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バルサの小6から受けた「衝撃」。小坂雄樹が語る、分析官の本音

2021.03.16 / AZrena編集部

横浜F・マリノス、浦和レッズ、モンテディオ山形、ベガルタ仙台の4クラブでコーチを務めた小坂雄樹さん。分析官の役割も務めた小坂さんは、「分析力で、日本が世界に遅れを取っているのは明白」だと言います。プロの現場で感じた本音を伺いました。

横浜F・マリノス、浦和レッズ、モンテディオ山形、ベガルタ仙台の4クラブでコーチを務めた小坂雄樹さん。筑波大学大学院卒業後に、“いきなり”岡田武史さん(元日本代表監督)率いるマリノスに加わり、Jリーグでのキャリアをスタートしました。

分析官の役割も務めた小坂さんは、「分析力で、日本が世界に遅れを取っているのは明白」だと言います。その分析力を高めるために必要なことは何なのか。プロの現場で感じた本音を伺いました。

(聞き手:竹中玲央奈)

 

経験の浅いままJクラブへ。クラブハウスに宿泊も

私は福島県出身で、高校まで本格的にサッカーをしていました。大学ではサークルでサッカーを楽しんで、卒業後は就職。1年間、社会人として仕事をしました。ただ、学生時代に教員免許を取得していたので、学生のサッカーの指導者になりたいなと。その勉強をするために、筑波大学の大学院に入りました。

筑波では、小井土正亮(筑波大学蹴球部現監督)と蹴球部での指導も行ないました。JFA(日本サッカー協会)のS級ライセンス(協会公認の指導者資格の最高位)の講習会に、補助学生として参加したこともあります。当時の受講生は、ラモス瑠偉さんや風間八宏さん。名高い方たちばかりで、緊張しましたね(笑)。

 

そこでは、樋口靖洋さん(現在はFC琉球監督)ともお会いしました。その年のJリーグは、岡田武史さん率いる横浜F・マリノスが優勝して、来季のACL(アジアチャンピオンズリーグ)への出場権を獲得。クラブの強化に向けて、分析を担うアシスタントコーチが必要になり、マリノスに行くことになりました。

筑波の蹴球部でも、コーチという立場で分析は行なっていました。ただ、プロ選手の経験がなく、アマチュアでの指導歴しかない私が、いきなりJクラブのスタッフに。しかも、元日本代表監督のもとだったので、力になれるのかが不安でした。

 

最初は経験がない分、とにかく仕事に時間を割いていました。クラブハウスに泊まったこともありましたね(笑)。寝不足になってしまい、練習に集中できていないこともしばしば。

岡田さんは人を良く見ている方でした。当初は「お前はコーチだからな。まずはピッチの上で起きていることを見なさい」と言われました。時には練習に混ざったり、練習試合に出ることもあって。私にとっては重労働でしたが、それにも狙いがあったのだと思います。

 

ブレイクを遂げた坂元達裕の獲得秘話

マリノスには14年間在籍し、その後は浦和レッズ、モンテディオ山形、ベガルタ仙台でコーチを務めました。多くの監督のもとで働きましたが、岡田さんや木山隆之さん(元ベガルタ仙台監督)、大槻毅さん(元浦和レッズ監督)は、特に分析を重要視していました。

木山さんは山形時代、東洋大学からドリブラーの坂元達裕(現在はセレッソ大阪所属)を獲得しました。私がモンテディオに加わる前の話ですが、練習参加の時には、初日以外はパフォーマンスが良くなかったそうです。それでも木山さんは、「こういうのはファーストインプレッション(第一印象)だ」と言って、彼を獲得しました。

私はキャンプで初めて坂元のプレーを見て、度肝を抜かれました。クラブにすぐに適応して、J2全試合に出場。周囲の想像を超える活躍でした。

翌年には、J1のセレッソに移籍。私と木山さんはベガルタに移りましたが、セレッソ戦では、彼に一度もドリブルで抜かせないようにしました。フェイントのパターンなどをすべて選手に伝えたんです。これも分析官としての重要な仕事ですね。

その年に三笘薫(川崎フロンターレ所属)がブレイクしましたが、彼はマンマークして、パスコースを防ぐしかないです。ボールを持たせたら、もう止められないので(笑)。

 

バルサの小学6年から感じた、世界の分析力

近年は、トラッキングデータなどの発達によって、プレーが可視化されています。得られる情報が多くなった分、選手や監督に提供する内容の取捨選択をしなければいけません。また、情報を適切に扱うために、私たちの分析力を高める必要があります。

それは選手も同じです。以前、スカパー!では「バルサTV」という番組がありました。育成年代からトップチームまで、FCバルセロナの情報を凝縮。その番組で、小学6年の選手のインタビューを見た時に、衝撃を受けました。

「今日の試合はどうでしたか?」という質問に対して、「試合前に監督からこのような指示があった」「相手が違うプランで来たので、選手でやり方を変えた」「ハーフタイムに監督からの指示があって、修正して勝つことができた」と。

 

当時、日本では「世界にはこういうトレーニングがあるんだ」という話をしていましたが、彼らはその先を行っていたんです。インタビューでの発言から、分析力の高さを感じました。

日本の選手の技術や体力は、昔より上がってきていると思います。ですが、分析力では世界に置いていかれています。試合の中で何が起こっているのかを見て、分析して、実践する。FCバルセロナの選手は、それを試合後に言葉でも表現できるんです。

 

「頭」を鍛えることで世界との差は縮まる

Hudlを使い始めたきっかけは、2014年にマリノスがシティ・フットボール・グループ(世界的なサッカー事業グループ。プレミアリーグの強豪、マンチェスター・シティの親会社でもある)に加わったことです。

マンチェスター・シティでヘッドアナリストを務めていたエドワード・サリー氏が、マリノスにHudlを勧めてくれました。存在自体は知っていましたが、日本には個人で使っている人はいても、クラブで使っている事例がなかったんです。

 

新しいツールを取り入れる時には、「使いこなさないといけない」というハードルがあります。使い方が「分かる」だけではダメで、使いこなして選手に落とし込んでいかないと、何も生まれません。現場にいると、学ぶ時間もなかなか取れないですが、マンチェスター・シティやHudlのサポートもあって身についていきました。

最初は懐疑的ではあったものの、すぐに「もっと早く使えば良かった」と思いました。正直、映像編集の延長くらいにしか考えていなかったんです。映像やデータがスムーズに共有できますし、場所を選ばずに見られる。選手自身の分析も捗るので、分析力の向上に繋がります。

 

コロナ禍ということもありますが、テクニカルやフィジカルの分野は、コストカットされやすい部分だと思います。どれだけ選手の強化に結びつくのかが、説明しづらかったんです。最近はテクノロジーの向上によって、それを理解できるクラブが増えてきているように感じます。

私が加わったクラブには、契約の時に「Hudlを導入してほしい」と言っています(笑)。分析力で、日本が世界に遅れを取っているのは明白です。クラブやリーグがその問題意識を持てば、日本サッカー全体のレベルアップも図れます。

Hudlは、映像やデータを共有するだけでなく、コミュニケーションツールとしても使えます。選手と一緒に見て、考えて、それを言葉にする。心・技・体に加え、頭も鍛えることができれば、世界との差は縮まるのではないかと思います。

 

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