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浦和レッズを支える陰の立役者に学ぶ、スポーツマーケティングの真髄

2017.05.11 / 山本 一誠

江口智也氏

僕たちの仕事が面白いのは、1回やったのと全く同じ仕事をまたやるということがないんです。例えばこういうデザイン缶を使った商品開発は、去年初めて携わりました。自分のやった仕事が実際に街中に出てきて、コンビニとかで見かけるといったような、そんな仕事にも関わっています。(株式会社ランドガレージ取締役 江口智也)

 

NPO法人スポーツ業界おしごとラボ(通称・すごラボ)の理事長・小村大樹氏をホスト役として行われている「すごトーク」。今回のゲストは株式会社ランドガレージで取締役を務める江口智也氏です。

江口氏は淑徳大学を卒業後、地域に密着した広告代理店である株式会社ランドガレージに入社。以降14年間浦和レッズのスポンサー営業やプロモーション企画をはじめ、数々の仕事にマルチに携わっていらっしゃいます。

スポーツ業界という茨の道に就職を決意させた、社長との運命的な出会い

そもそもなぜ僕がこの仕事を始めたのかという話をします。

僕は浦和生まれ浦和育ち、浦和から一回も出ていないという人間です。幼い頃からずっとサッカーをやってきたということで、かつてはプロで挑戦したいと思ったこともありました。

でも、僕の高校は浦和南高校という全国大会で何度も優勝しているところで、部員が何百人といて、自分はレギュラーになれなかった。そこで一度はサッカーを諦めました。

大学では国際コミュニケーション学部というところに所属していたので、イギリスとの交換留学があって、2年間ホームステイしていました。近所の公園でボールを蹴って遊んでいると、そのうち仲間がいっぱいできて、チームを紹介してもらえることになりました。イングランドの8部リーグぐらいの試合に出るようになって、海外でサッカーするのも楽しいな、なんて思い始めてきて(笑)

ただ、そこでもやっぱりプロサッカー選手にはなれないな、って思ったので、日本に帰ってきて就職活動をすることにしました。

ランドガレージに入社したいと思ったのは、社長の人柄に惹かれたというのが一番大きいです。学生の頃、土曜日の午前中に名前も知らない人たちと河原でサッカーをよくやっていたのですが、ある日そこに偶然社長が来ていたんです。

ランドガレージはマンションの一室にある事務所で、社員も当時3人ぐらいでやっていたところだったので、入社する時はみんなからも心配されたし、家族にも反対されました。でも、人生は仕事をしている時間が一番長いので、やっぱり自分が好きなこと、今までやってきたことをやりたかった。もしそれをやれるとしたら、人生が充実するだろうなとも思いました。

そんなわけで、ランドガレージに入社して、今年で14年目になります。当時社員3人でマンションに事務所を構えていたランドガレージも今や24期目を迎えていまして、浦和レッズが今年25周年ですから、浦和レッズとともにやってきた会社として、レッズの裏側、外側、様々な仕事をやってきています。

魅力的な企画で、クラブもファンもスポンサーも喜ばせる

僕のいる会社では、いろんなところに仕事のキーパーソンがいるんです。

スポンサー、自治体、各クラブチーム、地元の企業、旅行会社、小売、メーカー…。いろんなところと接点を持ちながらやっていくので、登場人物が非常に多いです。

その上で、ファン目線、その会社のやりたいこと、その会社がやらなきゃいけないこと、どれも大事にしないといけないので、いろんな目線を持ってやる。そのバランスを考えながらやっていかなきゃいけないという難しさがあります。

僕らは広告代理店として見られているところもあるんですけど、地元の企画会社的に動くこともありますし、言わば“なんでも屋”です。浦和レッズの「ビジネスクラブ事務局」という法人向けの部署や、「サッカー事務局」っていうサッカースクールを運営する部署などがあります。そんなわけで浦和レッズから仕事を依頼されることもありますし、こちらから企画を持ち込むこともあります。

浦和レッズ公式ビール

例えば、これは浦和レッズオフィシャルスポンサーのキリンビールさんと作った、浦和レッズの公式ビールです。

僕たちの仕事が面白いのは、1回やったのと全く同じ仕事をまたやるということがないんです。例えばこういうデザイン缶を使った商品開発は、去年初めて携わりました。自分のやった仕事が実際に街中に出てきて、コンビニとかで見かけるといったような、そんな仕事にも関わっています。

