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アントラーズの“スポンサー価値”を測る、女性マーケターの存在

2017.11.22 / AZrena編集部

佐藤沙希氏

 

「デジタルマーケティングという点で言うと、オリンピックをきっかけに色々な企業がスポーツに協賛することに対して関心を持ち始めています。オリンピックに協賛する企業は世界を見据えているので、目の前に届く人たち“だけ”相手にマーケティングをするわけにはいきません。すると、必然的にデジタルを介さなきゃいけない。そういう観点から言っても、スポーツの世界には今後、デジタルなアクティビティは絶対に増えると思います」

(ニールセン スポーツ ジャパン 佐藤沙希)

 

スポーツ界で働く“女性”というのはなかなか希少な存在であり、まだ男性社会であることは否めません。しかし、偏りを無くし、新たな視点でイノベーションを生み出すには女性の活躍や台頭は必須。ただ、現在は少数派でも、活躍している女性の方は存在します。世界最大の調査会社であるニールセンの子会社、ニールセン スポーツ ジャパンで働く佐藤沙希さんは、明治安田生命J1リーグに所属する鹿島アントラーズへ出向し、デジタル戦略とスポンサーセールスに携わる仕事をしています。

今後、スポーツ界では必須とされてくるデジタルマーケティングの知見やデータの分析力。ですが、そもそもなぜそういう分野が重要視されているのでしょうか?佐藤さんがこの世界へ足を踏み入れた経緯と共に、お話頂きました。

お金が回っていないスポーツ界の現状

私自身、もともとバスケをやっていたこともあってスポーツは好きでした。それもあり就職活動ではスポーツ関連の仕事を希望していました。その中で当時スポーツ事業部を立ち上げようとしていた旅行代理店に内定をいただきました。ただ、最終的にそこではなく、もう1つ内定を頂いたデジタルマーケティングの会社に入社しました。

その会社は全くスポーツと関係はなく、企業を色々と調べている中でたまたま目に入り、当時の社長のスター性に惹かれ「受けてみようかな」と思いました。そうしたらトントンと採用が進んでいき、最終面接で社長さんとも和気藹々と話せて、「良い会社だな」と。結果的に旅行代理店の内定を辞退しました。

入社したデジタルマーケティング会社では、まず営業に配属されました。企業に対してデジタル領域でどのようなニーズがあるのかをヒアリングし、制作部門と連携して施策を進めるという仕事です。その後、データの分析部門に配属されました。そこで色々な企業のDigitalマーケティングの効果検証に携わっていたのですが、どの業界を見てもある程度のお金が回っているので、施策を打って、効果検証をして、練り直して次へ活かすことができる。その中でふと「なぜスポーツ界ではこのようなサイクルを回し切れていないのか」と考えました。データを使ってスポーツという分野に投資する価値をしっかりと数値で見せることができれば、海外のように日本のスポーツ市場ももっと大きくなるのではないかと思うようになりました。

そう思ってから、専門学校であるヒューマンアカデミーのスポーツマーケティング講座に通い始めました。そこでの講義に秦さん(秦英之 現ニールセン スポーツ ジャパン代表取締役)がいらっしゃいました。講義の中で、デジタルマーケティングの考え方はスポーツ界でも重要になるということを仰っていたのですが、まさにそれは私の考えとマッチしていて、すごく共感しました。講義の後に秦さんと名刺を交換してお話をしたのですが、その後にお声がけ頂きました。『ニールセン スポーツの中でデジタル部門を立ち上げるので、そのメンバーとして入らないか』と。不安はあったのですが、秦さんの熱いビジョンに惹かれ、入社を決意しました。
ですから、本当に縁ですよね。たまたまデジタル系の会社に入社し、分析部門に配属されていなければここに行き着くこともなかったのかなと。

