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海外の街中でも存在感。インラインスケートで世界を席巻する“兄弟”

2016.01.26 / 森 大樹

安床武士、安床エイト

 

【前編はこちら】

 

「海外で街中を歩いていると『安床ブラザーズだ!』と気付かれる」

-今までお二人は国内外問わず、本当に様々なところで競技をしてきたと思います。

武士:この前は福井県の大仏の前で滑りました(笑)あとはエッフェル塔やベルリンの壁の前でやったりもしましたね。

エイト:滑る競技の元々の発祥はアメリカで、斜面を使ってスケートボードをやったところから始まっています。アメリカのプールは日本とは違って底が丸いんです。そこで滑って遊んでいたところから専用の台を作って、競技に発展していったわけです。だから歴史としてはスケートボードが一番長く、インラインスケートもそれを追いかけていっているという感じです。

だから小さい頃はアメリカという意識が強かったですが、今はヨーロッパが好きですね。大人になるにつれて、景色もそうですが、人情の部分に惹かれるようになったように思います。

 

武士:一方、インラインスケートの発祥はオランダと言われていて、運河が凍ったところでアイススケートをしていたところから派生し、夏場にシューズに車輪を付けて滑り始めたそうです。だからヨーロッパではインラインスケートが文化として根付いているんです。来月(2016年1月)にあるイギリスの大会には神戸で頑張っている中学生3人を連れていく予定です。技術的にうまくなるためというよりは、そういう世界があるというのを経験として持っていてほしいんです。スケートを通して海外を見ることで、決して遠い場所ではないということを感じられると思います。あとは彼らが活躍できる場所を日本に作ることで、今後も競技を続けられるようにしていかないといけません。

エイト:僕らの場合、日本の方がアウェイですからね(笑)海外で街中を歩いていると「安床ブラザーズだ!」と気付かれることがありますが、日本ではまずないですから。

安床エイト、安床武士

 

-ある大会はお二人が勝ち過ぎてルールが変更になったとか(笑)

エイト:僕らが勝ち過ぎて、なくなった種目はあります!アメリカ人と対等にやり合っている時は盛り上がるのですが、それを超えて僕ら二人だけで優勝争いをしているような状況になると誰も観てくれなくなるんです。そうなるとスポンサーが離れてしまうわけです。たしかに自国の選手が優勝争いからいなくなったら面白くなくなるのは当然ですよね。

今まで大会で勝ってもらったトロフィーや賞状も、僕のか弟のか分からないものが結構あります(笑)賞を獲るまでが一生懸命で、その後はあまり執着心がないんです。中にはサイズが大きすぎてホテルに置いて帰ったものもありました(笑)

僕らの場合、海外で試合に出るとなるとツアーのような形で各地を回るので、大きいものは持ち運べないんです。そのまま日本に戻って来られるなら持って帰ってきたと思いますけどね。

安床エイト、安床武士

 

今まで数えきれないほど国内外でタイトルを獲得

 

-ここまでたくさんの賞を獲得してくる上で感じている他の外国人選手との違いはどのようなところにあると思いますか?

武士:ハーフパイプは練習を積み重ねたからこそ、あれだけ高く跳べるようになるわけで、いくら身体能力だけ高くてもうまくできるものではありません。台に合わせてきっちり滑るという一番大事な技術は実はとても地味なもので、アメリカ人はそれがあまり得意ではないんです。一か八かを覚悟で行く、というのが好きな人種なんです。

エイト:だからアメリカ人選手をライバル視しなくなったのは結構早い段階のことです。ガッツだけはあります!みたいな選手がほとんどなんです。僕らはむしろヨーロッパやオーストラリア、ブラジルなどの選手を警戒することの方が多かったです。

武士:国柄って本当にあるんやな、と思いました(笑)最近ではスノーボードのハーフパイプなども日本人選手が活躍するケースが増えていますが、僕らからすると当然のことで、競技を追求するために地味なことでも続けられる国民性をよく表していると思います。体格が左右されないスポーツであれば、日本を含め、我慢できる国の選手が絶対強くなりますね。

エイト:もし僕らから今後そういう競技に挑戦する人に伝えられることがあるとすれば、日本人選手は無理に海外に馴染もうとしない方がいいということです。変に馴染もうとしてダメになった選手を山ほど見てきました。