今、第2弾のデザインが完成したところで、今年はサポーターのマフラーを背景に引いた絵柄を採用しました。

このデザインなんですが、実際にサポーターの方から1本ずつマフラーをお借りしました。貸してくれたらビールをあげるわけでもないし、本来はサポーターさんには何にもメリットがない。それなのに500本ぐらい貸していただいて、返すのも大変なぐらいでした。

デザインを見てみると、サポーターが持っているような形にマフラーの端が折れているんです。中には浦和レッズの歴史を感じさせるような古い時代のマフラーもあって、1人1人のサポーターがレッズを応援しているよ、っていうことを伝えています。

このポスターの中でビールの広告はかなり小さいんですけど、「『こういうかっこいいポスターをキリンさんは毎年作ってくれるね』っていうことがゆくゆくは浦和レッズを通して宣伝になるから、今はビールの写真は小さくていいよ」って言ってもらったりもしました。このデザインは結構話題になっていると思います。

それから、ランドガレージでは“REDS025th”という浦和レッズ25周年のロゴと文章も作成しました。

20周年の時に浦和レッズのコンペがありました。レッズが20周年を迎えるにあたって各社がいろんな案を出したんですけど、ランドガレージでは20の前に”0”をつけたロゴを提案しました。これはJリーグ百年構想を意識して、浦和レッズは100年続くクラブであるために0をつけましょう、というキャンペーンです。

25周年のロゴもそういったコンセプトを踏襲しているのですが、このロゴを社員がつけたりとか、街中の電柱にぶら下がっているバナーにこのロゴが出ていたりとかして、みんながこの25周年を百年続くサッカークラブの“通過点”だと思えるようなものになっています。浦和レッズが街に根付いて、愛されるクラブになるよう、みんなで育んでいきましょうというメッセージです。

REDS025th

他には、和真メガネさんっていうところが3年前からスポンサーになってくださったんですけど、選手がサングラスをかけた広告を作りました。実際には10人ぐらい選手にかけてもらったんですが、人によっては似合わなかったりもしたので、最終的には5人に絞りました(笑)

最近はスタジアムのオーロラビジョンもうまく使っていまして、選手交代の時にクレジットカードがバーンと出たりしています。それから文化シャッターさんがスポンサーに入っているので、西川(周作)がセービングした時に、シャッターが降りる演出をしたりもしています。

江口智也氏

「答えはお客さんのところにある」

僕が日頃から意識しているのは、「お客さんと会わないと仕事って生まれない」ということです。だからどれだけお客さんのところに足を運ぶか、コンタクトを取るかっていうところが大事だと思います。

しかも、ただ単に足を運んだり、物を運んで納品してくるっていうだけじゃなくて、何か宿題をもらってくる。あるいは飲みに行ったり、何か悩んでいることを聞き出したりする。僕自身、日頃から人と話すのが好きということもあって、知らず知らずのうちにお客さんすら気付かなかった視野を広げてきたなと思います。答えはお客さんのところにあるんですよね。

それも「最近何かありました?」っていうんじゃなくて、こっちからも「最近こんなことあったんですよ」って自分からも発信する。そうすることで向こうも「最近こういうことで悩んでいるんだよね」っていう話をしてくれたりする。そういう人とのコミュニケーション能力が自分は長けているんじゃないかなって思います。

年末年始にはお客さんのところに挨拶回りするんですけど、そこで沢山仕事もらってきて、業務が1月2月とパンパンになっちゃったみたいなこともありました (笑)

でもそのぐらい、お客さんのところに行って何か引き出すっていうことを普段からしているのかもしれないですね。

スポーツで埼玉県をもっと魅力的にしたいー。地元企業としての矜持

このデータはりそな銀行が調べたものなのですが、県内に浦和レッズが生み出す経済効果は年間約127億円と言われています。しかもクラブ側の予算にサポーターの交通費とか飲食代等を含めた直接効果だけで合計90億円近い。この内訳の中で、入場料が30億ぐらいを占めているというのはJリーグでもなかなか無いんですけど、さらに広告収入が24億っていうのもすごいことなんです。

この調査の時はまだ放映権料が4億円ぐらいですけど、皆さんご存知の通りDAZNがJリーグの放映に参入しました。2017年シーズンからはJリーグの賞金も跳ね上がっていますし、これからますます収入は増えていくのではないかなと思います。

それから、2020年には東京五輪があります。埼玉県でも、サッカーを含めて4競技行われます。埼玉はディズニーランドもないですし、海もないので、スポーツで盛り上げていこうとしている。ランドガレージも、そうした動きの核となれる存在になりたいと思っています。