【選手特別対談】小野 伸二(サッカー)×小野 大輔(フットサル)
今回は小野伸二選手(北海道コンサドーレ札幌)、小野大輔選手(湘南ベルマーレ:>単独インタビュー)をお招きして、“W小野対談”をお届けする。2人は同い年で、海外クラブでのプレー経験があり、日本代表としても活躍したという共通点を持つ。日本のサッカー界とフットサル界を牽引し、公私共に親交の深い両選手が互いのサッカー観やプライベート、そして裏話を存分に語ってもらった。
大輔:冗談はさておき、まずは伸二と出会ったきっかけから話していこうか。
伸二:ちゃんと初めて話したのは確か2008年の末にJISS(国立スポーツ科学センター)でだったと思う。大輔は怪我でプレーしなかったんだけど、その前のフットサルのイベントでも少し話はしていたね。でも今みたいに付き合うようになった一番のきっかけはその後にJISSで会った時だよな。
大輔:JISSでは他のアスリートの人達は黙々とトレーニングをしていたよね。長くそこでやっている人のグループなんかもできていて、行っても自分はなかなかそこに入っていけなかった。ほら、俺人見知りだからさ(笑)そんな時たまたま一人でアイシングしている伸二のことを見かけたんだ。
伸二:俺も同じで、なかなかそこには入っていけずにいたんだよ。
大輔:それで何気なく、昼飯でも行く?なんて声かけたのを覚えてる。そこからの付き合いになるわけだけど…まぁ俺が一方的に仲良いと思ってるだけかな(笑)
伸二:たまたま同級生だったというのもここまで仲良くなる一つの大きな要因だったかも。
大輔:飯と言えば、一緒に商店街を歩いていると周りの人に気付かれるんだよね。伸二には本当は帽子とか被ってほしいんだけど、そんなのお構いなしでこのまま歩くからさ。それで「小野選手!」と後ろから声をかけられたから、二人で振り返ったわけ。俺も“小野選手”だから。でも向こうは俺のことなんか一切見てないのよ(笑)その時は伸二だけずるい!と思ったわ。飯食ってる時も店の外でみんな写真やサインを待ってたし。
伸二:飯うまかったよね。あの赤羽の店、ランチにしては高かったけど。
大輔:ちょっと、サッカーの話をしようか。お互い怪我をしながらも選手を続けてきたけど、何か心がけてきたことはある?
伸二:長く続けることに関して何か特別なコツみたいなものはないよ。ただ“サッカーが好き”ということだけが自分を支えてくれている。
大輔:そうだね。でも長く続けられる性格というのはあると思う。俺は他のJリーガーとも蹴る機会があるけど、みんな年下の選手は伸二のことを慕っている。伸二を含め、うまい選手はいっぱいいる。でも人として大切な性格を伸二は持ってるよ。俺も自分に置き換えて、もっと直さないといけない、と気付かされる面はあるね。
伸二:特に誰だから意識して接しているというのはないんだけど。人はみんな平等だし、年下の選手に対して変に先輩ぶることもしない。俺は若い子達の力を伸ばしていきたい、その一心でやっているかな。
大輔:若い選手と一緒に飯食べに行ったり、たわいのない話をしていると仲良くなって、向こうが考えていることが分かってくるから面白いよね。でもどうしても若い選手は俺のことが初めは怖いらしく、取っ付きにくいとは言われる。伸二みたいな顔してないから(笑)そういえばこの前、若いFWの選手がこっちを見てないのに俺からパスが来て驚いていたな。俺はプレーに関してどういう意図があってその選択をしたのか、ちゃんと話した上でアドバイスをくれると言っていたんだけど、そういうことの積み重ねで信頼関係は生まれていくものなんじゃないかな。
伸二:そこで歳は関係ないからね。俺も全然そんなこと気にしてない。
大輔:同い年として、俺のことはどういう性格だと感じてる?
伸二:はっきりしてるよね。好き嫌いがはっきりしているからすぐバレる。
大輔:表には出さないようにしてるんだけどな…そう言われたのは初めてだわ。伸二はこんなに誰もが知っている選手なのに気を遣えるし、優しい。これに尽きるね。
伸二:優しい方がモテるしね。
大輔:やっぱり最後はそこなんだな(笑)
伸二:結局顔とかじゃないんだよ。優しい方が男からも好かれるし。
大輔:逆に俺に直してほしいところとかある?
