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【指導者対談】大西功監督×山中武司ヘッドコーチ(慶應義塾大学・アイスホッケー部)

2015.11.19 / AZrena編集部

山中武司、大西功

 

大西「僕が口説きました(笑)」

-お二人がアイスホッケーという競技を選手としてスタートした理由を教えてください。

大西:私は中学生までずっとラグビーをやってきました。高校では他の競技もやってみたいと思い、同じようにフィールド上で戦うようなチームスポーツが良いなと感じていたので、アイスホッケーに興味を持って始めることにしました。関東では高校からアイスホッケーを始めるということは珍しくはありませんでしたが、北海道など全国的に見ると競技を始めるのは遅く、他の選手との実力差などから高校と大学では苦労することも多かったです。

 

-ラグビー、アイスホッケーと激しいコンタクトスポーツを選んでいますね。

大西:おかげでかなり怪我はしましたね。おかげで私は「怪我西くん」と呼ばれていました(笑)膝の靭帯などをよく怪我していました。体も小さいので、どうしても大きな選手には潰されてしまいます。でもコンタクトスポーツが好きだったんです!

 

山中:私の場合は兄が2人いて、どちらもアイスホッケーをやっていたということが影響しています。北海道の苫小牧出身なので、地域柄アイスホッケーが盛んだったので、周りの友達もみんなやっていました。冬になると公園にリンクができて、部活動として始める前からやる環境も整っていたので、早くからその楽しさに触れていました。ただ、夏の間は中学生になるまで野球をやっていました。

 

山中武司

山中ヘッドコーチは現役時代、日本代表としても活躍

 

-お二人とも現役を引退されてから指導者の道を歩んでいるわけですが、それぞれどういった経緯で始めたのでしょうか。

大西:慶応の前のチームスタッフの方が指導をして10年経ち、入れ替えるという時期にお声がけ頂きました。私の娘3人もアイスホッケーをやっており、その送迎や仕事もある中だったので、まずは技術的なことを指導できるヘッドコーチとして山中さんと知り合い、僕が口説きました(笑)ただ、やはり声をかけられた以上、自分も関わっていくべきだろうという話になって、私は監督をやらせて頂くことになりました。

 

-山中ヘッドコーチとはどのような出会いだったのですか。

大西:山中さんとは共通の知人を通して知り合いました。知人にプレーヤーとしての経験と指導者としての実績がある方を探してもらったところ、王子イーグルスのヘッドコーチを辞められたタイミングだった山中さんの名前が挙がってお願いしに行ったという形です。

大西功

 

-お子様3人とも若くからアイスホッケーをやられているんですね。

大西:きっと娘達から見たら、お父さんがだらしなく見えたのでしょう(笑)僕からやらせるようにしたというより、リンクに行くうちに自然と始めたくなっていった感じです。元々はクラシックバレエをやっていたのですが、プロコースに行くかどうか選ぶタイミングで、そちらは止めてアイスホッケーをやってみたいという話になりました。

 

-近くにプレーができる環境がたくさんあるわけでは無いですよね。

大西:そうなんです!だから送り迎え含めて大変です(笑)リンクもたくさんはないですし、娘達も年齢が離れており、カテゴリがそれぞれ違うので。

 

-そうなるとその娘さんの3つのカテゴリに加えて、大学生も見ていることになるので、幅広い世代を知っていることになりますね。

大西:ただ、僕は現場を離れて既に20年以上経っているので、山中ヘッドコーチが最先端の技術を教えてくださることを、自分も学生と一緒になって勉強しています。

学生達も練習を、どういうプレーに役立つのかを考えながらやるようになってきたと思います。試合でそれがうまく現れていけば大きな爆発力を発揮してくれるでしょうね。

大学生が山中ヘッドコーチの教えを自分のものにしようと頑張り、娘達も上を目指すためにいろいろと努力している姿を見ると自分も睡眠時間を削ってでも取り組まないといけない気になってきます。

山中武司

 

-実業団での指導実績もある山中さんが、大学生を教えようと思った理由を教えてください。

山中:私は王子イーグルスでは7年間指導をしました。トップチームで指導する中でいろいろなことが見えてきて、もし王子イーグルスを去ることになったとしても、この経験をこれからの日本のホッケーを担う子供達や若い世代のために仕事をしていきたいと考えるようになったんです。王子イーグルスでの指導を終えてからは会社に戻ってしばらく勤めていたのですが、やはりこのままではいけないということで退職し、ジュニアの指導ができる場所を探していたところで大西さんに出会ったという流れです。だから大学の指導者になるとは思っていませんでした。

