menu

1部昇格&代表復帰へ。元ヤングなでしこのエース、田中陽子の現在地

2016.05.24 / 竹中 玲央奈

田中陽子

中心選手としての責任感

日本で開催されたU-20女子ワールドカップで、田中陽子は"ヤングなでしこ"の一員として6得点をあげ、チームを銅メダルに導く活躍を見せた。決して大きくはない体つきながら抜群の技術とキック精度で見るものを魅了し、左右両足のFKからゴールを奪うという、国際大会においてほぼ見ることができない離れ業をやっておけたのも強烈だった。だが、それももう4年前の出来事になる。あの瞬間、未来のなでしこジャパンを背負う期待の新星として期待をした者は多かったと察するが、そこから彼女が代表に定着することはなかった。

クラブレベルでもJFAアカデミーを卒業してINAC神戸に入団するというエリート街道をまっしぐらに進んだものの、レギュラーの座を確保することができず。そんな、決して納得の行く道筋ではない中、昨シーズンに田中が下した決断は2012年に創立したばかりのノジマステラ神奈川相模原への移籍だった。1部の強豪からの移籍ということで周りの期待感は大きく、本人としてもプレッシャーはあったに違いない。だが、その重圧をはねのけて加入1年目で27試合に出場し26得点を記録。及第点以上の結果を残した。
しかし、チームはシーズン2位で1部リーグとの入れ替え戦に臨んだ中、アウェイゴールの差で昇格を逃してしまっている。

「去年は個人としてはいい数字を残せたのだけど、本当にあと1歩…あと1点入っていればというところで1部に上がれなかった。今年はもちろん自分たちももスタッフもサポーターの方も”絶対に1部に!”という気持ちが強いんです。そのために1試合も落とせないので、毎試合強い気持ちが入っています」個人の成績に納得をしている一方、やはりチームを1部に導けなかったことに対する責任感を強く感じていた。だからこそ、今年にかける思いは強い。

田中陽子

自分に期待し、代表への復帰を目指す

5月22日に保土ヶ谷公園サッカー場で行われたなでしこリーグ2部・第10節の吉備国際大学Charme戦において、ノジマは7-1の大勝を収め、首位をキープ。田中自身に得点は生まれなかったものの、カウンターに転じた際の絶妙なフィードやスルーパス、そして得意のセットプレーから得点の起点となるプレーを連発。攻撃の中心としての役割をしっかりと果たした。とはいえ、彼女の得点に期待して来た身からすると彼女の無得点に物足りなさを感じたのが正直なところである。ただ、本人としてはそこまで大きく気にかけている様子ではないようだった。

「去年が良かった一方で逆に今年が良くなくて…。今日は(点を)取れるかなと思っていたんですけど、もっと貪欲にいかないといけないなと。ただ、チームの流れが良いときは起点になることが大事だと思います。本当は点を取りたいですけど、そこ(起点になること)もできるほうが選手としての質は高くなると思うので」

先に述べたようにチームとして結果を出すということを念頭に置きつつ、選手としてできるプレーの"幅"を広げ、個の能力を高める重要性を今の田中は強く感じている。それはもちろん、再び日の丸を背負うためだ。

5月20日には高倉麻子新監督の初陣となるなでしこジャパンのメンバーが発表されたが、2部のクラブからは2人が選出されている。それもあり"2部に戦っていても代表のチャンスはある" こういう確信が彼女の中に生まれたのである。

「(選ばれる基準は)個人の質だと思いますし、そのために1日1日、自分のレベルを上げるためにどうすればよいかを考えてやることが大事なのかなと。チャンスはあると思っていますし、自分は状況判断の部分が求められるので、そこのレベルをもっと高めていかないと。小さなミスをしないとか、そういうレベルと質を上げて、選ばれる選手になりたいです。それに、1部に上がることがチームとしても自分としても未来につながるので」

中心選手としてチームを1部昇格に導き、個人としては代表復帰を果たす。22歳の彼女が自身に課しているものは大きいが、いつの時代も、日の丸を背負ってきた選手はこういったプレッシャーと隣合わせにいた。この2つを成し遂げられれば、彼女は日本の女子サッカー界を背負って立つ存在になるはずだ。

「本当に自分に期待する気持ちは強いです」
田中は最後にこう強く口にしたが、この言葉を信じ、再び大舞台で活躍する彼女の姿を待ち続けたい。