伸二:夜遅くにメールしてくるのはやめてほしい!どうせ起きてるでしょ、みたいな感じで送ってくるからね(笑)
大輔:普段伸二は東京にいないから、こっちにいるという情報をキャッチしたらテンション上がっちゃってさ。
伸二:大輔と会うとサッカーの話ばっかりしてるよね。プレーについてもそうだし、これからどうしていくのかも話すかな。
大輔:俺が今後どうしていくか悩んだ時も呼び出してランチに行ったね。伸二の奥さんも同い年だから二人に話聞いてもらってさ。
伸二:その時はうちの嫁が意見してたな。
大輔:すごくありがたい意見で、そのおかげで今季自分の中でいい結果が出せたので、感謝してる。
俺、伸二のプレーに関しては一緒にやってないからあんまり語ることができないんだけど、あえて魅力を挙げるとすれば独特のリズムを持っていることだね。だいたいパッと見て、うまい感覚を持っている選手はすぐに分かるんだけど、伸二は「そのリズム、俺には分からない」「そのタイミングでパス出す人見たことない」と思わせてくれる、予測できないプレーをする選手。
伸二:大輔はどっぷりフットサルの選手だよね。一緒にやっていてよく分かる。でもその中でも魅せるプレーをするあたりが、さすがやな。「そこでそういうことしちゃうんだ」「この時はこうするのね」と感じることができて、一緒にやっていて面白いよ。大輔とはサッカー観が合っていて、ゴールまでの流れが俺も頭の中で描けるから楽しい。元々俺がサッカーよりフットサルの方が好きなのもあるかも。フットサルはボールにいっぱい触れるし。
大輔:もちろんゴールが決まれば嬉しいんだけど、何でも決まればいいわけではなくて、俺は自分の組み立てた通りに入って初めて「よし!」となるんだよね。伸二も言葉は全く同じじゃないんだけど、似たようなことを話していたのを聞いた時は嬉しかったな。
伸二:そう。やっぱり過程は大事なんだよ。ゴールという結果自体はそれでよしとしていい。でもそこに至るまで、一つひとつのパスを繋いで、華麗なラストパスからゴールを決める、バルサみたいなサッカーの方が観ている人も楽しいじゃない。やっている人はもちろんのこと、観ている人が楽しくないと何にもならないよ。
大輔:監督や観ている人に横に出せとか、セーフティに行けとか言われたりすることももちろんある。でも選手としては人が無理だと思うところを通してなんぼなわけで、ゴールに結び付けることが自分の存在意義を示すことに繋がるんだよ。もちろんそこに固執するわけじゃないけど、自分がゴールに最短だと思って、通せる可能性があると判断したから、チャレンジする。それが実際に通った時は観ている人も驚いて、楽しいと感じるだろうし、逆に通らなければ周りにいろいろ言われることになるけど、セーフティなことばかり続けていて何が楽しいのか、と俺は思う。
伸二:リスクを冒して、それが通れば周りは評価するけど、通らなければただのミスになってしまう。分かっている人はいいところを狙ったと理解してくれるんだけど、そうでない人は疑問に思うだけ。ただ、それを通した時の快感は他の人では味わえない。上から観ている誰かを驚かせるようなプレーこそが人を魅了することができるんだよ。少なくとも俺はそういうものを心がけてやってきた。
大輔:オーストラリアでやっていた時、左足でループシュート決めていたけど、あれは狙ったの?
