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友広隆行(カイロプラクター)が提唱する、治療の「第3の選択肢」

2015.06.11 / 森 大樹

友広隆行

 

今回は(※)カイロプラクターで(※)AT(アスレティックトレーナー)の友広隆行さんのインタビューです。

友広さんは20歳の時に単身アメリカに渡り、現地の学校に通って権威ある資格、ドクターオブカイロプラクティックとNATA(全米アスレティックトレーナーズ協会)公認資格という2つの難関資格をクリアした数少ない日本人の1人です。

現地滞在中にはMLBロサンゼルス・ドジャースにトレーナー研修、ジャパン・サムライ・ベアーズ(元巨人・クロマティ氏率いる独立リーグのチーム)のチームドクターなどを務められました。現在は日本に帰国し、株式会社トータルリハビリテーションを立ち上げ、体の悩みを幅広く解決されています。

 

※カイロプラクティック:筋骨格系の問題から生ずるさまざまな症状を、背骨の歪みを取り除くことによって快復に導くヘルスケア。有効性をWHO(世界保健機関)は認めており、アメリカなどでは資格を取得すれば医療従事者として認定されるが、日本では法制化されておらず、資格が存在しないため、基準を満たす技術を持った従事者は少ない。

※AT(アスレティックトレーナー):スポーツ現場で選手が受傷したときの応急処置や傷害の評価、復帰までの手順を他の医療従事者や関係者と連携して考えたり、傷害の予防のために働いたりするスタッフ。

 

アメリカでアスレティックトレーナーの資格を取得

 

-  まず、友広さんがされていたスポーツとその経歴を教えてください。

小学校2年生からサッカーを始め、ずっとやってきましたが、高校2年の時に膝を怪我してしまい、医者からサッカーは諦めるように言われてしまいました。でも、引退まではかばいながら続けました。

 

-  長く続けてきたスポーツをそう簡単には止められないですよね。高校卒業後はどうされたのでしょうか。

2年間ほどいわゆるニートのような生活をしていましたね。その頃はバブル景気でアルバイトをしていてもボーナスが出るような時代でした。狭い日本から早く抜け出したい、僕も何かしたいなって海外に行こうと思ったんです。海外ならどこでもよかったのですが、昔から漠然と憧れていたアメリカにお金を貯めて行くことにしました。

 

-  アメリカで何かしたいことがあったのでしょうか。

特に決めていなかったです。英語も全く話せなかったですし、2~3年したら日本に帰って来よう、くらいにしか考えていませんでした。渡米する時もカリフォルニア州・サンタモニカの英語学校に行くということと、そこから紹介されたホームステイ先に住むということだけしか決まっていませんでしたね。

英語学校を卒業するとサンタモニカカレッジ(短期大学)に進むための基準をもらえたので、卒業後はそのまま進学しました。なんとそこで自分よりも大きな怪我をしながらサッカーを続けている学生と出会ったんです。当然その選手にプレーができて、なぜ自分にはできないのか疑問に思い、いろいろと調べました。

日本の整形外科治療や手術の技術は世界的の5本の指に入るほどにいいものですが、その後の競技に復帰するまでのリハビリ(リハビリテーション)に違いがありました。日本では当時、手術後、最前線でのスポーツ復帰は考えられず、手術=引退という図式があったように思います。しかし、アメリカでは競技復帰に向けたリハビリを最重要に手術・治療が考えられているということが分かったんです。それでアメリカ式の治療の手順に興味を持って勉強し始めたらいつの間にか16年経っていました(笑)

 

-  そうなると海外で専門的な知識を学ぶ必要がありますね。

そうですね。初めに通っていたのは短期大学で関係する資格が取得できなかったので、カリフォルニア州でアスレティックトレーナーの資格を取ることができる学校を探しました。それで全米大学サッカー選手権でベスト16に入るような強豪である、カリフォルニア州立大学フラトン校に思い切ってサッカーのトライアウトを受けに行ったんです。約300人いる中で2人しか受からないのですが、たまたま合格することができました。もう既に25歳だったので年齢の規定で1年しかプレーできませんでしたが、そこでサッカー選手としても再びプレーすることができました。ATも合格まで3回かかりましたが、無事取得することができました。でも今はもっと試験は難しくなっていると思いますよ。

 

野茂英雄、友広隆行

ドジャースへトレーナー研修に行った友広さんと当時所属していた野茂英雄投手(左)。他にも数々の野球選手を復活へと導いたトミー・ジョン手術を考案した故フランク・ジョーブ博士とも交友関係があった。

幅広い知識と経験が必要なカイロプラクター

 

- ATの資格取得後、カイロプラクティックの道に進んだのはどういった経緯があったのでしょうか。

フラトンを出た後は街の高校で働いていました。その学校は金属探知機のゲートをくぐらないと入れないような警備体制の厳しいところです(笑)しかし、そこではほとんど自分の手で子供達に何もしてあげられませんでした。アメリカの高校はすごく制限が多く、治療に親の許可が必要だったりしました。ATの資格だけでは何もすることができなくて、すごく無力感を感じたところから自分の身一つでいつでもどこでも治療が行えるカイロプラクティックに興味を持つようになったんです。

