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戸取大樹が、インラインスケートの普及に務める理由。

2015.10.15 / 森 大樹

戸取大樹

幼少期からローラースケートを始めた戸取大樹は現在はインストラクターとして働きながら、インラインスケートのマラソン競技を中心に国内外で活躍中。そして、既に11月13~22日に台湾で行われる世界選手権への4度目の出場が決まっており、現在はスポーツクラウドファンディングを行っている「アレ!ジャパン」で支援を募集している。
※ローラースケート:靴底に車のような並びで車輪を4つ付けたもの。

※インラインスケート:靴底に車輪を縦に4つ並べて付けたもの。

 

幼少期からスケート一筋の人生を歩む

-初めに戸取さんがスケートに出会ったきっかけを教えてください。

僕は板橋区の高島平の出身です。今はもうなくなってしまいましたが、当時は家の近くに屋内リンクがあり、4歳の時に父親に連れていってもらって、初めてローラースケートに触れました。小学生に上がってからは兄と同じクラブに入って高校まで一緒にやっていました。

 

-戸取さんはローラースケートとインラインスケート、どちらをメインでやったのでしょうか。

そもそも僕が小学校6年生になるまで、インラインスケートというものはなくて、ローラースケートしかありませんでした。中学生に上がるタイミングで日本にインラインスケートが入ってきて、そちらを始めるようになりました。ただ、所属していたクラブはローラーホッケーもやるところだったので、インラインスケートでのスピード競技と、ローラースケートでやるローラーホッケーを並行してしばらくやっていました。大学からスピード競技の割合が大きくなっていって、今は競技としてのローラースケートの方はほとんどやっていません。

 

-インラインスケートとローラースケートで大きな違いはありますか。

基本的にはあまりないと思います。特性的にはインラインスケートの方が直線的でスピードが出しやすく、ローラースケートは細かい小回りが利くということでしょうか。

 

-かなり早い段階からスケートに触れていたんですね。

でも実は僕は世界的に見ても遅咲きの方なんですよ。今の年齢で代表に入っているというのは海外を見ても珍しいです。

戸取大樹

 

-戸取さんが選手として長くご活躍されているということですよね。

 

僕は自分が息の長い選手だと勝手に思っていますけどね(笑)だいたいはジュニアの頃から速くて、中学、高校と進む中で代表などにも選ばれるようになってステップアップしていき、20代後半では一線を退くという選手が多いです。ひと昔前だとそもそも大学卒業後に経済的な問題等もあって競技を続けられる環境がなかったですから、結果的に若い人がやるスポーツになってしまっていました。

 

-そんな中、今でも続けられています。

はい。年齢的な面を言われることも多いですが、年齢というのは社会的な便利のためにある数字でしかないと思っていて、自分の中では特に問題ではありません。まだピークは先だと思っています。日本の人は年齢を気にしすぎるきらいがありますよね。よく「そんな歳にもなって」という言い回しがありますが、そもそも「そんな年齢」なんてないと考えています。年齢を言い訳にすることは簡単ですが、何かをできない理由の本質ではないですよね。

勝負の世界では年齢は関係なくて、勝ち負けだけで選手としての評価をされます。この歳で競技を続けていることをすごいと言ってもらえるのは素直に嬉しいですが、僕自身は年齢ではなく、結果を称えてもらえる選手になりたいです。皆さんも数字に捉われすぎずに挑戦していってほしいですね。

 

-経験が積み重なっていくことで強くなっていく部分もあると思います。遅咲きということには何か理由があるのでしょうか。

子どもの頃から始めてはいましたが、所属先はとても穏やかなところで、競い合うことよりも青少年の育成を主眼としたクラブでした。練習も週1回ですし、みんなで楽しくやるというスタンスでしたね。

大学進学のタイミングでちゃんと取り組みたいと考えたので、僕は一旦自転車部に入りました。100kmの道のりを走って帰ってくるという練習が普通で、そこでついた体力がスケートにも活きてきました。インラインスケートやアイススケートと、自転車というのは使う筋力が似ているんです。

 

-アイススケートの選手は夏場に自転車競技をしたりもしますね。

実際にアルベールビル冬季五輪銅メダリストの橋本聖子さんなどが自転車競技でも五輪に出場されていますよね。大臀筋や大腿四頭筋、腹筋など主に使う筋肉に共通する部分が多くあります。見た目の動作は違うように見えますが、実は近いんです。

 

-そういったことも考えて自転車競技に挑戦したということですね。

自転車でベースとなる体力を付けたので、今度は他の大学のローラースケート部に行き、練習させてもらうようになっていきました。合宿にまで参加して、自分の大学より通っていましたね(笑)

