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鍵は目的×共感!五輪を100年スポンサーする企業が語るスポーツの価値

2017.06.16 / 江尻めい

渡邉和史氏

約半世紀ぶりに五輪夏季大会が東京にやってくる。来る2020年に向け、東京五輪に関わりたい、これを機にスポーツを活用してみたいという企業は多いが、どのように関わったらよいのか、またどうしたら関われるのか、困っているというのが本音だろう。

そこで日本最大級のスポーツ業界求人情報サービスであるSPORTS JOB NETWORK が、企業とスポーツの関わり方の事例を紹介し、そのヒントを探るイベントを開催した。その中で100年近く五輪のスポンサーをしているコカ・コーラ社の渡邉和史氏が2020年とその後に向けて、企業とスポーツの関係構築について、語ったのでその模様をお届けする。渡邉和史氏は博報堂でトヨタ自動車の担当として、リベルタドーレス杯の運営や同社キャンペーンなどを担った後、FIFA Marketing AG、博報堂DYメディアパートナーズを経て、日本コカ・コーラに入社し、2014年ブラジルW杯のキャンペーンなどを手掛け、現在はコカ・コーラのスポーツ/エンターテインメントの交渉窓口、コミュニケーションプロデュースのほか、IOCとの共同プロジェクト、五輪ムーブスにも携わっている。

 

スポーツマーケティングの基本

私は広告代理店で10年、FIFA国際サッカー連盟で3年、コカ・コーラで7年、と計20年間スポーツマーケティングに携わっているので、今日はその観点から、どのようにスポーツに価値を見出し、なぜスポンサーがお金を出すのか、というところをお話できればいいなと思います。

まず、1980年代後半から1990年代前半にかけて、日本の高度経済成長で大成功を収めた企業が、みんなこぞって日本のみならず海外に自分たちの名前を宣伝しようと考えたときに、スタジアムの電光掲示板などではなく、もっとインパクトのあるマーケティングが必要なんじゃないかということで外国の有名サッカーチームのユニフォームの胸スポンサーをし始めました。

スポンサーシップには必ず目的があるんですよ。目的を達成したいから、お金を出す。そういう面で、「自分たちの名前をヨーロッパ中に売る」という目的のためにスポーツチームの胸スポンサーというコンテンツを活用することは、基本中の基本のスポーツマーケティングであると言えます。

 

コカ・コーラと五輪の深い関係

我々コカ・コーラは1886年にアトランタで生まれ、2〜30年かけてフランチャイズシステムを使用してじわじわと事業を拡大し、アメリカで成功を収めました。

その後さらにもっと事業を世界に広げるためのコンテンツを探しているときにIOCと出会って、1928年のアムステルダム五輪からスポンサーをしております。

その時はアメリカから5,000ケースのコカ・コーラを船に積んで、太平洋を通ってアムステルダムへと渡っていきました。コカ・コーラは、世界各国から集まるアスリートにコカ・コーラを味わって頂いて、その瓶を自国に持って帰ってもらって存在を広めてもらう、という戦略をとったんですね。

 

その戦略を成功させることこそが一番初めにコカ・コーラが五輪をスポンサーした目的になります。

IOCとしても1928年からスポンサーをしている我々に敬意を表してくださっているので、今いるスポンサー(※)55社がABC順で並べられている中で、我々の名前は一番最初に挙げられています。

現在コカ・コーラは、209カ国が加盟しているFIFAや210カ国が加盟しているIOCとスポンサーシップを結んで、各国でコカ・コーラを広めるという目的のために前衛的な販売戦略を取っています。ではなぜ多額のお金を払ってまでIOCやFIFAと契約するのかというと、大会を盛り上げるとかいう日本的な発想ではなく、「全てはビジネスのため」という一言に尽きます。

今東京五輪のスポンサーで、(※)55社のうち42社が国内企業なんですけど、中には目的がないまま五輪のスポンサーをしているところもあると思うんです。何のためにやっているのかがわからないと中途半端なコミュニケーションしか出来ないですよね。

明確な目標を持って、何のために五輪をスポンサーするのか、五輪を使って自分たちのビジネスをどう考えるのか、どう変えるのかという目的がない限り、スポンサーをすることは意味ないのかなという風に思います。

※2017年5月30日にリクルートホールディングスが新たにオフィシャルパートナー契約を結び、東京五輪のスポンサー企業は56社、うち国内企業は43社になった。

 

共感を生み出して商品を売る!

