1万人収容の“魅せる”アリーナが描く「スポーツシティ・沖縄」の未来
コザ運動公園内に建設されている1万人収容のアリーナの外観予想図 提供:沖縄市
プロ野球球団を初めとしたキャンプ地のイメージが強い沖縄県だが、この地を本拠に構えるチームによって街が活性化しているのをご存知だろうか。沖縄市を本拠地とするBリーグ・琉球ゴールデンキングスは2016-2017年のBリーグ初年度において、平均観客動員数3位(3,312人)を記録した。
旧bjリーグを牽引していた存在であるこのクラブは現在、沖縄市内のコザ運動公園内にある沖縄市体育館をホームアリーナとして使用している。ただ、実は同エリア内に1万人規模の多目的アリーナの建設計画が進んでいるのだ。そして、完成後はここを新たな本拠地として利用する予定だ。
また、2023年に開催されるFIBAバスケットボールワールドカップにて、沖縄市で新設予定の多目的アリーナが本大会の予選ラウンドの会場として使用されることも正式に決定した。2006年以来となる同大会の日本開催(正式にはフィリピン、インドネシアとの共同開催)における会場が沖縄市になる。
スポーツを通じて地域の活性化をするための1つの起爆剤として、アリーナへの期待値は大きい。
参考:スタジアムから地方を活性化!スポーツは地方創生の起爆剤になり得るか。
前述したようにゴールデンキングスの躍進も含めて熱が高まってきている沖縄市がスポーツというコンテンツを使ってどのような世界観を作ろうと考えているのか?アリーナの担当を務める上田紘嗣副市長とプロジェクト推進室の知花朝享主査に話を伺った。
アリーナ建設の話が上がったのは2014年。その年の4月に市長選挙があり、桑江朝千夫現市長が公約の中で“多目的アリーナ建設”を掲げたのだ。
「体育館は“する”側の視点に立って、市民がスポーツをするための場所という観点で作られているのですが、興行としては使いにくい。アリーナは“観る”側の視点に立って考えていく必要がある」との考えのもとプロジェクトを進めている。」と語るのはプロジェクト推進室の知花主査。
冒頭に述べたように地元のBリーグクラブが市にもたらす熱狂は大きく、観客動員数に現れている。2017年におけるホーム最終戦となった12月22日の京都ハンナリーズとの一戦では平日の20:05ティップオフにもかかわらず3,706人の観衆が足を運んだ。ちなみにこれは17-18シーズンにおけるゴールデンキングスの最多動員試合である。それ以外の試合でも常時3,000人以上の観衆が足を運んでおり、体育館のキャパシティに対するファンの人数に限界が来ているのだ。筆者自身も試合会場である沖縄市体育館へ足を運び実際の試合を楽しむことができたが、一方で人の多さゆえに生まれる窮屈感もあったことも否めない。それもそのはずで、前述したようにこの体育館は興行という目的ありきで建てられたわけではない。
ゆえに、地元を活性化させるプロスポーツクラブを見に足を運ぶ観客をできるだけ多く収容し、かつ彼ら彼女らに満足感を与えられるアリーナの必要性を市として強く感じているのだ。そのためのアプローチとして、新設のアリーナにはフロアからの近さや高い座席の角度から臨場感が伝わり、そしてアリーナの構造も従来の四角形から八角形とするなど、観客の“見やすさ“という点へのこだわりが強く反映されている。
「試合をただ見て帰るのではなく、この場所を楽しむ、というアリーナにしたい」と知花主査は口にしたが、一方で、アリーナ建設の理由として“行政らしい”別の観点もある。
「キングスの本拠地として市として施設を提供している中で、年間のホームゲームの8割以上をここでやらなければいけない。こういった規定がある中、体育館自体の稼働率も高く、市民が利用できないケースも増えてきているという悩みがある。そのため、キングスの試合等、興行については新しくできるアリーナへ移して体育館の市民利用を増やしていきたいと。そういう思いもあります」
運営側にとっての利便性も
とはいえ、興行用の施設としてアリーナを作れば、稼働率を上げなければいけない。一般利用が無いことを考えると、Bリーグのホームゲームとしての利用以外で様々なコンテンツを準備する必要がある。この点については「スポーツだけでは年に40試合50試合(の開催)のみになります。ですから、コンサートとかコンベンションにも使いやすいように、施設を作ろうと考えている」(知花主査)とのことだ。