 

-競技自体は大学の部活に所属していたということですか。

大学に入るまでは地元のクラブで練習していましたが、附属高校から進学した早稲田大学には部活がなかったので、先ほどお話した形で他の大学に練習しに行っていました。

 

-練習先はどちらの大学だったんですか。

ローラースケートで名門とされている専修大学です。部活として活動していて、専用のリンクもあるんですよ!たいへんお世話になりました。

大学時代は自分のやる気に加えて、体力的にも充実し始めた頃だったので、一気にうまくなりましたね。大学の終わり頃から7年間は、スケートメーカーのチームである、POWERSLIDE 社の日本チームにも所属し、物品提供などサポートしてもらっていました。

競技力としても全日本でも入賞するようなレベルまで来ていましたが、そこで就職活動の時期が訪れます。

 

-仕事と競技の両立を考えなければいけなくなってきたということですね。

それで広告代理店の電通テックに就職しました。元々広告に興味はあったので、そちらの方面を目指して就職活動をしたんです。

 

-広告業界は忙しく、競技との両立が難しかったんじゃないですか。

その通りです。朝出社してもクライアントの意思決定を持ち帰ってから始まる仕事なので、結局日付が変わるくらいまで仕事をしていることが多かったです。楽しかった部分もありますが、このまま競技をせずにいたら、きっと後悔すると思ったので、1年半ほどで会社は辞めて、競技に専念することにしました。

 

-そうなると現在、活動における費用はどのようにして賄っているのですか。

競技にかかる費用は基本的にすべて自腹です。TOKYO DOME ROLLER×SKATE ARENAでインストラクターとして働いていて、職場としてとても応援してもらっていますが、完全なプロというわけではないので、アレ!ジャパンさんを通してクラウドファンディングのお願いをさせて頂いたりもしています。道具も基本的には自分で買っています。

 

-相当な出費ですよね。

僕自身は苦ではないですけど、考えてみればスケート以外にはほとんど使っていないですね。僕だけでなく、多くのトップ選手はそうだと思いますが、注ぎ込むところと使わないところをしっかり考えないといけません。

戸取大樹

 

オランダで感じた、日常生活の中にスポーツがあることへの憧れ

-戸取さんが思う、競技の魅力を教えてください。

風を切って走るというのは単純に気持ちいいですよ!すごく心地よいスポーツです。その中で相手に触れてしまうような至近距離で競い合っていくという魅力もあります。レースによっては、最後にトップを走っていた選手が必ずしも勝ちとはならないものもあります。それは周回毎の順位でポイントを付けられるレースであったり、下の順位の選手からどんどん離脱させられていくようなルールがあったりするものがあるからです。そうなると駆け引きや戦略的な面も出てくるので面白いです。

 

-競技を続けてきて特に印象的だったことを教えてください。

まず1つは大学時代の東日本選手権です。地元のリンクで行われたのですが、それが初めての全国レベルの大会での勝利でした。ずっと長く競技を続けてきた中でも試合で勝てないうちは心のどこかで勝てないと思い込んでいる部分があります。しかし1つ勝つことができれば勝てるということが分かるようになるので、取り組み方も変わっていきます。

 

-勝てるようになればさらに楽しいですよね!

もう1つの転機は2007年にオランダに3週間ほど滞在して、現地のチームでやらせてもらった時です。非常にレベルが高く、プロとして確立された環境の中で、自分には全く歯が立たない選手が何千人単位でいるということを経験しました。そこでさらに競技の面白みを感じたんです。その中に入っていけたら絶対楽しいと思いました。世界が一気に広がりました。

そして日本と違い、幅広い年代の人が競技にきちんと取り組んでいるということも印象的でした。社会人になってからも競技をできる社会環境があるんです。普通の人の日常生活の中にスポーツがある、ということです。それはローラースケートに限ったことではありません。平日の昼間にアイススケートリンクに行ったら、人でいっぱいだったんです。子どもから大人、老齢の方までアイススケートを楽しんでいました。非常にカルチャーショックを受けたのを覚えています。

 

-日本においても、日常にスポーツが入っていくといいですよね。

そうですね。将来的には日本でもそうなるような取り組みをしていきたいですね。今からできることを少しずつやっていければとは思っています。

日本では、スポーツをしない人からすると競技的にトップクラスでやっている人は本当に雲の上の存在で、逆にそれ以外の人達は遊び程度に思われてしまっています。中間の層がなくて谷間状態なのです。そこが日本でスポーツが日常の暮らしに入り込んでいかない原因の一つだと感じています。