我々が大事にしているのはマーケティングなのですが、それは消費者一人ひとりのマインドに入ることを言います。

マインドに入る上でいちばん大切なのは、人々から共感を得ることなんですね。

コカ・コーラはスポーツコンテンツは人々の共感を生みやすいものだと思っております。

五輪やワールドカップでは「自分の応援するチームに勝ってほしい」「自分の好きな選手が活躍してほしい」と誰しもが思いますけど、それが結局共感を生むわけです。

例えば、サッカー日本代表が勝つと人々が盛り上がってキリンさんのビールが売れる、これが共感ですね。

我々はその共感というものを大切にしていきたいなと思っております。

 

スポーツマーケティングにおける5つの意識すべきこと

まず、消費者が求めて共感するようなものを考える、というのが1番の大事なポイントになります。

次にコカ・コーラは1928年から五輪のスポンサーをしている分、ベタなことはしたくないので、常に新しいことをどんどん生み出す、コンテンツ活用のパイオニアであり続ける、というのが2つ目に大事なポイントになります。

あと、コカ・コーラシステム一丸となって使えるアセット(資産)というのをきちんと使っていくのが大きな考え方としてあります。

その中で僕達がスポーツマーケティングにおいて絶対意識している項目が5つあります。

①保有しているアセットは常にベストな状態で活かすこと

②必要なものは買い、買ったものは使うこと

③アセットの使用率は「OESP」の順に高めること

④パートナーとの関係保持と直リンクの徹底

⑤ローカルの(※)ボトラー社との連携を深め、売りに貢献させること

 

まずはじめに①ですが、ある選手と契約してもその選手の鮮度を大切にして露出しなければ意味がないんですね。

そして例えば野球選手でいくと冬のオフシーズンの間もその鮮度を保たなければならないというところがあるので、僕らは敢えて選手をどんどん担ぎ出していく。そうすることで選手にも喜んでもらえるという部分があるので、絶対に新鮮な状態でアセットを使っていくっていうのを心がけています。

②については僕らには1:5の理念というのがあります。例えば5,000万円の予算があれば、5,000万円のコンテンツを買うのではなく、1,000万円のコンテンツを買い、残りの4,000万円を使ってそれを最大限有効に使えるようにする。そのような形で身の丈にあったものをとことん使うというのが正しいマーケティングだと思っています。

次に③についてですが、「OESP」とはOwned、Earned、Shared、Paidの頭を取っています。「0wned」とは弊社のtwitter、facebook、配送トラックなど、お金をかけないで作れるメディアを活用することをまず初めに考えていくということです。次にEの「Earned」。PRを通じて消費者やユーザーが情報の起点となり、SNSなどで共感を広げていくメディアについて考えていきます。その次のSは「Shared」で、例えばマクドナルドさんと共同プロモーションを展開する形での露出など、他社とパートナーシップを結んで一緒に行うことについて考えていきます。最後にPの「Paid」。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webの広告やイベントのスポンサーシップなど、企業が費用を払って広告を掲載する従来型のペイド(Paid)メディアについて考えます。この「OESP」の順に我々のマーケティングを考えていくというのが今の前提的なルールとなっています。

そして④ですが、コカ・コーラの場合は、基本的に代理店さんを通さずに直接選手と契約しています。

マネジメント会社の担当者に電話して契約したい旨を伝える。そのほうが代理店さんが間に入ることによって余分なお金を取られる必要がなく、お互いの意向が伝わり、時間も短縮できるので、良いんです。

最後に⑤ですが、僕らは日本全国バランス良く見なければいけないので、ニュートラルな状態でみんながハッピーになれるようなアセットとうまく契約し、ボトラーを満足させるというスポーツマーケティングをやりながら、一本でも多く売っていく、というのがぼくたちの日々の活動です。

※日本のコカ・コーラは、原液の供給と製品の企画開発や広告などのマーケティング活動を行う日本コカ・コーラ株式会社と、製品の製造・販売を行う各地域のボトラー社や関連会社などで構成されている。

2020を見据えたスポーツマーケティングとは

私達が最近パートナーシップを発表したのがアメリカのタイム誌の「最も影響のあるティーン・エイジャートップ30」にも選ばれている16歳のNY在住のフリークライマーの白石阿島さんで、彼女も2020年東京五輪を目指しています。

あとは昨年リオ五輪に出場した高校2年生の水泳選手、今井月さんやスケートボードの西村碧莉さん・詞音さん姉妹。この2人もスケートボードでメダルを取ってくれるんじゃないかということで、他社に先駆けて契約しました。

1本でも多くコカ・コーラをメインターゲットであるティーン・エイジャーに売るという目的のために、ティーンが共感しやすい彼女たちと契約する、というのが今、我々がとっている手法です。私たちは2021年以降を見据えて契約を結び、お金を投資しています。

あとは北島康介さんには2005年からずっとパートナーシップ関係を持っており、引退してからもCOO(コカ・コーラ・チーフ・オリンピック担当・オフィサー)という役割で活動してもらっています。

私たちは目的と共感、この2つが合わさるとスポーツマーケティングというのが正しい形で力を発揮できるのかなと思っております。

我々の製品をスーパー・コンビニ・自動販売機などで購入してもらう、という目的のために、人々が最も共感しやすいスポーツに多額のお金を投資する。それが私たちがやっているスポーツマーケティングのあり方です。