東京ユナイテッドがユース年代を構築。そこから見える“クラブ理念“の重要性

2018.03.29 竹中 玲央奈

福田雅氏、小山善史氏

写真提供:東京ユナイテッド

 

文京区を拠点にしてJリーグ入りを目指す東京ユナイテッドが、同じエリアで活動するジュニアユースのクラブチーム・ソレイユFCとパートナーシップ契約を締結した。その背景を、前編に引き続き、両クラブの代表である福田雅氏と小山善史氏に伺う。

 

勉強を奨励する理由

-練習の前に学習の時間を設けるというところが非常に特徴的な取り組みだと思います。

小山:東京ユナイテッドの考え方とソレイユFCの考え方の中で、“学び”  ”座学”の部分とサッカーの部分を両立していくということはとても重要な「クラブの理念」となります。簡単に言えば「サッカーでも勉強でも一流を目指す。」そういう意識を子供達には持ってもらいたい。習慣の中で意識を根付かせるということですかね。

良い意味で子供たちには欲張りになってほしいと考えています。「あれもやりたい」「これもやりたい」で良いんです。小学校低学年でサッカーを始めた時、子どもたちは10人中10人が「プロになる」と言っていたと思います。でも、選抜のセレクションで落ちてしまったり、チームでレギュラーになれなかったり…という経験から子供なりの挫折感を感じて夢を諦めていく。ただ、小中学校の段階で諦める必要は全くないと思うんです。子供達はいつまでも良い意味での欲張りであってほしいし、色々なものを求めてほしい。たくさんのことを吸収することによってその先の未来が自分自身で開いて行くことができると思います。だから、その術をつけましょうよ、と。

 

福田:サッカーをやる前に義務教育として勉強をしなければいけません。日本で生きる以上は最低限の責任は果たしなさいと。そういう意味で、サッカーがどんなに上手くても勉学をおろそかにして良いわけはないんです。サッカーに臨む、やりたいことをやるという権利を行使する時には常にそこにつきまとう義務を果たさないといけない。その中で“自分の意思で学ぶ”という習慣をつけさせたいと思っています。

 

小山:「何でサッカーをする前に勉強をするのですか?」という質問に対して「いや、逆になんで勉強しないんですか?」と子どもたちが言い返せるくらいになってほしいし、子供達が大人になって「過去を振り返って何が影響してる?」と聞かれた際、「間違いなく、東京ユナイテッド・ソレイユにいたあの3年間ですよね」とって言ってくれるようにしたいなと。私の思いとしては、極めてシンプルにそういうところ。どのクラブチームに入っていても一緒だったよね、ではなく、「あそこにいたからこの習慣が身についていて、今でもそれはどうしてもやらないと気が済まない」というように、“学ぶ“という行為をし続けないと落ち着かない、というように子どもたちには育ってほしいなと考えています。

 

理念に共感した選手に集まってもらいたい

-選手を集めるためのセレクションというものはどういった形で行うのでしょうか。

福田:総合的な形になります。もちろんサッカーも見ますが、最終的には親御さんと子供と面接をします。会ってみて「僕らはこういう人間だけど、一緒にサッカーを頑張れますか?ちゃんと勉強もしますか?」と。

 

小山:選手を集めるための告知もしますが、それは他のクラブと同じ形です。他と違う部分を押し出したゆえに、応募者の方に“構えられて“しまってもいけません。ですから、基本的には子供たち誰もが見るセレクション情報のところに募集をかけます。内容もオーソドックスに練習会、体験会、セレクションという形です。その中で実際に来てもらった時には親御さんにも子供にも「我々はこういうクラブですよ」というの伝えて、ちゃんと理解してもらおうと思っています。そこでしっかりと説明をして、クラブの理念を理解した上で、覚悟を持って受けてほしい。そればかりは活字だと伝わらないので。しっかりと説明し、選手たちには納得した上で高い志を持って入ってもらいたいですね。

 

福田:正直に言いますと、万人に理解されるようなクラブを作ろうとは思っていません。常々言っていますが、スポーツクラブにおいて地域性と強さという軸以外で他との差別化を図れるものはなかなかありません。その中でもう1本、「クラブの理念」という軸は必要だと思っていますし、それを明確に設けて他クラブとの差別化を図りたいと思っています。それはトップのカテゴリだけではなく育成年代でも一緒であり、もっと言えばアカデミーの方が僕らの理念を体現しやすいと考えています。トップチームでも、基本的な人間性や思考力が低い選手は獲らない方針です。プロチームとして勝たなければいけない中では「素行不良でも点が取れるストライカー」を獲ることもあるかもしれません。カテゴリが上がれば理念はぶれる可能性がある。ただ、クラブの理念を体現して行くのはピッチ上の選手だけでなく、クラブを支える人間でもあるので、下部組織で選手を育成する過程、この取り組みにおいてそういったフロントに立つ人物も育てていきたないと考えています。

クラブとして続いていく中で大事なのは、人が変わっても組織はあり続け、人が変わっても受け入れられ続ける理念があるということ。理念を体現し続けるという点から、20年後のこのクラブを支える人は誰なんだろう?と考えた時に、ジュニアユースとかユースから生まれて欲しいと考えているんです。下部組織と言ったら”トップにあげる選手を育てる”という考えだと思うのですが、クラブの経営陣を育てるアカデミーということを掲げているクラブはなかなか無いと思います。

