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スタジアムを、市民の居場所に。Vファーレン長崎・スタジアムシティ構想【前編】

2020.04.22 / AZrena編集部

長崎スタジアムシティ
2023年~2024年に、明治安田生命Jリーグに所属するVファーレン長崎のサッカー専用スタジアムが誕生する。

注目は、スタジアムだけではない。スタジアムビューを楽しめるホテルが隣接するほか、アリーナ、商業施設、オフィス、駐車場などの様々な施設も併設される予定だ。これが「長崎スタジアムシティプロジェクト」である。

 

プロジェクトを進めるのは、2019年6月1日にジャパネットグループが設立した新会社「株式会社リージョナルクリエーション長崎」。同グループ創業の地である長崎の魅力を、スポーツ・地域創生の観点からアプローチし、長崎の人々に“今を生きる楽しさ”を届けている。

 

戦略・企画から現場運用までの全てを民間の一気通貫で行なう、おそらく日本初の取り組みによるプロジェクト構想。その背景にある思いや苦悩とは。前編では、主にスタジアムシティの企画や設計といったハード面に携わる株式会社リージョナルクリエーション長崎 スタジアムシティ戦略部の折目さんに、スタジアムシティ建設の裏側について迫った。

 

長崎の地に“今を生きる楽しさ”を

ーまず、スタジアムシティ建設に至ったきっかけを教えてください。

今回のプロジェクトで最も大切にしている事業コンセプトは、“「今を生きる楽しさ」を!”というというジャパネットグループの企業理念を、創業の地である長崎の町に落とし込んで形として残す、ということです。

 

そこで、「今の長崎にとって“今を生きる楽しさ”って具体的に何なのだろう」と考えたんです。今の長崎が抱える課題と照らし合わせたときに、サッカー専用スタジアムを中心とした観光体系を作ることが良いという結論に達しました。

 

サッカーというコンテンツそのものをより高いクオリティで提供することに加え、バスケットボールの試合や各種コンサートが開催できるアリーナ、商業施設などの多彩な体験が一ヶ所でできるスタジアムシティこそが、長崎を生きる楽しさを提供できるのでは、と。

 

ー“長崎が抱える課題”とは、何だったのでしょうか?

福岡をはじめとした県外への人口流出です。

実は、長崎県の人口減少率は、47都道府県の地方自治体の中で2年連続1位です。要因として考えられることは主に2つあります。一つ目は、若者世代が大学を機に県外に出ていってしまうこと。もう1つは県内で若者世代をターゲットにしたエンターテインメント施設が少ない、という点です。

 

後者に焦点を当てて、スポーツを始めとしたエンターテインメントをきちんと提供し、人口流出を抑えることが私たちができることなのかなと。長崎の若者が県内で遊ぶきっかけ、かつ県外から長崎に入ってくるきっかけを作り、長崎の人口減少を食い止めたいという思いを持っています。

長崎スタジアムシティ

 

ースタジアムシティ事業において、戦略部とまちづくり部が分かれていますが、役割の違いを教えていただけますか?

私が担当しているスタジアムシティ戦略部は東京にあって、スタジアムシティの具体的な事業を企画して、建築設計として落とし込むことがメイン業務です。隔週くらいで外部アドバイザーの方々も交え会議も行っています。

 

一方、スタジアムシティ自体の場所は長崎であり、使用する人も基本的に長崎に住む方たちです。それを踏まえると、現場で求められていることは2つあります。一つは、長崎の気運を高めていくこと。もう一つは、スタジアムシティの認知度を上げて、ファンを増やしていくことです。完成した時には、地元の方々が前のめりで「自分たちの場所なんだ」と言ってくれるくらいの意識を作り上げる役割を担うのが、まちづくり部です。

今はこうして東京と長崎に分かれていて、日々情報共有を行なってプロジェクトを進めています。戦略を踏まえてどうやって地元の方々にお伝えしていくのか、また逆に地元の方々から得た情報をどのようにプロジェクトに落とし込んでいくのか、という役割が明確に分かれています。

 

スタジアムを、“市民の居場所”に

ー今回のスタジアムシティ建設に当たって、参考にしている事例はあるのでしょうか?

2017年8月6日にオープンした、シンガポールの複合型施設「Tampines Hub」を視察しました。

 

参考になったのは、イベントが行なわれていない日にも、スタジアムが市民の皆様の居場所になっているということです。スタジアム周辺に図書館や市役所、映画館などの様々な行政施設と商業施設があって、サッカーに関係なく自然と人が集まる“福利厚生の複合施設”になっていました。

 

Jリーグでは、年間20試合程度しかホームゲームはありません。サッカーだけでみると、1年を通じてスタジアムは使用していない日の方が多いんです。サッカーの試合以外の345日をどう活用するのかが大切になってきます。

 

ーサッカースタジアムでありながら、サッカーを“核”にしていないんですね。

そうなんです。しかも、サッカーの試合は無料で観戦できるらしくて。もはやサッカー自体をコンテンツにしていないんです。市民サービスを充実させることで勝手に人が来る仕組みを作って、その中で「たまにサッカーやっているよね」くらいの感覚です。

 

ー今回のシティスタジアムでは、核となるコンテンツはどういったものになるのでしょうか?