 

-確かに日本は一流と認められないと肩身の狭い思いをすることになりがちですね。

他の国を見ると競技と遊びの中間でスポーツを楽しんでいる人がたくさんいます。トップの層と下の層との距離も近くて、初心者でも気負わずトップ選手と話していたり、臆せず一流の道具を揃えたりしています。日本でも遊びと競技が切り離されるのではなく、中間層が増え、底辺となる遊びの層から頂点となるトップの層に向かって綺麗な三角形の分布が描けるようになるといいと思います。何よりスポーツは楽しむことが原点ですからね。

 

-気軽にできる環境が足りていないというのもあるかもしれませんね。

あとは競技を真剣にやることで少しでもお金が出るというのは大切だと思っています。現状では、競技を続けていくことは消費していく一方でいつかは破綻が来ます。消費一辺倒かそうでないかの違いは、ジュニア世代にとって競技への取り組み方そのものさえ左右する問題です。経済的な転機を迎える学生生活の終わりの後も持続可能な環境があることは、より長期的な視野を持ってトレーニングが出来ることを意味します。昨年参戦していたアメリカのプロインドアレースでは、プロとしての魅せ方や運営の仕方などとても勉強になりました。

戸取大樹

 

-実際に本格的に競技を始めたくなった場合、道具にはどのくらいの金額がかかるのでしょうか。

 

競技入門用でしたら7~8万円で一通り揃います。より本格的に競技をするために足型を取って自分専用にフィットさせるものを作ると20万円ほどかかります。そうやってカスタマイズして、ウィール(車輪)などの部品も合わせると合計で25万円近くなります。靴の部分は1~2年同じものを使い、僕の場合は海外遠征に行った時にまた新しく型を取って作ったりしています。

 

-コンディションなどに応じてタイヤを交換したりはするのですか。

それはします。レースの時は常に3、4種類のタイヤを用意していきます。事前に気候や路面の状態などを確認して、使用するタイヤを選んでいきます。そこはモータースポーツ同様にシビアな部分です。現地で滑ってみないとどのタイヤが合うのかは分かりませんし、選択ミスをすればレースに致命的に影響します。

戸取大樹

 

-陸上と同じように短距離から長距離まで幅広い種目がありますよね。

そうですね。競技は3種類あって、1周200mのバンクを周回するトラック競技、1周400~500mほどのアスファルトのコースを周回するロード競技、あとは市街地で42kmを走るマラソン競技というのが世界選手権で行われる種目です。当然その全てでタイヤも変わってきます。例えば短距離ではあれば転がりよりもグリップを重視したり、長距離ではグリップ力が落ちても転がりがよく、スムーズに滑ることができるものを選んだりします。メーカーによってタイヤを作る時のウレタンの混ぜ方が違うため、同じ硬さでもグリップや伸びが違ってきます。その辺りも考慮してタイヤ選びをします。

 

-その中で戸取さんが得意とされている種目を教えてください。

僕は陸上と同じように42.195kmをスケートで走る、マラソン競技を得意としています。マラソン種目が好きですし、自分の特性に合っているとも思っています。実際にこの1年、成績も伸びていっています。

 

-やはり道具をつくっているメーカーがある国が競技も盛んなのでしょうか。

はい。基本的には欧米が中心ですね。僕が以前所属していたチームのメーカーであるPOWERSLIDEはドイツの会社です。あとはアメリカにも大手メーカーがあって、競技も盛んです。

ただ、今一番競技として盛んな国は実はコロンビアなんです。元々はローラースケートでやっていたわけですが、1980年代にインラインスケートが出てきたころから強くなっていきました。現在コロンビアの選手が強いのはそもそもの競技人口が多いからだと思います。国技に近い形になっていて、メディアにもトップ選手がたくさん出ています。裾野も広く、1つのクラブチームに1000人以上所属しているところもあるそうです。リンクもたくさんあります。

 

-そこまでコロンビアで人気があるということは知りませんでした!