 

アカデミーの価値がわかるのは30年後

-サッカー選手としてトップに輩出する、ということを謳わなければいけない空気感もあるように思います。

福田:逆に言うと、トップに上がれなかったらそのクラブを、というのは違うと思います。僕達はどちらかというとクラブを背負って行く人間を育てるアカデミーを作りたい。もちろんうまい選手を育てられるに越したことないのですが、強さを追求する中で本当の学びがある。その過程を通じて人を育てたい。

 

-クラブの軸でいうと地域性と強さと理念ということになると。

福田:そうですね。クラブによってそれぞれだと思いますが、僕らには「サッカーを通じて人をつくる」という理念があり、そこで育った人間が日本の社会を変え、日本の社会を背負って未来をつくっていく。そんな形で日本社会におけるサッカーのステータスを上げていきたい。教育のコンテンツとしてスポーツというものは机で学ぶことと引けを取らないと思っていますし、それを訴えていくような存在でありたいんです。

アカデミーの価値がわかるのは30年後かなと思います。今の12歳の子ども達が42歳で僕の歳になる。ただ、その時の状況を僕自身が見られるかというとそれはできないと思います。ですから、これは将来への投資です。もしかしたらリスクしか背負っていないことになるかもしれないですが、そのリスクを飲み込んででも将来に投資をしていかないと、組織としての成長や未来はないと考えています。小山さんが二十数年間かけてソレイユFCというクラブを作ってきたわけですが、我々はその時間をいただいているという形になります。ビジネスの世界では時間を買うためにM&Aをしますが、それと同じように小山さんが時間をかけて作ってきたものを買わせて頂く、という感覚でもあります。育成年代のクラブ作りを全部自前でやるとなったら何年掛かるか分からない中で、小山さんが心を込めて大切に育てられたクラブへ相乗りをさせて頂くわけですから、そこに対する責任と覚悟は大きいです。

 

-おっしゃるように、ビジネス、買収に似ているなと思いました。

小山:トヨタとダイハツの関係に近いかなと。ダイハツはずっと軽自動車に特化して、顧客1人1人と向き合ってきた。その中でトヨタという名前を得ることで通れる道も増えてくるし、今までやってきたものがさらに良い方向に向かうと。その感覚ですね。パートナーシップに近いのかなと。僕らがこれから先に突破していくためには10年20年はかかるかもしれなかったところ、東京ユナイテッドと一緒になることによって1日で突破できてしまうという側面もある訳です。ただし、自分たちで作り上げてきた顧客や子どもたちに対するアプローチは今後も続けていきますし、今後もやり方は変えない。そういった部分も絶対に必要なはずですし、実際に話し合って意向が合致しました。もちろん不安はありますが、ワクワクしますね。

 

-最後になりますが、改めてこの取組の価値や思いについてお聞かせ下さい。

小山:やっぱり、このクラブチームに来てくれる子どもたちにとって大事になってくるのは「両クラブが組むことで生まれる価値とクラブ理念」の説明になってくると思うんです。面談という形式で、時間にすれば10分15分なのですけど、そこに全てが凝縮されている。一般的なクラブチームのセレクションとは異なるということを親御さんに話して、親御さんが生の声で子供達と話し合って、その中で子供なりの決意を示して欲しいです。だいたいの子どもたちが小学生6年生の12月や1月でクラブチームを決めるのですが、4〜5月になって「中学生ってこんなに忙しいのか」と気づくんです。時間の早さもすごく変わる。そこの部分を僕らはうまく説明しながら、「忙しいながらも欲張りになってほしい、夢を消して行くのではなく選んでいってほしい」と伝えたい。ここが1番重要だと思っているので、理念に共感してもらえれば嬉しいです。

 

福田:今回は僕も人見(秀司 東京ユナイテッド共同代表)も言っていることなのですが、週2〜3回の塾に対して月に3〜4万払うことが普通になっている一方で、サッカーは週4回も活動しているのに月1万円程度。こういった現状があると思います。つまり、サッカーのバリューが低いということですよね。だから、東京ユナイテッドソレイユでは価格を上げたいと思っています。そこに価値を見出してほしいんです、と。これは高飛車になってるわけではありません。僕らも責任を持ってちゃんとした指導者を呼びますし、僕自身も責任を持ってコミットするつもりなので、そこは適正に価格を上げたいなと。

その中で1人1人の子どもたちの親御さんと向き合います。これは小山さんが重要視していたことですし、何よりもどんな人や組織かがわからないまま契約関係に入ると不信感も生まれて、揉める要因にもなります。だけど、最初に「すみません、僕らは完璧な組織ではないし完全な人間でもないです。ですが、僕らのできることは誠心誠意やらせてもらいますと。鼻についたらそれははっきり言ってください」と伝えます。もちろん、それでもお答えできないかもしれない。ただ、僕らは僕らなりに応えようとする姿勢を貫きますし、そこに満足してもらえるかどうかが重要なのかなと。

これは何百億、何千億のお金を動かすの同じことだと思います。今回は何百億、何千億の金にも代えがたい子ども達というのを引き取るので、慎重にならないといけないわけです。子どもの教育や子どもの一生ってお金では換算できないし、お金で責任を取れないからこそ難しい。その中でも納得していただいて、満足してもらえるような組織にしていきたいと思っています。