東京都心のJクラブへ。「J5」の関東リーグを面白くする、東京ユナイテッドが持つ葛藤と期待
<写真提供:TOKYO UNITED FC>
J1から数えると5部相当に位置する関東サッカーリーグ1部に大きな注目を集めるクラブがある。それが「TOKYO UNITED FC」である。2016年シーズン、クラブ初のJ1昇格プレーオフ進出を果たしたJ2・ファジアーノ岡山の主将を務めた、元日本代表の岩政大樹が次なる活躍の舞台として選んだことで大きな話題にもなった。
もともとは東京大学ア式蹴球部のOBクラブである東大LBと、慶應義塾大学体育会ソッカー部のOBクラブである慶応BRBの名をつなぎ合わせた「LB-BRB TOKYO」という名称で活動をしてきたが、2016年12月5日を持ってその名を変更。
「座学からの学びとスポーツからの学びを融合した人材を輩出し続けることをその使命とし、また、学校部活の枠を越え、学校コミュニティと地域コミュニティとの融合を図り、さらに将来的には、政界も財界も官界までも熱狂させて東京を一つにするようなチームになることを目指しております。
多様性に溢れる国際都市『TOKYO』を、スポーツを通じて一つにするとともに、世界に向けて『TOKYO』ブランドを発信していきたいという思いを込めて今回の改称に至りました」
とクラブ側は名称変更の理由を発表している。
2020年までにJリーグ入りを目指すことを公言し、クラブが立ち上がった2015年には東京都1部で優勝してその翌年も関東2部を制覇。ピッチレベルでの成績はしっかりと残しており、冒頭でも触れたように、今年は関東1部で戦うことになった。
東大OBと慶応OBを中心にして作られたクラブであり、フクダ電子やPwCジャパン、文化シヤッターなど大手企業がスポンサーについている。更に、今シーズンからはみずほフィナンシャルグループも加わった。そしてその壮大な理念とビジョンを元に、オンザピッチでしっかりと結果を出し続けていることが、冒頭に述べたような注目度を高めている要因の1つであろう。所属する選手に目を向けても、関東大学サッカー1部や2部のハイレベルな舞台において各チームの主力として戦ってきた者が多く、元Jリーガーも名を連ねている。
今後の日本サッカー界の発展において無視できないクラブとなる可能性がある東京ユナイテッドの実態を、紐解いていきたい。
「可能性を感じるチーム」(林健太郎コーチ)だからこそある悩み
「今までにない社会人のチームだし、そこに目新しさはありますよね」
こう語るのはチームのヘッドコーチを務める林健太郎氏である。東京ヴェルディやヴァンフォーレ甲府でのプレー経験がある彼は、現役引退後に指導者への道を歩みはじめた。その中で知り合いを通じ、現在の東京ユナイテッドで監督を率いる福田雅氏と出会い、福田氏の母校である東京大学ア式蹴球部の指導者となることを打診された。そして3年間、東大での指導を経た中でLB-BRBの立ち上げにコーチ就任の依頼を受け、承諾したのだと言う。
「利重(孝夫)さんとか福田監督やビジネスでも成功をしている人たちなので、可能性を感じました。今までに誰もやったことがないようなことを形にしていくという意味では、凄く魅力的だと思っています」(林ヘッドコーチ)
クラブの理事を務める利重孝夫氏は読売ユースから東京大学に進学し、楽天株式会社に在籍していた際に同社を東京ヴェルディの胸スポンサーとして契約を締結させた経歴を持ち、現在はシティ・フットボール・ジャパンの代表を務めている。そして、監督である福田雅氏も暁星高校3年生次に全国高校サッカー選手権大会に出場経験を持ち、大学卒業後には公認会計士の資格を取得。現在はみずほ証券のグローバル投資部門に勤めるビジネスマンだ。
このように、クラブのトップに立つのがサッカーだけでなく、ビジネス面でも成功を収めた人物なのである。そして、彼らの存在が、クラブの可能性と内外の人物の持つ期待感を大きくしているのだ。事実、序文に述べたようにいわゆる”大企業”がプロカテゴリにいないアマチュアのチームのスポンサーとなったのも、上層部の力あってのことだろう。
「今までサッカーしかしてこなかった自分からすると、運営面やビジネス面で優れた人が多い。一緒にやっていて勉強になるし、第三者的にはすごいなと思いました。思い描いているものが形になっていることを肌で感じています」
J2・ザスパクサツ群馬の所属経験がある主将の黄大俊も、このクラブが描く未来に対して強く期待を寄せている。
