し、卒業後はXリーグ・パナソニックインパルスに入団。怪我を乗り越え、3年目にNFLへの挑戦を決意し、ボルティモア・レイブンズのキャンプに参加した。チームへの加入は叶わなかったものの、そこでの実力が認められ、契約を前提としたトレーニングキャンプへの招待を受けている。未だ日本人が誰一人としてプレーしたことのないNFLに最も近い選手だと言われている。現在はXリーグ・IBMビッグブルーに所属。

今回は学生対象の個人クリニック開催に伴って、選手としての想い、そしてこれからを担う若い選手に向けたメッセージを話してもらった。

 

本場でアメリカンフットボールをプレーすることへの憧れ

 

-まず、栗原さんのスポーツ経歴を教えてください。

小学生の時は野球と水泳、中学生の時はバレーボールと走り高跳びをやっていました。ただ、だいたいやると何でもできるタイプだった上に飽きやすかったので、どれもすぐに辞めていました。アメリカンフットボールを始めたのは高校からですね。

 

-なぜアメリカンフットボールだけは他の競技と違って続けられたのでしょうか?

中学時代から洋楽を聴いていて、アメリカという国に憧れがありました。そこで一番盛んなスポーツの1つがアメフトだったんですよね。僕がアメフトを始めたいと思ったきっかけもアメリカで最も大きな試合の1つ、スーパーボウルをたまたまテレビの深夜放送で観たことでした。(※)バッカニアーズが優勝した年の試合ですね。

※第37回スーパーボウル。2003年1月26日に行われ、タンパベイ・バッカニアーズがオークランド・レイダーズを破って優勝した。

 

-栗原さんは怪我をしたことで選手として転機を迎えたそうですね。

大学時代は結構大事な時に怪我をしていたのですが、学生最後の大会である甲子園ボウルにもそのまま無理矢理出ました。膝の怪我を抱えたまま大学を卒業して、パナソニックに入団したのですが、やはり1年目は痛くて思うようなプレーができないままでいたんです。でも、2年目の途中でいい治療院に出会って本格的に治療を始め、3年目になってようやく自分のベストなプレーができるようになりました。それでアメリカに挑戦しようと思ったわけです。

 

-今まで全然治らなかった怪我が突然、そんなにも良くなるものなのでしょうか?

それまでいろいろな病院に行きましたが、原因を言われるだけで具体的な解決策はないままでした。でもやっと大阪のとある整骨院にたどり着いて、的確な治療方法を見つけたんです。リハビリやトレーニングを頑張ったのもありますが、そこでの治療を始めたことによって急に怪我が良くなって、全力で走れるようになりました。

 

-海外に行きたいということはずっと考えていたのでしょうか?

高校時代にアメフトを始めてからNFLでやりたいという思いはずっと持っていました。

元々高校、大学時代から海外でプレーした方がいいと周りからは言われることも多かったのですが、そもそも行き方も分かりませんし、きっかけもありませんでした。でも、挑戦できる時にしておかないと後悔すると思ったので、とにかく実際にアメリカに行ってチームを探し、トライアウトを受けることにしました。

 

-アメリカンフットボールの魅力を教えてください。

あらゆる要素が詰め込まれたスポーツであるところです。体格やスピードの他に戦術を覚えてしっかり実行する頭の良さ、相手チームをスカウティングする分析力等が必要になります。あとはエンターテインメント性が高いですよね。

 

栗原嵩

 

-競技を続けてきて一番嬉しかったことを教えてください。

初めてNFLのキャンプに行った時に、一番初めの1対1の練習で相手の黒人NFL選手をちぎってタッチダウンを取ることができたんです。そこから僕に対する周囲の見る目が変わっていきました。そのキャンプの期間中、僕は絶好調でイメージ通りのプレーができ、自分が出せる100%の力を示すことができました。

実際に、NFL・ボルティモア・レイヴンズからサマーキャンプに呼ばれました。サマーキャンプに呼ばれるイコール、チームのロースター(支配下)に入ることになるので、契約してお金がもらえます。ちゃんと僕の実績とプレーを見て、評価し、契約したいと言ってもらえたことが一番嬉しかったです。ヘッドコーチも僕のことを評価してくれていて、後日、日本人記者が別のNFLの取材で行った際には「クリハラのことを知っているか?彼はすごかった」と言われたそうです。

 

-逆に辛かったことは何ですか?

高校はめっちゃきつかったですね。練習も大変でしたし、みんなが参加している文化祭とか卒業旅行とか、部活で全然行けませんでしたから。

あとはアメリカのチームのテストを転々と回っても決まらなかった時はきつかったです。日本人だから契約できないと言われたこともありました。

でも一番辛かったのはレイヴンズと契約したいと言ってもらえたのに、ビザの問題があって実現しなかったことです。同時に一番嬉しかったことでもあるわけですが。

 

栗原嵩栗原選手の個人クリニックには全国から多くの学生が集まった

 

自分の経験を日本のアメフト界に伝えていく使命

 

-今も現役で挑戦を続けている栗原さんが今回、学生を対象にクリニックを開くことにした経緯を教えてください。

僕ももう28歳ですから、選手としては中堅やベテランの域に入ってきます。でも現役バリバリでNFLのレベルを少しでも体感し、指導されたことがある日本人は僕ぐらいしかいないんです。幸い僕自身はいろいろなことに挑戦して、多くのことを経験させてもらっていますが、後を継ぐような選手はまだいません。

今のままだと日本のアメフト界は衰退していくだけです。誰かが変えようと頑張って動いていかなくてはならない。それができるのは今の段階だと僕しかいないと思うし、その信念をもってアメフトをやっている。