ただちょうどその頃に結婚したので、日本に帰ることも考えました。カイロプラクティックの資格を取るためにはまた4年間ドクターコースに通う必要がありました。それで父に相談したところ、お金は出すからやりたいならとことんやれるところまでやるようにと言ってくれたので、カイロプラクティックを学ぶために南カリフォルニア大学健康科学に進学し、ドクターオブカイロプラクティックを取得しました。

 

-  南カリフォルニア大学卒業後はどのように働いていたのでしょうか。

卒業した後4年間はアメリカで仕事をしていました。自分で会社を立ち上げて、カイロプラクティックや運動療法を中心に今と同じような形で診療していました。

 

- 友広さんが取得されたような基準を満たした資格が海外にはありますが、日本では法制化されておらず、まだカイロプラクティックについて誤解している人も多いと思います。

正直日本だとまだカイロプラクティックは怪しいと思われてしまいますよね。何の教育も受けていないのに明日からやります、と言ってすぐに始めてしまうことすらできてしまいます。一度試しにとあるお店に行ったことがありますが、あまりに酷かったので店長を呼んでもらったこともありますよ。知らないでそういったところにお金を払って通っている人が本当にかわいそうです。最終的に被害をこうむるのはやはり患者さんなのだと痛感しました。

元々カイロプラクティックは哲学的な側面が大きい学問ではあります。その哲学的な部分にいかに科学的根拠を付けられるかが、ここ100年間カイロプラクティックの世界では追求されてきており、実際に証明されてきています。あとはカイロプラクティックには本来、プライマリーヘルスケアといって他の医師と全く同じように、患者さんの整形外科的な物だけでなく内科的な物も含めた現在の状態を把握する、いわゆるファミリードクターのような役割もアメリカでは持っています。それだけ幅広い知識と経験が必要な職業だと言えるかもしれません。

 

ジャパン・サムライ・ベアーズ

アメリカ独立リーグ、ジャパン・サムライ・ベアーズではチームドクターを務めた。(友広さんは一番左上)

 

-  アメリカと日本のカイロプラクティックの違いを教えてください。

日本では資格がありませんが、発祥国のアメリカでは、カイロプラクティックを学ぶ過程で医師(medical doctor)と同じ教育を受けます。泌尿器科、小児科、婦人科などで学んだり、注射の練習をしたりもします。アメリカにはカイロプラクティックの資格を持った人がたくさんいますが、実は学校を無事に卒業して資格を取得できる人は3割程度です。勉強も難しいですし、授業も朝から晩まであります。ちなみに僕がドクターオブカイロプラクティックを取得する時には200ページの論文を提出しました。

 

- お子さんをご自身の手で取り上げたとお聞きしましたが、その時の知識があったからこそ可能だったのですね。

もちろん産婦人科の先生の立ち合いの下で行いました。実際に取り上げて、へその緒を自分で切りました。

 

-  苦労した末に資格を取得し、開業までした中で日本に戻ろうと考えたきっかけを教えてください。

根底には自分が学んだことを日本で広めたいという気持ちが強くありました。リハビリにおいて日本は20年以上遅れていると言われていたので、それを少しでも取り戻したいと思い、帰ることにしました。ようやく最近になって日本もリハビリに関してはよくなってきたと思います。

 

-  それでも日本はアメリカと比べるとかなり遅れているということでしょうか。

人によりますね。ご自身でしっかり勉強されている方は遅れていることはないですし、むしろ素晴らしい技術や知識を持っていて、僕も教えて頂いている人もいるので個人差が大きいと思います。

 

- しかし腕の良し悪しは我々受け手からすると分からないので、判断できません。

そこが日本の保険制度の一つの欠点で、腕が違ってもみんな同じ値段です。予防医療に関して海外では自由診療(保険外診療)が多いので、値段が高くても腕が良い人、評判良い人のところに行く方が多いと思います。アメリカの保険は基本的に民間の保険なので、保険のグレードによってまちまちですが、カイロプラクティックを始めとする、予防医療に関しても保険の適応を受けることも可能です。

 

- 日本は少子高齢化に伴ってこれからさらに医療制度に問題が生じてくる可能性もありますね。

もう問題は現実になってきていて、実は日本の病院はものすごく疲弊しています。もしかしたら病院は儲かっていて、医者はお金持ちだと思っている人が多いかもしれませんが、必ずしもそうではありません。医師の給与は時給換算すると高校生のアルバイト並みですし、例えば36時間勤務した後に手術を担当するなどハードな勤務体制です。長い待ち時間と短い外来が話題にもなりますが、その割に病院は儲かっていません。民間病院は4~5割、公立病院は8割が赤字だと言われています。一方で儲かっているのは薬屋さんと医療機材屋さんだけです。

