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メルカリの次のステージはスポーツ!新たな領域へ進出したその理由

2017.02.20 / 竹中 玲央奈

小泉文明氏

スマートフォン向けのフリマアプリ市場でトップを走るあのメルカリがスポーツ活動支援を開始したのをご存知だろうか?これは世界の頂点を目指すアスリートを支援するというもので、車椅子バスケットボールの土子大輔・篠田匡世両選手を社員として雇用したのだ。

同社はフリマアプリで”世界市場を獲る”ということを目指して企業活動を進めているが、フィールドは異なれど、スポーツの分野で同じ世界の頂点を目指すアスリートを支援していくということを明言し、今回がその“第一弾”となった。なぜ、メルカリはスポーツという新たな領域に足を踏み入れたのか?取締役を務める小泉文明氏に、その意図を語ってもらった。

 

メルカリがスポーツ支援に至った2つの理由

-まず、今回のスポーツ支援に至った経緯を教えてください。

2つの軸があって、1つはビジネス面の話になります。一般的に、メルカリは女性向けのサービスという印象が強いと思うのですが、男性もきちんと利用者として獲得したいという思いがありました。ユーザーを増やすために認知を図りたいというときに、テレビCMやオンラインでやれることには限界があるなと。その中でスポーツという切り口は男性にとって非常に身近なコンテンツ。ですから、スポーツを絡めて何かを一緒にできないかと考えていました。

 

もう1つが企業としての観点です。障がい者雇用というのは、従業者数が増えていく過程で、取り組んでいく必要性があります。一般的なインターネット企業はカスタマーサポートなどで雇用するケースが多いのですが、通常の業務をしてもらうよりもその人の優れた点に特化してもらう働き方ができないかと考えていました。

それと同時に、会社も大きくなっていく過程で、社会性が問われてくると考えた時に、スポーツや、障がい者のアスリートのサポートをそろそろやろうというのがあって、機が熟したという感じですね。

 

-もともと小泉さんがスポーツ好きというのはお伺いしていましたが、その軸で関わりたいという想いはあったのでしょうか?

それはあるかもしれないですね。僕の高校は進学校だったのですが、体育推薦のクラスがあったんですよ。その体育クラスの生徒の中にはインターハイや五輪に出た人とかもいました。

その中にハンドボールで国体3位にもなったチームのエースで、筑波大学から推薦をもらった選手がいたのですが、彼が春休みに交通事故に遭って片足を失ってしまったんです。

でも彼はそこから競技を走り高跳びに転向して、5回連続でパラリンピックに出たんです。(※)鈴木徹という選手なのですが、彼を見ていたこともあって障がい者アスリートの存在は遠くなかったです。彼がリオパラリンピックの競技直前にGet Sportsに出ていて、それを見たんですよね。「スポーツはいいな」と思ったということもあります。

 

※鈴木徹:SMBC日興証券所属のパラアスリート。種目は走り高跳びで2000年のシドニー大会から5大会連続パラリンピックに出場し、いずれも入賞している。

 

-障がい者スポーツは様々な企業が支援をし始めていますが、そのあたりの流れも感じ取っていた上での決断だったのでしょうか。

それはあまり意識してなかったんですが、IT企業では、まだまだ少ないと思っています。障がい者アスリートの支援は大企業がやるものという風潮があるんですよね。でも、実際アスリートの年齢からしても、実はIT企業の方が相性はいいはずなんですよね。

僕らの産業も昔は新興産業でしたが、10年、20年と経って、徐々にみんなもIT企業の名前を知り始めてきたし、DeNAや楽天が球団を持つなど、社会にだんだん進出してきています。そろそろ僕らの世代もちゃんと社会貢献に取り組んだほうがいいのではという意識はあります。

 

「とにかく2020年に出ることを考えて欲しい」

-今後も定期的にこういった活動はやっていくのでしょうか?