 

-指導する上で実業団の選手と大学の選手を比べて、意識しているところはありますか。

大西:実業団で実績があり、最先端の戦術を理解しているヘッドコーチが来てくださったので、それを慶応の学生達にどう落とし込んでいくかは意識しています。

個人のスキルがそれぞれ違うナショナルチームなども見られている山中さんと一緒になって、慶応をトップレベルに近づけていきたいです。

 

-学生に何かを伝えるというのは、プロよりも難しい部分もあるかと思いますが、工夫していることはありますか。

大西:山中ヘッドコーチはビデオクリップなどを使って事細かに指導してくださるので、そこはすごく助かっています。学生達も今までになかった指導内容なので、それを吸収しようと必死になっていると思います。まだなかなか結果が伴ってきていませんが、選手のその姿勢自体が変わってきた部分ですね。

 

山中:僕が指導者としてずっと意識しているのは準備をしっかりするということです。それは選手に要求するだけでなく、私自身も試合前の準備として相手チームをスカウトしたりするようにしています。

今まで私はトップで教えてきたので、ある程度言っておけば選手達はできていました。

しかし子供達や大学生に教える時にはそうはいきません。自分が言っただけで満足するのではなく、しっかり理解して実行しているのかまで見てあげないといけないんです。そのためにまず初めに私がやりたいことをビデオで見せるようにしています。実際に私が指導していた王子イーグルスの映像を見せて、どういう形を作っていきたいのか、話をします。そして自分達でやったものもビデオで撮影し、取り組みについてフィードバックをして、できていれば褒めています。また選手が次のステップに向けて、前向きにやっていけるようにするということが大切ですね。

 

経験者と未経験者の差を埋めるのが課題

-小さい成功体験を積み重ねるということが大切なんですね。大学からアイスホッケーを始める人と、小さな頃からやってきた人とでは、やはり大きな違いがあるのでしょうか。

大西:そうですね。その差を埋めるということが慶応の長年の課題でもあります。今は大学から始めるという人はほぼいません。ただ多少の経験者が入ってきたとしても高校時代に3年間やっていただけのことがほとんどなので、10年以上やっている人との差はなかなか簡単に埋められるものではありません。競技経験が豊富な選手とまだ浅い選手をうまく融合させることで強いチームを目指していきたいですね。

本当は競技歴の長い選手にどんどん入ってきてほしいですが、慶応の場合、学校に入るためのハードルそのものが高いので、難しい部分はあります。

 

-アイスホッケーはゲームの流れが早く、選手の交代などのタイミングは特に重要だと思います。その判断というのは具体的にどういったところをポイントとして見ていますか。

山中:自分でもまだ掴み切れていないですね。勘でやっているところもありますし、他のコーチに頼ることも多いです。ただ常にチーム内に競争力がある状態にするように意識しています。うまい選手でもコンディションやパフォーマンスが悪ければ替えます。実際にこの前も早慶戦で思い切って(※)ラインを交代させました…が、うまくいきませんでした(笑)そういうことももちろんあるので、試行錯誤をしながらやっています。ただ、基本的に(※)セットを組む選手は固定したいとは考えています。いきなり組んでも呼吸が合うわけではないですからね。

※ライン:FWまたはDFごとで同時に出場する選手の組み合わせのこと。FW3人1組でFWライン、DF2人1組でDFラインといった呼び方をする。

※セット:FWまたはDFラインをまとめた組み合わせのこと。FW3人、DF2人の選手を1つの組み合わせとして第1セット、第2セット…といった呼び方をする。

 

-連携の高さにばらつきが出てしまうこともあるんですね。

山中:そうですね。本当はどのセット(※)でも点が取れるチームを作りたいと考えてはいます。実際に王子イーグルスの時はそうでした。でも今はそうはいかないので、シュートを打つまで持っていけただけでも声をかけたりして、できるだけチームが盛り上がるようにはしています。

一つひとつのプレーはパズルであると思っています。それを練習でやっていき、組み合わせることで試合に活かしていくということが僕のスタイルです。

初めは基礎から始めていき、練習毎にテーマを持って進めていきます。毎回の試合後には反省点を振り返ることができるようにしています。

 

慶應義塾大学アイスホッケー部

 

-シーズンが始まって、新体制で手応えがあった部分と課題に感じている部分とあると思います。

山中:課題はたくさんあります!だから今は選手達には勝ち負けではない、と話しています。しかし、ただ負けるのではなく、その中で何かを掴んでほしいんです。試合の中で部分的でもいいので、自信を持てるような手応えを感じてもらいたいですね。できないことがたくさんあっても今はいいんです。途中までリードをしていたとしても最終的に負けてしまい、内容も良くなくて何も残らないというのが一番嫌です。試合の内容にこだわっているということです。

