契約・移籍交渉から試合分析まで。選手に“夢”を与える仲介人の裏側
スポーツビジネスで活躍するための最速講座として、2010年からスタートした「MARS CAMP(MARSキャンプ)」。2019年2月12日(火)の社会人コースでは「クライアントはアスリート!選手を支える仕事」をテーマに、約2時間の講義が行なわれました。
プロスポーツ選手の活躍の裏側には、選手の契約や移籍の交渉、メディア出演などをサポートする「仲介人」の存在があります。サッカー界では日本人選手の海外進出や、大物外国人選手の来日が相次いでおり、今後はますます仲介人の需要が高まることが予想されます。
そんな知られざる仲介人のビジネスモデルを、MARS CAMPの卒業生でもあるKDNスポーツジャパンの関根圭祐氏が明かしました。
エージェントは資格不要で誰でもなれる!?
関根氏は大学在学中にJリーグクラブなど、スポーツ関連のインターンシップやアルバイトを経験し、2015年に株式会社KDNスポーツジャパンがサッカー選手の仲介人業務を開始したと同時に、インターン生として立ち上げに従事した。そして、翌年の2016年に正社員として入社し、(※)JFA仲介人に登録している。現在は主にサッカー選手の契約や移籍に関する業務と、マネジメント業務を行なっている。
※選手の契約や移籍の交渉を行なうエージェントになるためには、日本サッカー協会(JFA)に登録しなければならない
業務内容としては主に「エージェント」と「マネジメント」の2つがあるが、現在の比率はエージェントが約6割、マネジメントが約4割とのことだ。主にエージェントは選手の契約や移籍の際に発生した契約金、マネジメントは選手がメディアなどに出演した際の出演料から、数パーセントを仲介手数料として得る形となる。
2015年3月まではFIFA(国際サッカー連盟)が「選手エージェント制度」を設けており、エージェントになるためには資格を取得しなければならなかった。しかし、その制度が撤廃となり、4月から新たに「仲介人制度」が導入された。これによって、JFA(日本サッカー協会)に登録料を支払えば、誰でもエージェントとして協会に登録できるようになった。
関根氏いわくエージェントは「使われる立場」だが、選手から移籍や契約の交渉の際に使われるケースと、クラブから外国籍選手の獲得の際に使われるケースの2つがある。2019年から、Jリーグではクラブの外国籍選手の登録が無制限(試合エントリーはJ1が5人、J2およびJ3が4人)になり、今後は仲介人がクラブの“外部人事”として機能するケースが増えていくことが予想される。
現在、Jリーグの大半の外国籍選手はブラジル人か韓国人だが、KDNスポーツジャパンではアメリカにも拠点があることの強みを生かして、今後はMLS(メジャーリーグサッカー)の選手の獲得にもチャレンジしていくとのことだ。
手厚いサポート体制と、選手移籍の裏側
KDNスポーツジャパンでは現在、7人のJリーガーとクライアント契約を結んでいる。
千明聖典(SC相模原)
工藤壮人(レノファ山口)
高井和馬(レノファ山口)
小林祐介(柏レイソル)
中野誠也(ジュビロ磐田)
ンドカ・ボニフェイス(水戸ホーリーホック)
金子大毅(湘南ベルマーレ)
KDNスポーツジャパンの強みとして挙げられるのは、エージェントやマネジメント以外にも選手のパフォーマンス向上を支える取り組みを行なっていることだ。契約選手には毎試合、選手のプレーをまとめたハイライト動画と、細かなデータを記録したチェックシートをもとに、フィードバックを共有している。
フィードバックは、選手によっては5分〜10分程度で終わるが、関根氏は「1週間に1度フィードバックをするだけでも、選手のパフォーマンスは安定してくる。クラブができない部分をカバーしているので、選手からのリアクションも良い」と、その成果を語っている。
また、選手個人だけでなく、試合全体にフォーカスした「試合評価シート」も作成している。このシートは、選手へのフィードバックはもちろんだが、関根氏が各クラブの傾向や特色を探るためのツールでもあるとのことだ。
小林祐介選手は2017年12月に、中学時代から所属していた柏レイソルを離れ、1年間の期限付き移籍で湘南ベルマーレに加入した。この移籍の背景には「1年でもいいから、曹貴裁監督(湘南ベルマーレ)のもとで湘南スタイルを体感して、柏に還元したい」という小林選手の意思があったという。
移籍希望の意思を双方のクラブに伝えたところ、柏レイソルは残留を希望し、湘南ベルマーレは獲得を熱望した。ここでエージェントの交渉術が試されるが、関根氏は何度も交渉の場に足を運び、選手の意思を相手の“情”に訴え続けることで移籍が実現している。
夢を与える選手たちに、夢を与える仕事
関根氏は20歳からインターン生として仲介人の業務に携わっているが、「この仕事は50歳や60歳になった時に、より経験値が活きてくる。そういった意味では、20歳からキャリアをスタートできたことは大きい」と、自身にアドバンテージがあると考えている。
日本サッカー界においては前述の通り、JFAに登録料を支払えば誰でもエージェントになることができる。登録後は、選手やクラブから選ばれるための競争が待ち受けているものの、エージェントへの門戸は常に開かれている。だからこそ、思い立った時にすぐ挑戦できる職業でもある。
プロスポーツ選手は子どもたちに夢を与える存在だが、その選手たちを支える仲介人の仕事は「夢を与える選手たちに、夢を与えること」だと関根氏は捉えている。KDNスポーツジャパンでは、クラブに対して選手の契約や移籍の交渉を行なう際に、選手側に立つことをポリシーとしている。選手ファーストのビジネスモデルで、まさに選手たちに夢を与えているのだ。