片平光紀。初代世界アマランク1位、国境を越えゴルフの魅力を発信する。
現在、ゴルフの女子世界ランキング1位はリディア・コ選手だが、アマチュア時代にそれを抑えた日本人がいたのをご存知だろうか。
それが現在、ゴルフチャンネルでレポーターを務める片平光紀氏だ。
中学卒業後にゴルファーとしての道を切り開くために渡米し、大学時代にその頭角を表すと、2011年に新設された女子世界アマチュアランキングにおいて、リディア・コ選手を抑え、初代1位を獲得。その後プロ転向し、LPGAツアー数試合に参戦したが、怪我により、引退した。
しかし、今もアメリカに住み続け、現地でレポーターなどを務めている。若くして単身渡米し、得た経験を元に彼女が伝えたいことは何なのか。経歴を振り返るとともに、その想いを聞いた。
中学からゴルフ一本に絞る
-まず、ゴルフを始めたきっかけを教えてください。
アマチュアなんですけど父と母、祖父母もやっていて、私は4人でプレーする時にいつもカートに座っているだけだったのですが、ある日父に「やってみないか」と誘われてちょこちょこと始めたのがきっかけです。小学6年生ごろからですね。
-最初にゴルフをプレーした時のことを覚えていますか?
こんなに楽しくないスポーツはあるのかという感じでした(笑)全然練習しないでそのままコースに出たんです。親が急に試合を申し込んで、その時のスコアはたしか147でビリの方でした。
-ゴルフを始める前は何かしていましたか?
合気道と器械体操をしていました。器械体操は小学校1、2年生までやっていて、合気道は6年生ぐらいまでやっていました。あと、ピアノを2歳頃から9歳までしていました。
個人スポーツが好きだったので、あまり他のスポーツには憧れませんでした。本当は合気道とゴルフを両方ともやりたかったのですが、ゴルフの先生に『合気道をやっていると腰を痛めるからどちらか選びなさい』と言われてゴルフを選びました。
将来のことを考えるとゴルフの方がいいかなと思ったからですね。
その後今度は中学3年生の時に母に「ゴルフと勉強どちらか選びなさい」と言われて、勉強があまり好きではなかったのでゴルフを選び、アメリカの高校に行くことにしました。
中学卒業後アメリカへ。引退後はレポーターに転身
-中学卒業してすぐにアメリカに渡っていますが、言葉の壁などもあったと思います。
私はあまり考えないタイプなので、英語は全く話せなかったんですけど、行ったらなんとかなるという考えでした。なので、最初の2、3ヶ月は大変でしたね。サウスキャロライナのインターナショナルジュニアゴルフアカデミーに行きました。そこで午前中勉強をして午後1時頃からゴルフの練習という毎日でした。
その頃からジュニアのトーナメントには出ていたんですけど、アベレージは70代後半で、大きな大会で優勝というのはなかったですね。
-その後、大学に進学してアマチュア世界ランク1位など輝かしい成績を収め、LPGAにも参戦していますが、早くに引退されていますね。
大学の時はLPGAに出たいという夢があったので、それを目指してやっていました。卒業してすぐ(※)Qスクールを受けて、LPGAと下部ツアーの両方に1年目から出ました。LPGAは5試合出たんですけど、それだけだと賞金ランキングを上げるのが難しいんです。一応そこから2年間やったのですが、3年目の時に親指を怪我してしまって、困っていた時にゴルフチャンネルの方からレポーターとしてのオファーを頂いたんです。あと1年怪我で休むより何かしていた方がいいと思ってレポーターの方に昨年切り替えました。だから今はプロとしてはやっていません。
Qスクール:プロツアー本戦のシード権をかけた予選会
-日本でプレーを続ける選択肢は無かったんですか?
アメリカで様々な国の人たちと知り合うことができ、ゴルフ以外でも充実した生活を送れるようになっていました。ですので、日本でというよりもアメリカで何かしたいと考えていました。たまたまその時にレポーターとして声をかけて頂いたので、このままダラダラ選手をやっていてもよくないということで引退を決めました。
-海外選手のプレーを間近でたくさん見てきたと思いますが、すごさを感じた選手はいますか?
一番凄さを感じたのがQスクールの1年目にレキシー・トンプソン選手(現女子世界ランク5位)と3日間一緒に回ったんですけど、パー5が全てツーオンするんですよね。しかもセカンドショットは7番アイアンとかで。
一方私は3ウッドで2打目を打ってもまだ60ヤード残っているみたいな感じなので、とにかく小技勝負でした。でも飛ばしても、彼女もボギーとか打つので飛距離ではないなというのは自分の中で言い聞かせながらプレーしていました。
男子だとジェイソン・デイ選手(現男子世界ランク1位)を見た時は衝撃でした。常に100%で振っていて、どんなピンポジションでも攻めるアグレッシブさがいいです。
-レポーターとして活動するにあたって、伝える力をつけるために勉強したことを教えてください。
中学校を卒業してすぐに渡米したので、日本語の語彙力が不足しています。それを補うために様々なジャンルの本を読んでいます。
-日本のコースとアメリカのコースの一番の違いはどこにあるのでしょうか?