 

-スポーツをする上では精神的なコントロールも必要になると思いますが、メンタル面での指導をすることもありますか。

山中:細かいメンタル面での指導はしていないです。ただ考え方に関しては言いますね。僕自身が現役時代にそういった本を読んで取り組んでいたので、マイナスの考え方に陥ってしまわないように選手に声をかけています。

 

夢を追いかけられるジュニア選手が増えれば、それだけ底辺の拡大に繋がる

-ひと昔前と比べると日本のアイスホッケーを取り巻く環境が悪化しているようにも思うのですが、どのように考えていますか。

大西:ジュニアの年代を見ると確かに地方では人口が減っています。しかし不思議なのは東京では人口は変わっていないんです。ただリンクは減っていっていますし、環境が悪化していることは事実です。世界で通用する選手をジュニアの世代から育成することが、アイスホッケーを盛り上げていくために必要なことだと感じています。

 

山中:そこは私も危惧しているところです。故郷の苫小牧でさえも単独でチームを組める人数が集まっていない学校があります。少子化の影響もあると思いますが、競技人口の減少が進んでいるので、心配です。普及に一番効果的なのは代表チームが強くなることです。女子が五輪に出た時も盛り上がったので、男子についても頑張って、人気を復活させていきたいです。

 

慶應義塾大学アイスホッケー部

 

-男子より女子の方が強化もうまくいっている印象を受けます。それには何か理由があるのでしょうか。

大西:男子はアジアリーグがあるので、選手を長い期間拘束することができないんです。女子はまだそういうことがないので、強化をしやすいですし、一度五輪に出たことでスポンサーも付きやすくなっています。女子の場合はクラブチームにいるより、代表に選ばれた方がレベルアップになると思います。一方の男子は実業団なので、まずは企業のチームが強くなることが優先されます。そうなると代表への招集期間は限られてしまいますね。

 

-指導体制自体は男子と女子で差はないのでしょうか。

山中:私は女子の代表のお手伝いもさせて頂いたので、男女両方見ているのですが、基本的に差はないです。でも女子選手の方がストイックにやる印象を受けました。

 

-その中で海外でもプレーする選手が出てきています。

山中:若い選手がそういった環境でどんどん成長していってほしいです。学校を卒業してから直接行った選手もいますし、実業団を経て行った人もいます。

 

-日本と海外における競技面での差というのはどういったところにあると考えていますか。

山中:私は女子を含めて選手を見ているのですが、やはり体格差ですね。今回のラグビーW杯なども拝見して、参考になる部分は多いと感じています。体が小さい反面、日本人の良さとしてスピードや機敏さ、規律やチーム力は武器にしていくべき部分だと思います。

 

-今の日本代表はどのくらいの年齢の選手が多いですか。

山中:27歳前後の選手が多いと思います。僕自身もプレーをしてきて、30歳手前くらいが一番選手としていい時期だったと感じました。肉体的にも経験値的にもちょうどいいですね。

 

-大西さんの娘さんにもぜひ代表を目指してほしいですね!

大西:本人も今のうちから代表を目指したいという話はしていますね。ジュニア世代の選手もトップの代表が五輪に出たりすれば目指すべき目標が明確になって、一つひとつ努力していこうという気持ちになるでしょう。男子もナショナルチームが世界の舞台で活躍して、夢を追いかけられるジュニア選手が増えれば、それだけ底辺の拡大に繋がって、競技人口の増加が期待できます。

 

山中武司、大西功

 

-それでは最後に今後のチームの目標を教えてください。

大西:昨年までは上位のチームと実力差があったので、目標をどこに設定するかということを常に悩んでいました。私達はその中で一戦必勝という目標を掲げることにしました。どこが相手の試合に勝つというよりは各々が一つの勝負に勝っていくということを考えるようにしています。一戦必勝で、昨年まで勝てなかったチームに対しても必ず勝つという強い気持ちを持って取り組んでいきます!

山中:今の私のコーチとしての立場から言うと、4年間慶応で過ごした選手達がここでプレーできてよかったと思えるような充実したシーズンにしてあげたいと思います。目標に達することが一番ですが、勝負事なのでもちろん負けることもあります。勝つことだけがすべてではなくて、負けた時にいかに真剣に取り組んで這い上がってこられるのか、ということを学んで、慶應義塾大学体育会スケート部ホッケー部門として胸を張って卒業していってもらえるようにしたいですね。