最初のクライアントが、鹿島アントラーズ

入社して最初に担当した仕事が、鹿島アントラーズとの案件でした。まだ日本のスポーツ界ではSNSを使ってマーケティングをする、そのためにSNSへお金を投資するという感覚は浸透していなかったように思います。ただ、当時はJリーグがデジタルに注目し始めて、Webを介してどのぐらいの価値を創出しているかをニールセン スポーツで換算し始めました。そして、その先駆けとしてアントラーズが戦略的に公式SNSを開始し、いずれマーケティングのプラットフォームとして活用できるメディアへ育てるために、その分析をニールセン スポーツが担当することになりました。その案件を任されて、クラブ公式SNSの分析を行っていました。

その後、セールス部門の兼務でお声掛けを頂き、週1回、鹿島に通うようになりました。アントラーズのセールス活動に“使える”データを作ることが私のタスクでした。そういうこともあって鹿島に通っていたのが昨年です。そして、今年から完全に常駐することになりました。日本のサッカー界全般に言えることだと思いますが、特にクラブレベルではスタッフの時間とリソースが足らない状況にあります。そのため、客観的に自らの状況を分析して施策を練るということを実施しづらい環境にあります。

ただし、カウンターパートであるスポンサー企業はデータを活用し、客観的に効果を測るということに慣れているし、ノウハウもある。その方たちとクラブが対等に話を進めためには、どういったデータをニールセン スポーツとして出せば良いのか。そういうことを考え、実践していくのが今の立場になります。

佐藤沙希氏

例えば、既存スポンサーとの契約交渉です。アントラーズとしては、スポンサー企業に翌年度も継続してもらいたいし、欲を言えば増額してもらいたい。今はもうシーズンも終盤となり、来年度にどうするかを考える時期になってきています(2017年10月13日現在)。継続をしてもらうためには、“アントラーズというプラットフォームがスポンサー企業にとってどれほど価値を提供できるか”、“先の時代を見据えてどのようなアクションをとっていこうと考えているか”というビジョンを伝え、共感してもらう。アントラーズと一緒にやることで得られるメリットを理解して貰わなければいけません。

これまではクラブスポンサーとなるメリットを実際にクラブ側が企業へ伝えられていたかというと、決してそうではないと思います。日本国内では、クラブ側がそのメリットを明確に伝えられるようになるのは、まだ少し先の未来かなと思います。それには2つ理由があります。1つは先ほど申し上げた通り、リソースが足りていないこと。2つ目はスポンサーの要望の裏側にある“狙い”が明確に共有されていないこと。具体的にスポンサーの求める成果は何か?という部分を定義しないまま施策が走り、結果としてよかったのか、悪かったのか、の評価自体が出来ない場合があります。その中でしっかりと目標を明確にし、数値を基にスポンサーの価値や意味を証明するのが私達の仕事になります。

実際に企業側が投資対効果を求めてニールセンに依頼をしてきています。そこで提供したデータから、スポンサー企業は全体の露出価値や特定の施策の投資価値についての知見を高められるので、より一層クラブはしっかりとメリットや意味合いを提示することが必要になってきます。

例えばあるスポンサー・Aという企業があるとします。このスポンサーAは、有名な選手やスポーツ団体など、複数のスポンサー投資をしているとします。企業側からすると、投資しているコンテンツが多岐にわたるので、『投資対象の中で、それぞれが提供するスポンサー価値を分析してほしい』という依頼が来ます。分析の結果、スポンサー目的に応じた価値が提供できていなければ、他のスポンサー対象と比較して投資対効果が低いと判断され、当然、投資額は減ります。

スポンサー企業がその価値を測るようになった一方で、クラブ側に同様の認識がなければ、自分たちがスポンサーに提供しているメリットの価値が分かりません。そういった視点から見ると、アントラーズはデータを軸に自分たちのスポンサー価値がどの程度あるかをJリーグのクラブの中でも最も深く考えているように感じます。自分達で、自分達の価値を知っておかなければ次の戦略が打てないと考えています。データを分析して今後の戦略を考えようという狙いをしっかりと持っていて、その上でニールセンへ発注して頂いていると認識しています。

