文京区からJ1の舞台へ。東京ユナイテッド指揮官・福田雅の奮闘と描く未来

2017.04.12 竹中 玲央奈

福田雅氏

<写真提供:TOKYO UNITED FC>

前編では現場の選手、そしてヘッドコーチらの声を中心にチームの現状を紹介したが、その中で選手達がこのTOKYO UNITEDというチームに持つ期待感を大きく口にしていたのが印象的だ。そして、彼らの口からたびたび上がってきたのが、トップチームの指揮官である福田雅監督の名前。後編ではチームの発起人の1人でもある彼が描いている未来像や、その過程にある”越えなければいけない壁”について、焦点を当てていく。

 

東京23区に根ざしたビッグクラブへ

「大学のコミュニティが母体になって上を目指すという形はなかったので。僕らには思いつかないような考えだったなというのがあった」

林健太郎ヘッドコーチがこう語るが、海外では大学発のクラブもある一方で、日本にはまだその事例は少ない。そんな中、東京ユナイテッドは慶應義塾大学ソッカー部と東京大学ア式蹴球部のOBが手を組み、大学のコミュニティをベースとしたチームを立ち上げた訳である。

とはいえ、そこにはしっかりとJリーグの理念にもある「地域密着」という部分にも立脚している。基盤の1つとなった東京大学が存在する東京都文京区をホームに置くことで、将来的には地域コミュニティとの連動も視野に入れ、東京の中心部である23区に経済効果を生むことができる存在としてその価値を高めようという目論見がある。

 

“サッカーの社会的価値を高める”という部分にチャレンジをしているわけで、携わるメンバー、プレーをする選手たちにもサッカー“だけ”の人間になるのではなく、“一流の社会人”となることを説いているのもこのクラブの大きな特徴だ。

 

「理念や思いには共鳴できますね。サッカーを通して人を作るとか、そういう面がこのクラブにはありますし、福田さんは『サッカーをやっているやつが馬鹿だと思われるのが嫌だ』と言っているんですよね。そういうのは僕も感じます」中心選手である川越勇治はこう、語る。

 

主将の黄大俊は「福田監督に色々教えてもらった」と語るが、Jリーガーを引退後にこのクラブに加入し、選手としてプレーする傍ら事務局での業務を経験。そして、スポンサー起業の1つである文化シヤッターへの就職が決まった。

いわゆるオンザピッチの結果だけでなく、ビジネス面での成功や人材育成という点についても大いに力を入れていることが、目に取れる。

 

現状のところは“及第点”

全てが良い方向に進んでいるように見えるが、実際のところ首脳陣はどう考えているのだろうか。福田雅監督はこう語る。

「チームとしてはオンザピッチとオフザピッチの両方の成功がなければいけない。オンザピッチでは最速の結果を出して昇格をしているので成功と言えるかもしれないですけど、オフザピッチでの完成形は無いんです。そういう意味で、上手く行っていないかと言われれば上手く行っていないことはないのだけれど、では上手く行っているか、満足しているか、と言われればそうではない。まあまあ、及第点じゃないですかね」

東大、慶大という母体を持つことで外野の人間からは華やかに見えるのは必然的であり、その”ブランド力”ゆえにチームを成長させるのも難しくないように考えている者が少なからずいるのは事実だろう。

しかし、トントン拍子でここまで来たわけではないと、福田監督は続けて言う。

「周りが思っているほど楽ではないです。すごく上手く行っているように見えるかもしれませんが、プロセスはしんどかったですよ。正直、僕らは何もビジネスではやっていないんですから。周りが思っているほど、僕らは特別なことは出来てません。」

やっていることは他のチームと変わらない。ただ…

「みんな『東大と慶応だったらすごく人脈があるでしょう』と言いますけど、それはある意味で正しい一方、“知っている人だから”という理由ですぐにお金を出してくれる訳ではありません。例えば、フクダ電子さん、文化シヤッターさん、PwCさんにしても、東大のア式蹴球部とも慶応ソッカー部とは何も接点がありません。文京区という地域の、地元の二大企業であるフクダ電子さんと文化シヤッターさんには、このクラブが立ち上がる前から話をしにいってクラブの理念に賛同して頂きました。PwCさんは私個人のネットワークがありましたが、フクダ電子さんと文化シヤッターさんは人的関係が無い中で、ゼロからこのクラブを売り込みに行ってご支援してくれることになった方々なんです」

