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偶然は必然だった。巡り合わせが実現させた、大好きなアルビでの仕事

2016.07.28 / 竹中 玲央奈

佐野裕文氏

実はいざ就職先を探すとなっても、仕事に対するイメージがなかなか湧いていませんでした。その状況で唯一、自分の中で仕事のイメージがついたのが、ずっと勉強してきたスポーツビジネスの世界でした。
(佐野裕文 新潟アルビレックス ベースボールクラブ広報)

 

スポーツ界で働くにはどうすれば良い?どうやったらこの世界に入れる?スポーツ界での仕事って、一体どんなもの?
大好きなスポーツの世界で働くことを実現させた方々に自らの体験談を語ってもらう本シリーズ。今回は、プロ野球独立リーグの新潟アルビレックスベースボールクラブで広報を務める佐野裕文さんにお話を伺いました。愛する地元、愛する”アルビ”での仕事を実現させた佐野さんも、この世界で働けるようになったのは”巡り合わせ”だと語ります。

 

アルビ以前とアルビ以後

私は新潟県長岡市出身なので、地元のスポーツチームで働いているということになります。スポーツ自体は昔から好きで、小学校でサッカーを、中学校は野球、そして高校時代はバスケをやっていました。一通り、メジャースポーツは体験したことになります(笑) 最も好きだった競技は親の影響もあり、野球です。ただ、小学校が田舎の方で、野球部がなかったんです。それもあってサッカーをやるしか無いなと思い、小学校4年生時に始まったクラブ活動でサッカーを始めました。

新潟のスポーツというと、“アルビ以前”と“アルビ以後”という形で分けられると思います。私が小学生の頃(1990年代後半)は巨人の人気がすごく、2000年にはON(王・長嶋)対決もあってすごく盛り上がっていました。これは新潟に限らず、地方全般に共通する部分として挙げられるのが“巨人ファンが多い”ということです。父親も巨人ファンで、その世代の“プロスポーツ”といえば野球しかなかったですからね。

佐野裕文氏

そして、新潟は全国的にもスポーツがめちゃくちゃ弱かったんです(笑)2009年に甲子園で日本文理高校が準優勝したことでスポットライトを浴びたのですが、それ以前は本当に弱くて、高校野球だけでなく高校サッカーにしても初戦に勝てるかどうかという感じでした。雪国なので、ウィンタースポーツとバスケットボールは伝統的に強かったのですが。

高校サッカーでいうと新潟明訓や帝京長岡が全国でも勝負できるくらいに強くなってきて、アルビレックス新潟のU-18が ※プレミアリーグに昇格もしましたし、相乗効果として高校サッカーも活性化してきました。そう考えると、新潟のスポーツはアルビが出来てから変わったと思います。

※プレミアリーグ:サッカーにおける高校年代の大会の1つ。高円宮U-18プレミアリーグのこと

 

偶然見つけたスポーツクラブの求人も、必然だった。

私は早稲田大学スポーツ科学部出身です。高校3年生のときにスポーツを勉強できる学部があるということを知って、単純に「面白そうだな」と思い、目指すようになりました。アルビのことは好きで応援していましたし、何よりも好きなことを勉強できるのは最高だなと思ったんです。それで部活を引退してから勉強を真剣に取り組んで、運良く受かることができました。

実際に入学してからは様々なことを学びました。スポーツ科学部は文化系から医科系まで色々とあるのですが、僕はスポーツビジネスを専攻していました。また、ゼミの先生が歴史を専門とする方だったこともあり、スポーツの歴史や文化的な側面も勉強していました。 4年間、大学でそういった勉強をしたわけですが、まだ足りないという思いがあったので、そのまま大学院にも進みました。

佐野裕文氏

大学院では新潟のスポーツの歴史を学んでいたのですが、それは自分の中で地域や地方でどういうふうにスポーツが盛んになっていくのか、ということに興味があったからです。ただ、経済的な面も含めた諸事情により、大学院は中退して実家に戻ることになりました。そこで就職先を探していた中、運良く見つかったのが新潟アルビレックスBCの求人でした。
でも、これを見つけたのは単なる偶然ではありません。実はいざ就職先を探すとなっても、仕事に対するイメージがなかなか湧いていませんでした。その状況で唯一、自分の中で仕事のイメージがついたのが、ずっと勉強してきたスポーツビジネスの世界でした。そして、アルビにはサッカー、野球、バスケと複数の競技がある。そういうこともあり、定期的にチェックをしていたからこそアルビBCの求人情報を見つけることができたんです。

そして運良く内定を頂くことができました。その求人は本来は中途採用を前提としたものだったのですが、職歴もなかった私を採ってくださったことに、運や縁、そして巡り合わせをすごく感じています。
実は私は大学時代に所属していた早稲田の※SOJというサークル活動の一環で、今の社長(池田拓史代表取締役社長。大学でのインタビュー当時はBCリーグ運営会社・(株)ジャパン・ベースボール・マーケティングに在籍していた)にインタビューをしたことがあったんです。そして、ここで再会できた。そう考えると、巡り合わせというものを強く感じます。

※SOJ :早稲田大学のサークルの1つ、Sports Of Japanの略称。学園祭でゲストを呼び講演会をしたり、フリーペーパーを作ったりと活動の幅は多岐にわたる。

 

