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ガールズフェスタはなぜ成功したのか?名古屋グランパス×エアアジアの仕掛け人に訊く

2020.01.29 / 小田 菜南子

細谷竹伸さん、吉田典世さん

その日、豊田スタジアムは真っ赤に、いやピンクに染まった。

2018年10月のホームゲームで行われた「エアアジア presents ガールズフェスタ」では、15,000人の女性サポーターにコーラルピンクの限定ユニフォームを配布。明るいカラーに身を包んだ女性たちの写真は、SNSを通じて他クラブまで波及し、“女子サポ”の注目を集めました。チームとしても大きな成果につながったことは、翌年の同イベントの開催がシーズン序盤に前倒しされたことからも伺えます。

このイベントを仕掛けた株式会社名古屋グランパスエイトのマーケティング部・吉田典世さんと、エアアジア・ジャパン株式会社コマーシャル本部・細谷竹伸さんに、施策の背景を伺いました。

LCC×Jクラブは国内初

――2018年から始まった両者のパートナーシップは、国内LCCとJリーグクラブの初の組み合わせとして話題になりました。エアアジア・ジャパン(以下、エアアジア)としてはどのような期待があったのでしょうか?

細谷:エアアジアは中部国際空港に拠点を置いている(※)唯一の航空会社です。地域の皆様に愛される航空会社になりたいという想いのもと、地域密着の取り組みを目指すなかで2018年のパートナー契約に至りました。

※エアアジア・ジャパンは中部国際空港第2ターミナルにオフィスを構えている。

細谷竹伸さん

吉田:冠試合なども行っていただくなかで、私たちとしてもエアアジアさんの発信力の強さを感じているところです。

細谷:愛知県において、すでに確固たる地位を築いている名古屋グランパスさんとの取り組みは、我々にとって非常に大きなものです。地元チームに強い愛情を持つ方々に、エアアジアも同じように愛される航空会社を目指していきたいと考えています。

新しい路線の就航イベントには人気のグランパスくんに参加してもらったり、エアアジア・ジャパンの機内誌で名古屋グランパスの選手を紹介したりと、チームを応援する以外にも様々な形でコラボレーションを行ってきました。

――この女性向けイベントはどのようなきっかけで生まれたものなのでしょうか

吉田:名古屋グランパスの女性観客数の割合は全体の約25%です。男性の方が多いのは間違いないのですが、ホーム入場者数が増加する中でも安定して3割を記録しています。

その中で近年、女性が持つSNSの発信力はめざましく、彼女たちに特化した施策の必要性を感じていました。2018年からパートナー契約をさせていただいているエアアジアさんにご協力いただけないかと思い、我々からお声がけをしました。

細谷:愛知県に拠点を置いて、これまでの航空サービスとは違う、もっと気軽な旅を提供したいという当社も、若い女性が主たるターゲットの一つと捉えていて、このガールズフェスタの目指しているところと目的が重なるところが大きいと思い、協賛させていただきました。

グランパスの試合は4万人にアピールできる場所

吉田:ご協賛が決まってからは、イベント内での具体的なコンテンツの企画に移っていきましたが、最初にお持ちした内容からだいぶボリュームアップしましたね。

細谷:はい、盛りに盛っていきました(笑)。

吉田:エアアジアの客室乗務員の方たちのトークステージを実現できたことは嬉しかったですね。豊田スタジアムの西イベント広場を、赤い制服を着た客室乗務員の方たちが笑顔で歩いてくる。スタジアムは普段男性が多い場所なので、華やかな印象を強烈に与えられたのではないかと。

細谷:バズーカで無料航空券を打ち込むというのも、最初はできないよと言われたんですが、なんとかゴリ押ししまして。

吉田:そうですね。オペレーション上の理由で実現できなかったものもありましたが、エアアジアさんと名古屋グランパスで目的や、やりたいことの調整を図れたことも成功の一因だったと思います。

細谷:イベント試合は、その場にいる最大4万人へのアピールの場なんですよね。正直、テレビCMや交通広告では、効果を図りにくい側面もあります。でも、イベントは実際にそれだけの人数が目の前にいる。その場をいかに使うかを突き詰めて考えて、実行する必要がありました。実際、普段以上にエアアジアの存在感が示せたのではないかと思っています。

徹底したデータマーケティングで突き詰める

――大好評につき、2019年には2年目を迎えたガールズフェスタですが、コンテンツの見直しにはデータを活用されたそうですね。

吉田:ガールズフェスタに限らず、イベントを実施した際には、必ず試合後にお客さまにアンケートを取って満足度を調査しています。コンテンツごとの認知度まで分析し、あまり人が集まらなかったものについては見直しを図るというPDCAを回しています。

細谷:先ほどお話ししたバズーカも、2018年のイベント来場者全体の35%が認知しており、満足度も高かった。他のイベントと比較しても、35%というのはとても良い数値なんです。

吉田典世さん、細谷竹伸さん

吉田:全体的に満足度の高いコンテンツを作れた一方、もちろん改善が必要なものも数値を出すことで浮き彫りになります。やはり事前告知がうまくできなかったものに関しては、当日の認知、満足度も低くなる傾向にありました。エアアジアさんから、名古屋グランパスから、選手からの三方から発信ができることが理想ですね。