スタジアムに隣接する予定のアリーナです。アリーナでバスケットボールの試合をやったり、コンサートなどのイベントを誘致したりして、まずはスタジアムシティに足を運んでもらう動機を作ります。試合やコンサートにいらっしゃったついでに、商業施設を使ってもらえれば、と。V・ファーレンのホームゲームの20試合、バスケットボールの試合、各種コンサートを中心として、一定の集客はできるかなと。

 

Tampines Hubの写真

https://www.arcadis.com/en/australia/what-we-do/our-projects/asia/singapore/our-tampines-hub/

 

核となる2つのコンテンツ

ーTampines Hubのように、市役所などの自治体が運営する行政施設と、映画館やホテルなどの民間が運営する商業施設の融合施設となるのでしょうか?

行政施設をどこまで呼べるかは未確定なのですが、何らかの形で無料で使える公共施設は作りたいと考えています。スタジアムのピッチも開放して、“都心の真ん中にある大きな芝生広場”と位置付けていきたいなと。子育て中のご家族の方々にも安心して使ってもらえるようなオープンな施設を目指していきたいです。

 

意外性のあるコンテンツは何か企画されているのでしょうか? 

一般財団法人長崎ロープウェイ・水族館との共同事業で、2020年4月〜2025年3月まで長崎ロープウェイと稲佐山公園の指定管理者となりました。稲佐山は長崎県内ですでに観光地として知られていて、年間約20万人の方が観光にいらっしゃいます。

 

そこで長崎ロープウェイを延伸して、スタジアムシティにロープウェイの駅ができれば、稲佐山の観光客をスタジアムシティに呼び込むことができるのでは、と期待しています。

 

また、2021年から「BS Japanet Next(仮称)」と呼ばれるジャパネットグループの新規BSチャンネルが誕生する予定です。スタジアムシティで開催されるイベントをBSと連動させて、全国に発信することも考えています。

 

例えばアリーナで開催されたコンサート映像を流したり、アリーナで行なうイベントをPRして全国の人に見てもらう、といったことですね。

 

ー5Gなどのデジタル化が進んでいる中で、ITの観点からやろうと思っていることはあるのでしょうか?

やろうと話しているのは、完全キャッシュレスにすることです。スタジアムでは、どこに行ってもグルメの待ち時間が長いという問題があります。

 

そこで、スピードを上げるためにキャッシュレスにすることはもちろん、座席の近くまで運んでくれるデリバリーサービスや、並ばずにスマホで注文してすぐに受け取れるサービスを考えています。

 

商業施設が隣接していることを活かして、レストランのグルメがスタジアムで手軽に食べられたらいいなと。スタジアムだと厨房が完全には整っていないので、ハンドリングが難しいことがハードルになってくると思いますが、ITを上手く利用することで美味しいものを提供していきたいです。

 

前例はなし。既存の事業スキームを全て民間で

ー今後このプロジェクトを進めていくにあたって、ハードルとなる部分はあるのでしょうか?

今回のプロジェクトの大きな特徴として、戦略・企画から現場の運用まで全て我々が民間で行なっているということが挙げられます。

 

スタジアムだけでは、ホームゲームの20日しか稼働できません。20日の収入で建設費を全て賄うことは不可能です。スタジアムに施設を隣接させる事例は結構多いのですが、行政から土地をもらって公共施設として民間企業が作るというケースが多いんです。

 

その場合、事業収支を土地代・建設費を含めた全体で黒字化しようという考えにはあまりなりません。我々は民間の企業で、あくまでビジネスなので、スタジアムシティ全体では黒字にしないと企業としてやっている意味がありません。

 

スタジアムやアリーナだけで赤字を出さないための企画を考えるのは大変です。例えばスタジアムで言うと、先ほど述べた芝生公園のような使い方でお金をとるのは難しいです。全体として黒字化していかなければなりません。公共で使える建物で黒字化しようとする収支スキーム自体、前例がないので、いろいろなアイデアがないと厳しい現状があります。

 

行政からの補助金に関しても、基本的に地方公共団体にしか出ない仕組みなので、民間でこういった事業を行なった前例がないということが一番のハードルになっていますね。

 

これまでは行政を交えて行なっていた既存の事業を、全て民間で行なうという前例のない挑戦です。我々が全額投資している中で、本当に黒字が出るのかわからない不安は、正直存在します。

 

ーそこまで苦しい思いをして、全て民間で行うことにこだわる理由は何なのでしょうか?

これまでの公共施設では作り手と使い手が違うため、アリーナを実際に使用する人々から「使いにくい」という声をよく聞いたんです。アリーナの作り手である設計者が、アリーナを使ったことがないというケースもあるんです。

 

我々は企画や設計から現場の運用まで、全て自社でやろうとしているので、作り手と使い手が徹底的に一体化しています。それぞれが専門性を高めてサービスや設計にこだわったら、こんなにいいものができるんだいうことを示していきたいですね。

 

ー逆にこれで黒字化できれば、「民間でもできる」という新たな可能性ですよね。

まさにそれが、社長を含めて我々が願っているところです。「ここが成功しているなら我々もやってみようかな」というふうに、他の民間企業の挑戦に繋がればと思っています。こうして地域創生に貢献していきたいです。

 

ー開業の2023年〜2024年までもうすぐですが、今後の動きは?

ハード面で言うと、2020年中に企画を固めて、2021年度末頃から着工したいと考えています。2020年が企画や戦略に関しては勝負ですね。

 

ソフト面では、我々作り手が熱くなるだけでなく、長崎の方々と一緒に作るスタジアムだというイメージを作っていきたいです。長崎の方々の気運をどうやって高めていくのかが、ここから2年間が大事になってくるなと。

 

【後編へ続く】