佐藤沙希氏

スポーツ界で求められる、デジタルの知見

アントラーズでは、常に「チームの勝利につながるか」を考えて行動しています。長期的なビジョンを持ちつつも目の前の試合に勝つために何をするのかを考える。こういう徹底した哲学はビジネスにもつながっている気がします。勝つための投資はするけどそれが最終的に勝ちに繋がらないのであればやらない。そこには明確なロジックが存在しています。

この姿勢は、データ分析においても通じるところがあります。 日々分析をこなすだけでは“なんとなく”データ分析をしがちです。明確な目的を共有できていないと、どんなデータを出したとしても、成果には繋がらない。そういう姿勢はアントラーズから学ばせてもらっています。なんとなく時代のトレンドを追っていくだけだとデータは死んでしまう。今現在どこに課題があって、それに対してどういうアプローチができるのか。例えば川崎フロンターレとアントラーズではアプローチが違うと思いますし、リーグの立場でもそれは異なる。スポーツの仕事では勝ち負けが関わってきます。その中で、それぞれの立場や現状をしっかりと理解するということがデータを扱う上でとても大事になると感じています。

今年はアントラーズの一員として、クラブにどういったデータが必要なのかがようやく見えてきたので、次はそのデータを活用するフェーズに移りたいと思っています。クラブではどのようにデータを活用しているのかを、ニールセンの人たちにも知ってもらい、今集めているものや扱っているデータは調査対象として将来性があるのかどうかとも一緒に議論していきたいです。これまではアントラーズを軸とした仕事が多くなっていますが、会社側に還元できるものも作っていかないといけないと思っています。

オリンピックをきっかけに色々な企業がスポーツへ協賛することに対して関心を持ち始めています。オリンピックに協賛する企業は世界を見据えているので、目の前に届く人たち“だけ”相手にマーケティングをするわけにはいきません。すると、必然的にデジタルを介さなきゃいけない。そういう観点から言っても、スポーツの世界では今後、デジタルなアクティビティは絶対に増えると思うんです。

オリンピックが終わった後にプロ野球とサッカーを中心にそのフィールドは広がっていくと思うので、クラブ側としてはそのチャンスを絶対逃してはいけないし、アンテナを張り続けなければいけない。だからこそ、今からデジタルの仕組みと活用方法をきちんと理解しておかないといけませんし、継続的な成長を見据えたプラットフォームの構築を意識することが重要だと思います。

佐藤沙希氏

スポーツ界には外からの血が必要

個人的には、これからは一般企業で経験を積んだ方にたくさんスポーツ界へ入ってきてほしいなと思います。クラブやリーグは長年同じ業界で働いている人が多い印象があります。もちろん、そういった方のノウハウは非常に大事で、今後も必要です。そこに、スポーツとは異なる広いマーケットで仕事をしている人たちが入ってくることによって、ビジネスも拡大していくと思います。そこに一つ条件を加えるとすれば『自分はこれに強い』と言えるものがあることがベストかなと。

でも、「想いを持つ」というのが1番大事かなと思います。そして、その想いが自分ではなく外に向いている人と一緒に働きたいと思いますね。1人だけでは絶対に仕事ができないというのが私の持論で、常に助けられながら仕事をしていると感じます。そういうことを理解して、自分のためだけではなく、クライアントのため・チームのため・市場のために助け合って1つの成果を目指して行くことができる人と一緒にこの業界を盛り上げて行きたいです。そういう人と会話をしたり、働いたりすると、アドレナリンが最も出ます。そういう意味でも、周りを見る目というのは私にとってとても重要だと思っています。あとは、これから若い人もこの世界に多く入ってきてもらいたいですし、『◯◯がしたい』という強いマインドを1つ持っていただきたいなと思います。

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