現状、医師には手術するか、投薬で治療するか、という2つの選択肢しかありません。結果1〜2割程度の方は手術、残りの8〜9割の方は投薬治療となります。しかし僕はそこに運動療法という新たな第3の選択肢を増やしたいんです。中には薬を嫌がったり、薬を出さないことに不安になったりする患者さんもいるはずですからね。そのために僕は病院から近くの院外薬局ほどの距離に運動療法ができる施設をたくさん作っていきたいです。

 

友広隆行、クロマティ

ジャパン・サムライ・ベアーズを率いた元巨人・クロマティ氏(中央)と。

どのスポーツの選手も怪我なく長く競技を続けてもらいたい

 

-  友広さんの今後の目標を教えてください。

現在、日本では国民健康保険料が年間40兆円かかっています。健康保険料は払う人よりも、使う人(もらう人)の方が多くなり、制度が成り立たなくなります。そうなると維持するには払う人の負担が増えていくわけですが、僕は予防も含めてその40兆円をいかに減らすのかを考えています。

日本は保険制度が整っており、安く医療行為を受けることができます。しかしアメリカでは1ヶ月入院したら2000〜4000万円ほどかかります。だからこそアメリカ人は病気になる前の予防に力を入れています。太っている人も多いですけどね(笑)それでも各々が予防について考えています。

一方日本は、病気になっても安くて最先端の治療を受けられることが、当たり前になっていて予防にお金をかけません。だから予防に関しても海外に比べて遅れているわけです。

僕は安く医療行為が受けられる日本の仕組みは素晴らしいと思うので、それを次の世代まで残してあげたいと考えています。そのためにも僕らの店舗を増やしていって、医療費の削減に貢献していきたいです。

 

- まだ日本には予防のために何かに通うという文化がないように思います。

そうですね。実際僕のところにも痛みが出てから来る人の方が多いです。予防目的でいらっしゃる方は少ないです。

あとはどのようにしたら各々のパフォーマンスが上がるか、健康になれるかをできるだけ多くの人に伝えて、改善していきたいです。例えば姿勢を良くすると3割、業務効率が上がると言われています。今は特にIT関係の人に精神疾患を持っている方が多いというデータがあるのですが、姿勢が改善されると治ることもあるので、そういった人達のお役に立てればと思います。

今日本でWHOの基準を満たしたカイロプラクティックの資格を持った人は700人ほどいるので、そういった人達や一定の教育基準を超えているカイロプラクター、アメリカでAT(アスレティックトレーナー)資格を取得したのに仕事を見つけきれなかった方々などを巻き込みながら活動していくことができたら、もっと日本を元気にしていけると考えています。

 

-友広さんがカイロプラクティックとAT、両方の資格を持っているというのも強みですよね。

そうですね。僕が知るところではドクターオブカイロプラクティックとNATA(全米アスレティックトレーナーズ協会)公認資格の両方を取った日本人で現在帰国されている方は自分を含めて3人しかいません。1億2000万分の3の価値を見出して、おごらず気を引き締めて活動したいと考えています。

 

-  日本人と外国人と両方の体を診られてきていると思いますが、感じた違いなどはありますか。

まず、当たり前ですが日本人と比べて西洋人は体が大きいですね。僕は日本人でも体が大きい方なので対応できますが、小さい人だと大変だと思います。あとは同じ人間なので基本的には全く変わりません。あえて挙げるとしたら平熱が違いますね。向こうでは平熱は37度と習います。平熱が高いので半袖半ズボンでいる人がアメリカでは多いです(笑)。

 

友広隆行

 

-  長くアメリカに滞在されていた友広さんだからこそ経験した、変わったエピソードがあれば教えてください。

2回拳銃を突きつけられたことがあります。1回目は警察に向けられました。家の鍵を忘れてしまい、塀を登って入ろうとしたらたまたま通りかかった警察に「フリーズ!(動くな!)」と言われて、拳銃を突きつけられました(笑)

2回目は黒人に向けられました。夜中にお腹が空いたので友達とハンバーガーショップで食べ物を購入して持ち帰ろうとした時に、ちょうど入れ替わりで4人くらいの黒人がこちらに拳銃を向けて入ってきました(笑)すぐ近くで銃撃戦があったこともありますし、危険はたくさんありました。僕が行った年にはロサンゼルスで暴動があったりもしました。

 

-  それでは最後に読者の方にメッセージをお願いします。

まずは皆さんが今やっているスポーツを一生懸命やっていってください。そこで足りないと感じた部分を補うために僕らはいるので、信頼できる人にサポートしてもらってアドバイスをもらうといいと思います。僕もサポートをします。選手にとってはいかに信頼できる人に出会えるかが大切だと思います。選手は素直な方も多いので、変な人に出会って変なツボを買ってしまわないようにしてください(笑)

運もありますが、もしサポートしてもらうならやはりしっかりとした資格をもっている人、しっかりとした教育を受けている人に頼むほうがいいと思います。今は検索すればたくさんの情報が得られるはずです。そういったものをフル活用するのが得策かもしれません。そうしてどのスポーツの選手も怪我なく長く競技を続けてもらいたいですね。