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普及発展の先に描く“観る競技”への昇華。フットサル・岩本昌樹×ビーチサッカー・笛木威治対談

2016.06.07 / 田中 紘夢

笛木威治、岩本昌樹

今回はフットサルとビーチサッカーという、サッカーから派生した異なるスポーツに携わる2人を迎えて対談を行った。

岩本昌樹選手(写真:右)はフットサル創成期から競技の発展に尽力し、40歳となった現在でもFリーグ・バルドラール浦安の主力としてプレー。スクール活動やイベント出演など、多岐にわたって活躍している。

笛木威治氏(写真:左)は現在、千葉県美浜区幕張を本拠地として活動しているビーチサッカーチーム・Vamos a la Casa(バモス・ア・ラ・カーサ)のGM。ビーチサッカーの普及活動を通して、プロリーグの創設を試みている。

互いに協力してイベントの企画運営を行うなど、公私共に親交が深い2人。日本のフットサル界とビーチサッカー界を支える両雄が、競技の成り立ちや今後の課題について語った。

 

SNSを経由して出会った2人

 

-まず、お二人がどのようにして出会ったのか教えてください。

 

笛木僕がビーチサッカーを普及させていこうと考えたときに、そもそもリーグってどうやってできあがっていくんだろう?と思いまして。それでFリーグのことを調べていて、昔から活躍している年齢の高い選手を探していったら、もっさん(岩本昌樹選手)を見つけたんです。たまたまFacebookで友達になっていたのでメッセージを送ってみたら、実際に会って話すことになりました。かい摘まんで話すと、もっさんは「まずは独立リーグでもいいから開いちゃいなよ。そしたら後からきっとJFAが歩み寄ってくれるから」と言っていたんですよ。フットサルも、最初はJFA管轄ではない独立リーグからスタートしたそうです。

 

岩本フットサルをエンターテインメント性のある「観るスポーツ」にしたいという趣旨で、関東のトップチームが集まって、スーパーリーグを自分たちで立ち上げました。まだ僕が20代だった時の話ですね。それ以前は関東リーグがあったものの、お客さんを呼ぶような仕掛けや広告的な部分はなかったんです。

スーパーリーグは完全なアマチュアリーグだったので、好きなだけでは続けていけないところもあって、なんとかプロリーグを作ろうと必死でした。ゼロからイチをつくっていたという意味では、今のビーチサッカーと一緒だと思います。当時はサッカーをやっている人はフットサルを知っているけど、それ以外の人には知られていなかったんです。

 

笛木フットサルのいいところは、箱(競技施設)があるところだよね。僕らには箱がないから、人口を増やすのが本当に難しい。だけど、ビーチサッカーはやったら本当に楽しいんです。ビーチサッカーをやると今までの自分のサッカー人生をすべて否定されますけどね。「こんなヘタじゃない!」「自分はもっとうまい!」って。それくらい不安定なところでボールを扱っているんですよ。今は民間のフットサル場って本当に増えたよね。いつ頃からかな?

 

岩本Fリーグは来年10周年を迎えるけど、リーグができるもっと前からでき始めていたと思う。

 

笛木ちなみに、Fリーグ初年度からプレーしている人って、今はどれくらいいるの?

 

岩本意外といるよ。俺みたいな40歳オーバーはほとんどいないけど(笑)

 

-今年2月、フットサル日本代表はAFCフットサル選手権のプレーオフで敗れ、W杯出場を逃しました。岩本さんが日本代表候補に選出された2000年当時は、W杯に出場しようという取り組みはありましたか?

 

岩本ありましたね。その頃はW杯に出たこともなかったですし、世間にフットサルが知られていなかったのであまりクローズアップされることはなかったですけど。今回のアジア選手権のように代表戦がテレビでも放映されれば、いままでフットサルを見たことがない人を取り込むチャンスが広がりますね。

 

笛木代表の成績は、その競技の注目度に必ず直結するんですよね。なでしこジャパンを見ればそれは分かると思います。そういった意味では、ビーチサッカーは過去にW杯でベスト4に進出したことがあるんです。でも、フットボールで男子がW杯ベスト4なんて、ビーチサッカーだけですよね。しかも日本には練習環境が少ないのに。私はビーチサッカーが日本人に合っていると思うんですよ。相撲に代表されるような足腰の強さもありますし、マラソンのような自分を追い込む競技も得意ですし。ビーチサッカーは乳酸地獄ですから・・・(笑)