母体の大きさと良い意味でカテゴリに似つかわしくないスポンサー。先にも述べたように、これらを見るとやはり東大と慶大のブランド力”ゆえ”に成し得たもののように感じられる。だが、現実はそうではないのだ。福田氏が言うように東京ユナイテッドとしても他のクラブと同様にスポンサー集めに奔走しており、言ってしまえば泥臭く、同じようなことをしている。

ただ、そんな中で企業のサポートを引っ張ってこられるのにも要因はある。それが、“戦略性”だ。

「僕らは地道なことを1個1個、他のクラブさんがやっていることを全部同じことをやっているだけですが、どういう人達をスポンサーとして味方につけるかとか、どういう人達の協力を得るか、という部分の戦略を持って進めています。当然のようにその人達が最初から僕らを応援してくれることはないですから」

この戦略立ての部分が他クラブと違う部分であり、逆にいえば“それだけ”だとも言う。

 

避けては通れない“スタジアム問題”

将来のJリーグ入りにあたって多くのクラブが直面せざるをえないのがスタジアムの問題だ。特に余剰地が限られている東京23区でそれをクリアするのは難しく、東京ユナイテッドが成長をしていく中で『スタジアムがないから無理じゃないか』というような外野の声も福田氏の耳に入ってくるようだ。しかし、その一方で東京の中心にビッグクラブを求める声は絶えない。外野の声は挑戦をしているチームに対する揚げ足取りのようにも聞こえるが、福田氏はその点についても言及した。

「みんな、『スタジアムが無いからできない』と言う一方で『東京にビッグクラブが欲しい』と言うんです。でも、そこから行動を起こさない。スタジアムが欲しいのであればスタジアムを作らせるくらいの戦略を持って、行政に掛け合うということも必要です。そして、そのためにクラブが必要なんです。『何もないところでスタジアムを作っても誰が使うんですか?』となる。そうなるとやっぱり、地域にこれだけ貢献していて、これだけの人に応援されているクラブがある、だからスタジアムが必要なんだよ、と説得して動かしていかなければいけませんよね。スタジアムがないとクラブが作れない、と言われがちですが、それは順序が逆だと思います。

正直、僕らとしてもスタジアムができるかはわからないですし、できない可能性もあると思います。ただそれでも、行政に掛け合うために、みんなに応援されているこういうクラブがある、ということを示していかないと。スタジアムは必要とされなければできないですから。

僕らはスタジアムを作るためにどこを動かしたら良いのか、何を動かしたら良いのかというのを冷静に分析しながら必要なところにきっちり人脈を作っていって、僕らのクラブの理念を訴えていきます。戦略なく行動もせずに騒いでいても実現できませんし、“思い”だけでも実現できないんです。」

社会におけるサッカーのステータスを変える

福田氏の言葉の節々からは「まだまだこれからだ」という思いが強く感じられた。先のスタジアムの話もそうだが、福田氏自身、困難に思っている課題もある。しかし、簡単ではないこの挑戦をしているベースの部分には、強い信念がある。

冒頭にも触れた、サッカーの社会的価値を高める、という使命感だ。

「日本サッカー界に対して、社会に向けてサッカーというもののステータスを変える上で提示をしたいんですよ。僕たちはサッカー”だけ”をやってきた訳ではないですし、他の領域で得た知見を持ってサッカーの価値を訴えていきたいんです。僕たちはたまたま、サッカー以外の世界にも目を向けて生きてきているから、そういう人たちとの橋渡しができると思っていますし、これからもやっていくつもりです」

多くの者が描いてきたが成し遂げられなかった大きな“夢”に向かって、東京ユナイテッドは歩みを続けていく。

 

今週末、4/16に東京ユナイテッドの開幕戦が行われます!

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