伸二:まぁ、たまたまだよね。
大輔:ここまで話しておいてそれかよ(笑)
伸二:入る時は入るんだよ。こっちも入ると思って打ってるからね。だから何の力みもないし。
大輔:でもそういうプレーを続けてきたから、日本に帰国する前の※ホーム最後の試合で伸二のために花火が上げられたりしたわけだよね。
魅了してくれた選手に対しては言葉や国も関係なく、盛大に讃え、表現してくれるんだな、と感じたよ。こんな選手今までいなかったんじゃないかな。
※小野伸二選手が前所属・ウエスタン・シドニー・ワンダラーズとして最後に出場した2014年4月5日の試合ではゴール裏のサポーターから大きなフラッグが掲げられ、背番号21にちなんで前半21分に21発の花火が打ち上げられた。
大輔:俺も伸二もスクールをやったりする機会があるけど、子供と一緒にやることは刺激になるよね。
伸二:これはよく言うんだけど、子供に“教える”感覚じゃないんだよ。僕らは今もプロとしてやっていて、教えることに関してはある意味まだ素人だから。今まで自分がやってきたことを振り返って、プロを目指す子供達にとってこの時期に大切なことを“伝える”という感覚でいる。
大輔:俺も一緒。子供達には現役選手のプレーの感覚を肌で感じてもらい、それを今度は自分で友達とやる時にチャレンジしたり、イメージを持ってやってくれたりしたら、俺らと一緒にやったことが価値のあるものになるんじゃないかな。基本的な技術以外の戦術とか、そういう細かいことを大人が並べたところで子供の頃の俺はそんなこと全然気にしなかった。もしかしたら大人が変な先入観とか価値観を押し付けて、子供達がやりたいプレーができなくなっていることもあるんじゃないかな。
伸二:子供のストロングポイントだけを伸ばすことが大切だね。ウィークポイントなんて関係ない。この子は何を考え、どういうプレーをしたいのか。それが大事なことだと思う。もちろんただ楽しいことだけをやるんじゃダメ。基礎的な部分を徹底してやって身に付けることで、そこを基盤としていろいろなことができるようになっていくわけ。今の子供達は良くも悪くも様々な情報を手に入れることができる。海外のこととかね。ただ、俺の根底にある一番大事なことは「止めて、蹴る」というサッカーにおいて最も重要とされる部分。今はそれをしっかりやらずに、ステップを飛び越えて格好良いことばかりやってしまう人がいる。でも正直そんなの必要ない。まずは基礎の部分を徹底してやらないといけないよ。
大輔:だいぶ真面目な話になっちゃったな(笑)基本、飲みに行くとこんな感じでサッカーの話ばかりしてるんだよね。伸二の好きなお酒は?
伸二:ワインだね、やっぱり。
大輔:そうだよね。俺は焼酎かな。酒は絶対伸二の方が強い!ただ、伸二は酔ってもうダメだという時は帰っちゃうけど。
伸二:俺、眠くなったら帰るからね(笑)
大輔:これは俺が聞きたい質問なんだけど、今までいろいろ乗ってきて、よかった車を教えてほしい。
伸二:ポルシェはいいね。カイエンもパナメーラも乗った。あと、この前知り合いのフェラーリに乗せてもらったんだけど、音も何もかも今までの車と違がっていて、最終的に行く着くところはここなのかな、と思った。今まで興味なかったんだけど、やっぱりフェラーリはすごいと実感したね。
大輔:でも実用的ではないじゃん。みんなでどっか行こうよ、という時に困る。
伸二:一人用ならいいでしょ。あとはマセラティに乗ってみたい!誰かくれないかな(笑)
大輔:どこの誰が見ているか分からないから、もしかしたらあるかもよ?俺はパナメーラがいい!伸二は服に関してこだわりはあるの?
伸二:俺はあんまりブランドとかこだわって買ってないな。見て、いいなと思ったら買っちゃうんで。
大輔:俺は結構雑誌とかも見るんだよね。それでこの前一緒に青山を歩いていて、伸二が立ち寄りたいと言った店に入ったら、雑誌に今流行っていると書いてあった靴がたまたま置いてあってさ。この伸二の嗅覚、何?って思ったよ(笑)伸二は全然そういうファッション雑誌読まないのにね。
伸二:俺はこれ、そういうブランドなんだね、と後から知った(笑)
大輔:ちなみに俺はストリート系のゆるい感じが好き。裏原世代なので。次の質問だけど、長い付き合いの選手って誰かいる?
伸二:※平川(忠亮)かな。同い年で小学5年の時からずっと一緒で、日本代表に入ってもおかしくない実力を持っている選手。今も現役でやっていて、いい刺激をもらってる。あとはコンサドーレのキャプテンで1つ年上の※河合竜二さん。プロに入ってからずっとお世話になっているよ。
※平川忠亮選手:浦和レッズ・背番号14。清水商業高校時代も小野伸二選手と同級生。筑波大学を卒業後に浦和に入団し、再びチームメイトとしてプレーした。
※河合竜二選手:北海道コンサドーレ札幌・背番号4。小野伸二選手の浦和レッズ入団時に同クラブに所属していた。
大輔:俺は※ナオ(石川直宏)かな。近くにいるし、何かあるとよく一緒にご飯食べに行くね。
※石川直宏選手:FC東京・背番号18。元サッカー日本代表。
大輔:最後になるけど、伸二のこれからの目標を教えて。
伸二:1日でも長くサッカーをやり続けたい。俺はサッカーをやっている時が一番幸せだから、その時間を少しでも長くしたい。
大輔:俺はさっきも言ったようにこれからも選手としてリスクがあるプレーにチャレンジしていきたい。その欲がなくなっている時はどこかで諦めている気がするから。自分にしかできないプレーを体が続く限り、楽しみながらやっていきたいね。