そういえば、ビーチサッカーではラモス瑠偉さんが監督をやっていたけど、フットサルも木村和司さんがやっていたよね。

 

岩本そうそう。俺が初めて代表合宿に呼ばれたときは、マリーニョが監督の時だったけど。まだフットサルを初めて1年半くらいの時だったかな。それまではサッカーのトレーニングの一環としてフットサルをやっていたんだけど、合宿でそこに情熱を持っている人たちとプレーして、いろいろな刺激を受けたね。それからサッカーをやめて、フットサルでやっていこうって思った。

 

笛木フットサルって、初速勝負みたいなところがあるじゃない。もっさんは初速がすごいんだよね。いまだにチームの体力テストでも1位でしょ?

 

岩本最近は測ってないけど、ちょっと前は短距離走、ジャンプ力、※Yo-Yoテスト、アジリティ(敏捷性)の4種類のテストがあるんだけど、全部1位。38歳くらいの時は、前の年より短距離走が速くなってたからね(笑)

 

Yo-Yoテスト・・・20mの往復走を、インターバルを挟んで走る持久力測定テスト。

 

笛木もっさんは絶対ビーチサッカーに向いてるんだよね。ビーチでは体重があると砂に埋もれていってしまうので、スピードという面では、軽いほうがいいんですよ。茂怜羅オズ(ビーチサッカー日本代表)もそうだけど、カモシカみたいに細い脚の人が多くて、サッカーのディフェンダーのような、がっちりしてる人は少ないんです。だから、もっさんは向いてると思うんだ。これ、ビーチサッカーに口説いてるだけなんだけど(笑)でも、まだスピードも上がってるし、フットサルでいけるからね。スポーツ選手は40歳で現役は無理だとか決めちゃダメだと思うんだよ。この人なんて今がピークかもしれないし。

 

岩本自由に交代ができるからね、フットサルは。

 

笛木ビーチサッカーもそう。それも含めてビーチサッカーはフットサルに近いんでしょ、ってよく言われるけど、そこは絶対サッカーのほうが近いんだよね。やってることはサッカーと同じで、フットサルとは別物。だから、サッカー出身の人はいるけど、フットサル出身の人はいない。カントナ(元フランス代表)とかロマーリオ(元ブラジル代表)とか、最近はレコバ(元ウルグアイ代表)もビーチサッカーを始めたよね。日本でも、高校で一生懸命サッカーをしたけど大学では生き残れなかった人の選択肢に、ビーチサッカーやフットサルが入ってくると面白いと思う。

 

岩本周りに高校サッカーの全国常連校とか、Jリーグのユースチームの指導者が結構いるんだけど、この時期になると連絡が来るんだよね。「フットサルやりたいやつがいるんだけど」って。その人をバルドラール浦安セグンド(サテライトチーム)の練習に参加させてあげたりはしてる。

 

笛木フットボールをやめちゃうのが一番もったいないからね。もしかしたらフットサルとかビーチサッカーにいったら、成功するかもしれないし。サッカー、フットサル、ビーチサッカーの3つでプレーしたのは比嘉リカルドさんだけかな?カズさんはフットサルもやっていたけど、ビーチサッカーにも来ないかな(笑)

 

岩本昌樹

笛木威治

長く続けていくことの難しさ

 

-岩本さんはミスター・バルドラールとして、バルドラール浦安でプレーし続けていますが、移籍を考えたことはありますか。

 

岩本移籍って、環境も変わって刺激にもなるだろうし、実際にした選手の話を聞いたりすると漠然とどんな感じなんだろうって思ったりすることはあります。
フットサル界では移籍が結構多いですけど、実際するかという話になったら、別問題ですね。ミスターってついちゃってますからね(笑)

 

笛木もっさんにはもうファンがたくさんついてるけど、今のフットサル界は人を呼べる選手が少ない気がする。昔はもっと存在感のある選手が多かった気がするんだけど・・・。

 

岩本なんでだろうね。それは結構まわりのフットサルファンの人からも言われるんだよ。でも、昔からやってる選手は関東リーグとかスーパーリーグとか、フットサルをどう盛り上げるかを考えながらやってきて、そこに共感してファンの方が応援してくれたんじゃないかなって今は思う。昔からのファンはそうやってプレー以外の部分も見てくれている分、すごく親身になってくれていて、応援の仕方も少し違う気がする。