細谷:配布物を配るだけ、ということだと、なかなか印象に残りにくかったようですね。

吉田:そうですね。あとは、やはり現地からの来場者の方々の発信は力があります。それを引き出せたことも、ガールズフェスタ成功の大きな要因ではないかと。女性の皆さんのとても素敵な笑顔が、たくさんSNSにあがっていました。

――ガールズフェスタ限定の前開きのユニフォームは、サポーターのSNSを中心に他クラブのサポーターへも認知が広がりました。

吉田:今まで、入場ゲートでの配布物は鬼門でして……。名古屋・愛知県の方の県民性なのか、スタジアムで配られたユニフォームなどは、開封せずにきれいなまま持ち帰る方が多かったんです(笑)。その場で着用されることがなかなかなく、試合中もカバンの中のままで。

細谷:ガールズフェスタ限定のユニフォームは、当日の試合が終わった後の名古屋駅でも見かけましたし、その後に別の試合で着ている人も多かったですね。

吉田:そうですね。配布枚数も限定されていたので、特別感も出せたのではないかと思います。女性の方はユニフォームを着用する際にお化粧がついたり、髪型が崩れることを気にする方もいると聞き、あえて前開きのベースボールユニフォームを取り入れました。いろいろな着こなしができることが、人気につながったようです。

――2018年はピンク、2019年はクリーム色。チームカラーではないことは問題ではなかったんですか?

吉田:あえて外してみました。女性が一番きれいに見える色はなんだろう、という視点を大切にしました。まず最初に、ユニフォームのデザインだけで検討して、数種類のサンプルが出来上がった時点で、実際に着用して写真写りを確認します。写真を撮って一番可愛く映えるデザインにするんです。

細谷:公式ユニフォームを着ている女性の方が少なくて、申し訳なかったくらいです。

吉田:女性を元気に、明るく、笑顔にしたい!というのがこのガールズフェスタのテーマですから、大成功です。

吉田典世さん

グランパスが目指すマッチデーエクスペリエンスの向上

――ガールズフェスタだけでなく、男祭りやキッズワンダーランドなど、近年はイベント試合が増えていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

吉田:3年前までは年間数試合ほどでしたが、今では毎試合、イベントごとに予算をつけて取り組むようになりました。CMやポスターも、イベントのテーマに合わせて打っています。広報としては、“試合の多様化”を戦略として掲げています。国宝をイメージしていただきたいのですが。

――国宝ですか?

吉田:国宝は、それだけでも価値があるもの。最初はそれだけで人が集まってきます。でも、徐々に限界がくるので、周囲に観光スポットを作ったり、ガイドをつけて説明を充実させたりすることで、国宝を見ることに+αの価値をつけていく。

サッカーの試合も、本来はそれだけで十分価値があるものですが、勝敗だけに頼っていると、負けた日は全体の満足度がかなり落ちてしまう。

たとえ負けても、試合以外でのイベントは楽しかった。グッズを買うことが楽しかった。グルメが美味しかった。みんなで声を出して応援したのが楽しかったから、満足度は40%。だから、またスタジアムに試合を見に行きたい。そう思っていただけることを目指しています。イベントを通じて、1日を楽しんでもらう「マッチデーエクスペリエンス」を高めるのが目的です。

細谷:それで言うと、ただ我々が名前を知ってもらうための「エアアジアデー」というネーミングだけでは、少しセンスがないのかもしれないですね(笑)。

吉田:いえいえ、おかげさまで今はリーグ戦のホーム全試合でパートナー様がついてくださるようになりました。

細谷:どちらかがやりたいというだけでは企画は実現しないですし、そこにお客様のメリットがないと長続きしない。Win-Win-Winでないといけませんよね。エアラインのパートナーだから、エアアジアを選ぶというだけでもありがたいですが、エアアジアを選ぶことでアウェーへの旅行費用が浮く。そのお金でグッズを買う。いい席で観戦する。そういうところで、お客様にもメリットを実感していただければ、良い関係性が続いていくと思います。

吉田:こちらとしても、ガールズフェスタに参加してくださったエアアジアの客室乗務員の方が、昨年以上に楽しんでくださっている姿を拝見すると、参加者全員で楽しい空間をつくれたのではないかなと嬉しくなりますね。

細谷:それが実際の宣伝効果にも繋がっているんです。名古屋グランパスさんの遠征先としては、中部国際空港から札幌と仙台への便が出ています。もちろん全ての乗客に搭乗の目的を確認するわけにもいきませんが、旅行代理店経由で試合名を明記したパッケージツアーの売れ行きも伸びています。

ー今後の展望を教えてください。

吉田:次の実施が決まれば3年目になりますから、今まで以上の盛り上がりを目指したいですね。

細谷:そうですね。ここまでサッカークラブと密接に取り組みをしている航空会社は他にないと思うので、もっと一緒に愛知県、中部エリアを盛り上げていきたい。たとえば、うちの客室乗務員がPKをするとか……。

吉田:それは私も見てみたいです!ファミリーの方も一緒に楽しめる企画をもっと練っていきたいですね。誰かに話したくなるようなイベントを作りたいです。

細谷:過去にはマスコットのグランパスくんが、エアアジアでタイに行って、名古屋グランパスの海外パートナー様の海外拠点を視察しに行くという企画もありました。それくらい、両社一体となるイメージをより訴求していきたいですね。

<了>