「メンバーが集まらない」というオンザピッチでの悩み
チームも最速のルートを辿って目標とするJリーグへひた走り、JFLの1歩手前、関東サッカーリーグ1部までやってきた。順調にステップアップをしてきているように見えるが、林氏はここから困難が生まれることも予測している。というのも、やはり平日は企業勤めのメンバーがほとんどであり、毎回の練習に同じメンバーが顔を合わせることはほとんどないのだ。
「今、所属している選手はみんな仕事をちゃんとしているんです。それが指導者としては悩ましい問題でもあります。仕事とサッカーの両立ということになると、空いている時間を見つけてなんとかサッカーをやるという感じなので。選手のベストを出させることが難しいですね。練習もメンバー全員が揃ってやることはないですし、平日はコンディション調整を各自に任せるしかない。その中でも、自覚を持ってやってくれているのでここまで来ました。ただ“この先をどうやっていくか”というのはスタッフミーティングでもよく話すんですけど、徐々にセミプロ化をしていって、よりサッカーに軸足を置ける選手を増やしていこうと。そうしないと、ここから先は厳しいですね。ただ、今の形でいけるところまではいきたいんです。今季は今のままで行くと思うんですけど、今後はその中に何人か、サッカー中心の人を補強していくことになると思います。でも、できるところまでは今の方針でチャレンジしていきたいです。」
林氏がこう語るように、充実した戦力を揃えている一方で、十分な戦術のすり合わせをできているわけではない。多くの社会人サッカーチームと同じように、ほとんどの選手はウィークデイに仕事を抱えている。
川崎フロンターレの下部組織から中央大学へ進学し、中心選手として活躍してきた川越勇治は、練習量やメンバーの集まりという部分で悩ましさがあると語る。
「自分は平日の練習、火曜と木曜は出ているんですけど、人が集まらないこともある。その中で、グラウンドを使わせてもらっている東大の学生と一緒にトレーニングをすることもあります。企業に勤めながらやっているのでそこは大変ですね」
サッカーに専念できるプロ契約の選手がいるわけでもなければ、チームの練習に融通を効かせてくれるようなサポート企業に全員が勤めているわけではない。選手たちは他のアマチュアチームと同じく、日々仕事をこなしながら、空いている時間をサッカーに当てているのである。しかも、いわゆる一流企業に所属する選手も多い。仕事とサッカーの高いレベルの両立を目指しており、それを体現しているという側面がある。
とはいえ、チームが目指すのはJの舞台。ステップアップをしていく中で、いずれは働きながらプレーをする選手達は離れざるを得ない時がくるということも現実的な話でもある。
「なかなかメンバーが集まらないですし、僕も行けていないという現状もある。他のチームは毎日集まってトレーニングしているチームもある中で、戦術的なところ、運動量という個人の部分でも差が出てしまいます。そこをどう補っていくかが重要なのですが、なかなか難しいですよね。個人個人、もうちょっと意識をサッカーに向けなければいけない。ただ、自分の会社とかの活動もあるので難しいかなと思います」
名古屋U-18から慶應義塾大学に進学し、大学時代は副将を務めていた岩田修平はこう語る。
ただ、何も選手たちはそういったもやもや感”だけ”を抱えながらサッカーを取り組んでいるわけではない。純粋に高いレベルでのサッカーを楽しみ、所属するチームを高いレベルの舞台に上げたいという競技者としての欲求に加え、それぞれの選手たちのモチベーションを高めているもう1つの要素がある。それが、先にも述べた”このクラブへの期待感”だ。
「ワクワク感はありますね。スタジアム問題もいずれ出てきますし、クラブがこの後どういう風になっていくかはわからない。ただ、実現したときには自慢もできますからね(笑)。『ここで最初の頃はやっていたんだぞ』というのは。うちのクラブは情熱“だけ”でやっているわけではなく、そこは福田さんと人見(秀司 共同代表理事)さんが戦略を持ってくれている。そういった一体感もあるんです」(長尾林太郎 横河武蔵野Y→東京大学ア式蹴球部)
選手からヘッドコーチまで、全員がいわゆる“フロント”に大きな信頼を寄せていることが、このクラブの強みの1つでもあることは間違いない。では、実際に上層部はどういった思いや戦略性を持ってこのクラブを動かしているのだろうか。後編ではその部分に迫りたい。