 

笛木ビーチサッカーはまさに今、もっさんたちが築きあげてきたようなことをやっている段階だね。だからこそもっさんの意見には共感できるし、応援しちゃうんだよね。

 

岩本Fリーグができてから入ってきた選手は、フットサルをどう盛り上げようとかはあんまり考えなくていいと思っている人もいると思うんだよね。そこはチームとかメディアがやってくれるじゃん、みたいな。僕らは選手とチームが一緒になってメディアを連れてきたり、スポンサーを募ったりと、プレー以外の部分で考えなきゃいけないことがたくさんあった。今の選手はいい意味でも悪い意味でも与えられた環境に入ってきているわけだから、仕方ないとは思うんだけど。

 

笛木昔からのファンがいて、フットサルの普及にも携われる選手だからこそ、もっさんは簡単にフットサルをやめちゃいけないよ。やり続けなきゃ。

 

岩本長く続けていくことの難しさはあるけどね。Fリーグはプロ契約を結んでいる選手が少ないから、生活面を考えてもずっと続けられる選手は限られてくるし。サッカーもそうだけど、35歳をすぎると人間性の部分もすごく大事になってくると思う。日本では若手を積極的に使う風潮が強いから、30すぎでやめちゃう人は多いのは残念だけど。俺の8つ下くらいの人が『もう無理です』とか言ってると、「何でだよ、あと8年できんじゃん!」ってすごく思う(笑)

 

笛木30すぎになると、父親としても生活のことを考え始めるからね。どこまで続けられるかっていうのは、ファンや企業とのつながりもキーワードになってくるんじゃないかな。

 

岩本俺は今スクールをやっていたり、スポンサーについてくれる企業がいたりするから続けられているところはある。でも正直に言うと、スクールがなければ午前中に追い込んで昼に休んで、夜に練習行ってというサイクルができる分、今よりも身体を鍛えて、パフォーマンスを上げられるんじゃないかって思うところもあって。すごく疲れていたら練習までの時間を休むこともできるし、そこはもどかしいというか・・・。そしたらいくつまでプレーできるんだろうって思うことはあるけど、現実的にそうはいかないから。

環境が整えば競技力は間違いなく上がるし、生活を考えてフットサルをやめる人は少なくなる。現役中に金銭的なストレスがなくプレーに集中できたり、セカンドキャリアへの不安などが解消されるように、個人で環境を整えたりチームがサポートしてあげたりすることは、フットサル界全体の課題ですね。

 

笛木そういう話を聞いてると、ビーチサッカーはゼロからというよりマイナスからのスタートだね。まずは地面を掘って環境を作らないと(笑)

 

岩本フットサルもビーチサッカーも、すごく可能性のあるスポーツだとは思うけどな。特にフットサルは競技人口が多いし。ビーチサッカーも見ていて面白いってみんな思うだろうし、広められる何かがあればね。

 

笛木本当にそのとおり。同じ人にずっと見てもらえるのはいいことなんだけど、新しい人たちを呼びたいね。『ビーチサッカーってこんなに面白いんだ』『私もやってみたい』と思ってもらえるようにしたい。選手もプレーだけに集中してればいいんじゃなくて、もっと普及活動にも携わらないと。

 

岩本フットサルも、Fリーグが立ち上がった時は結構注目されてたんだよね。2年目、3年目も注目度は高かったけど、だんだん下がってきてる。2年目の時に俺らと名古屋オーシャンズの首位対決があったんだけど、代々木第一体育館にお客さんが7,000人入って。同じ会場でいま(※)セントラル開催をやっても、2,000~3,000人くらいじゃん。5,000人どこ行ったんですかね(笑)関東リーグでも、首位対決の時は2,000人以上入ってたからね。しかも大雪でめちゃめちゃふぶいてて、足もとの悪い中で。

 

セントラル開催・・・Fリーグに参加するすべてのチームが同じ会場に集まって、その節の全ゲームを集中開催するイベント。

 

笛木ビーチサッカーは、ヨーロッパではスイスが強いんだよね。海がない国なのに。もちろん、ビーチ沿いではないところにスタジアムがあって、会社帰りに酒飲みながら楽しめる環境ができあがっている。正直、ビーチサッカーは海よりスタジアムでやったほうがいい。海だと風があるし、人もなかなか来ないし。今はチームとかリーグがうんぬんというよりも、まずは環境を整えたい。あとは一過性のブームだったら誰でも作れると思うから、長く続けたからこそ辿りつく景色が見たいね。フットサルにおけるもっさんの活動ををお手本にしてるんだから、こけないでよ(笑)

 

フットサル界とビーチサッカー界の今後

 

-岩本さんは、海外での挑戦は考えていますか?