武士:海外の選手は試合期間中でも飲み歩いている人も多いですからね。

エイト:毎晩どこかで必ずパーティーが開かれているんですけど、僕らは試合中にそんなものには一度も行ったことはありません。

武士:もちろん試合終了後のアフターパーティーなどには参加しますよ。でも海外の選手に無理に合わせたり、楽な方に逃げたりする選手が何人も消えていくのを僕らは見てきました。

安床エイト、安床武士

 

-スピードに乗ったまま高く跳んだりする中で大きな怪我をした経験はないのでしょうか。

エイト:僕らは他の選手と比べると怪我は少ない方かもしれません。みんな手術を複数回経験していたりもしますが、僕らは一度もないです。派手な技だけでなく、怪我をしないための受け身などの練習もしっかりやってきましたからね。新しい技を習得する時も、早くにできてしまうと怪我をする確率は上がります。逆になかなかできなければ、その分何度も失敗していく中で転び慣れていくんです。

武士:それを海外の選手は大きな技を一発勝負でやってみたりするので、失敗した時にすごく変な転び方をして大怪我を負うことになるんです。

 

-その姿を会場で観ていて、恐怖心が湧いてくることはないでしょうか。

エイト:原因が分かっていれば特に問題はないですね。今の技はガッツだけでやったのか、自信を持ってやったのかはすぐに判断できますし。

 

インラインスケートをもっと多くの人に体験して欲しい

-競技から離れた質問になりますが、時間がある時にやっている趣味を教えてください。

武士:自分は音楽が好きで、聴いたりとかドラムを叩いたりとかしています。ライブにも行きますしね。あとはバイクに乗っています。

実はドラムは思わぬところで役に立った経験があります。ドラムは両手と両足4本ですべて違うリズムを刻む必要があるのですが、それをやったおかげで、競技においても今まで感覚的にしか動かせていなかった指先を意識して使えるようになりました。

ライブが好きなのも、たとえ同じセットリストだったとしても会場や本人達の雰囲気によって全然違ったりするからで、逆に少しミスした方が全体としてはいいこともあるんです。そういうところを僕達も表現する上で活かせているところはありますね。

 

安床武士

 

エイト:僕はだいたい子供と遊んでいます。子供は2人いて、上の子はスケートをやりますが、下の子はまだやっていません。今のところ子供達をプロにするというところまでは考えていませんね。ただ、スケートは全身を使うスポーツで、体を動かしたり、使い方を学んだりするという点でスケートはすごくいいものなので、教えていきたいとは思います。

スケートの運動で身につくバランス力のあるコアはあらゆるスポーツのオフトレとして役に立つだけでなく、スポーツをしていない子の普段眠っている筋肉を刺激して姿勢を整えたり、勉強中の集中力をアップさせたり、といった生活習慣そのものを改善する大きなパワーを持っています。

 

安床エイト

 

-もしスケートをやっていなかったとしたら、何をしていたと思いますか。

エイト:願望も含めると画家になりたかったですね。元々絵を描くのは好きでしたから。祖父もそういう仕事をしていたそうです。

武士:兄は昔から絵を描くのもうまかったです。逆に僕は全く絵心ないですけど(笑)でも安床家の血としてはなっていてもおかしくないです。

 

-お互いの魅力はどういったところにあると思いますか?

エイト:(武士は)人付き合いがうまいです。僕は元々人と一緒にいるのが得意ではないですし、約束が立て込んでくるとだんだん予定が分からなくなるんですよね(笑)スケーターとしては自分にないものを持っているので、そのすごさは毎回感じています。

武士:(エイトは)有言実行するところです。言った目標に向かってコツコツやっていけるところはすごいと思います。スケートにもその姿勢は現れていると思います。不思議なもので、スケートにはその人の性格がそのまま出るんです。滑る上で恐怖心があることで、普段隠している部分まで見えてしまうのでしょうね。

安床武士、安床エイト

 

-最後に読者の方にメッセージをお願いします。

エイト:最近はインラインスケートを用いた運動教室があるのですが、今は小学生を対象としたものになっています。それを今度は大人に向けて、エクササイズとして展開していくことを考えています。スケートは全身運動なので、ぜひ体験してみてください。

武士:見た目が激しく見えるスポーツなので、やるのをためらう人も多いかもしれません。でもやり方を間違えずに、焦らずにやれば安全にできます。今はSNSも発達してきているので、もし何かあれば気軽に僕らに質問してくれればと思います。あとは地元・神戸で、定期的にショーも行っていきたいと考えているので、ぜひ観に来てください。

 

【前編】はこちら