ツールの流行りに乗り遅れてはいけない

入社をしたのは2013年の10月で、8月頭に内定をもらい、その後2ヶ月は研修という形でホームゲームの運営に出る経験を積みました。そして、正式に入社した後も業務はそこまで変わっていません。
主な仕事は広報と運営の両方。あとは営業も少しやります。スポーツ界あるあるだと思うのですが、1人が本当に色々な業務をこなします(笑)ですが、メインは広報です。具体的な仕事内容は各メディアさんの取材申し込みを受けて、選手と繋いで取材の場をセッティングをしたり、スタジアムで広告を出す場所を考えたり、ホームページの更新もしたりします。あとは、ちょっとした記事を書くこともあります。

また、twitterやFaceBookなどのSNSの運営も自分の業務の1つです。かつては新入団選手の記者会見とかでUSTREAMを使っていたのですが、日本法人が撤退してしまったこともあり、今は稼働していません。以前はリーグとして一括でUSTREAMチャンネルを持っていたのですが、現在はサイバーエージェントのabemaTVに動画配信の機能を移行しています。このように、時代が進むにつれて広報ツールも移り変わりますから、そこに遅れてしまうと大変です。広報である以上、そこのアンテナは張らないといけないな、と強く感じております。

佐野裕文氏

地域の支えもあってチームが成り立つ

いわゆるプロ野球(NPB)とくらべて独立リーグは馴染みがないものだと思います。試合自体は年間72~73試合で、ホームゲームは36~38試合。プロ野球の約半分です。やはりそのホームゲームの運営が、最も楽しくやりがいがあることです。
チームの社員自体も少ないです。試合ではほぼ全社員が出て運営をしているのですが、その中で私は放送室に入り、試合の進行係をやっています。スタジアムMCさんの台本も作ります。テレビ局で言うところのディレクターみたいな仕事ですね。突発的に何かがあった際、「ここで音を出して下さい」というような指示を出したり、試合がスムーズに進むように現場の音頭を取ります。最初のプレッシャーは半端じゃなかったですけど、ゲームを作るというのを肌で感じられるのはすごく面白いですね。

営業については看板の広告をいくらで売るか、というようなスポンサー営業を主にやっています。ただ、私の場合は広報や試合運営が主な業務割合を占めるので、数社を回るほどです。担当するクライアント数はそれほど多くはありません。
ただ、担当クライアントが少ないながらも特に感じるのが、クラブは、非常にクライアントの方々に支えられているというか、地域の方々に支えられているということです。広告の費用対効果ということを言われ出したら正直具体的なものを提示しにくいのですが、そういった状況でも、夢を持って『チームを応援したい』という思いで支えてくれる純粋な野球好きの方々がいる。だからこそ、チームは成り立っているのだなと思います。

 

佐野裕文氏新人オリエンテーションで前に立って話す佐野さん

そういう点で言うと、アルビのサッカーやバスケと比べて野球のファン数は少ないですが、その分熱心に暖かくサポートをしてくれているなとは感じます。とはいえ、野球のファンは野球だけ…というような形ではないのが、アルビの魅力でもあります。私設応援団の中心の人はもともとサッカーから入った人なんです!サッカーが好きでアルビをよく見に行っている中で、野球を見たらハマったとおっしゃっていました。そういう流れは非常に嬉しいです。

アルビレックス新潟BC独立リーグでは輝かしい成績を残しているアルビレックスBC

ただ、正直、サッカー、野球、バスケが連携できているか?と言われると100%相乗効果を発揮できているとは言えないところがあります。今後はそういう取り組みが出来れば良いですね。サッカーとバスケに比べて、アルビの野球チームはなかなか認知されていないというのがあるんです。ですから、野球もあるということを1人でも多くの人に認知してもらって、会場に来て頂きたいなと思います。

実際、独立リーグという点の難しさもあると感じています。いわゆるプロ野球という最高峰がある以上、本当に能力の高い選手はプロ野球に行ってしまう。独立リーグのチームに所属して活躍をしたら、プロ野球に引き抜かれてしまうこともありますから。本当にスター性のある選手は上のレベルの舞台に行ってしまうので、お客さんを呼びにくくなるというジレンマもあります。

佐野裕文氏かつて監督を務めたギャオス内藤氏のサインがオフィスに飾られている

それでも、我々は上のレベルに選手を送り出したいという気持ちがあるんです。うちのチームからドラフトにかかってくれる選手が出てきて欲しいと思いますし、外国人選手でいうと、昨年デニングというオーストラリアの選手がヤクルトに移籍したのですが、そういう選手を多く輩出したいですね。一方で移籍されてしまうとそれはそれで戦力が落ち、集客面にも影響が無いとは言えないのですが…。そういった点が、独立リーグならではの難しさですね。

 

スポーツ以外に関心をもつことが重要

大好きな地元で、しかもスポーツ界で働けることには充実感もありますし、喜びを感じています。この世界に入りたいと考える方も多いと思いますが、できるアドバイスは、“スポーツ以外にも関心を持って欲しい”ということです。

スポーツが好きというのは前提にあった上で、それだけとなってしまうと、この業界は狭いので、思考が埋没してしまうと思うんです。だからこそ、色々な事柄に関心を持って欲しいし、そういう部分を学んでいる人がこれからのスポーツ界において必要になってくるんじゃないかなと思います。違う視点から物事を考える、ということですね。多方面からこの世界に人が入ることで、もっと活性化されると感じていますし、それを強く望んでいます。

佐野裕文氏