だから今回、僕の持つ知識やスキル、経験など学んだことの全てを現役であるうちに伝えていくための第一歩として、学生や若い選手に直接指導する機会を設けることにしました。仮に同じことを教えるとしても現役選手か、引退後の選手か、で影響力や価値は違うと思います。現役選手が直接教える機会というのは他の競技を見てもなかなかないですよね。

でも特に日本のアメフトの場合、トップリーグのXリーグはプロリーグではないですから、チームとして動く時間はそこまで多くはありません。もし選手が時間を作ろうと思えばいくらでもできるはずなんです。だから僕が教えることが可能であるなら、やるべきだと判断しました。

 

-実際に第一線でプレーしている人の話はそれだけで説得力がありますね。

僕が言っていることとやっていることはリンクしているので、彼らも分かりやすいと思います。日本にはちゃんとアメフトを教えられるコーチが少ないですしね。

 

-アメリカンフットボールをする若い人達に伝えたいことがあれば、お願いします。

僕の言っていることとやっていることができれば、絶対にうまくなれます。

まだ日本でアメフトというと世界が小さいわけですが、その中で勝てない・伸びないような選手は社会に出た時に、もっと厳しい争いに勝てなくなってしまう可能性もあると思うんです。だから今アメフトが下手とか、センスがないとか、そういうことを問題にするのではなく、その世界の中でしっかりやって、ある程度の結果を残す努力をしてください。それが社会に出て行った時に役に立つ経験になりますから、現役でいるうちくらいは極めようと挑戦することが大切です。

クリニックに来る選手の中にはまだあまり動きが良くない選手もいます。でも遠いところからわざわざ来てまで、学ぼうとする姿勢は素晴らしいです。

クリニックには来ていないですが、本当はもっとうまい選手もいます。参加は個人の自由だし、それぞれ理由があると思うので、それはそれで全然アリだと思いますが、機会は活かした方が絶対いいです。それだけの価値があることを僕は伝えられると思いますし、自分も学生の時に同じような経験が一つの転機になりました。

 

栗原嵩現役である今だからこそ、実際にプレーを見せながら指導することができる

 

栗原嵩一人ひとり丁寧に指導

 

-栗原さんの今後の目標を教えてください。

 

今年もNFLに挑戦するために動いています。他の海外のリーグで経験を積んでも面白いかと思います。そうして新しく学んだことを若い選手に伝えていきたいです。

もちろん今まで通り、僕自身もがむしゃらにプレーをするんですけど、同時にそろそろ日本のアメフト界に還元していくことも必要かと思っています。本当はNFL選手になってしまうことが一番早いのですが、挑戦を続ける中でもいろいろできることがあると思うので、様々な形で返していければと考えています。

その取り組みの一つが今回のクリニックということです。中には名前を聞いたこともないような大学から来てくれている人もいます。こういう機会を作らなければ彼らと出会うことはなかったでしょう。彼らからすれば僕は上の存在になるわけで、そんな選手から直接1対1で教えてもらえることなんて他のスポーツではなかなかないことですよね。

クリニックというものははチーム開催でやることがほとんどですが、人が集まりすぎてちゃんとは教えられないんです。でも今回は僕個人での開催になるので、多少時間が過ぎても質問に答えられるし、1対1で教えられる分、伝えられることも多くなります。今まで誰も個人でクリニックをやったなんて聞いたことないですしね。

これはマイナースポーツだからこそできることなのかもしれませんが、彼らもアメフトという競技に出会って、続けてくれているわけですから、憧れの選手に会いたい、Xリーグでプレーしたい、というようなプラスの想いを持ってこれからもやってもらいたいです。もちろん僕も憧れられるような存在になりたいし、彼らに向けた活動を今後もしていければと考えています。

 

-少し競技とは逸れる話になりますが、もしアメリカンフットボールをやっていなかったら何をしていましたか。

絶対にラグビーです。そもそも初めはラグビーをやるつもりだったんです。今もセブンズですが、やっています。残念ながらリオ五輪はバックアップメンバーになってしまい、出場は叶いませんでしたが、まだセブンズのW杯があります。今まで日本代表として合宿などには参加していましたが、結局試合には出られなかったので、今年からはラグビーもより力を入れていく予定です。

 

-先ほど栗原さんは音楽が好きという話もありましたが、好きなアーティストはいますか?

元々は中学生の時にエミネムが好きで、そこから洋楽を聴くようになったんです。今は邦楽を含め、何でも聴きます。

 

-オフの時間は何をしていますか?

フレンチブルドッグを飼っているので、その散歩をしたり、読書をしたりしています。犬は完全に親バカですね。こんなにかわいい犬、他にはいないです(笑)

本に関しては、須藤元気さんが好きなので彼のものは全部持っています。今はエディ・ジョーンズさんの本を読んでいます。スポーツに関連するものも、そうでないものも読みますが、小説は読まないですね。

 

栗原嵩

 

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

コンタクトスポーツはすごく面白いんです。今回のラグビー日本代表の活躍でも分かって頂けたと思います。僕らはたとえ血だらけになったとしても戦い続けるんです。正々堂々、男の勝負が行われるのがコンタクトスポーツということです。

日本でも大きな大会の決勝になれば観客も集まりますし、チアリーダーが来て、ハーフタイムショーで有名人の歌手が出てきたりするので、初めて観る人はそういう試合に行けば場の雰囲気だけで楽しめると思います。なので、ぜひ一度会場に行ってみてください!