あとは韓国も強くて、国体競技の一つにもなっています。市(日本で言う県)がそれぞれチームを持っていて、トップ選手になると年収1,000万円を超える額をもらえたりしています。コロンビアほどではないですが、国際舞台でいい成績を収めています。

 

-競技としてアイススケートと共通する部分も多いのでしょうか。

運動動作として見たらほぼ同じものだと思って頂いても問題はないです。特筆すべきは、欧州を中心にここ4~5年でローラースケートからアイススケートに転向する選手が増えているということです。ローラースケートの選手はアイススケートの選手と比べると繊細さには欠けますが、その分パワーやスタミナがあるので、転向しても結果を残せるんです。ソチ五輪でも転向した選手がメダルを獲ったりもしています。なぜ転向するかというと、アイススケートであればお金が出るのが大きな理由です。転向した選手は皆口を揃えて「ローラースケートで生活できるならいつでも戻るけれど」と言います。

 

-生活を懸けて競技をしているとなると金銭面の難しさはありますよね。外に頻繁に行く中で、他の言語もできるようになったのではないですか。

特に韓国には2010~2011年の間で何度も強いチームに練習に行かせてもらいましたし、世界選手権が行われる際には大会の1ヶ月半前から現地入りして練習をしていました。だから多少は韓国語も話せます。でも競技仲間にだけ通じるようなことばかりですが(笑)

 

-戸取さんは試合前などに緊張するタイプですか。

昔から緊張はしないですが、ナーバスにはなっていると思います。試合前1、2週間は情報や食べ物など、余計なものを極力自分に入れないようにし、レースに必要のないものはできるだけ排除していく期間に入ります。

 

-試合直前に音楽を聴いたりもしないですか。

しないですね。ちなみに日常生活ではラジオが好きです。家にももう10年ほどテレビがなくて、ずっとラジオを聴いています。テレビがあると、ずっと視てしまって何もできなくなりそうなので。だから世間の話題に全然付いていけていないです(笑)

戸取大樹

 

スケートの世界は仲間意識が強い

-戸取さんの今後の目標を教えてください。

世界選手権で勝つことが一番の目標です。可能性は高くないかもしれませんが、出るからには常にそこを目指してやっていきます。あとは年間を通してコンスタントにレースに出場して欧州のマラソンで勝ちたいです。できれば生活の拠点も海外に移したいと思っています。

 

-ここまでは競技面についてお伺いしましたが、戸取さんご自身についてもお聞きしていきます。オフの日は何をしていますか。

スケートの外では基本的にスーパーインドアな性格なので、部屋に閉じこもります(笑)。家では手当り次第に本を読んでいます。あとは絵を描いていますね。

 

-絵を描くというのはスポーツ選手としては意外な趣味ですね!

広告代理店では営業職でしたがデザイナー志望でした。デザインというのは伝えたいことを、すぐに相手に伝わるようにする「問題解決」だと思っています。絵をつかって問題を考えるという作業が楽しいのです。僕自身は法学部出身なので、専門的に勉強したわけではないですが、兄が美大出身ということもあって、絵を描く環境は身近にありました。今の職場のロゴも僕の制作です。

 

-もはや落書きではないですね(笑)もしスケートをしていなかったら何をしていましたか。

インドアな性格なので、デザインの道に進んでいたかもしれません。僕自身は飛び抜けて運動の才能があるわけではないと思っています。僕より速く滑る人はたくさんいましたが、みんな止めていってしまいました。気がついたら上にいたという感じです(笑)

 

戸取大樹

-戸取さんがご自身で思う、自分の魅力はどこにあると思いますか。

何にもこだわらないところでしょうか。大抵一人で行動しているので、どこの人でもない代わりにどこへでも入っていけます。世界のどこのレースでも参加して、写真に写っているので「お前はどこにでもいるな」と言われます。自分の国の地域から出てレースをする選手は多くはなく、珍しいと思います。

 

-フットワークが軽く、どこにでも馴染める力を持っているということですね。

スケートの世界では、スケーターであることで既に仲間だという意識が他の競技よりも強いです。世界中にそういう友だちがいるので、海外に行った時にはお世話になる代わりに、逆に他の国のスケーターが日本に来る時には面倒を見ます。持ちつ持たれつの関係があるというのはいいところだと思います。

あと、僕はよくフォームが変わるんです。あまり固執せず、いいと思ったら素直に取り入れるようにしています。元に戻すこともありますが、成長できているという実感があるうちは競技として第一線でやり続けていきます。それがマイナスになっていく一方だと感じた時がもしかしたら選手としての潮時なのかもしれませんね。でもまだまだ選手としてやることがたくさんあります!

 

-最後の読者の方にメッセージをお願いします。

皆さんにはスケートを含めてスポーツ全般何でもいいので、あまり気構えずにやってみてほしいなと思っています。もちろんその中でローラースケートをやってみて、僕のような選手を知ってもらえたら嬉しいです。やめるのはいつでもできるので、少しでも興味を持ったらまずやってみてください!