障がい者スポーツに関してはせっかく今回で接点を持てたので、引き続きサポートしていきたいと思っていますし、それ以外のスポーツも含めて支援をしていきたいと考えています。

社会性という側面もありますが、もう1つはスポーツを通してユーザーにメルカリをアピールしていきたいという面もあります。事業者なので、当然事業拡大というミッションがあるので。そういう意味で幅広くスポーツを支援したいですね。例えばある競技やスポーツ選手を支援する。そのスポーツに関連するギアがたくさんメルカリに売っている、みたいな話もありだと思うんです。そういう意味で「メルカリをぜひ利用してくださいね」とプロモーションするというのは事業者としてもメリットの大きいことだと思うので、色々やっていきたいなとは思っています。

 

-こういった支援をすることによるメリットは数字の上、利益という部分に反映されにくいと思うのですが、それはどう捉えていますか?

今回の2人には、基本的には2020年のパラリンピックに出ることを最大のミッションにしてほしいとお願いしました。そうでないと、プロアスリートとして彼らの人生の中の時間を頂いた価値がなくなってしまうと思うんです。出社も全然求めていないです。プロとして2020年を目指して欲しいと思っているので、わざわざ会社に来てもらってなにか事務作業やってもらったりするつもりはありません。

とにかく2020年に出ることを考えて欲しいと伝えていますが、その過程でたとえば彼らが講演をするときにメルカリのことをちょっと話してくれるだけでも嬉しいし、メルカリはトレーナーとかノベルティグッズがあるので、彼らがそれを着てくれたり、配ってくれたりするだけでもありがたいんです。それらはできる範囲でやってもらえればいいと思っています。

 

-今回は選手の雇用として募集をかけたのですか?

広く募集はしていないですが、複数の候補者に会わせていただきました。その中で、今回の2人を選考した理由は、「日本代表として、本気で世界で戦いたい」という強い想いが、メルカリのミッションやバリューと一致したからです。

なぜスポーツ支援をしたかというところにも通じるんですけど、僕らの会社ってグローバルで挑戦しようとか、大胆にやろうとか、そういうミッション・バリューを強烈に持っている会社なんですね。そこへの共感という点で、中途半端にスポーツをやっている人だったら、あまり共感し合うことができない。

今回選んだ2人は実際に世界を目指して戦っている。そういう人たちと一緒にやることによって社員も鼓舞されるんですよね。やっぱり感情が揺さぶられるところがある。

この前、メルカリで毎週行っている全社定例会議に2人が来て、車椅子バスケットボールについてプレゼンをしてくれたんです。それを見て、みんなも高揚しているわけですよ。目の前にいる彼らが本気で世界で戦っている話を聞くと、『ハンディキャップもあるのに、そこを全く気にせず世界で戦おうとしている人たちを見て、自分ももっと頑張らなきゃと思った』というようなことを社員が言ってくれたんです。

お互いのミッション、ビジョン、やりたいゴールが、手法は違っても同じなんですよね。僕はそれを大事にしたいと感じています。

 

なので、繰り返しますが2020年は出てほしいです(笑)。 結論、出ないと応援しがいがないというか…僕らのミッションの共有度も低いよね、となる。それは一般の採用においても同じなんです。僕らのミッションへの共感を求めています「世界で本当にやりたいんですよね。やりたくないならメルカリじゃなくてもいいのでは」というスタンスなので、ある意味同じ観点を彼らにも当てはめたという感じかもしれないですね。

 

プロ野球球団に見る「スポーツ×IT」の可能性

小泉文明氏

 

-将来的に、企業としてチームのスポンサーをするという考えはありますか?

いずれあるかもしれないですね。会社としてスポンサーすることにメリットが大きいもの、ベタですけど競技人口が多くて、波及効果が大きいもの、というところに支援をしていこうという感じですが、将来的には色々な可能性があるとは思います。

 

-話は大きくなるのですが、スポーツへの支援を決めた小泉さんが感じる日本スポーツ界の課題とは何だと思いますか?