やっぱり芝の違いですかね。アメリカは東海岸と西海岸でも全然違います。あと日本はコースが狭いのですぐOBになるんですけど、アメリカは幅広いのでトラブルショットなどを学ぶことができますし、グリーンの大きさも違うのでミスをした時のリカバーの技術が必要かなと思いますね。
-日本と比べてアメリカの良さというのはどこにありますか?
やはり環境が本当に違います。アメリカは練習場もマットではなく、芝で打てますし、アプローチの練習もアメリカは10ヤード20ヤードからではなく、100ヤードぐらいからできるんです。やりたい放題なので本当に極められるんですよね。あらゆる面で練習環境は本当にアメリカの方が整っていますね。ジムもアメリカでは色々な機材が揃っていますし、いいトレーナーも大勢います。
毎週活躍するためには総合力が問われる。
-片平さん自身のクラブ選択におけるこだわりがあれば教えてください。
私は体が小さくて飛距離が出ないので、ロングアイアンの代わりにレスキューを入れています。6番までアイアンを入れ、そこからレスキューを3本入れます。そこからウェッジを60、56、52、ピッチングウェッジを入れて小技で凌ぐという感じです。
-やはりメーカーによって、クラブは違いますか?
全然違いますね。同じメーカーでも新しいモデルより、前の型が好きだったりすることもあります。私は感覚でプレーしていたタイプだったので、特にクラブの違いは感じます。打つとすぐ分かりますね。
-キャディはどのように選んでいたのですか?
ボランティアのハウスキャディを自分でサインアップしてつけていました。やはりプロ用のキャディは値段も高いので。
でもボランティアだとゴルフをわからない人がいるんですよ。ただ試合を経験したいというキャディさんもいたりします。ラインを踏んだりどこか違うところに行ってしまったりして、試合に集中できずに大変な思いをしました(笑)。
-選手として一番嬉しかったことは?
初めて“ゾーン”に入るというのがどういうことか分かった時です。それまで1回もゾーンに入ったことがなかったんですけど、プレーしていて周りも見えないし、4ホール目ぐらいからもうホールしか見えなくて、バーディが取れるのが当たり前という気持ちになってくるんですよね。自分だけの世界を体験できたのがその試合が初めてでした。
-では逆に辛かったことは?
怪我もそうですけど、アメリカは移動距離が長いんです。そうなると体力面も精神面も全て総合的に使うので、体もメンタルもボロボロでした。凄く疲れながらやっていたので、ゴルフに対しても楽しむ気持ちがなかなか湧かなくて。そんな中で怪我をしてしまい、全部積み重なってしまったという感じでしたね。
-引退後、客観的な視点でゴルフを見るようになって初めて知ったことがあれば教えてください。
選手としてやっていた時は自分の飛距離を計算してコースの攻略法を考えていたので他の選手の攻略法は気にもしませんでしたが、レポーターとして客観的に見るようになると選手によって攻め方が全く違うのが見れて楽しいです。
-改めてゴルフの魅力というのはどういうものでしょうか?
ゴルフは幅広い年齢層ができるスポーツなので、色々な人との出会いがあるのとコースも毎週違うので、集中力や体力面、精神面も全て総合的に一番でないと毎週活躍できないです。常に練習しないといけない部分があり、奥が深いスポーツであるのが魅力だなと思いますね。
日米の国境を越えて、ゴルフの魅力を発信
-引退する時のご両親の反応はどうでした?
実は母親から『だらだらやらないようにどこまでやるのかを決めなさい』と言われて、『怪我の節目で辞めたら』と言われたので、やめようかなと。
-引退後の趣味はありますか?
昨年からテニスを始めて、ラケットも買って気合は十分なんですけど、まだ上手くなっていないです(笑)アメリカはアパートメントにテニスコートも付いていて何時間でもできるので、暇があればやっています。
-もしゴルフをしていなかったら何をしていましたか。
ピアニストになりたくてピアノを続けていたので、音楽を何かやっていたかもしれませんね。練習は好きではなかったのですが(笑)
-片平さんの今の目標は?
米国でレポーターとしてやっているので、カメラを通してアメリカツアーの魅力みたいなのを日本のジュニアやこれからプロになりたいと思ってやっている人たちに自分の経験を活かして色々と伝えていきたいです。ティーチングプロの資格も取ったので、直接教えたいというのもあります。
-ゴルフがうまくなるためのワンポイントアドバイスがあれば、教えてください。
パターが勝負になると思いますね。構えた時に自信が持てるものでないと実際のパットに影響してくると思うので、自分が一番快適に振れるパターがあるとスコアメイクに繋がると思います。
-最後に読者へメッセージをお願いします。
アメリカのゴルフツアーには世界の一流選手が集まってきています。その中で頑張る日本人選手の様子を日本の皆様にお届けしたいと思っています。放送を見て「実際にツアー観戦に行ってみたい。」「自分もアメリカのツアーでプロとしてプレーしてみたい。」と思ってくれる人が一人でもいたら嬉しいです。