コンサートならびにコンベンションという観点からのアリーナ作りについてのこだわりは、“床”に現れている。ゴールデンキングスの試合を始めとした”アリーナスポーツだけ“を考えればいわゆる体育館のフロアにすれば良いのだが、逆にコンサートを始めとしたイベントをやる際には養生をしなければいけないし、その他色々とコストも手間もかかる。そういった側面も考えた上で、コンクリートの床をベースに置くことが採用された。加えて、屋外から直接トラックがコート内に乗り入れられるようになっており、コンサート機材の搬入やバスケットコートの設営の際にもスムーズに作業ができる形となっている。
琉球ゴールデンキングスのホームゲームには毎試合、多くのファンが詰めかける。写真は水曜日開催のもの。
観客側視点での使いやすさや臨場感を体感するための設計というのはよく耳にするが、イベントや試合の運営側、準備側にとっての利便性というのは一般客としてはなかなか耳に入りにくい点でもある。
沖縄市としては“誘致”をする側であることから、この側面にも力を入れたのだという。知花主査は「キングスのお客さんが見やすく、という点もそうなのですが、プロモーターにも色々意見をもらった上で、アリーナへの考え方を明確にしていき、徐々に形になってきています」と語った。
正面から見たアリーナの外観予想図 提供:沖縄市
沖縄にアリーナが出来るのは“必然的”
アメリカではスマホの位置情報システムと連動し、ショップ近辺に来たら時間限定のクーポンが発券されて通知が来たり、観戦中の座席から飲食物を購入するとスタッフが席まで届けてきたりするアプリが開発され、指定のアリーナで使えるということもある。一方日本のスポーツ観戦環境ではそこまでの体験ができるところはない。
この1万人アリーナではそういったITを駆使した新たな観戦体験の提供を観客に与えようというアイディアも持っているという。国内トップクラスのファシリティを備えるだけにとどまらず、来場者にスポーツ観戦以外のところでも満足感を与える土壌を作り、日本におけるアリーナの“あり方”を先駆者として提示していくという強い思いもある。
「スマートアリーナ、スマートシティというのは目指して行くべきだと考えています。我々はスタートアップカフェコザというICTの施設を作っているのですが、ここではベンチャー企業の支援を行ったりICT化の推進を行ったりしています。やはりこれからの時代にITというのは切っても切れないものですから、そういったところを活用したい。アリーナの中を“非日常の空間にする”ために演出をはじめとしたソフト面が重要になります。例えば女性はトイレで並ぶことが多いですが、どのタイミングが空いているかとか、混み具合などを教えてくれたり、予約をできたりとか。そういうのがあれば面白いですね。あくまでジャストアイディアですが、やろうと思えばできなくはないことかなと」
こう語るのは2004年に総務省入省後、2016年より沖縄市の副市長となった上田紘嗣氏だ。この1万人アリーナ計画の担当を務める同氏はアメリカにも来訪し、モデルとなりうる施設を視察してきた。すでにアメリカのアリーナを視察していた桑江市長の指示によるものだ。そして、沖縄市にアリーナを新たに作ることに関しては“歴史性”という興味深い点についても語った。
「市長は、ニューヨークのブルックリンにあるバークレイズセンターを気に入ったと話しており、私自身もいくつかアリーナをご案内いただきました。
市長の意向として、元々まちづくりにアリーナを活かしていきたいという中で、アリーナを作るだけではないと。沖縄市、沖縄県の中部地域で一つの新しいまちづくりとしてどう作っていくかと考えた中で、アリーナというものがある意味必然的に出て来たのだそうです。歴史の文脈でいうと嘉手納基地が沖縄市の目の前にあることによって、米国の文化も根付いていきました。その1つの象徴がバスケやライブエンターテイメントだと。それが実現できる施設というと、アリーナになりますよね。それが桑江市長のビジョンだと受け止めています。
加えて、沖縄は雨が多いので様々なイベントをするにも屋内施設のほうがありがたいんです。そういった論理から必然的にこのアリーナ構想は出来上がったのかな、と。市長の選挙時の公約として上がった背景にこうしたビジョンがあり、歴史の必然性も感じます」
総務省を経て、現在は沖縄市の副市長を務める上田紘嗣氏
アリーナの構想が表に出てから、近隣に宿泊施設を建設しようとする動きも増えているのだそうだ。スポーツやコンサートを楽しむために来沖した観客たちが合わせてこのエリアの観光を楽しみ、地域経済の活性化に繋がることは間違いない。市としてはそういった波及効果も最大限に生もうと考えている。
「地域資源が豊富な中、まずはスポーツから入りますが、
沖縄市をモデルとしたまちの形が新たに出来上がるとなれば、それは非常に興味深い。
アリーナを通じて、スポーツを軸とした新たな取り組みに動いている沖縄市の今後の動きとその未来に、大いに期待を寄せたい。