スポーツって、人々の中の共通のコンテンツとして最後の砦になってきているなという気がするんですよね。

昔、テレビが主力の時代はみんなが“このお笑い番組見ました”といって、翌日の学校ではその話題になる。視聴率が20〜30%も取れた時代は、テレビが共通コンテンツだったと思うんですね。音楽もそうかもしれない。

ただ現代は人の趣味が多様化して、情報もたくさんある。そういう中で、みんなが共通のコンテンツの話題で盛り上がることが、実は難しい世の中になっているのかなと思います。よく言えば個の時代なんですけが、悪く言えば共感して盛り上がれるものってほとんどないんですよ。

そんな中でサッカーの代表戦とか、WBCもそうですけど、スポーツコンテンツって数少ない「みんなの共通のネタ」という側面がある。だからすごく価値があると思っているんです。

 

ただ、一方でスポーツ産業は古くからある分、結構な縦割りの社会であるという現実がある。そして人材の流動性が低いと思うんです。

例えばサッカーをやっていた人がずっとサッカー業界で仕事を続けている、バレーボールだったらコーチなどしてバレーボール業界から外に出ない、という感じで、流動性がすごく低い印象があります。

だから外の業界から入っていくと、「なんでそんなことやっているの?」と思うことがたくさんあるんです。IT業界からすれば「もっとテクノロジーを使えば解決するのに」と言える部分がたくさんあると思うんですよね。そういう人材交流の乏しさはすごく大きな課題かなと思っています。

スポーツに関わりたいという人は掃いて捨てるほどいると思うので、交流がもっと盛んになれば、スポンサーの幅が広がったり、収入が生まれたり、セカンドキャリアのサポートとか、そういう話にもなってくると思います。

 

最近では、野球界はIT業界の人がうまく引っ張っていっている気がしています。SNSや動画の活用もガンガンやっている。横浜DeNAベイスターズは良い例ですけど、観客動員数をすごく伸ばしているんですよね。ちょっと前まで『野球はオワコンでサッカーがイケてるよね』みたいな空気だったと思うんですけど、今やサッカーより野球という空気もあります。異業種とのコラボはそれだけパワーがあるんです。だからこそ、もっと人材の流動性を高めたり、コラボをしたりすればいいんじゃないかという気はしますね。

 

-障がい者スポーツは常に支援や広報の部分を求めていると思うので、企業が入りやすいのではないでしょうか。

企業をうまく使ってもらえばいいと思います。企業側は、社会性とビジネス的な観点の両方からスポーツと一緒にやっていきたいと思っているので。お金を支援してもらわないと競技力は高まらなくて、良いパフォーマンスも出せない。ですから、もっと企業側にうまく寄り添えば上手くいくのではと思うところはありますね。

あとは、地域とも寄り添うというところですね。僕はJリーグ初代チェアマンの川淵三郎さんがすごく好きで、彼が“地域”を推しているのはすごく正しいと思っているんです。ただ、地域が良くて企業は悪だというふうに対比したがるメディアもある。二者択一的にしなくても、もう少し冷静に考えて、両方を取れば良いのでは?と感じます。

野球はたしかに企業色が強くて地域性が落ちていたのかもしれません。しかし、Jリーグから勉強し、企業スポーツ的側面と地域性をバランスよく取ることでまた野球が成功し始めているところもあると思っているんです。色んなスポーツで地域と企業と競技者、この三角形のバランスをもっと良くしていければいいんじゃないかと思っています。

 

-今回の件を皮切りにIT企業がもっとスポーツ界に入ってく流れができれば双方にとって良いですよね。

IT業界は、インターネットを通してコンテンツを届けている会社が多いんです。そういう意味で言うと、コンテンツを作る人を支援していくというのは、僕らとしてもやってきたことで、これからもやり続けていくことです。たとえばゲームなら、ゲーム機器を作るような大手ゲーム会社がゲームを創るクリエイターや企業を支援するという取り組みがあります。同様にスポーツコンテンツを出したいというのがあれば、プレーヤーを支援していくという流れもあったほうが良いと思います。富の再配分じゃないですけど、コンテンツを作ってくれるようなアスリートや能力を持っている人に対して、もっと還元していくべきかなと。そうすれば、より良質なコンテンツができ、結果的にそれが企業の収益として返ってくる、そしてそれがまたアスリートの支援金になる、みたいなエコシステムを作っていかないといけないと思っていますね。

そういった形でスポーツ産業をIT業界から盛り上げていければ、みんながハッピーになるんじゃないかなと思います。