 

岩本行きたいな、とは思うけど、年齢的に厳しいです(笑)。年末にアメリカでもフットサルリーグができるようなので若かったらアメリカとか行きたいですね。アメリカはメジャーリーグサッカー(MLS)もそうだけど、盛り上げるのがうまいじゃないですか。インドアサッカーもすごく人気があるし。フットサルに投資する人も出てくると思うので、成功すると思いますけどね。ただ、ダメだった時の撤退が早い(笑)

 

笛木箱でやるスポーツは、エンターテインメント性があっていいと思うんだよね。固執しちゃダメで、いろいろなところとつながるべき。集客につながる何かと、協力していくことは、ありだよね。そういう余興を設けることも、フットサルの課題なのかもしれない。

 

-笛木さんが今後、日本のビーチサッカーの環境を作り上げていく上で必要だと思うことを教えてください。

 

笛木今まで日本のビーチサッカー界では、東京レキオスBS(旧レキオスFC)という絶対王者がいます。レキオスはフットサルでいう名古屋オーシャンズみたいな存在で、昨年ドルソーレ北九州というチームが、全国大会でその牙城を崩しました。ドルソーレはここ数年、打倒レキオスという気持ちで死ぬほど練習していて、その努力や行動が行政を動かし、ゴールを置いたり砂浜を整備したりと、自分達の環境を築いていったんだよね。彼らはたまたま優勝したんじゃなくて、自分たちの努力で環境を作ったんです。今、ドルソーレの選手は日本代表の軸のひとりとして、活躍しているんですが、彼らのように環境を得るための努力をすることが必要だと思いますね。

 

岩本あとは選手もチームも環境を変えていく努力を継続していくしかないと思う。選手とチームの意識が変われば環境も変わっていくと信じて積み上げるしかないです。

 

笛木環境は黙っていても変わらないからね。あとは、選手の身だしなみとか振る舞いもすごく大事だと思う。Jリーグの選手を見ると、新人研修で教育を受けていて、インタビューの受け答えもしっかりしてる。ビーチサッカーはまだまだ髪型や髪の色が奇抜だったり、見た目でインパクトのある人が多いけど、外に発信するときは身だしなみも選ばないと。そうじゃないと、企業も投資したいと思わないよね。

 

-最後に、お二人の今後の目標を教えてください。

 

岩本俺の目標はずっと変わらず、フットサルをたくさんの人に知ってもらうということです。その中でも、環境を良くすることがフットサルを始めた時からの目標ですね。その意識を常に持ちながらチームやスクールで活動しています。スクールの子供たちが大人になった時に、自分たちが作り上げた良い環境でボールを追いかけてほしいので。子供たちの将来のために頑張ります。

 

笛木とにかくビーチサッカーをたくさんの人に知ってもらいたいです。いろいろな人の力を借りて、少しでも環境を良くしていきたい。これは目標というか、日課ですね。きっと最後まで完成形はないと思いますけど。僕らにとっては高嶺の花なフットサル界でさえ、環境を良くしたいという同じ目標に向かっているわけですから、ビーチサッカーももっと危機感を持って取り組まないといけないんです。そうでないと、追いつくどころか終わってしまうと思うので。ビーチサッカーに関わるすべての人とともに、環境を作り上げていきたいです。

 

 

6月11日(土)、12日(日)に2016-17シーズン・Fリーグ開幕戦が行われます!

岩本選手所属のバルドラール浦安は12日15:30〜、シュライカー大阪と対戦予定です。

詳細はこちら(FリーグHP)

 

6月12日(日)にビーチサッカーをはじめとしたビーチスポーツが楽しめる祭典「MAKUHARI BEACH FES」が開催されます!

笛木氏が代表を務めるVamos a la Casaと代表選手の多く輩出している強豪・東京レキオスBSとの対戦も予定されています。

詳細はこちら(「MAKUHARI BEACH FES」特設HP)